はだかの王様(もうひとつの昔話 29)
ある国に、とてもおしゃれな王様がいました。
このうわさを聞きつけ、二人の男が王様を訪ねてお城にやってきます。
「わたしたちは、愚か者の目には見えない糸で布を織り、しかもそれで服を仕立てられます」
「王様、いかがでございましょう。少々、値段はお高いのですが」
男たちが申し出ます。
「いくら高くてもかまわん。ただし代金はあと払いだぞ」
この王様、たいそうずる賢く、そしてケチでもありました。
お城の一室。
コットン、パッタン、コットン、パッタン。
男たちの布を織る音がします。
――どんな布だろう?
王様は愚か者の目には見えないという不思議な布を見たくなりました。
ですが見えなければ、自分は愚か者ということになります。それでかわりに大臣に行かせました。
大臣は布を織っている部屋に入りました。
が、布が見えません。
見えなかったと報告したら、自分は愚か者ということになります。
大臣は王様に報告しました。
「すばらしいできばえでございます」
三日後、男たちが王様のもとへ来ます。
大臣らが並ぶ前。
「愚か者には見えない服が仕上がりました。王様、どうぞ着てみてください」
男の一人が、うやうやしく両手をさし出しました。
王様はおどろきました。
男の手にあるべき服が見えないのです。
――大臣には見えておるのに。
ここで見えないと知られたら、自分は愚か者ということになります。
「ふむ。すばらしいできばえだ」
王様は見えない服を受け取るふりをしました。
それからさっそく服をぬぐと、見えない服に腕を通し、ボタンをとめるふりをしました。
「まるで羽のように軽い。明日のパレードにはこれを着て出ろう」
はだかの王様は満足そうにうなずいてみせました。
大臣らは盛大な拍手をしました。
愚か者になりたくなくて、みなが王様の服が見えるふりをしたのです。
「王様、お約束の代金を」
男の一人が申し出ます。
「では、金貨を受け取るがいい」
王様はふくらんだ布袋を渡しました。
「では、ありがたく」
うれしそうに布袋を手にした男らでしたが、袋の中を見てたちまち顔色が変わりました。
それには小石が入っていたのです。
「どうだ、おどろいたか。その金貨、愚か者にはただの石ころにしか見えんのだ」
王様がうやうやしく言います。
「う、う……ありがとうございます」
自分たちのウソがばれるのがこわくて、男たちは泣く泣くお城を立ち去りました。
翌朝。
王様は見えない服を探していました。
「はて、夕べはどこでぬいだかな?」
もうすぐパレードが始まろうというのに、王様はいつまでもはだかでいたのでした。