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第22話 産みの親よりも育ての親って、良く言うよね。ところで疑問なんだけど、私って赤ちゃんのころそんなトカゲみたいな面だったの?

 「姫様、このワンピースなんて如何ですか?」

 「うーん、良いんじゃない?」

 「このブラウスはどうでしょうか? こちらのスカートと合わせると……」

 「うーん、良いんじゃない?」

 「この……」

 「うーん、良いんじゃない?」

 「もう少し真面目に答えて頂けますか?」


 怒られた。


 イルハム枢機卿の屋敷に転がり込んだ翌日、私はマルグリットと共に服を買いに生かされた。 

 適当なモノを適当に買ってこようと思っていたのだが、監視員マルグリットがいるためそれはできない。


 それどころか昨日の食事の席以来、妙なスイッチが入ってしまったらしく、一人で張り切っている。

 正直言って、面倒くさい。

 尚、今日はブーメランはいない。

 

 ブーメランを連れて買い物をするのは不可能だし……そろそろ大きさ的にも私が持ち歩くには辛くなってきた。

 それに多少は親離れというか、私が離れても大丈夫な程度には慣れて貰わないと困る。


 今頃はお屋敷のメイドさんたちと一緒にボール遊びをしているだろう。

 人懐っこい子なので、多分大丈夫なはずだ。

 一応、私の匂いが染みついた毛布も用意しておいたし。


 「だって私、ファッションについては正直よく分からないよ? まあ用語とかはそれなりに知っているけれど……」


 ファッションセンスがあるとは、あまり言えない。


 「ご自分でメイド服を作っていらっしゃるではありませんか。あまりこういうことを言うと姫様はメイド服しか着用なさらなくなるかもしれないので申し上げたくありませんが、お上手だと思いますよ」

 「私のファッションセンスはメイド服限定だからね」

 「なるほど、納得致しました」


 なんだか、納得されるのはそれはそれでモヤモヤするなぁ……


 「というかさ、必要なのは室内用の服なわけじゃん? そんな外行きの服ばかり買っても仕方がないでしょう」

 「確かにおっしゃる通りですね。では普段着()何着か購入しましょう」


 ありゃー

 なんか、墓穴掘ったかな?


 「そもそもマルグリットは何着買うつもりなの?」


 私は上下二着づつ買えれば問題無いと思っていたんだけど……


 「外行きの服を二着、普段着を四着、ドレスを一着……あと小物等をいくつか、という感じです」

 「えぇ……」


 七着+αも買うの?

 そんなにいらないでしょう。


 「姫様は女の子なのですよ。そのくらいのお年頃の貴族の令嬢というのは、服の十着や二十着程度は持っているものです」

 「そんなものかなぁ……」

 

 まあ言われてみればアナベラお嬢様も持っていたような。


 「何か、ご要望はありますか?」

 「動きやすい服装で……あと、あまりヒラヒラしたような、目がチカチカするようなのはやめて」


 私は丁度、近くを通り過ぎたド派手な服を着た人を見ながら言った。

 ああいう、悪い意味で目立った服は着たくない。


 「分かりました。……そうだ、姫様。運動用の服もお買いになった方がよろしいのでは?」 

 「そうだね……筋トレをする時の服は確かにあった方が良いかもしれないけど……」


 あまり人のお金で何着も服を購入するのはなぁ……

 と私が言うと、マルグリットは首を横に振った。


 「その心掛けは大変良いことですし、人を気遣えるのは姫様の美徳ですが……もし姫様がみすぼらしい服を着ていれば、ご迷惑が掛かるのはイルハム猊下です」


 そう言われてしまうと私も反論材料がなくなる。

 

