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第7話 借りたモノを返すかどうかは、借りた側の自由意志に任せられる。つまり貸した側と借りた側では後者の方が強いのである!

 ガリア王国では、爵位によって貴族は五つに分けられている。


 上から順に、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵だ。


 まあ厳密には男爵の下には一つしたの準男爵、公爵の上には大公爵。

 さらに伯爵の変則版として、辺境伯、城伯、方伯、宮中伯。

 そして特殊な例として、選教侯というのも存在するのだが……


 説明が面倒なので省く。


 ともかく、この五つに分けられている。 

 そして貴族はこの順番に偉い。






 ………………

 …………

 ……


 という単純な話だったら、楽なのだが。

 

 貴族社会というのはそこまで単純な構造ではない。

 まず前提としてだが、爵位は人や家ではなく土地や権益に付属するものである。


 まあつまり私の父がラ・アリエ公なのは、父が公爵に受勲された、ラ・アリエ家が公爵位を継いでいるというのではなく……

 ラ・アリエという土地を治める領主に、『公爵』が与えられているのだ。


 (とはいえ、家名と領地名が一致しているため家に与えられたと考えても問題はないが)


 よって、複数の土地や権益を相続すれば複数の爵位を継ぐことはあり得る。

 例えば私はこのまま成人すればラ・アリエ公爵位とモンモランシ侯爵位を継ぐことになるだろう。


 この場合、私は公爵兼侯爵になる。(日本語だと音が一緒でややこしいが)


 そしてもう一つ重要なことだが諸侯が他の王や、有力諸侯と二重契約することも認められている。


 つまりガリア王国では男爵だけど、隣国では侯爵です。

 ということは十分にあり得るのだ。


 というわけで、結論を言うと爵位というものが貴族の序列を決める一つの要素にはなれども、それだけで序列を決めることは不可能であり、そして貴族の間でもさほど重要視されていない。


 では貴族の序列を決める重要な要素は何か?


 その一、お金。

 より詳しく言えば、領地の広さ、豊かさ、そして既得権益。

 

 現金な話だが、結局お金持ち、富を持つものが偉い。

 まさに自明。

 貴族の間でもそれは変わらない。



 その二、軍事力。

 より正確に言えば、どれだけ多くの諸侯・騎士を動員できるか、そしてより強い諸侯と契約しているか。


 つまり子分やお友達の数、または親分の腕っぷしの強さである。

 問題解決の最終手段はいつだって、暴力、つまり戦争なのだから当然軍事力を持つ貴族は尊敬される。



 その三、家柄。

 先祖にどれくらい偉い人がいるか、そしてどれくらい歴史が古いのか。


 上気二つに比べると何ともふわふわした概念だが……

 おかしな話ではない。


 そもそも平民や農奴と、貴族を隔てているのは体に流れる青い血の有無である。

 貴族は偉い。

 何故なら生まれながらにして偉い、貴族だからだ。


 それが貴族制度というシステムを支える論拠なのだから、当然偉い人の祖先は尊敬される。




 まあこの三つに比べれば、爵位なんて定食の付け合わせの漬物みたいなものだ。

 (もっとも、この三つを持っている貴族は大概、位階の高い爵位を持ってはいるのだが)




 さて気になるのは私の立ち位置である。

 私、つまりラ・アリエ公とモンモランシ候はどれくらい偉いのかだ。

 

 まずお金だが、ラ・アリエ公爵領はそこそこ豊かな領地ではある。

 だから上の中くらい……


 と言いたいところだが、モンモランシ侯爵領が借金の形で事実上他家に奪われており、さらに天文学的な借金を抱えている現状を考えると……


 それにしてもうちのお父様はよくもまあ、お母様と結婚したものだ。

 あんなの、借金と結婚するようなものである。


 話が逸れた。


 次に軍事力。

 まずラ・アリエ公爵の子分だが、ちょっとした騎士家を従えている程度だ。

 お友達はそこそこ多いが……貴族の友情というのは変わりやすいので頼れない。

 親分はガリア王家だが……これは後で説明させて頂くが、ガリア王家はかなり弱っちい。


 モンモランシ侯爵は、だって?

 子分ゼロ、お友達ゼロだ。


 最後に家柄。

 ラ・アリエ公爵家は実はガリア王家の分家である。

 だからかなり高い……と言いたいところだが実はガリア王家そのものが大した家ではない。 

 その分家なのだから、まあ良いっちゃ良いが特別良いわけでもないという感じだ。


 モンモランシ侯爵は……

 これは今度話させて貰おう。


 

 というわけで、総合的に考えると私の貴族としての立ち位置は上の下くらいだ。



 貴族としては、である。

 学園内部のヒエラルキーとなると、事情が異なる。

 子供特有の価値観が加わるからだ。


 私の学園での立場は……

 まあ結論から言うと、孤立気味だった。


 イジメられているわけではない。

 精々、陰口を叩かれたり、歩いている時に肩で思いっきりぶつかられたり、足を引っかけて転ばされそうになったり、机に落書きされたりする程度……

 

 あれ、これ実はイジメ?


