第16話 っく、やめなさい! その汚い手を放せ! っひ! な、何ですか、そ、それは……ち、近づけないで、い、いやぁああああああ!! 以下、本編でご確認ください!
「冒険者登録をしたいのですが、宜しいですか?」
「ぴぎぃ!」
ある日、私は冒険者ギルドを訪れた。
というのも例の厨二箒武器を作ったことが原因でお金がすっからかんになってしまったからだ。
まあ別に早急にお金が必要な理由もなく、さらに言えばイルハム枢機卿とかに頼めばある程度は融通してくれそうではあるが……
懐に一銭もないのはちょっと不安が残る。
そこで冒険者ギルドに登録し、いっちょ一稼ぎでもしようかと思ったのだ。
ただあまり目立ちなくない、以前のような過剰な英雄扱いは御免なので偽名を使わせて貰う。
そして素顔を隠すために、ドミノマスクも装備していた。
完璧な変装だ。
ふふふ……
「……良いですよ。お名前を伺っても宜しいですか?」
ギルド嬢が言った。
私はこの日のために考えていた冒険者としての通り名を言う。
「マスク・ザ・メイドです!」
どうだ、カッコイイだろう?
私はギルド嬢の反応を伺う。
ギルド嬢は無表情だ。
……どうやらあまりのカッコよさに表情筋が硬直してしまっているらしい。
ふふふ、我ながら素晴らしいネーミングセンス。
「……シャルロット・カリーヌ・ド・モンモランシ・ド・ラ・アリエ殿で宜しいですね?」
「ち、違います。マスク・ザ・メイドです!」
「ではシャルロット・カリーヌ・ド・モンモランシ・ド・ラ・アリエで登録させて頂きます」
ちょっと待った!!
何で?
何で私の名前、知ってるの!?
「……ドラゴンを倒した、赤ちゃんドラゴンを常に頭に乗せているメイド服を着た変わり者の金髪猫耳貴族の女性というのは、もうルテティアでは大変有名になっておりますよ? ミス・アリエ」
「……」
何てこった。
こんなところにも私の名前は知れ渡っているのか。
……そんなに悪い気はしないな。
「そもそもなぜ、名前を偽ろうと思ったのですか? いえ、規則上は問題ありませんが……」
「いや、だってほら。あんまり目立ちたくないじゃん? それに正体不明の覆面女性冒険者って、カッコ良さそうだし……」
どうしてだろうか?
ギルド嬢の目が冷たい。
心なしか、周囲からも何か痛々しい物を見るような目で見られている気がする。
「それに知る人ぞ知る、実力者ってカッコよくないですか? ほら、実はあいつ、凄い実力を持っているらしいぜ……みたいな、感じの」
「まあお気持ちは分かりませんが……」
「ええ! 分からないの?」
「分かりません。ですが、ミス・アリエの実力が確かなのは我々冒険者ギルドも知っております。歓迎致します。Sランクで宜しいですね?」
ええ……
Sランクはなぁ……
「何が御不満なのですか?」
「いやぁー、Eランクじゃダメ?」
「……なぜEランクが良いか、聞いても?」
「最低ランクのEだけど実は最強って、カッコイイじゃない」
「……」
受付嬢はなぜか深い溜息を吐き……
「Sランクで宜しいですね?」
「いや、Eランク……」
「Sランクで宜しいですね?」
「いや、だから……」
「Sランクで宜しいですね!!!」
「宜しいです……」
押し切られてしまった。
まあ、良いか……
どうしてもEランクじゃなきゃいけない理由も特に無いし。
「お名前は……えっと、書けますよね?」
「あ、はい。神聖語と学術語、どっちが良いですかね?」
「……我々が読めないので、ガリア語で宜しくお願いします」
ええ!
私、神聖語好きなんだけどなぁ……カッコいいし。
ちなみに神聖語で私の名前を書くと
شارلوت كارين دي مونتمورينسي دي لا اليي
となる。
カッコよすぎて濡れそうになる。
「さて……早速依頼をお受けになりますか?」
「はい。……オークとか、あります?」
「オーク、五十頭の群れの殲滅依頼ならあります」
「じゃあそれで」
「分かりました」
淡々と受領する受付嬢。
おい、ちょっと待て。
「止めないんですか?」
「……何で止める必要があるんですか?」
「いや、ほら。いきなりオークの群れなんて、出来るわけないだろう! ひよっこ冒険者が! みたいな感じで、噛ませ犬に絡まれるイベントが欲しいなと……」
すると受付嬢は冷たい目で、ドスの聞いた声で言った。
「……ふざけてるんですか?」
ひぇ、怖い!
「はい、すみません。反省しました。もう変なことは言いません」
ということでオークの群れ討伐依頼を受けることになった。
尚、私に絡んでくる噛ませ犬は一人もいなかった。
……何でよ。
さてさて、本日の相手は森に住み着いたオーク五十頭である。
ファンタジーに出てくる、豚面のアレだ。
オークと言えば、女性を襲って乱暴をするイメージがあったりするがこの世界のオークも同様にそういうことをする。
だからこそ止められると思ったんだけど……止められなかった。
うん? 何?
ぺちゃぱいな十三歳児なんて襲われないと? 失礼な。
少なくともロラン伯父様は私にゾッコンだぞ。
いや、まあ彼はロリコンなのだから例外だけど。
ちなみに最近、私の胸は少し膨らみ始めて来た。
だからぺちゃぱいではない。
まあ、まだ服の上からじゃ分かりづらいけれど。
などと考えながら、私はオークの住処に殴りこんだ。
私は箒から剣を抜き放つ。
そして気配を殺して近づき、何頭か切り倒す。
今日も私の箒剣の切れ味は絶好調で、熱したナイフでバターを切るようにスパンスパンとオークは真っ二つになっていく。
するとさすがに気付いたのか、オークはブヒィブヒィと騒ぎ始めた。
うん、何言ってるんだろう?
