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第6話 イジメにもいろんな種類があると思う。私にも耐えられるイジメと耐えられないイジメがある。これは後者だから真剣にやめて欲しい。

 健全なメイド魂は健全な肉体に宿る。

 

 体作りはとても大切だ。

 正直なところ、私はあまり魔力や魔法、魔術などというものは信用していない。

 前世の記憶の影響で、普通ではないように感じる。

 

 最後に頼れるのは己の肉体と灰色の脳細胞だ。


 そんなわけで、筋トレは大切だ。

 

 筋肉が付けば力が上がるのは無論のこと、体の見栄えが良くなる。

 見栄えは大切だ。

 ガリガリ、またはぽよよんとした万能メイドはあまりにもカッコ悪い。


 ついでに言うのであれば、脂肪の燃焼効率も良くなる。

 つまり太りにくくなるということだ。


 筋トレなら、個人的には腕立て伏せがお勧めだ。

 やり方を変えるだけでいろいろな部位が鍛えられる。


 最近、私が熱を入れているのは胸筋と腹筋だ。

 

 胸筋は言わずもがな、土台になる部分なのだから鍛えるのは当たり前だ。

 土台が弱い家はすぐ傾く。

 ここをしっかりと固めることは、私のこれからの(むね)作りのために大切なことだ。


 腹筋は美しいお腹、腰回り、おへそ周りのために大切だ。

 ただウエストが細いだけでは、まあ普通の女性としては良いかもしれないが万能メイドとしては落第点である。

 綺麗な腹筋、縦線が欲しい。

 

 もっとも、さすがにボディービルダーのようにムキムキマッチョな万能メイドもどうかと思うし、そもそも私の年齢であまり筋肉を付け過ぎると発育に影響を及ぼす。

 そもそも筋肉はただ付ければ良いというわけじゃあない。 

 筋肉は重いのだ。

 無駄な筋肉は錘にしかならず、体のパフォーマンスに悪影響を及ぼす。


 適度に、無理のない範囲でやるのが原則だ。


 まあでも前世の私は自分で言うのも何だがほぼ完璧な肉体を持っていたし……

 鍛え方のノウハウは分かっているから、問題はない。


 

 さて暑苦しい筋トレの話は置いておいて、ガリア王立学園の話をしよう。

 王立学園は良家の子女が六年間通う学校だ。

 まあ日本で言う中高一貫校くらいの感覚で良い。


 だがまあ、しかし何を学ぶというのか全く持って疑問だ。

 

 この世界の主要言語の読み書きはマスターした。

 武術は前世で学んだ分もありこれ以上は実戦を積む以外に伸びないだろうし……

 魔術に関してはそれを専門とする、魔術系の大学にでも通った方が良い。

 

 お貴族様の学校ごっこに果たして何の価値があるのか、私には分からない。


 亡きお母様も死ぬほどつまらなかったと言っていたし、お父様もシャルロットには必要ないかもしれないというお言葉を頂いていた。

 

 まだ筋トレの方が有意義な気がする。

 

 正直面倒くさい……


 何より面倒なのはアナベラお嬢様と一緒の学校に通うことである。

 ああいう我儘で人を振り回すタイプの人は、メイド的には仕事を増やしてくれるのであれはあれで楽しいのだが……

 学友にはなりたくないタイプだ。


 そして大変気になるのだが、ディアーヌ奥様とジョゼフは私への虐待がバレる心配とかしてないんだろうか?

 私が、それこそ地位の高い貴族か誰かに告げ口したらディアーヌ奥様とジョゼフは社会的に死ぬわけだが……まあそんなことに気付くような脳味噌をお持ちならそもそも私に虐待なんてしないか。


 ここしばらく私はかなり従順だったし、それで油断しているのかもしれない。


 ところで問題は制服や教科書をどう買うかだ。

 ディアーヌ奥様が私に金を出すとは思えない。


 いや、まあ相続権的に全部私のお金なんだけどね。


 まあでも盗賊から盗んだお金があるし、それで足りるかな?

 






 

 どこの世界も、校長の話は詰まらないのはデフォルトのようだ。

 極めて退屈で眠気を誘う、学園長の話を聞きながら私は思った。


 現在、入学式の最中である。


 この時間を使って簡単な説明をするが、この学園は主に政治や法律、そして貴族としての立ち居振る舞いを学ぶところらしい。

 といっても、カリキュラムを見た限り……まあ緩い。

 お貴族様の学園ごっこという私の認識はそこまで間違っていなかったようだ。


 とはいえ、下は準男爵から上は辺境伯、侯爵、公爵、大公、そして王族の子女まで通うこの学園はコネを作るという面では中々有意義だ。


 未来のご主人様、いるかな?

