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第23話 女子校って、勝手なイメージだけどイジメ多そうだよね。学校カーストとか、半端なさそう。加えて全寮制とか、絶対にヤバイでしょ。

 「姫様、本当に髪を伸ばさないのですか?」

 「うん。ロングは嫌いだからね」


 私がそう答えると、マルグリットは残念そうな表情を浮かべた。

 

 そろそろ髪が伸びてきたので切ろうかなと思っていたところ、マルグリットが「私が切りましょう」と名乗り出てきたので、任せることにした。

 とはいえ、私ももう子供ではない(年齢的には子供だが)ので髪型くらいは自分が好きなようにさせて貰う。


 「縦ロール、素敵だと思うのですが……」

 「管理が面倒くさすぎてね」

 「しかし普通のボブカットはつまらないと思いませんか?」

 「それは……まあ、そうかも」


 私がそう答えるとマルグリットは嬉しそうな表情を浮かべた。

 そして私の髪を編み始める。


 「例えばほら、こんな感じにこの部分を結ぶとか」

 「へぇ……イメージ変わるものだね」


 少し面白いと思ったので、マルグリットにいろいろと試してもらう。


 「ここのサイドだけ、三つ編みにするのはどうでしょうか? ……メイド服に似合うと思いますよ?」

 「え、そう?」


 鏡の中の私の猫耳がピクン、と動く。

 なんか、乗せられている気がするけど……


 「このリボンも付けて見ませんか? メイド服に似合うと思います」

 「えへへ、そうかな?」


 マルグリットは青色のリボンで私の髪を結ぶ。

 ……うん、可愛いかもしれない。


 「姫様は(黙っている限り)クールに見えますが、少し近寄りがたいところがあります。ですが少し、こうやってリボンを付けてみると、大きく印象が変わります」

 「なるほどねー」


 さすがマルグリット。

 前世含めた上でも私より女子歴が長いだけ……痛い!


 「すみません。少し手が滑りました」

 「そ、そう?」


 今、一瞬殺意のようなものを感じたんだけど。


 「ほう、髪型を変えたのか」


 鏡の中、私の背後にイルハム枢機卿が現れた。

 私は振り返り、頷いた。


 「どうですか?」

 「よく似合っている。……それと君への手紙だ。ロラン・ド・モンモランシ伯からだよ」

 「ロリコ、ごほん、ロラン伯父様から?」


 イルハム枢機卿は私に手紙を渡した。

 私は封を開けながら、イルハム枢機卿に尋ねる。


 「お仕事は良いんですか?」

 「今日は休暇でね」


 休暇、ね。

 まあ、聖職者にも休みの日くらいはあるか。


 「えー、何々……」


 文字は錬金術師らしく、学術語で書かれていた。

 まあ、内容を要約すると……


 家出してイルハム枢機卿のところにいると聞いている。

 伯父として心配だ。

 少し話し合いたいこともあるので、一度顔を見たい。


 という感じだ。

 ロラン伯父様が私の家出のことを知っているのは別におかしなことではない。


 イルハム枢機卿がラ・アリエのお屋敷に「シャルロットは私が預かっているから安心するように」というニュアンスの手紙を既に出していたからだ。

 まあ多分だがディアーヌ奥様とジョゼフ様が、ロラン伯父様に私の居場所を教えてのだろう。


 「学術語ではないか。……読めるのかね?」

 「学術語の読み書きができない錬金術師なんていませんよ。神聖語だって、読み書きできます」


 イブラヒム神聖同盟には多種多用な国・諸侯・騎士・都市・民族が加盟している。

 そのため少数民族の言語まで含めると、軽く三百を超すとまで言われている。


 そのため公用語が二つ、設定されている。


 それが神聖語と学術語である。


 神聖語は預言者イブラヒムが神より授かったとされている言語であり、横書きで右から左に書く。

 芸術性が高く、飾り文字として装飾に利用されることも多々ある。

 また文字そのものが神秘を纏っており、イブラヒム教の啓典は全て神聖語で書かれている。

 魔法陣、錬成陣等を描くのに使用されることも多々ある。


 もう一つ、学術語はかつてイブラヒム教が勃興する以前から存在し、そして千年ほど前に滅んでしまった帝国の公用語である。

 千年のうちにそれを母語とする民は殆ど消滅してしまったが、国際的な言語としての地位は以前として確立したままである。

 横書きで左から右に書く。

 学術、の名の通りこの世界の学問に関する書籍の殆どはこの学術語でやり取りされており、また公文書なども学術語が使用される。


 この二大言語は習得が難しいとされており、それを話せるのは魔導学者か聖職者、そして各国の外交官程度だろう。

 私は錬金術師、つまり魔導学者であるため当然話せる。


 学術語が無ければ錬金術に関係する本を読めないし、神聖語が書けなければ錬成陣を描けない。 

 錬金術師でこの二つができないようでは、お話にならない。


 ……まあジョゼフ様はできないっぽいけど。


 「ほう、その年で学術語と神聖語を扱えるとは。加えてその教養の深さ……神童と呼ばれただけはある」

 「別に……褒めても何も出せませんよ?」

 「……耳と尻尾が動いているぞ」

 「っひゃ!」


 私は慌てて耳と尻尾を押さえた。

 何故、この耳と尻尾は私の意志に反して勝手に動くのだろうか?


