第5話 シンデレラという童話は果たして何を伝えたいのか……童話として相応しいのか、というよりもそもそも童話に無理やり教訓を求める方がおかしい。
私は現状、大変幸せである。
というのも好きなだけお掃除お料理お洗濯ができる上に、継子イジメプレイができる。
こういうのを何というのだろうか?
悲劇のヒロイン症候群?
ともかく、「私、なんて可哀想なんだ!」という気分に浸りながら家事をするのは大変楽しい。
『シンデレラ』などという童話を好む女の子は多いことを考えると、私は変態ではあるがそこまで特異的な変態ではないはずだ。
もっとも、私は結婚相手を顔で決めるような国の将来が不安になるような白馬の王子様や、突如現れる胡散臭い魔法使いのお婆さん、人の目玉を抉る猟奇的な小鳥などはノーサンキューである。
シンデレラとは違い私は家事をすることは大好きだし、人格や統治能力に問題がありそうな王子様や胡散臭い連中の力など借りたくない。
不幸は自分の拳で切り抜けるものだ。
本音を言うのであれば、私は『シンデレラ』は嫌いだ。
結局、人生は顔と運で決まるというのは子供に読ませる童話としては如何なものか。
いやまあ、面白ければ良いじゃんと言われればそれまでではあるが。
私の考察が正しければ、胡散臭い魔法使いや猟奇的な小鳥はきっと悪魔か、それに近い何かだろう。
きっとシンデレラが玉のように可愛らしい赤ん坊を産んだ時に「契約に従って子供は貰うぜ」などと言いながら現れるのだろう。
世の中、タダで幸せが手に入るほど甘くはないはずだ。
とはいえ、童話に出てくる悪魔というのは案外親切だったりするので何とかなるかもしれない。
きっとシンデレラが号泣すれば「三日以内に俺の名前を当てられたら許してやる」などと譲歩してくれる。
きっと名前はルンペルシュティルツヒェンだ。
いろんな意味で話が逸れた。
本題なのは私は幸せだけど、私以外の人が幸せかどうかは別の話ということだ。
早い話、お父様がやっていた治安維持を私は引き継ぐ義務がある。
ディアーヌ奥様には期待するだけ無駄である。
そんなわけで今夜、盗賊のアジトにやってきました。
まあ盗賊なんて雑草みたいなもので潰しても潰しても出現するのだが、それでも潰さないわけにはいかないのだ。
「おいおい、メイドさん。ここが俺たち『漆黒の闇団』のアジトだと知って……」
「チェストー!」
私は痛々しい名前の盗賊団の見張りの腹に箒を叩きこむ。
見張りの男性はくの字に体を曲げ、その場に倒れた。
「敵襲だ!!」
「敵の数は? 武器はなんだ?」
「そ、それがメイドが一人、武器は箒です!!」
「ふざけているのか!!」
箒で盗賊を掃除しながら、アジトの奥に進んでいく。
猫の聴覚は人間の数倍というが、猫耳を持つ私の聴覚も同様に普通の人の数倍だ。
そのため盗賊たちが混乱しているのがよく分かる。
「敵は一人だ!! 囲んで倒せ!!」
「「「うおおおおお!!!」」」
盗賊の頭の命令で、汗臭い男たちが私に一斉に襲い掛かる。
私は箒で奮戦するが……
バキ!!
