表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

てふてふ

作者: 梨香

ひだまり童話館の「ひらひらな話」に参加しています。

「ちょうちょだぁ」


 幼い女の子が小さな手をひろげて、白い蝶を追いかけている。それを見て、私は「てふてふ」とつぶやいた。


 若いお母さんが、公園を走り回る女の子に声をかける。


「もう家に帰りましょう!」


「ええっ、もっと遊びたい!」


「じゃあ、家でおやつを一緒に作ろうか?」


「やったぁ!」


 女の子のお母さんが小さな手を取って私の目の前を軽やかに歩いて行った。


 白い蝶がひらひらと飛ぶのをベンチに座って眺めながら、私にもあんなに軽やかに歩いていた頃もあったのだろうかとため息を一つ。


 そして、あの幼い女の子のように蝶を追い回して走っていたなんて信じられないと首を横に振った。


「おばあちゃんは、蝶をてふてふと書いたと言っていたわねぇ」


 旧仮名遣いでは蝶をてふてふと書いたと教えて貰ってから、私は何故か「てふてふ」と呼ぶのが癖になり、かなり大きくなるまで言い続けていた。


「おばあちゃんより年上になっちゃったね」


 ベンチに止まった白い蝶に話しかける。これがおばあちゃんの魂が飛んできたのではないとはわかっているが、独り言よりましに思えた。


「さぁ、私も家に帰ろうかね。てふてふも……」


 蝶は私が立ち上がると、ひらひら、ひらひらと空高く舞い上がった。


 私もその白い蝶とともに空へと舞い上がり、懐かしいおばあちゃんと会った。


「おばあちゃん!」


「由実ちゃん! まだはやいよ」


「そんなことないよ。おばあちゃんより年寄りになったんだよ」


「でも、まだはやいよ。まだしなきゃいけないことがあるだろ」


 私は、しなきゃいけないことなんてないと言いかけて、あれこれ思い出した。


「そうだった! 今月末には孫の結婚式があるんだ! 今、死んだら厄介かも」


「ふふふ……他にもまだあるだろう」


 老人会の遠足、友だちのお見舞い、そして食べ切っていない冷蔵庫の中身。


「そんなの……どうにかなるよ」


「そうだね、でももう少しはやいんだよ」


 おばあちゃんは、白い蝶をそっと捕まえると私の方へと差し出した。


 蝶と共に公園へ戻った。ベンチにつかまって立ち上がると、ひらひら白い蝶が飛んで行くのが見えた。


「あと、もう少し頑張らなきゃいけないようだね」


 私は、ゆっくりと、ゆっくりと家へと帰った。



           おしまい

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 孫の結婚式、いいですね。
2019/10/15 10:32 退会済み
管理
[良い点] とても優しい雰囲気でてふてふがおばあちゃんのまわりを飛んでいる光景が浮かびました。 死=怖いイメージを抱きがちですが家族のいる場所なら怖くなんてありませんね。ふわりと心が温かくなる柔らかな…
[良い点] おばあちゃんのおばあちゃん……意外でしたが、時代の移り変わりと受け継がれていく命を感じました。 全体的な優しい雰囲気と旧仮名遣いの情緒が相まって、とてもいい雰囲気ですね♪ 短いお話のなか…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