 「他に何か、ありますか? 例えば……下着とか」

 「その辺は自分で編んでるから大丈夫」


 蜘蛛の糸で編んだしっかりしたのがある。

 特に胸部は心臓や肺という丈夫な器官があるから、しっかりと守らなければいけない。


 「もしかしてあの白いのですか?」

 「そうだけど?」

 「いけません、姫様」


 白の何が悪いというのか。

 良いじゃない、純白で清楚っぽくて。


 「女の子なんですから、もっと可愛らしいものを買わないと……」

 「下着なんて見せる相手いないよ?」

 「大事なのは心構えです」


 面倒くさ……


 「サイズの方を教えて頂いても宜しいですか? 正確な数値が分からないのであれば、お測りしますが」 

 「サイズは……ごにょごにょ」


 さすがに道のど真ん中で大きな声で出すのも憚られたので、マルグリットに耳打ちした。

 するとなぜかマルグリットは目頭を押さえ始めた。


 「……どうしたの?」

 「……ぅ、す、すみません。姫様がもう、そんなに大きくなられたのかと思うと、感動して……それと、姫様の成長を見守れなかった自分が本当に不甲斐なく……」


 胸のサイズを聞いて感動で泣く人、初めて見た。




 さて、その後マルグリットによって私は十四着の服を買わされた。

 七着じゃなかったんかい……私、こんなに着ないぞ。


 そして最後にパーティー用のドレスを売っているお店に連行された。


 「本当は様式に応じて、いろいろな種類を購入したいのですが……」

 「さ、さすがにそれは高くなりすぎるんじゃないかな?」

 「はい。ですからできるだけ、どんな状況でも着られるドレスを購入致します」


 などと言うマルグリットに引きずられ、店内に入ることになった。

 見せの中には小太りの女性店員が待ち構えていた。


 「まぁまぁ! これは可愛らしいお嬢さんですね。本日は何をお求めに?」

 「ドレスを一着、仕立てて貰えませんか?」


 そして私をそっちのけで、会議を始める。

 なんだか、嫌な予感しかしない。


 「お嬢様は美しい金髪でいらっしゃいますから……この黒いドレスなど如何ですか?」


 店員が一着のドレスを持ってきた。

 そして私はそのドレスと共に試着室に放り込まれた。


 「姫様、お手伝いさせて頂きます」

 「もう勝手にして」


 今までの買い物で散々着脱を繰り返し疲れ切っていた私は、着替えをマルグリットに委ねた。

 人に着替えさせられるのは久しぶりな気がする。


 さすがマルグリット、私が普通に着るよりも遥かに早い速度で私を着せ替えてしまった。


 「このゴールドの靴とバッグも持ってみてください……良いですねぇ」


 いろいろな小物を持たされ、鏡の前で立たされる。

 まあ、確かに悪くはない。


 「うん、じゃあこれで良いんじゃない?」

 「しかし黒というのは場を選びますね……」

 「確かに。一着しかお持ちしないのであれば、もっと他の色の方が……」


 じゃあ何で着せたのよ。

 

 それから私は赤、青、黄……等々、様々な色や型のドレスを片っ端から着せられた。

 着せ替え人形になった気分だ。


 マルグリットと店員は楽しそうだが、そもそも興味のない私にとっては大変つまらない。


 最終的に水色、ワインレッド、黒色の三色のドレスを購入させられた。

 ……一着しか買わないんじゃなかったのか?


 最終的に装飾品や小物を合わせると、結構な額となった。

 大丈夫なのか?


 と思ったが……


 「ほぉー良く似合っている。メイド服以外も新鮮で良い」


 イルハム枢機卿は上機嫌だった。

 その上、まだ仕立てが終わっていないドレス以外の服を片っ端から着せられて、ファッションショー染みたことをやらされた。


 「げ、猊下……良いんですか! こんな大金を使わせて!!」


 途中で面倒くさくなった私は、ファッションショーの中盤でイルハム枢機卿に訴えた。

 ここで初めてイルハム枢機卿はマルグリットに金額を確認する。


 そして……


 「何だ。思ったより使わなかったな」

 「えぇ……」


 いや、結構な金額だったと思うんだけど。

 誰かの月収とか、年収の額だと言われても納得する程度には。


 「女性の服というのは往々に金が掛かるものだろう。三十着程度買ってくるかと思ったのだが、その半分程度とは。物欲が少ないな……あぁ、そうか」


 途端になぜか、イルハム枢機卿は悲しそうな、同情するような表情を浮かべた。


 「遠慮することはない、シャルロット。君は今まで辛い目に遭ってきたんだから……」

 「はぁ……」


 なんか、よく分からない方向の勘違いをしているらしい。

 こういうのは否定すれば否定するほど、より勘違いが深まることを私は学習したので、下手なことは言わないようにする。


 「イルハム枢機卿は女性服について、お詳しいんですか?」

 「ん? まあ、そうだな。昔はいろいろと……あの女!!!!!」

 

 急にぶちギレ始めるイルハム枢機卿。

 押してはいけないスイッチを押してしまったらしい。


 「あいつめ……何の遠慮もなく、買いやがって……人を財布か何かだと……ああ、思ってたんだろうな! 全く、シャルロットの爪の垢を煎じて飲ませたいくらいだ! もっとも、もう顔も見たくはないがね」

 「はぁ……なんか、すみません」


 怒りながらも、泣きそうな顔をしていたイルハム枢機卿に私は取り敢えず謝った。






 「マルグリット、厨房を貸して欲しいんだけど……」

 「姫様!」

 「ま、待って……ちょっと話を聞いて」


 ファッションショーの翌日、私はマルグリットに台所を貸して貰えないか頼んだ。

 また料理をしようと企んでいるのではないかと思ったようで、マルグリットはお小言モードに入ったが……

 ちょっと待って欲しい。


 私にもいろいろと言い分というか、考えがあるのだ。


 「ブーメランの離乳食を作ろうと思って」

 「ぴぎぃ!」


 私の足元でブーメランが鳴いた。 

 今日から持ち運ぶのはやめて自分で歩かせるようにしてみせたのだが、割とちゃんと私についてくる。

 最初からこうすれば良かったのでは? と反省している。


 今まで甘やかせすぎたのかもしれない。

 