箒が根元から折れてしまった。
どうしても普通の箒を武器にするには、耐久度の面から考えて無理がある。
何か、丈夫な木材を見つけないと……
仕方がないので、私は一先ずジャンプしてその場を離脱し、空中で一回転。
その際重力に従ってスカートがめくれ上がり、中のショーツが見えるが……まあ多少のサービスシーンもメイドの務めだろう、多分。
私のパンチラを惚けた顔で見惚れている盗賊たちに対し、スカートの奥に隠していたナイフを投擲する。
麻痺毒を塗って置いたナイフが、盗賊たちの手や足に刺さり、次々と倒れていく。
命中したのは八本中、六本。
二名は私のショーツを見て、気を緩めなかったのだ。
私のパンチラ作戦が通用しないとは……
多分、ホモか熟女好きなんだろう。
仕方がないので、この二人に対しては直接肉薄して倒す。
そんな感じで盗賊たちを倒していくが……
私のスカートの内側は四次元ポケットではないので、どうしても容量の限界がある。
ついにナイフ、武器が尽きる。
「全く、手間を掛けさせやがって……まあ死んだ奴はいねぇみたいだし、命だけは許してやろう。もっとも……死んだ方がマシかもしれねえがな!」
盗賊の頭を含め、五名の盗賊が私に迫る。
ニヤニヤと野卑な笑みを浮かべ、じりじりと迫ってくる。
正直、こういう展開は好きだ。
少し興奮する。
もっとも展開が好きだということと、実際にされたいというのは若干次元の異なる話だ。
そして「このままだと私、あんなことやこんなことされちゃう……キャー!!」などと考えてられるのは、精神的な余裕があるからである。
その精神的余裕の根拠は……
「掛れ!!」
盗賊の頭の号令で一斉に男たちが私に襲い掛かる。
それと同時に私は戦っている最中に、アジト全体に張り巡らせていた糸のトラップを作動させる。
私がアラクネの糸を改造して作った、絶対に切れない糸が五人を吊るしあげた。
「っぐ、な、なんだこれ……えぐっ!」
「あまり動くと締まりますよ? 死にたくはないでしょう?」
苦しそうに呻く盗賊の頭に、私は忠告する。
この糸は釣り糸よりも細いので、体に食い込むと大変痛い。
「お、お前……いったい何者なんだ!!」
「メイドです」
「お前みたいなメイドがいるか!!」
「いても良いじゃないですか」
失礼な人だ。
さて……このまま近所の村に追放しても良いのだが、アラクネの糸は大変貴重なので後で回収しなければいけないことを考えると、別の何かで縛り直した方が良いかもしれない。
周囲を調べると、良い感じの長さの荒縄、ロープが何本もあった。
まあ考えてみれば盗賊がこの手の捕縛道具を持っているのは当然だろう。
ただ縛るの味気ないので、いろいろと遊んでみようかな。
「取り敢えず、亀甲縛り!」
人形相手と自縛以外、つまり他人にやったのは初めてだが……
上手くいった。
その後、菱形縛り、座禅縛り、蟹縛りと挑戦していく。
前世では自分自身と、リラックマくらいしか相手がいなかったのでちょっと楽しい。
抵抗できない人間をギュウギュウとロープで絞めて拘束するのが、こんなにも楽しいとは知らなかった。
ちょっと新しい扉を開いてしまったかもしれない。
縄で盗賊たちを縛りつつ、ついでにナイフも回収する。
勿体無いからだ。
しかし投げたナイフを回収するというのは、少々貧乏くさい絵面で好きではない。
そして最後、盗賊の頭の捕縛に取り掛かる。
やっぱり最後は亀甲縛りかな? 王道だし。
などと考えながら、縛るために糸を少し解く。
その瞬間、盗賊の頭は私に襲い掛かって来た。
「死ね!!」
「おっと!!」
私は柔術を使って盗賊の頭の攻撃を受け流し、逆に関節を固めて拘束する。
体は子供だし、そもそも女性と男性の筋力差は如実にあるが……
それを補えるだけの、身体能力強化の魔術が私にはある。
完全に身動きが取れないようにしてから、私は早速亀甲縛りに取り掛かる。
ええい、暴れるな!
「よし、完成」
少々強めに縛ったため、ちょっと辛そうだ。
具体的には股間の部分が。
とはいえ、私は女なので彼の痛みに関しては理解できても共感はできないし、まあ悪い事をした罰の一つだと思って我慢して貰おう。
もっとも彼らを本当の意味で罰するのは私ではなく、法なのだが。
私はこれでも科学文明を信奉し、基本的人権を尊重する文明人を自認している。
例え彼らがどうせ死刑になるレベルの殺人を犯していたとしても、私が彼らを殺すのはよろしくない。
きちんと法的手続きを踏まなくては。
と、まあ私がまだ殺人処女だからというのもあるのだけど。
しなければいけない時にはしなければいけないとは思うが、できるだけ手は汚さず綺麗な身でいたいと思うのが人情だと思う。
処女は大切にしないとね。
最後に念のため、全員に再度痺れ薬を使っておく。
縛り方にちょっとおふざけがあったため、縄抜けされる危険がある。
まあ難しいと思うけどね。
後は近くの村に通報すれば終了だ。
うん、良い仕事した。
さて翌朝。
何事も無かったかのように床を掃除していると……
私の猫耳が、来客の声を捉えた。
掃除しつつ、聞き耳ならぬ猫耳を立てる。
ふむふむ、なるほどねー。
ガリア王立学園か~。
そう言えばそんなのあったね。
ということは、私のメイド生活もそろそろ終わり?
>>タイトル
正直、面白ければ何でも良いと思う。
>>漆黒の闇団
厨二男軍団VS厨二美少女
>>人形相手と自縛以外、つまり他人にやったのは初めてだが……
多分縛られたのはリラックマ
>>と、まあ私がまだ殺人処女だからというのもあるのだけど。
多分殺した瞬間は後悔するけど、三歩もあるけばそんな気持ちも忘れます
アホなので。