 私が仕えるに値する人……まあそう簡単に見つかるとは思ってないけどね。


 やっぱりメイドってのは、ご主人様がいるからこそメイドなわけで。

 

 ディアーヌ奥様やアナベラお嬢様は、仮のご主人様としてはまあ良いかもしれないけど、真のご主人様としては器が小さすぎる。

 私のお眼鏡にはかなわない。


 ちなみに普段の授業では、動きやすい衣服を着ることになっている。

 動きやすければ、つまりドレスだとかそういう類の服装でなければ基本的に何を着ても良いようだ。


 一応日本の学生服のような制服も存在する。

 女子はブラウスにリボン、男子はワイシャツにネクタイだ。

 但し、これを着るのは義務ではなく、学園側の「こんな感じの服装が望ましいです」という要望らしい。


 つまりメイド服を着ることができる、ということだ。

 素晴らしい……

 しばらく様子を見て、問題無さそうだったらメイド服で過ごそうかな。






 さて入学式が終わると、クラス分けが発表された。

 私のクラスはA……幸か不幸か、親愛なる義姉のアナベラお嬢様と同じクラスである。


 クラスに向かう途中、アナベラお嬢様に耳打ちされた。


 「……分かっているわね、駄犬」

 「はい、分かっていますよ」(私、猫だけど)


 何が分かっているのか……

 というと、実は私はこの学園ではアナベラを名乗ることになっている。


 アナベラお嬢様をシャルロットに、シャルロットをアナベラにしてラ・アリエ公爵位とモンモランシ候爵位を奪おうとするディアーヌ奥様の壮大且つ杜撰な計画である。


 つまり、自己紹介でアナベラと名乗れとアナベラお嬢様は言っているのだ。


 


 さてそんなこんなで、自己紹介が始まる。

 席順は……私が左の一番前、アナベラお嬢様がその後ろだ。

 

 自己紹介は席順で行われるので、私が先に自己紹介をしてその次にアナベラお嬢様が自己紹介をすることになる。


 「運が無いね」


 思わず私の口から言葉が零れた。

 

 まあ、これも運命ってやつかな。


 そして私の順番が来た。

 私はゆっくりと立ち上がり……クラス全体を見渡して言った。


 

 「シャルロット・カリーヌ・ド・モンモランシ・ド・ラ・アリエです。よろしくお願いします」


 

 メイドは一時、休職にしよう。

 いい加減、おいたが過ぎるしね。






 「どういうつもりよ!」

 「はぁ? 何のことでしょうか? お嬢様」


 さすがに私がシャルロットと名乗った後にシャルロットですと名乗る度胸はなかったのは、アナベラお嬢様は大人しくアナベラと名乗った。

 が、しかしその後校舎裏に呼び出された。


 校舎裏に呼び出されると、何か青春している感がして少し楽しい。


 「何でシャルロットと名乗ったのよ!」

 「そう言われましても。私の名前はシャルロットですし、ね」


 そもそも無理があるのだ。

 私のお母様はエルフで、お父様は猫型の獣人族。


 なら産まれてくる子供はエルフ耳か猫耳のどちらかだろう。

 普通の人間のアナベラお嬢様がお父様とお母様の子供を名乗るのは無理な話だ。


 それに……

 シャルロット・カリーヌ・ド・モンモランシ・ド・ラ・アリエという名前はお父様とお母様から貰った名前だ。

 前世では両親に捨てられた私にとって、この世界のお父様とお母様は唯一の両親と言える。

 

 その名前を人様にあげるのは癪だった。

 

 まあそれでもしばらくメイドプレイ、虐待されるシンデレラプレイをしても良かったのだけど……

 そもそも学園にいる間はメイドプレイもできない。

 

 そして席順で私が先になったのが決定打になった。 

 もう、これは運命でしょう。


 「お母様に言いつけるわよ!」

 「それは困りましたね……帰ったらますます虐められそうです」


 想像しただけで震える。

 興奮で。

 だがまあ、私を虐めて何になるのかという話だ。

 私が十五歳になれば自動的に家督も財産も正式に私の者になるわけで……ぶっちゃけ怖くもなんともない。


 盗賊退治の時、私は野卑な笑みを浮かべた盗賊に囲まれて、あんなことやこんなことをされてしまう自分を想像して身悶えたが……

 それは勝てる算段があったからだ。


 それと同じ。

 私がイジメに興奮していられたのは、ディアーヌ奥様やアナベラお嬢様なんてぶっちゃけ怖くもなんともなかったからである。


 性格が悪いと言われたら否定できない。

 でも、腹黒メイドって万能メイドの属性の一つじゃない?


