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第28話 明らかに合成っぽい人間ですね。……というかどっからどう見ても合成。本物だけど合成……叙述トリックかな?

 ……一先ず置いておこう。

 私は本を閉じた。


 そう、それよりも大事なのは脱出することだ。 

 あとマルグリットが心配だ。


 それから私はさらに奥へと進んだ。

 

 ようやく、少し広い部屋に出る。

 するとそこにはロラン伯父様とナイフを首に当てられて身動きを封じられたマルグリット、明らかに合成っぽい二足歩行の化け物人間がいた。


 マルグリットはとてもぐったりとしている。

 あの分だと、毒か何かを盛られたに違いない。


 もっとも人質として使う気満々なところを見る限り、命に別状はないはずだ。

 死んだら人質にならないし。


 「はぁ、はぁ、はぁ……シャルロット。随分と好き放題、歩きまわってくれたな」


 何故か、ロラン伯父様は既に疲れていた。

 何故だろうか? と考えたが、多分私を檻に閉じ込めたと思い込んでいたからだろう。


 あいつ、どこ行った!?


 という感じで、今の今まで探し回っていたと見た。


 「だって迷路みたいに入り組んでいるんだもん。伯父様の工房」

 「……その分だと、見てしまったようだな」

 「うん」


 私は鎌を掛けてみる。

 

 「……まさか、伯父様が同性愛者だったなんて知らなかったよ」

 「……お前は何を見たんだ?」

 「ショタモノの官能小説」

 「そんなものはない! あったとしても工房に置くわけないだろう!!」


 怒鳴られた。

 そんなに怒らなくても良いのに。


 「まあ、良い。さてシャルロット。魔術契約を結ぼう」

 「むむ」


 魔術契約。

 魔術を用いて魂と魂を繋ぎ合わせて行う契約だ。


 この契約を結ぶと、交わした契約は絶対に破れず、そして双方が破棄に同意しない限り効力はどちらか一方が死亡するまで続く。

 もし破った場合は、破った側には死が待っている。


 という大変危険な魔術である。


 「このメイドはお前にとって、大切な母親代わりだったと聞いている。もしこいつの命が惜しければ……」

 「ここで見たことは誰にも話さない。そしてロラン伯父様と結婚して、さらに研究に協力しろ。そういう契約を結べ。って?」

 「よく分かっているじゃないか」


 ロラン伯父様はマルグリットの首にナイフを押し付けて言った。


 「ついでにこいつには毒を打ってある。早くしないと死ぬぞ」

 「……」


 私は剣を構え、ゆっくりと近づいていく。


 「お、おい! このナイフが見えないのか!! これ以上近づいたら、こいつを殺すぞ!」

 「……殺せば?」

 「は、はぁ?」


 私は低い声で言った。


 「別に殺しても良いけど、その時はロラン伯父様……どうなるか分かってるよね」


 私は笑みを浮かべた。

 人質は生きているから意味があるのだ。

 殺したら、意味がなくなる。


 「っち! やれ!! 103号!!!」


 ロラン伯父様が命令を下すと、明らかに合成っぽい二足歩行の合成獣(キマエラ)と思しき化け物が唸りを上げて突撃してきた。


 明らかに合成っぽい辺り、絶対に人間ではないが……

 それでも形は人間に似ている。

 

 そのため下手な合成獣(キマエラ)より、よほど動きを読みやすい。


 私は103号と呼ばれた、合成っぽい化け物人間の拳を交わす。

 拳は土埃を上げて、床にめり込む。


 動きが鈍い。

 大して強くな……


 「っ!!!」


 私は慌てて体を逸らした。

 合成っぽい化け物人間の体から、鋭い触手のようなものが飛び出してきたからだ。


 私の頬から血が一筋、垂れ落ちる。

 

