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第27話 み、見てないです! 私は何も見てないです!! ほ、本当ですよ? ヤバそうな実験器具とか、実験素材とか、出資者名簿の中にある、明らかにヤバイ人の名前とか、全然見てないです。

 落下するなか、私は慌てて体勢を立て直した。

 

 落ちる瞬間、体を丸めて地面を転がり、衝撃を緩和する。

 が、地面に柔らかいマットのようなものが敷いてあったためそもそもそんな必要はなかった。


 「いくらなんでも、酷くないかな? ロラン伯父様」


 私は起き上がり、周囲を確認する。

 真っ暗闇で何も見えない。


 が、私の嗅覚が刺激臭を捉える。


 魔法薬、それも睡眠薬だ。

 それもかなり強く、そして濃度が高い。


 「なるほどね。私が『耐毒体質Ⅳ』の神秘体質を持ってるって言ったのを覚えてたのね」


 これだけの魔法薬ならば、Ⅳ相当でも十分眠らせられるだろう。

 しかしこれほどの魔法薬を錬成するとは……やはりロラン伯父様は錬金術師としては一流だ。


 「だけど残念。私は『毒物親和体質Ⅳ』と『味覚解析Ⅳ』、『嗅覚解析Ⅳ』を持っているのだ!」


 私たち、モンモランシ家の当主の目標は賢者の石の錬成である。

 そのために必要なのは、より優れた錬金術師・錬金釜を作り出すことだ。


 まあ早い話、優秀な子供を作ることが何よりも大切なのである。


 そのため私たちモンモランシ家は、取り敢えず錬金術に役に立ちそうな『神秘体質』を約三千年の間、交配によって掻き集めた。

 『神秘体質』は遺伝傾向があるが、しかし必ず遺伝するとは限らない……


 しかし私たちにとって、胎内でちょろっと遺伝子操作をするのは難しいことではない。

 必要な『神秘体質』を確実に自分の子供に伝えられる。


 私ほど数多くの『神秘体質』を持っている人間はいないだろう。


 『毒物親和体質Ⅳ』を持つ私にとっては、あらゆる毒はちょっと刺激が強いだけの食べ物に過ぎない。むしろ毒の効力が高ければ高いほど、私はこの毒を体内に取り込み、〝神秘〟に返還できる。

 もっとも今回の毒はさすがの私でも、完全に『親和』させることはできない。


 だが時間さえ稼げれば問題無い。

 『味覚解析Ⅳ』、『嗅覚解析Ⅳ』の二重チェックにより毒の組成及び魔法式の解析は既に終わっている。

 『高速演算処理Ⅳ』てもって、解毒薬と対抗魔法式を体内で組み立てる。


 斯くして、毒の無力化に成功。

 この間、コンマ一秒。


 「さて、次はメイド服に着替えなければ」


 これから戦闘になるかもしれない。

 というか、なるだろう。


 ならないはずがない。


 幸いなことに箒剣は「護身用に必要だから!」とマルグリットに言い張って手に持っていたし、ナイフも体の各所に隠してある。

 必要なのはメイド服だけだ。


 「 変 身 !!」


 とぉ!!!


 私はクルっとジャンプして宙返りをする。

 すると私の服が一瞬で解け、そして再び縫い直されていく。

 

 着地した頃には……


 「万能メイド、シャルロット!!」


 私はメイド服に着替え終えていた。

 

 何ということは無い。

 私は買って貰った服と、そっくりそのまま同じ服を蜘蛛糸で作って置いたのだ。

 

 うん?

 最初からそれで作れば良かったんじゃないかって?


 うん。それは私も今、思った。

 イルハム枢機卿には無駄なお金を使わせてしまった。


 後で謝っておこう。


 魔法で灯りをつけ、再び周囲を確認。

 見たところ、檻の中に私はいるようだった。


 箒剣を抜き、鉄格子を真っ二つに切断して脱出する。

 

 「さてさて、出口はどこかな?」


 取り敢えず近くにあった扉を開けて……鍵が掛かっている。

 私はこれを蹴り飛ばして強引に開けて、中に入った。


 するとそこには何とも気持ちの悪い生き物がいた。


 顔は狼のようだが頭にヤギのような鋭い角が生えており、体は馬。

 しかし全身に竜のような鱗が生えている。

 さらに蛇や竜のような太い尻尾が生えている。


 口から垂れる唾液からは刺激臭……猛毒の臭いがぷんぷんする。


 最初は新種の魔獣か、何かだと思ったが……

 明らかに違う。


 というのも、頭がトラバージョン、ライオンバージョンなど様々な個体がいたからだ。

 さらに全身の生物的特徴が全く、一致していない。


 間違いない。


 合成獣(キマエラ)だ。


 錬金術によって人工的に合成された生物兵器の一種である。

 

 「「「■■■■■■■■!!!」」」

 「うわぁ!」


 私は慌てて、合成獣(キマエラ)の攻撃を避ける。

 想像以上に動きが俊敏だ。

 普通合成獣(キマエラ)は無理な神経接続が原因で動きが粗雑になるのだが……ロラン伯父様は腕が良いようだ。


 「もっとも、私の敵ではないけどね」


 軽く剣を振るうと、真っ二つに裂けた。

 さあ、掛かって来い。

 三枚おろしにしてやろう。


 すると警戒したのか、急に距離を取り始めた。

 それはまるで陣形を整えているようだ……もしかして知性が高いのかな?


