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異世界召喚されて幾千年  作者: 冬野まひる
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対話

『大人しくなったな』


 人間達は自分の影に縛られ付与された麻痺の効果でロクに喋れなくなっていた。


『先ずは場を整えよう』


 人間達の攻撃により損傷した部屋を魔法によって修復する。

 俺から魔力が溢れ、損傷した床や溶けた崩れた壁、椅子の残骸に纏わりつく。


『特級時空魔法発動』


 空間に複雑な幾何学模様の魔法陣が3つ重なり展開される。

 膨大な魔力が魔法陣に集約されていく。


『タイムリターン』


 別に魔法の技の名前を言わなくても俺は魔法を発動できるけど演出の為にわざわざ発言する。


 すると、魔法が展開されている空間が歪み一瞬のうちに何も無かったかのように全ては元通りになっていた。


 俺は元通りになった椅子に座る。


『どうだ?

凄いだろう』


 俺は人間達にそう問い掛けるが麻痺をしている彼等は何も答えられなかった。


『さて、話をしよう』


 そう言うと人間達は怯えた雰囲気を醸し出す。


『なに、別にやり返そうなんて思ってはいない。

さっきのはただの余興、お遊びだろう?

俺はただ話がしたいだけだ』


 自分の影に縛れられ麻痺してひれ伏す人間達を俺の魔力で包み込み、指をクイッと曲げて俺の近くに呼び寄せる。


 その目は恐怖の色に染まっていた。


『今から拘束と麻痺を解く。

間違ってもめんどくさい事をしようと思うなよ?

例えば逃げるとか、攻撃してくるとかなら』


 そう警告して縛り付けていた影を解き、麻痺を治す。


「……何が目的だ」


 騎士風の男が俺に問いかける。


『さっきも言っただろう。

ただ話したいだけだ。

そうだな、いくつか質問をさせてくれ。

答えてくれたらお前達を無傷で開放しよう。

ああ、先程依頼がどうとか言っていたな。

ただ手ぶらで返すのもお前たちは損だろう、手土産を持たせてやるぞ?』


 人間達はお互いの顔を見合って目で相談をしているようだ。

 再び騎士風の男が口を開く。


「その質問とやらに答えれば本当に無傷で開放してくれるんだな?」


『もちろん。

約束は違えぬ。

3日、ここから一歩も動かない事を約束しよう。

では最初に、今は何年だ?』


 俺の問に人間達は怪訝な顔をし、白衣の女が答える。


「今はアレジオ歴7583年です……」


『ほう』


 暦は変わってないか。

 しかし、俺が自分を封印して5000年は経ってるぞ?

 いくら何でも人間がここを訪れるのは長すぎるんじゃないのか?


 まあいいか。

 俺が眠っている間に世界に何かあったのだろう。


『次に問う。

夏村 弘樹(なつむら ひろき)という名に聞き覚えはあるか?』


 これには杖を携えたじいさんが答える。


「人間なら知らぬ者は居らんでしょう。

神話の時代に異世界から来訪した世界を救った伝説の勇者の仲間ですよ」


『神話の時代だと?

5000年も経てば神話というのか?

なんと不思議なものだ……ククク……』


 そうか、俺達が生きた時代は神話として語り継がれているのか。

 あの後あいつ等はどうこの世界を生きたんだろうな……。

 もう一度会えるなら会いたい。


 空を見て過去の仲間達を思い出し感傷に浸る。


 このじいさんの話によると、勇者達は賢者を除き全員がロイツェン王国に丁重に埋葬されたという。


『そうか……。

死んだか……』


 俺から哀愁が漂う。


 もう一度会いたかった……。

 かけがえのない仲間たちよ。

 もう一度皆で故郷の地を踏みたかった。

 俺はなんの為にこんなになって頑張ってきたのやら……。


『勇者達は幸せに死ねたと思うか?』


「わかりませぬ……。

ですが勇者様たちは家族を作り子孫を残して笑って逝かれたと史実にあります」


『そうか……。

お前達はロイツェン王国の者達か?』


「あ、あぁ」


 俺の問に戸惑いながらも騎士風の男は答えた。


『今の王は良き王か?

民達は幸せであるか?

虐げられておらぬか?』


 この俺の質問に更に混乱する彼等。


 俺達が死ぬ気で守ったこの世界、国、民を曇らせる輩は消してやろう。

 そう思っているとおずおずと白衣の女が答える。


「良い王に恵まれて私達も国民も幸せです……。

あの、貴方は一体……?」


 俺達の守った国は幸せか。

 それは良かった。

 俺達がせっかく守ってやったんだ、不幸であってたまるか。


『忘却の元賢者だとだけ言おう。

知りたい事は聞けた。

感謝する。

礼の品だ、持っていけ』


 霊薬に魔剣、聖剣に神樹の杖、聖者のローブと竜鱗の鎧を何もない空間から出して与える。

 どれも気まぐれに俺が作ったものだ。

 効果は保証する。


 目の前に繰り広げられた宝に人間達は目が眩む。


『約束通り3日間ここから動かないと誓おう。

それを持ってもう行くがいい。

もうここには来ない事だ。

次は容赦しないぞ』


 各々は品物を手にいそいそと部屋を出て行く。


 この空間に残るのは虚しい静けさだけだった。

 だけど一人で気持ちも整理をしたい俺にとっては丁度いい。


 俺は椅子に座ったまま薄暗い空を見てただボーッとしているのだった。


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