 まさか普段から勝手に動いているわけじゃないよね?


 一応、私はクール系メイドを目指しているんだけどな……


 「ところで前々から気になっていたのだが、一つ良いかね?」

 「何でしょうか?」

 「君は聖女候補の一人に選ばれていたはずだ。もし手を上げていれば、聖都の聖女養成施設に入り、より高度な教育を受けられたはずだ。どうして手を上げなかったのかね?」


 聖女候補かぁ……

 そんなのあったね。


 確か私が五歳か、六歳くらいの頃だったかな。

 次の聖女を選出するために、教会が世界中から優秀な子女を集めようとしたのだ。


 私もその一人として指名された。

 まあカリーヌお母様とシャルルお父様は断っちゃったけどね。


 「お母様曰く、我々モンモランシ家は教会とは付かず離れずの距離を保っていた。ここへ来て、教会内部に入り込むのは宜しくない。それにシャルロットにはモンモランシ家の錬金術師として、その地位を継承して貰わなければならないからとても聖女などやれない。

 お父様曰く、可愛いシャルロットをそんな遠いところに行かせられない。聖都の連中は性格が悪そうだから教育に悪い。全寮制の女子学校とかイジメが半端なさそうで怖い。

 ……こんな感じですね」


 私が答えるとイルハム枢機卿は愉快そうに笑った。


 「ふふ、君のご両親らしいな。ただまあ、少し残念だね。君ならもしかするともしかして、聖女に選ばれたかもしれない。選ばれなくとも、次席は確実だっただろう。あの子の良いライバルにも、友人にもなれたと思うと……」


 「あの子?」


 どの子のことだろうか。

 

 「我らの次期聖女様のことだ。まあ近い内に嫌でもその名前を知ることになるだろう」


 ふーむ。

 私の記憶が正しければ、今代の聖女は死んでいないが……

 もう次期聖女が選ばれたのね。


 「ところでシャルルお父様が言っていた、聖都の人間は性格が悪いというのと、イジメが酷そうというのは実際どうだったんですか?」


 田舎の人間が都会と都会の女子高に抱く偏見、みたいな感じがするけれど。


 「うーん、まあ前者に関しては否定したいところだね。私もあそこに屋敷を持つ人間だから……でも政争が激しい場所だし、性格が悪いというのは否定できない。後者は……そうだね、実際酷かったと聞く。出身身分や親の職業で上下関係が完全に決まっていたとか」


 うわぁお。

 やっぱり怖そうだね。


 何が怖いって、全寮制のところだ。

 逃げる場所がない。


 そんなところでイジメのターゲットになった暁には、もう逃げ場は天国くらいしかないんじゃないか?

 あ、でもイブラヒム教では自殺すると地獄行きだから、地獄だけになるね。

 理不尽だ。


 「君は選教侯だし、父方もガリア王家の傍流ラ・アリエ公爵家だろう? 君は立ち周りが上手いし、もしかしたら女王様になれたかもしれないぞ?」

 「そういうのはあまり好きではないですね。群れるのが嫌い、というとカッコつけてるみたいですけど、一人で気ままなのが好きなので」


 〇〇ちゃんは猫みたいだね。

 とは、前世でよく言われたものだ。


 まさか本当に猫耳になるとは思わなかったが。


 「そういう君だからこそ、来て欲しかったが……まあ釣れなかった魚の大きさを考えるような話はやめにしよう。それで手紙にはなんて?」


 そうだ。

 本題はロリコン伯父様からの手紙だ。

 

 「顔を見たいから来て欲しい、と言われました」 

 「ふむ……まあ伯父としては当然心配になるか」


 イルハム枢機卿は少し考えてから頷いた。


 「行ってあげなさい。きっと喜ぶだろう……マルグリット、君が引率するんだ」

 「はい、かしこまりました」

 

 そんなわけで急遽、ロラン伯父様のところに行くことになった。

 

 ………………

 …………

 ……


 待ってよ?


 メイド服以外でロラン伯父様に会うのはこれが初だね。

 ……ちょっと恥ずかしいぞ。

 

 








 「よく来てくれた。ジョゼフ・ド・ザラントユ伯並びにディアーヌ伯爵夫人」


 私は本日、招いた二人にソファーを勧めた。

 二人は不機嫌そうな表情を浮かべている。


 「ラ・アリエ公爵と呼ぶつもりは、ないようだね。ロラン・ド・モンモランシ伯」


 ジョゼフが言った。

 当たり前だろう。ラ・アリエ公爵家の正統後継者はシャルロットだ。ただの財産管理人無勢が何を言っているのやら……


 ということは、私は言わずに笑みを浮かべる。


 「それも本日の議題の一つです」


 そう言って私もソファーに座った。

 

 「さて、話し合いましょう。シャルロットの結婚について」

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