第25話 ロリコンVSロリコンの戦いですよー、見逃せません……というか、何で戦ってるの? え!? 私の所為? お願い! 私のために争わないで!!
ラ・アリエ公爵が戦場で行方不明となった。
そう聞いた私はすぐにシャルロットを保護するために動いた。
動機としてはカリーヌの遺言一割、姪としての情が三割、エリクサーの利権欲しさ六割といったところか。
しかし私の邪魔をした者がいた。
ジョゼフ・ド・ザラントユ伯である。
あのクソ三流錬金術師だった。
実力は三流のくせに、錬金術関係の利権だけはちゃっかりと握っている……
そんな男だ。
ザラントユ伯家のせいでガリア王国の錬金術は遅れているろ言っても過言ではない。
当時の私はまだまだ若く、そして発言力もなかった。
新興の伯爵だったからもあるし、私の政治手腕が疎かったこともある。
そのせいでシャルロットを奪われた。
それから十三年の月日が流れた。
私は着々と功績を上げ、アルレリア家にも信用されるようになってきた。
そこで私はシャルロットを手に入れるための準備を始めたのだ。
私の研究の発展のためには、モンモランシ家の知識が必要だった。
エリクサーもあれば欲しいが……それよりも、エリクサーを錬成することができる技術、知識が何よりも欲しかったのだ。
そのためにわざわざ教職まで手に入れて、シャルロットに接触した。
シャルロットに会うのは赤子の時以来だった。
カリーヌに、よく似ていた。
金髪の可愛らしい、猫耳の少女だった。
……なぜかメイド服を着ていたが。
ネーミングセンスが酷いことと、大変な変わり者、そして少しアホであることを除けば、確かにカリーヌの娘だった。
まず私はシャルロットを私に惚れさせようとした。
これでも多くの女性を落としてきたため、自信はあった。
惚れ薬を使い、そして少し優しい言葉をかけてやれば家で虐められているであろう姪を落とすのは容易いだろうと考えたのだ。
ただ……想定外だったのはシャルロットが毒に対する強い耐性を持っていたことだった。
いや、これは考慮に入れておくべきだったのだろう。
私のドジだ。
さらに私自身が、自分の調合した惚れ薬を飲まされてしまった。
まさか……気付いているのでは?
とも思ったが、さすがにそれはないだろう。
もし気付いていたら、私を避けるはずだ。
私に呼び出される度に素直に来て、お茶を飲んでいたところを見るに、気付いてはいなかっただろう。
もし気付いていた上で私のところに来ているのだとすれば……
相当なアホである。
まさか、そこまでアホではあるまい。
いくらアホだとしてもだ。
さてシャルロットを落とすのは失敗した。
となれば、外堀から埋めるしかあるまい。
そこで考えたのが、私とシャルロットの婚約である。
シャルロットと結婚するのに、シャルロットの許可は必要ない。
その保護者の許可、及び王家からのお墨付きがあれば十分結婚できる。
そうすれば晴れてシャルロットは、モンモランシ家の知識は私のモノだ。
私はシャルロットとは一定の距離を保ったまま、政略に奔走した。
十三年前の私はジョゼフ・ド・ザラントユ伯に敗北したが……今の私はあのバカに負けることはない。
あの男は、所詮家柄だけのボンクラだった。
元々私は研究の成果を上げていたため、国王からの覚えも良かった。
それに国王にはアルビオン王国との戦争のために、私の研究成果を何よりも欲していたのだ。
こうしてすべての外堀を埋め終えて……
ようやく、ここまで来たのだ。
「シャルロット姫と結婚をさせていただきたい。その許可を、保護者であるあなた方に求める」
「……見返りは何かね?」
ジョゼフは言った。
ふむ、政治的に自分が追い込まれていることは自覚しているようだ。
それにエリクサーの研究も進んでいないのだろう。
まあ三流錬金術師にできることなど、たかが知れている。
「シャルロットには私から、ラ・アリエ公爵の相続権を放棄させます。そうすれば自然とラ・アリエ公爵位はディアーヌ伯爵夫人と、そしてその子であるアナベラ姫に移るでしょう」
ラ・アリエ公爵位はくれてやる。
モンモランシ家の家督は寄越せ、と私は言っているのだ。
だが……
「……エリクサーは渡さんぞ」
「はぁ……あなたには身に余るものでしょう」
私はそう言って鼻で笑った。
ジョゼフの顔が真っ赤に染まる。
「料理本の解読は終わりましたかな?」
私がそう言うとジョゼフは顔を真っ赤に染めた。
どうやら図星だったようだ。
あんな子供騙しの仕掛けに騙されるとは、無能にも程がある。
……もしかしたらシャルロットが誘導したのか?
