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第29話 何故、ゾンビ映画系の追い詰められた悪役は、明らかに試作品っぽいヤバイ薬を自分自身に打ってしまうのか……試作品が強いのはロボットアニメの中だけですよ、伯父様

 「な、なんてことだ。私の103号が……あれを作るのにどれだけ苦労したと思っているんだ。あの子は!!」


 私の口から悪態が漏れる。

 とんだじゃじゃ猫だった。


 「どうする? どうする?」


 素材として使用したのは、王政府から譲って貰った犯罪者共だ。

 殺人、放火、強姦などの罪を犯して殺したゴミ共……まあ、私が言うのも何だが、どうせ死刑になるはずの人間を殺しただけ。

 

 これだけならば情状酌量の余地ありで、死刑回避は可能だ。

 そもそも罪に問われるかどうかすらも怪しい。


 ガリア王国の、世俗法の範疇ならば少し罰金を支払うだけで許されるだろう。

 そもそも国王すらもグルなのだから。

 

 だが……


 「教会の連中はそうはいかないだろうな」


 絞首刑ならば絞首刑。

 斬首ならば斬首。

 火刑ならば火刑。


 決められた通りに、決められた手続きを通して、死刑は執行されなければならない。

 と、融通の利かない教会の坊主共は言うだろう。


 神の名の下に行われた神聖なる裁判の判決を捻じ曲げ、私的に流用した。

 教会の連中が許すはずがない。


 何より人体錬成……あれは『五大禁原則』に反している。

 教会の定めた、教会法を犯しているのだ。


 国が相手ならば金で誤魔化せる。

 だか神官共、神がどうのこうのと言っている頑固な狂信者共は融通が利かない。


 「このままでは宗教裁判は免れない……」


 上手くいって、名誉ある処刑として『斬首』。

 最悪、不名誉な処刑として『絞首刑』。


 と、いったところか。


 「捕まって堪るか。まだまだ私は研究がしたいんだ……」


 私は地下工房の最深部に辿り着いた。

 鍵を使い、ドアを開ける。

 鍵を締め直してから、部屋の真ん中に安置されていた箱の鍵を開けた。


 中には一本の注射器。


 「まだ、研究段階で副作用も分からない。だがこいつを使えば、もしかしたら……」


 助かるかもしれない。

 私は注射器を手に取った。


 ドン!

 それと同時に後ろから大きな物音。


 「ロラン伯父様、観念してください」


 どうやらドアを蹴破って入ってきたようだ。

 なんて子だ……全く、誰に似たんだ?


