目覚め
灯りのない閉塞された空間で俺は目覚めた。
だだ広い空間にポツンと仰々しい椅子が置かれており、黒衣を纏った者がその椅子に座っている。
それが俺だ。
俺は自分の手を見る。
骨と皮だけの干乾びた細腕だ。
握り拳を作ってみればパキパキと音がなる。
乾燥した指は動きに合わせて粉が舞う。
『どれだけ眠っていた……』
自分の喉から発せられる声は低くしわがれており、自然に発せられたものではなく、魔力によって発せられた念話の様なものだ。
俺が目覚めた事によって自分の魔力が空間に浸透していき、多少の事は把握できた。
この空間に存在するのは自分だけで、他には何もないただ広いだけの人工物の一室の中のようだ。
『俺は……そうだ……。
思い出してきた……』
俺はこの世界の危機から救う為に召喚された人間である事。
他にも俺と同じ様に召喚された人間がいて、俺はその人達と共に世界を救った事。
賢者だった俺は仲間たちと共に元の世界に帰る為にこの異世界で旅を始め、研究に没頭した。
年月が無駄に過ぎ、焦りを感じた俺は禁忌に手を出して……。
『俺はリッチとなってしまった……。
この朽ち果てた体はそういう事か』
自我を持ったままモンスターと化し俺は仲間に会うこともできず、ここに居を構えてひっそりと研究を続けていたんだった。
あらゆる研究をし新たな魔法を編み出しても元の姿、元の世界に帰る事が叶わずに不貞腐れて自らを封印したんだ。
この地に人が訪れた時に目が覚めるように。
『俺が目覚めたという事はそういうことか。
さて、何年ぶりの人間になるのだろうか』
この広間にあるただ1つ置いてある椅子に座ったまま俺はここに訪れるであろう人を待った。