だとするならば、あの子もよくやる。
ただのアホの子ではないのかもしれないな。
「……ディアーヌ伯爵夫人には少し、席を外して頂きましょう」
私がそう言うと、ディアーヌは声を荒げた。
「なぜ、私があなたの命令に従わなくてはならないのですか!?」
金切り声を上げる。
甘やかされて育った、ガリアのぼんくら貴族娘にありがちな性格……こういう女は本当に見てて吐き気がする。
まあ同じくらい、このジョゼフ……ぼんくら貴族の息子も嫌いだがね。
「バルコニー」
私は小さな声で呟いた。
するとジョゼフは顔を真っ青にさせた。
「さ、下がりなさい。ディアーヌ……」
「あなた! どういうことですか!」
「下がってくれ。お願いだから……」
ジョゼフがどうにかディアーヌを宥めて、退出させた。
この分だと、家ではディアーヌの方が偉いのだろう。
尻に敷かれているようだ。
まあ、身分の差を考えれば妥当か。
ディアーヌは腐っても、ガリア王家に連なる血筋の人間だからな。
「さてジョゼフ伯爵。これを見て頂きたい」
私は使い魔に盗撮させた、ジョゼフ伯爵の犯罪の瞬間を捕えた写真を見せた。
この魔道具は使い勝手が良い。
弱みを握るのに最適だ。
もっとも使い切りな上に、高価なことが偶に傷だがね。
「こ、これは……」
「よくもまあ、うちの可愛いシャルロットに手を出そうとしてくれましたね」
まさか十三歳の少女に欲情する人間がいるとは驚きだ。
まあ惚れ薬を仕込んでいた私が言うのもなんだが……
確かに可愛らしい子だとは思うがね。
あと最低でも二年は早いんじゃないだろうか?
「わ、私を脅しているのか!?」
「あなたがどうお考えになるかは、ご自由ですよ」
まあつまり脅しているということだが。
「……本当にラ・アリエ公爵位は手放すのだな?」
「無論です、と言いたいところですが条件をもう一つ付けさせて頂きたい」
「……条件?」
ジョゼフは顔を顰める。
「この書類にサインを。私の研究に出資して頂きたい」
「……良いだろう」
・私とシャルロットの婚約の取りつけに関する書類。
・その代わりにシャルロットの公爵位請求権を放棄させることを明記した書類。
・ザラントユ伯爵家が私の研究に出資することを示した書類。
三枚の書類を二枚づつ用意し、それぞれお互いサインをする。
「ありがとうございます。ジョゼフ伯爵。あなたの娘さんがラ・アリエ公の地位を継ぐことができることを、祈っておりますよ」
「ふん、この三流錬金術師が!!」
自己紹介、どうもありがとう。
私はバルコニーに出て、空を眺める。
今日は良い日だ。
……ガリア王家含み、その他モンモランシ家に金を貸している全ての家とは交渉が済んでいる。
借金を十分の一にまで削減する代わりに、責任をもって私が返済をするというものだ。
まあこのままシャルロットに任せていては、絶対に返済されないだろうからね。
母も妹も、借金を返す気はさらさらなかったようだし。
十分の一ならば、私の研究が成功すれば返すことは可能だ。
それに……
「悪いが、ラ・アリエ公爵位も私が貰おう。ジョゼフ……全く、あなたは愚かだな」
私はラ・アリエ公爵位の請求権放棄に関する書類を丸めて、後ろに放り投げた。
グチャ、グチャ、グチャ。
背後から咀嚼音が聞こえる。
私の作った、可愛い子供の一匹だ。
「ジョゼフ・ド・ザラントユ伯並びにディアーヌ伯爵夫人は道中、謎の魔獣によって食い殺される。斯くしてザラントユ伯家は断絶。その財産はまず、直前に交わされた契約に基づき、モンモランシ伯へ研究出資金が支払われる。それ以外の領地、及び財産は封建契約に基づき、ガリア王家、つまりアルレリア家が接収。シャルロット姫の保護権はモンモランシ伯に移り、そして十五歳を待って結婚。その時を持って、ロラン・ド・モンモランシ伯はモンモランシ侯爵位、及びラ・アリエ公爵代理を兼任」
私は葡萄酒を飲み干した。
「そして来るべき、アルビオン王国との戦争ではアルレリア家側として参戦すると……それがガリア王と私の作った、筋書きだ。……さぁ、行きなさい。私の可愛い子供たち」
私が外を指さすと、私の子供たちが一斉に外に飛び出した。
ジョゼフとディアーヌの臭いは、覚えさせてある。
数時間後には二人は死体になっているだろう。
余計な書類に関しては、食べて処理するように指示してある。
「ああ……今日は良い日だ」
さて……
そろそろシャルロットが来る頃だ。
可愛い姪を迎えてやらないとな。