 カリーヌはここまでヤンチャじゃなかった。

 ……父方の血か。


 おのれ、ラ・アリエ公爵め……







 「ロラン伯父様、観念してください」


 私は何かをこそこそとやっているロラン伯父様に言った。

 ロラン伯父様が私を振り返る。

 顔が真っ青だ。


 そして手には明らかに合成っぽい……じゃなかった、明らかにヤバそうな感じの注射器を持っていた。

 緑色の液体が入っている。


 絶対に人体に入れちゃいけない系の薬品だろう。

 多分、体に入れるとパワーアップする代わりに理性とか失って体を乗っ取られるやつだ。


 「……見逃してくれる気は、ないか?」

 「見逃したら、教会に見つかった時に私まで罪に問われるじゃないですか」


 悪いが、私は強い者の味方なのだ。

 長いものには巻かれろ。

 教会には逆らうな、というやつだ。


 まあガリア王は大変お気の毒……うーん、まあ自業自得っちゃ自業自得だけど。

 ガリア王国からは後々恨まれることになりそうだが、イルハム枢機卿が守ってくれるだろう。

 最悪、あのアルビオンのインテリ海賊を頼ればいい。


 喜んで迎えてくれるはずだ。


 「そうか……」


 ロラン伯父様は何かを決意した顔で、腕に注射針を突き刺した。

 が、しかし薬液が体内に入るよりも私のナイフが注射針を砕く方が早い。


 液体が地面に散らばった。


 「あぁ……」


 ロラン伯父様は尻餅をついた。

 げっそりとした顔で、両手を上げる。


 「……降伏だ」

 「意外です、もっと抵抗するかと思った」

 「……もう打つ手、無しなんでな」


 私は項垂れているロラン伯父様を糸で拘束した。

 これで抜け出せないはずだ。


 「この液体、何ですか?」

 「強化薬だよ。まだ試作品だけどな」


 ロボットの試作品は大体強いけど、薬の試作品は失敗する。

 というのが王道である。


 「打ったら死ぬ系のやつですね」

 「……だな。お前のおかげで助かった」


 少し落ち着いてきたようだ。

 私は指で床に零れている薬品を掬う。


 ペロっと舌で舐めてみた。


 「おい、馬鹿! シャルロット!!」

 「うぐ、苦いですねぇ……これ打ったら絶対に脳味噌溶けてますよ。本当に良かったですね」

 「無事、なのか? ……そう言えばお前には毒の耐性があるんだったな。はぁ……さすがにモンモランシ家最高傑作には敵わなかったか」


 残念そうな表情のロラン伯父様。

 

 「ところでロラン伯父様。私のことを心配してくれるんですね」

 「うん? 目の前で拾い食いをし始めたアホな姪がいたら、注意するのは当たり前だろ」


 まあ確かに。

 マッドサイエンティストのくせに常識人みたいなことをいう。


 狂気とは日常の中に隠れてる的な?

 少し違うか。


 「なぁ、シャルロット。やっぱり死刑かな?」

 「さぁ? まあ上手く立ち回ればワンチャンあるんじゃないですか? あのヤバそうな薬を打つよりはマシですよ。頑張ってください。墓参りには行きますから」

 「……」


 なんか、不満そうだった。

 墓はちゃんと磨いてやると言っているのに……贅沢な伯父だ。


 




 「あのー、ここに叔母と義理の叔父がいると聞いたんですけど……」

 「あなたは?」


 教会の司祭と思しき男性が私に尋ねてきた。

 ふむ……人に名を聞く前に自分から名を名乗るべきではないだろうか?


 「シャルロット・カリーヌ・ド・モンモランシ・ド・ラ・アリエです。この教会に運ばれたと聞いている、ディアーヌ・ド・ザラントユ伯爵夫人は私の叔母です」


 私がこの教会に訪れたのは、ロラン伯父様が「そう言えばお前の叔母、ぶっ殺しといたわ。どうだ? スッキリしたか? それとも自分の手で殺したかったかな?」と唐突に言いだしたからだ。

 

 合成獣(キマイラ)に襲わせたらしい。

 何でも自分に不利な書類を処分しようと考えたとか。


 しかもこの件、国王もグルだったらしい。

 中央集権化政策の一環だったらしい。


 ……ガリア王国の政治って、本当に怖いなぁ。


 そんなわけで私はロラン伯父様をマルグリットと兵士に託した後、死体かせめて遺留品くらいは回収してやろうと探しに来たのだが……


 何でも護衛の兵士が奮闘したらしい。

 その間に、丁度近くを通りかかった冒険者に助けてもらったとか。

 何という悪運の強さ。


 日頃の行いが良かったわけではないのに……神様は本当に不公平だ。


 しかし死者こそ出なかったものの、二人は重症を負ってしまったとか。

 あの合成獣(キマイラ)、牙に猛毒持ってたからね。

 噛まれれば、そりゃあヤバイでしょうよ。


 斯くして私は取り敢えず二人の様子を見るために、運び込まれた教会にやって来たのだった。


 「なるほど、これは失礼しました。ご家族でしたか。私はこの教会を任されている司祭です。どうぞ、こちらに」

 

 あっさりと信じてもらった。

 まあ貴族だと信じてもらうために、メイド服ではなくスーツを着ているからね。

 大人っぽく見えるように化粧もしたし。


 「わぁお……」


 久しぶりに再会したディアーヌ奥様とジョゼフ様は死体みたいになっていた。 

 まずディアーヌ奥様は右手と左足が無くなっている。

 さらに顔にはグルグルとミイラ男(女?)のように包帯が巻かれていた。


 ジョゼフ様に至っては、四肢の全てが欠損。

 顔は怪我をしていないようで包帯は巻かれていなかったが、代わりに腹部に包帯が巻かれていた。


 周囲には聖職者たちがいるが、みな疲れ切った顔をしている。

 あきらめムードだ。


 「生きてるの?」

 「まだ、息はあります。……ですがディアーヌ様は右手と左足の欠損。さらに顔を獣に噛みつかれたせいで、鼻と右耳が抉れています。眼球も爪で切り裂かれており……傷は治しましたが、視力が残るか分かりません。ジョゼフ様は四肢の欠損、そして腹部に大きな裂傷を負っています」