 まあイジメの定義はどうでもいい。


 事の切っ掛けはアナベラお嬢様が「普段、家でシャルロットにイジメられていた」みたいな感じのしょうもない噂を立てたことだ。

 ……環境的に私がイジメられることはあっても、アナベラお嬢様がイジメられることはあり得ないのだが、まあ一部のアホは信じたようだ。

 もしくは信じたということにしているだけか。


 まあ後者だろう。

 早い話、私をイジメたいという気持ちが先にあり、理由なんてものは後付け、どうでも良いのだ。

 丁度、アナベラお嬢様が提供してくれたので、上手く便乗したというのが実態だろう。


 先程説明したが、私の貴族としてのヒエラルキーはそこそこ高い。

 だが私には両親がいない。

 保護者が不在、ということは私をいくらイジメてもそれに抗議する存在がいないということだ。

 下手な下級貴族よりも、よほどイジメ安い存在だろう。


 そして私がメイド服を着て登校している、というのもある。

 やっぱり目立つ。

 うん、イジメられて当然かもしれない。


 まあこんな学園などという狭いコミュニティーで迫害されたからといって、私は傷ついて不登校になったりするほど、軟なメンタルを持っていない。

 というより、むしろ興ゲフンゲフン、何でもない。




 「ねぇ、あなた」

 「これは……ルイーズ姫殿下。どう致しましたか?」


 私に話しかけてきたのは、栗色の髪の猫耳の少女であった。

 名前はルイーズ・ド・アルレリア・ド・ガリア。

 まあつまりガリア王国の王族の一人である。


 ガリア王家は猫耳家系である。

 当然、分家であるラ・アリエ家も猫耳家系だ。


 彼女は私をイジメているグループのボス、いわばジャイアンである。

 ちなみに彼女をジャイアンとすると、アナベラお嬢様はスネ夫だ。


 先程、述べたがラ・アリエ家の親分はガリア王家である。

 まあつまりガリア王家の彼女が私をイジメる側に回っている以上、私の孤立は実質確定したようなものだ。


 もし本当に知恵が回る貴族であれば、ここで私を助けて将来の自分の派閥に引き込もうとするはずだが……

 今のところ、そのような貴族はいない。


 彼女はこのクラスのボスだ。

 

 みんな、関わりたく無さそうにしている。


 「モンモランシ家が莫大な借金をしていることは、知っているわよね」

 「ええ、心得ておりますよ」


 モンモランシ家は借金の形で、事実上領地を奪われていることは先程説明した通りである。

 錬金術というのは、何かとお金の掛かる学問なのだ。


 「みんな困っているわ」

 「へぇー」

 「………………返しなさいよ!」


 バン!

 とルイーズ姫殿下は私の机を叩いた。

 バカだ、アホだと素敵なレリーフが彫られた私の机が振動する。


 「ガリア王家からは借りていなかった気がしますが?」

 「私に、じゃないわ。この子たちに、よ」


 ルイーズ姫殿下は自分の後ろに従っているコバンザメを指さした。

 コバンザメたちはニヤニヤと笑っている。 

 

 ルイーズ姫殿下は私が正義だと言わんばかりに、大きな、クラス中に聞こえる声で言った。


 「借りたお金は返さなければならないわ。こんなこと、言わなくても分かるでしょう? ほら、早く返しなさい! 早く返さないと、領地が返ってこないわよ? 土地無し貴族!」


 ルイーズ姫殿下がそう言うと、クスクスと周囲から笑い声が聞こえてきた。

 ルイーズ姫殿下の後ろから、ひょっこりとスネ夫……じゃなかった、アナベラお嬢様が顔を出して言う。


 「土地の無い貴族なんて、ただの平民よねー。くすくす」

 「はぁ……」


 土地は貴族にとって、重要な財産の一つ。

 それを差し押さえられ、他者に奪われていることは大変な屈辱である。

 まあ、普通の貴族家ならね。


 「と申されましても、無いものは返せませんからね」

 「へぇー、じゃあ土地を没収されても良いの? お父様に頼んじゃおうかしら」

 「ええ、どうぞご勝手に」


 できるものならね。

 私がそう言うと、ルイーズ姫殿下は顔を真っ赤にさせた。


 王が貴族から土地を奪うことはできない。

 なぜなら王とは所詮、貴族の代表でしかなく……王と貴族は人格的には平等だからだ。

 貴族の土地は、貴族のモノ。

 どんな弱小貴族の土地でも、王は奪えない。

 それがガリア王国の慣習法である。 

 まあ借金の形で、実質的に奪うことはできるが……名目上は不可能だ。


 もし彼女の発言をガリア王が聞けば、彼女は大目玉を食らうだろう。

 よくも、こんなアホな発言ができるものだ。


 「まあご安心ください、いつかお返し致しますよ。私の子孫が、そう……十世代後くらいには必ずね。……もっとも、皆さんの家系が二、三百年後まで存続しているかは分かりませんがね」


 私がそう言うと、ルイーズ姫殿下を含めた愉快な仲間たちは皆、顔を真っ赤にさせた。

 

 ガリア王国の歴史は、現王朝では数十年。

 初期王朝から数えても、六百年。

 

 ルイーズ姫殿下のアルレリア家の歴史は四百年程度であり、そしてコバンザメたちの多くは五百年以下だろう。

 まあ、二、三百年後には三分の二は断絶しているだろうね。


 尚、参考までに教会の歴史は二千年程度。









 










 そしてモンモランシ家は三千年だ。


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