 叱り過ぎたり、抑圧し過ぎるのは毒親だが、それと同じくらい甘やかせるのも毒親だ。

 

 まだまだ未熟な親だったなと、私は大変反省している。

 いや、親も何もただの飼い主でしかないのだけれど。


 「……ブーメラン?」

 「うん、ブーメラン」


 マルグリットは首を傾げた。

 そしてようやく、ブーメランが武器ではなく、私の足元のドラゴンだと気が付いたらしくポンと手を打った。


 「なるほど、その子ですか」

 「うん、ブーメラン。良い名前でしょう?」

 「……姫様がお付けになられたのですか?」

 「そうだよ」


 私がそう答えると、マルグリットはしゃがみ込み、ブーメランの頭を撫でながら言った。


 「あなたも大変ですね……」

 「ぴぎぃ……」


 ……何だろう。癪善としない。


 「厨房ですが、ええ、分かりました。ただし私と一緒でいることが条件です……火を使いますからね」

 「それ、大分今更なんだけど……」


 こちとら半日掛けてスープを作ったりしていたわけなんだけどなぁ……

 まあ、マルグリットの心配性は今に始まったことではない。


 「それでどのようなモノをお作りに?」

 「本によるとね、母竜は狩ってきた肉を咀嚼して柔らかくしてから食べさせるらしいんだよね」


 私はあらかじめ用意して貰っておいた羊肉をまな板の上に乗せる。


 「取り合えず、肉包丁で叩き斬って柔らかくしようかなと。あと、自分のブレスで軽く炙って柔らかくさせて食べさせたりもするっぽいから、薄くスライスした肉を焼いてみたり、あと肉を煮て柔らかくしたお肉や、肉汁を飲ませてみようと思ってる」


 こればかりはいろいろと試してみないと分からない。


 「味付け等はやはり不要ですかね?」

 「基本的には要らないと思う。でも岩塩を舐めたりすることはあるっぽいから、たまにそういうのを用意した方が良いかも」


 他には……


 「あと果物も食べるみたいだから、イチゴと葡萄を少し食べさせてみるつもり」


 そんなわけでマルグリットの協力の元、いろいろと作ってみる。

 まあ料理と言えるほどのものでもないので、そんなに難しくはない。


 「取り敢えず煮たお肉から行ってみようかな……はい、ブーメラン」


 私はお皿に煮込み肉を置き、ブーメランの前に置く。

 ブーメランはパタパタと翼を不器用に羽ばたかせながら近づき、お皿に顔を近づけた。


 くんくん、と匂いを嗅ぎ……

 

 私の方を見上げ、不思議そうに顔を傾げた。

 可愛い……


 けど、食べない。


 どういうことだろうか?

 興味は示しているみたいだけど……


 「姫様に食べさせてもらいたいのでは? 母親竜は口移しで食べさせるのでしょう?」 

 「なるほど。確かに」


 私は煮込み肉を一つ、手で掴み、ブーメランの前でかざした。

 するとブーメランは大きく口を開ける。


 食いついてくることはない……

 つまり口の中に入れろ、ということだろう。


 私はブーメランの口に肉を放り投げる。

 パクっと、ブーメランは肉をキャッチして、くちゃくちゃと音を立てて咀嚼した。


 私たちが見守る中、ごくりと飲み込む。


 「ぴぎぃ! ぴぎぃ! ぴぎぃ!」

 「もっとくれ、って感じかな」


 一応、要領は分かった。

 でも煮込み肉は失敗だったね。

 肉汁を飲んだりするかと思ったんだけど、そういうのは無さそう。


 少なくとも今はまだ。


 その後、いろいろな肉を少しづつ食べさせてみたところ……


 細かく切り刻んだ生肉が一番良さそうだった。

 これを中心に食べさせようかな。


 次にイチゴと葡萄を食べさせてみる。

 これも問題無く食べた。

 

 むしろお肉よりも好きそうな感じだ。


 もっと食べたいと言わんばかりに擦り寄ってきたが……

 あまりたくさん食べさせるのにはまだ不安が残る。


 最後はいつもより量を減らしたミルクを飲ませた。


 ミルクが嫌いになるということもなく、やはりこれも美味しそうに飲む。


 「……ぅ、う……ぐ、ひ、ぅ」

 「……何で泣いてるの?」


 唐突に泣き始めたマルグリット。

 今、泣く要素あった?


 「す、すみません……この子を見ていたら、小さかった頃の姫様を思い出してしまって……」

 「えぇ……」


 最近、涙脆過ぎない?


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