 なるほどなるほど。

 むしろまだ息があるのが不思議、という感じの怪我だね。

 それだけやられて、よく生きてるね。人間の生命力って、凄い。


 「しかし問題なのは外傷ではありません。……毒と破傷風です。運び込まれた段階で、もうすでにかなりの毒が体内に回っておりました。さらに毒そのものも未知のもので手の施しようがなく、なんとか治癒魔術で生命力を回復させ、持たせた形です。しかし、もうすでに教会の治癒魔術師、全ての魔力が……」

 「無くなっちゃったのね」

 「はい……それに治癒魔術も万能ではありません。我々の力が及ばず、申し訳ありません」


 ふーむ。 

 さて、どうするかな。


 解毒薬は作れるが、こんなところでモンモランシ家の錬金術を披露したくない。

 それにもう、手遅れだろう。


 (そもそも私、この人たち好きじゃないからなぁー)


 まあ別に復讐してやろうとか、そこまでの気概は無いわけだが……

 全く恨みが無いかと言うと、さすがに嘘になる。


 ディアーヌ奥様は我儘で考え無し、短慮で感情的、ヒステリック……

 ジョゼフ様は視線が気持ち悪いし、頭悪いし、ハゲてるし、髭が全体的に不衛生というか清潔感ない……


 とまあ、二人には嫌いな要素が多い。

 頑張って助けてあげようという気にはならない。

 

 「まあ姪として看取ってあげよう」


 それくらいの情はある。

 遺言を言う体力は……ないと思うけど。


 (アナベラお嬢様に手紙を出しておくべきだったかな)


 どっちみち間に合わないと思うけど……

 それくらいの配慮はするべきだった。


 そう言えば、この二人、アナベラお嬢様と喧嘩してたんだよね。

 私が出て言った後、仲直りしたのかな?

  

 してなかったら、アナベラお嬢様への心理的なダメージ大きそうだなぁ。

 うーん……


 まあでもこの二人、クズっちゃクズだけど私の前世の実の両親よりはマシか。

 アナベラお嬢様を溺愛していたのはよく知ってるし。

 

 アナベラお嬢様も本気で嫌っているわけではあるまい。

 あんなのは一種の反抗期、はしかみたいなものだ。


 はぁ……仕方がない。


 「司祭様、これを使ってみてください」

 「……これは?」

 「エリクサーです」


 私が答えると司祭様は目を丸くした。

 私は笑みを浮かべる。


 「私は『モンモランシ』ですよ」

 「ま、まさか……今代の?」

 「そんな感じです」


 私がそう言うと、唖然とした表情でエリクサーと私の顔を見比べた。


 「できませんか?」

 「……やってみましょう!」


 司祭様は他の聖職者たちを指揮し、再び治療を開始する。

 エリクサーを聖水で薄め、傷口に塗り、さらに飲ませていく。

 そして最後の力を振り絞り、治癒魔術を掛けていく。


 生の治癒魔術を見るのは初めてだ。


 見る見るうちに血色が良くなっていく。

 いいなぁ……私も治癒魔術とか、神聖術とか、方術習いたいのに。


 今度、イルハム枢機卿に教えて貰おうかな?




 

 治療が終わった。

 私は司祭様に声を掛ける。


 「どうですか?」 

 「……完治です。凄い、凄いですよ……エリクサー。本当にどうやって作ってるんですか?」

 「ふふ、乙女の秘密です」


 私は人差し指を唇に当てて、ウィンクした。

 

 まさか子宮で錬成してますとか、原料の一つが卵子ですとか、月一で排出してますとか言えない。


 

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