 体内に侵入した毒を解毒しつつ、私は呼吸を整えた。


 前言撤回。

 こいつ、かなり厄介だ。


 「そいつは人間をベースにいろいろ掛け合わせて作った、私の最高傑作だよ、シャルロット。合成獣(キマエラ)でもあり、ホムンクルスでもある。さぁ……私の最高傑作とモンモランシ家最高傑作、どちらが強いかね?」


 ロラン伯父様は得意気に笑った。

 よほど自信があるようだ。


 合成っぽいホムンクルスは一切の理性を宿していない目で、私を見下ろす。

 次の瞬間、奴の全身から無数の触手が飛び出し、私に襲い掛かってきた。


 が、すでにこの技は見切っている。


 私は剣を振るい、その全てを叩き斬る。

 ボトボトと、肉片が地面に落ちる。


 剣で防御しつつ、袖口から猛毒を塗ったナイフを時折投げつける。

 ただあまり効果があるようには見えない。

 奴の攻撃は私には通らないが、私の攻撃も奴には通らない。


 「■■■■■■!!!」


 焦れたのか、大きく腕を振り、再び私に右拳を叩きつけてきた。

 よく見ると、鋭い爪がびっしりと生えている。

 食らったら、間違いなくお陀仏だ。


 まあ、当たればの話だけど。


 「ちぇすとぉおおおお!!!!」


 気合いを入れて、剣を振るう。

 別に私は薩摩の武士でも何でもなくただのメイドだが、こういうのは気分の問題だ。


 紙一重で拳を交わし、剣を斬り上げ、その腕を切断する。

 

 次に襲い掛かってきた左拳は、剣の強度と切れ味を信じ、真正面から迎え撃つ。

 真っ二つに、水平に腕を斬る。


 障害物はもう、ない。

 私は胴体に剣を突き刺そうと一歩を踏み出そうとするが、その前に殺気を感じ、体を捻る。


 私の体を、先程切り落としたはずの右拳が掠った。

 足に力を入れ、跳躍。


 コンマ一秒後、左拳が私がいた場所にめり込んでいた。


 「再生、能力……」


 しかも、とんでもない速度だ。

 奴が上を向く。


 私と奴の目があった。

 

 そして……


 「■■■■!!」

 「ふぅ、危ない!!」


 突如、首が伸びてきたのだ。

 少しでも体を捩って、避けるのが遅れていれば私は一口で食べられていただろう。


 「コラ、103号!! そいつを殺すな!! 殺さずに無力化しろ!!」

 「■■■■■■■■……」


 一応、人間をベースにしているだけあって命令を聞くだけの知能はあるらしい。

 何を言っているのか全然分からないが、「無茶言うなよマスター」と言っているように私は聞こえた。


 私は伸ばしたことで無防備になった首を斬る。

 頭が体から離れるが……すぐに断面が盛り上がり、頭が再生され始めたのを確認した。


 多分、あの頭は飾りだろう。

 脳味噌は頭の中ではなく、胴体の中に埋め込まれているとみた。


 「さすがロラン伯父様……これは凄い兵器だね」

 「ふふ、だろう?」


 ロラン伯父様は自慢気に胸を張った。


 「こいつは私の最高傑作、芸術作品だ。だが……お前の技術と知識が加われば、さらに良い作品を作れるかもしれない。どうだ? 私と一緒に作らないか?」

 

 そういうロラン伯父様の目は少年のように輝いていた。

 アレだ。

 作った工作を母親に自慢する少年みたいな、そんな感じの目だ。


 「いやー、ちょっと迷ってきちゃったな」


 私も一人の魔導学者であり、錬金術師。

 全く憧れないというのは嘘になる。


 というか、正直興奮していた。

 

 あの、明らかに合成っぽい化け物人間は素晴らしいものだ。

 

 パワーもスピードも、バランス感覚も優れている。

 肉体を自在に変異できるため、臨機応変に、どんな地形にだって対応できるだろう。

 それにあの再生能力……もはやほぼ不死身だ。

 そしてこれだけ高性能にも関わらず、燃料切れする気配がない。


 もしこれを量産できれば、アルレリア家はアンディーク家に勝てるだろう。

 それだけ素晴らしい兵器だし、ホムンクルスだし、合成獣(キマエラ)だ。


 美しいほど洗練された機能美! 