正直、オークの言語なんぞ分からない。
なので、私の勝手な妄想と願望で翻訳させて頂きます。
「ぶひぃー!!」(侵入者だ!!)
「ぶひぃ、ぶひぃ!!」(待て、女だ!!)
「ぶひひひひひひ!!!!」(種付けしてやれ!!!!!)
多分、こんな感じだ。
少なくとも私がネットで聞き齧ったオークはみんなこんな感じのメンタルをしている。
まあ紳士的なオークなんてものは誰にも求められていないので、こいつらはこれで良いのだ。
自分よりも体格の大きい、醜い姿のオーク(♂)に嫌らしい目で私を見て、汚そう・穢そうと考えていると思うと少し怖い。
が、同時に何というかグッと来るものがあり、テンションが上がる。
割と人間として、女として終わっている気がする。
まあ別に私は女の幸せとかには興味ない。
万能メイドになれればいいのだ。
白馬に乗った王子様に助けてもらうお姫様よりも、お姫様の誘拐を企む悪の大魔王のメイド兼側近兼愛人の方が多分私は楽しめるだろうし、幸せになれる気がする。
※以下の文章はシャルロットの妄想です。
白馬王子「姫を返して貰うぞ、魔王!」
お姫様「助けて!! 王子様!!!」
魔王「ほう、良くぞここまで来た。道中四天王とかいたが、もしかして全員倒してしまったか?」
白馬王子「ああそうだ! 残るはお前だけだぞ!」
魔王「ふははは! まあそう急くな。まだ一人、残っておるわ。シャルロット!!」
シャルロット「お呼びですか、ご主人様」
魔王「このゴミを掃除しろ」
シャルロット「かしこまりました、ご主人様」
白馬王子「き、君はシャルロット!」(※幼馴染という設定です)
シャルロット「お久しぶりですね、王子様。このような形で再会することになるとは残念です」
白馬王子「な、何で君がそんな男のところに!! そいつは悪の魔王だぞ!!」
シャルロット「知っております。ですが私にとっては命の恩人です。(※そういう設定です)私はこの命を魔王様のために使うと決めました。……忠告しましょう、あなたは私に勝てない。今すぐ降伏しなさい。そうすれば私の方から魔王様に助命の嘆願をして差し上げましょう」
白馬王子「おのれ魔王め!! シャルロットを洗脳したのか!! 大丈夫、君も助ける!!」
魔王「だ、そうだぞ。シャルロット」
シャルロット「はぁ……王子様がそう思うのであれば、そうなのでしょうね。王子様の中では」
白馬王子「とりゃああ!!!」
シャルロット「……」
白馬王子「き、消えた? ど、どこに……」
お姫様「後ろよ! 王子様!!」
シャルロット「もう遅いですよ」
ザシュッ!!!!
白馬王子「ぐはぁああああ!!!」
お姫様「いやぁあああああ!!!」
シャルロット「あなたと私では、潜ってきた修羅場の数が違います。さて、魔王様。この生ごみ、どうしましょうか? 燃えるゴミで良いですかね?」
魔王様「畑の肥料にしておけ。早く新しい四天王を収穫しなければならん」(※兵士は畑から収穫できる設定です)
シャルロット「畏まりました」
お姫様「い、いやぁ……そ、そんなぁ……」
魔王様「ゴミの処理を終えたら、ベッドメイクをしておいてくれ。それと……後でお前も来い。褒美をやろう」
シャルロット「楽しみにしております」
魔王様「くくくく……もっと嬉しそうな顔をすればいいものを。不器用な奴め。ふははははは!!!!!」
―完―
※以上、妄想終わり。
などと妄想しながら剣で片っ端から切り殺していったら、気付くとオークの数が三分の一になっていた。
ちょろいもんだ。
ちょろいもんだが……全部を剣で倒すのはちょっと味気ないかな。
そう思った私は箒に剣を仕舞う。
そして袖口からナイフを八本、取りだして投擲した。
「ぶひぃ!!」
「ぐひぃ!!」
「げひぃ!!」
次の瞬間、オークたちは倒れた。
頭にはナイフが突き刺さっている。
服の内側に仕込んだナイフを高速で投げ、敵を一撃で倒す……
無論、一投一殺だ。
残るは十頭。
「ぶひひひひひひ!!!!」(もう弾切れか!!!!)
そんな感じのことを言っているような気がした。
というか、多分言っているんだろう。
野卑な笑みを浮かべたオークたちが私に迫ってくる、
私はジャンプし一回転、オークの包囲から抜け出る。
そして一気に糸を引いた。
すると今まで張り巡らせていた糸が絡み合い、オークたちを一網打尽にした。
そしてそのままオークたちの体をバラバラに切断した。
やっぱり糸はカッコイイ……最高だ。
「ふぅ……こんなものか」
オークの死体の山の上で、私は空を見上げた。
死体はわざわざ私が山になるように積み上げた。
特に深い意味はない。
大事なのはカッコいいかどうかだ。
それからオークに捕らわれていた女性たちを解放する。
幸いなことに、まだ暴力を振るわれていなかったみたいだ。
妄想の中でこの世に存在しないお姫様を大変不幸な目に合わせた私ではあるが、現実世界で不幸な目に合う人の現場に居合わせるのは大変気分が悪いので良かったと思う。
……というかこの女性たちを人質として使われたら私詰んでたな。
姫騎士を笑えない。
今度からは気をつけよう。まあ今回は結果オーライということで。