 と、思うのと同時に魔法攻撃が飛んできた。

 炎の槍、風の刃、氷の矢。

 多種多様な攻撃と同時に、また合成獣(キマエラ)の猛攻が始まる。


 一瞬、誰かが魔法を放っているのかと思ったが……

 術者はいない。

 そして魔力は明らかに合成獣(キマエラ)から感じる。

 

 「凄い! 魔法を操れる合成獣(キマエラ)なんて! 大発明じゃん!!」


 まあ私の敵ではないが。

 

 私はスカートの内側に隠していたナイフを投擲。

 八本のうち、三本が命中するが五本は避けられる。


 ……が、これは計算のうちだ。

 ナイフには糸が括りつけられている。


 床に突き刺さったナイフを起点に、糸の結界を張る。

 そして合成獣(キマエラ)を一網打尽にした。


 念のために一頭一頭、しっかりと殺してから糸を解く。

 

 さらに奥へと突き進む。


 そこはどうやら、ロラン伯父様の工房のようだった。

 まるで他人の秘密基地に忍び込んだよう……いや、実際に忍び込んでいるわけだが、とにかくドキドキする。


 戸棚には様々な薬品、植物、生物の肉片。

 そして各所には大小様々な錬金釜。

 机の上には大量の資料がどっさりと置かれていた。


 「うわぁ、これオリハルコン製の釜じゃん。良いモノ持ってますなぁ」


 まさに儲かっている錬金術師の工房だ。

 本家であるはずのモンモランシ家には、〝子宮〟以外財産がないのと対照的だ。


 うらやまけしからん。


 しばらく進むと、錬成中と思われる合成獣(キマエラ)たちがずらりと並んでいた。

 パッと見では精々四種類程度の生き物の合成に見えたが……

 合成途中のものを見れば、それが間違いであることが分かった。


 様々な生物の臓器を集めて、それらを組み合わせて一つの生き物にしているようだ。


 「それにしても……この脳味噌、明らかに霊長類系だよね」


 何だろう。

 不穏な感じになってきた。


 しばらく進むと、素材と思われる動物が保管されている倉庫のような場所を見つけた。

 保存用の魔法薬の中に、多種多様な動物が漬けこまれている。


 比較的小さい動物は丸ごと、大きめの動物は輪切りにされ、そして巨大な動物は臓器や体の各部分部分だけが保存されているようだ。


 ご丁寧に学術文字でしっかりと動物の名前が記されている。


 えーっと、何々……


 トラ、狼、ライオン、イルカ、タコ、魚、人族、豹、猿、犬、エルフ、猫、犬型獣人、ネズミ、ゴキブリ、ムカデ、トンボ、魚人族、ゴリラ、ロバ、クマ、猫型獣人、馬、羊、ヤギ、牛、鶏、ドワーフ、小人、カブトムシ、クワガタ、ドラゴン、巨人、オーク、トロール、ゴブリン……

 

 なるほど、なるほど。

 だから知能が高かったのね。


 気になるのはゴキブリとか、何に使うんだろう? 

 あー、遺伝子の一部を組み込んだりするのかな?


 それとも体の一部を巨大化させて使用するとか?


 私は本棚に近づき、適当に中を開けて流し見てみる。

 ほうほう……人体実験の記録が乗ってますねぇ。


 ……これ、何冊かパクっちゃダメかな?

 正直、魔導学者の立場からすると垂涎モノだ。


 どうでも良いけど、科学に犠牲は付き物って言うけどさぁ……

 犠牲を作ってまで発展させる意味ってあるのかね?

 私は無いと思う。

 うん、だって科学なんて発展しなくても幸せになれるからね。

 日本の社畜と縄文人なら、後者の方が絶対幸せだと思う。


 それはそれとして、この研究記録超欲しい。

 ……一冊、二冊ならバレないんじゃないかな?


 「おっと、今はそれどころじゃない」


 私は慌てて本を棚に戻す。

 今は脱出に集中しなければ。


 ……そうは言っても、やはり私の視線は宝の山に移ってしまう。

 いかん、いかん。

 集中しなき……



 『研究出資者一覧表』



 そんなものが目に入った。

 なるほど、それはそうだ。

 これだけの施設、ロラン伯父様一人のお金で揃えられるわけがない。


 ………………

 …………

 ……


 ヤバイ、気になる。


 ちょっとだけなら、良いよね?

 

 取り敢えず、一番後ろを見てみる。

 最後のところには、こんな名前があった。



 『ジョゼフ・ド・ザラントユ』


 あー、ジョゼフ様。

 やってしまいましたなぁ。


 こんな人体実験への関与、私への強姦未遂なんかよりも遥かにヤバイ案件ですよ。


 後ろから名簿をチラチラと見ていくと、ガリアの有力貴族や有力商人たちが名前を連ねていた。

 私の頬を冷たい汗が伝う。

 背中に鳥肌が立ってきた。


 ……どうやら見つけてはいけないような代物を見つけてしまったらしい。


 学園のクラスメイトの顔が自然と浮かび上がる。

 あの子のお父さん、宗教裁判は免れないね。

 まあ過去の判例からして、死刑は回避できるかな。貴族としての地位は危ういけど。


 「見た感じ、アルレリア派ばっかりだね……」


 ガリア王国の貴族はアルレリア派、アンディーク派、そしてもう一つとある貴族家を中心とした派閥の合計三派閥に分類できるが……

 ロラン伯父様の研究に出資しているのは、その殆どがアルレリア派に属する貴族であった。


 これはもしかしたら、もしかしちゃうかもしれないぞ。


 そう思った私はある名前を探す。

 そしてそれはすぐに見つかった。



 『ルイ・フィリップ・ド・アルレリア・ド・ガリア』




 こ く お う へ い か ! ! !


 

 やってしまいましたねぇ……

 

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