 まさに芸術作品だ。


 これをロラン伯父様と一緒に作るのは、さぞや楽しいに違いない。

 ただ……


 「お生憎、私はまだ殺人処女なのでね」


 実はまだ人を殺すKAKUGO的なモノはしてないんだなぁ、これが。

 

 まあ、処女は大切にしないとね。

 純血、超大事。


 「私は魔導学者、そして錬金術師。でもその前に万能メイド!!」


 マッドなサイエンティストと、万能メイドの両立は難しい。

 できたとしても、両方中途半端になってしまう。

 妥協はしたくない。


 「悪いね、明らかに合成っぽい化け物人間君……ちゃん? そろそろ終わりにしよう。悪いね、私はモンモランシ家最高傑作のホムンクルス。あなたに負けるわけにはいかないんだよ。家の誇りにかけても、万能メイドとしてもね」

 

 私は散々、動き回っている間に仕掛けた糸の結界を作動させる。

 糸が合成っぽい化け物人間を拘束した。


 まあそれでも触手とかで攻撃を仕掛けてくるが……

 あの面倒な拳は封じ込めた。


 私は一気に近づき……


 「私の包丁捌きをくらえ!!!」


 最速、八連撃。

 九つに切り裂かれる化け物合成獣(キマエラ)


 瞬時に再生が始まるが……

 私の目は捉えていた。


 ほぼ中央部の肉の中に、脳味噌のようなものが埋まっているのを。

 剣を振るうよりも片手でナイフを投げた方が早い。


 私は左手を剣から離し、振り上げる。

 瞬時に袖口からナイフを取り出し、投擲。


 私の放ったナイフは真っ直ぐ、肉塊に突き刺さった。

 突き刺さるのと同時に、再生が止まる。


 大当たりだったみたいだ。


 「もし……私があれを設計したのであれば、脳味噌は小分けにして体の各所に分散させたかな。あと再生能力に費やす魔力を、体の硬質化に注いだ。その方が理に適っていると、私は思うよ」


 私はそう言って、剣をロラン伯父様に向けた。


 「そ、そんな……私の、最高傑作を……なんて、ことだ」

 「さて、マルグリットを解放して貰おうかな」


 私がそう言うと……

 ロラン伯父様は私を睨んでから、マルグリットを突き飛ばしてきた。

 私は慌ててマルグリットを受け止める。


 その隙に、ロラン伯父様はさらに奥へと逃げてしまった。


 「大丈夫? マルグリット」

 「ひ、姫様……」


 マルグリットは私に向かって手を伸ばす。


 「ご、御無理を、なさらないで、下さいと……」

 「説教は後で受けるよ」


 私はナイフを取り出し、軽くマルグリットの指先を斬る。

 浮き出た血を私は舌で舐めとる。


 「……大した毒でもないね」


 私はすぐに体内で解毒薬を作る。

 

 「マルグリット、あーん」

 「んぐ、こ、これは何ですか?」

 「解毒薬」


 私は体内で錬成した解毒薬を、汗腺を通して体外に絞りだし、それをマルグリットに飲ませた。

 

 まあ、汗と言えば汗だが……

 私は特に感染症も発症していないし、健康的には問題無い。


 むしろ私の汗だからプレミアがつく。

 マルグリットは泣いて喜んでくれても良い。


 「さて、追いかけてくるよ。マルグリット……ここで待ってて」

 「ひ、姫様! き、危険なことは……」

 「私を信じて」


 私がそういうと……

 マルグリットは黙った。


 「そう、ですね。もう、姫様は小さな子供では、ないですよね」

 

 そういうマルグリットは少し寂しそうだった。

 マルグリットは頷く。


 「待っております。……あのロリコン男を叩きのめしてきてください」

 「オーケー! 任せて!!」


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