 「今から修正しなさい!」

 「えー、今更無理ですよ」


 そもそもだがアナベラお嬢様は私に感謝して欲しい。

 だって絶対にバレる嘘なんだもん。

 誤魔化してあげただけ、アナベラお嬢様とディアーヌ奥様の首の皮は繋がったわけで……

 

 まあこんなこと言っても納得しないか。


 「まあまあ、罰は夏休みに帰った後にたっぷり受けますから……」

 

 今、考えただけでもゾクゾクする……

 が、それは表情には出さず私は笑みを浮かべて言った。


 「学友として、仲良くしましょう?」









 そして入学してからしばらく、いろいろなことがあった。


 結果として……


 「シャルロットお姉様!! お姉様!!」

 「うん、二回もお姉様って言わなくても良いですよ。ルイーズ姫殿下……どうかしましたか?」

 「すみません、お呼びしただけですわ! シャルロットお姉様、ああ……お姉様!!!」


 まるで子犬のように懐いてくる、ストーカー気質のヤンデレ王女様。


 そして……


 「これはこれは奇遇ですな、シャーロット姫! ところで私に、アルビオン王国に仕えるつもりはありませんか!」

 「ウィリアム殿下……その件についてはお断りしたはずです」

 「まあまあ、そうおっしゃらず……」


 やたらと私を勧誘してくる、インテリイケメンヤクザ貴族。

 

 「ちょっと! 今、私がシャルロットお姉様とお話ししているのです! 会話に割り込んで来ないでくださいまし、ギヨーム様!!」

 「会話? 私にはただあしらわれているようにしか見えませんでしたが? ……このちんちくりん。私は今、重要な話をシャーロット姫としているのだ! 邪魔をするな!!」

 「それはこちらのセリフですわ。このド田舎貴族!!」


 私を挟み、大声で大喧嘩を始めるヤンデレストーカーとインテリヤクザ。

 ……お願いだから、声のボリュームを下げて。


 「ピギィー」


 私が祈っていると、諦めろと言わんばかりに私の頭の上で子ドラゴンが鳴く。

 肩が凝るから、せめて降りて欲しい。


 これ以上ヤンデレストーカーやインテリヤクザの近くにいたくないので、私は早歩きでその場から離脱しようとする。

 が、しかし……


 「シャルロットお姉様!」

 「シャーロット姫!」


 ええい、ついてくるな! 

 お前らは犬か? 逃げられると追いかけたくなっちゃうのか?


 「おい、シャルロット様が来たぞ!!」

 「お前ら、道を開けろ!!」

 「ドラゴンキラーだ!!」

 「キャー!! シャルロット様!!!」

 「我らの英雄がお通りだぞ!!」

 「いつ見てもカッコイイわ……私もメイド服、着ようかしら!」

 「いや、やっぱりメイドは最高だよな!!」

 「「「シャルロット! シャルロット! シャルロット!」」」


 私が歩くと、学園の人達―上級生、下級生、教師、使用人問わず―が大袈裟に大騒ぎをする。

 ローマの凱旋将軍だって、これほど大袈裟な称えられ方はしないだろう。


 ……これは何?

 何なの? 本当に、何なの?


 本当に恥ずかしいから止めて!!



 「あ、あ、あ……しゃ、シャルロット……さ、ま……」


 ばったりと、アナベラお嬢様と出会ってしまった。

 アナベラお嬢様は顔を真っ青にさせた。

 取り敢えず私は敵意が無いことを示すために、最大限の笑みを浮かべる。


 ニッコリ。


 「ひぇー!! ごめんなさい、お許しを!!!」


 アナベラお嬢様はダッシュでどこかへと消えてしまった。

 ……何だか、私がイジメたみたいじゃないか!


 「もう……何よ、これ……」


 もしかして、新手のイジメ?

 私、イジメられているの?


 もう、学校に来たくない……はぁ。


 昨日までは、こんなことにはなっていなかった。


 もっと快適な学園生活を送っていたはずなのだ。

 本当に、どうしてこうなった……


 私はこうなった切っ掛けを回想する。

 

 あの日、何があったか……

 そうそう、ルイーズ姫殿下が私に話掛けてきたんだっけ。


 「ねぇ、あなた」


 と。


>>健全なメイド魂は健全な肉体に宿る。

>>そんなわけで、筋トレは大切だ。


筋トレ系美少女シャルロット


>>腹筋は美しいお腹、腰回り、おへそ周りのために大切だ。

>>ただウエストが細いだけでは、まあ普通の女性としては良いかもしれないが万能メイドとしては落第点である。

>>綺麗な腹筋、縦線が欲しい。


肉体美ってのは、芸術だと思う。


>>ああいう我儘で人を振り回すタイプの人は、メイド的には仕事を増やしてくれるのであれはあれで楽しいのだが……

>>学友にはなりたくないタイプだ。


全く思うところがなかったわけではないシャルロットお嬢様。


>>私が、それこそ地位の高い貴族か誰かに告げ口したらディアーヌ奥様とジョゼフは社会的に死ぬわけだが……まあそんなことに気付くような脳味噌をお持ちならそもそも私に虐待なんてしないか。


地味に内心でバカにしていたシャルロットお嬢様。


>>しばらく様子を見て、問題無さそうだったらメイド服で過ごそうかな。


日本人らしく多少の空気はお読みになられる


>>校舎裏に呼び出されると、何か青春している感がして少し楽しい。


アオハルしてんなぁー

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