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第12話 誰かが言った、宗教とは阿片であると。皮肉なのはその人の考えた理論も阿片だったこと。ところでアヘンって、響きがエロい。

 それから数か月、私は度々ロラン、もといロリコン伯父様に呼び出された。

 

 曰く、「姪の近況を知りたい」

 曰く、「死ぬ前のカリーヌはどうだったか」

 曰く、「自分の授業は分かりやすいか」


 等々、まあ私とロリコン伯父様の関係が伯父と姪であり、そしてまた本家当主と分家当主、同じ錬金術師同士……という関係性を考えれば、不自然ではない。


 だが実際にはそんなことを聞きたいから、私を呼び出しているわけではないだろう。


 目的は二つ。


 一つは私に惚れ薬を盛って惚れさせ、結婚することによりどうにか本家侯爵家、あわよくばラ・アリエ侯爵家の地位が欲しい。


 二つ、エリクサーの錬成法を知りたい。


 そんなところだろう。

 実際、会うたびに惚れ薬が混ぜ込まれたお菓子を食べさせられたし、遠回しにモンモランシの錬金術についても聞かれた。


 どうやらロラン伯父様は母親、つまり私の祖母に当たる人物からは一般的な錬金術しか習っていないようだ。

 まあ当たり前と言えば、当たり前だけれどね。


 モンモランシの錬金術の継承は口伝ではない。

 口伝では到底伝えきれないし、どこで壁にミミアリー障子にメアリーか分からない。

 無論、紙媒体に残すようなこともしない。


 いつものように呼び出しに応じて、ロリコン伯父様のところへ赴く。

 ロリコン伯父様は紅茶を入れている最中だった。


 「シャルロット、いつもは君に紅茶を入れて貰っていたからね。今回は私が入れたよ」


 ニコリ、とロリコン伯父様は微笑む。

 どうやら今回はお菓子だけではなく、紅茶にも惚れ薬を入れたようだ。


 回を追うごとにロリコン伯父様が私に摂取させる惚れ薬は、量も危険度も増加している。

 

 惚れ薬にも少し体を興奮させるレベルもあれば、ちょっとした麻薬、さらには脳味噌を破壊するような代物まである。

 当然、効果も上がれば副作用も大きくなる。


 「私は採点、厳しいですよ?」

 「はは、お手柔らかに頼むよ」


 爽やかな笑みを浮かべるロリコン伯父様。

 十三歳に薬を盛るような人間には到底思えないし、そして傍目から見ると頭のイカレたメイドのコスプレをしている姪に付き合う、心優しい伯父にしか見えないだろう。

 

 私はゆっくりと、紅茶のカップを近づける。

 ほんの僅かだが、茶葉とは異なる匂いがした。


 ……主原料は大麻とマジックマッシュルームか。


 まずはペロっと一舐めする。


 ガクン!!!


 脳味噌に衝撃が走る。

 それは一瞬ではあったが、かなり強い刺激だった。


 例えるならば……

 乙女ゲームに出てくるお気に入り攻略相手の「俺と、結婚してくれ!」というイケメンボイスをイヤホンで聞いた時に感じたトキメキ百回分を十シント(センチ)くらいの針に加工して、思いっきり脳味噌に突き刺した感じだ。


 心臓が高鳴り、体温が上昇する。

 脳味噌から快楽物質がドバドバと溢れてくる。


 たまんねぇな、おい。


 今ならグラッドストンが阿片でアヘンアヘンしてた理由がよく分かる。

 ほれぐすり、しゅごい。


 さてこれ以上味わうと本当に惚れ薬中毒になりそうなので、私はすぐに解毒を開始する。

 脳味噌の快楽物質もせき止め、そしてイカれた脳神経を修復する。


 そしてゆっくりと冷めていく頭で、ロリコン伯父様を見る。

 相変わらず爽やかな笑みを浮かべている。


 この爽やかロリコンイケメンは、どうやら魔法薬を作る才能があるようで……

 正直、この人の作る惚れ薬はいろいろと勉強になる。

 私が敢えて惚れ薬を飲んでいるのは相手の油断を誘うためもあるが、このロリコンイケメンの技術を吸収するためでもある。


 断じて、惚れ薬でアヘンアヘンするのが癖になったからじゃない。


 既に魔法薬の解析を終えた私にとって、この紅茶は素人の入れた不味い泥水に過ぎない。

 私は半分ほど飲んでから、評価を下す。


 「五十五点」

 「手厳しいな」


 ロリコン伯父様は苦笑いを浮かべ、私にお菓子を進める。 

 大麻でも阿片でもコカでもマジックマッシュルームでも私にとってはただの苦い植物に過ぎないが、糖分はダメだ。


 私の肉体作りに狂いが生じる。 

 私は太りやすい体質なので、ちゃんと管理していないとすぐに脂肪がついてしまう。


 ただ少しも食べないというのも悪いので、クッキーを一つ齧る。

 仄かに大麻の味がした。


 「最近、思ったんだが……シャルロット」

 「どうしましたか?」

 「君は神秘体質を持っているのか?」

 「ええ、いくつか」


 神秘とは、魔力だとか霊力だとか魂だとか……

 とにかく不思議なパワーの総称である。


 この神秘の内包量が多いと、時に人は不思議な体質、特質を得る。

 これは『神秘体質』と呼ばれている。

 

 教会はこの神秘体質を五段階でレベル分けをしている。

 学者というのは、何でもかんでも分類したがる生き物なのだ。


 レベルは基本的にⅣが最高だ。

 震度七より大きい値が存在しないように、Ⅳが原則的には最高とされている。

 但し、極一部の例外のみが『Ⅴ』に相当すると認定される場合がある。


 

 神の恩寵、『奇蹟』と呼んでも差し支えない代物だけが『Ⅴ』とされるとか。


 「例えば?」

 「耐毒体質レベルⅣとかです」


 嘘だ。

 そんなものは持っていない。

 

 だが多分、ロリコン伯父様がここで神秘体質の話を切り出してきたのは私が『耐毒体質』を持っていて、無意識に全ての惚れ薬をレジストしているのではないかと考えたからだろう。

 

 このまま油断させておきたいので、ロリコン伯父様が望んでいるであろう回答をしておく。


 まあ毒関係の神秘体質を持っているのは本当なので、大嘘ではない。


 ちなみに補足すると、ラ・アリエ公爵……というかガリア王家に連なる血筋の人間は『神秘修復Ⅳ』という大変稀有な神秘体質を持っていたりする。 

 文字通り、痛んだ神秘を修復する能力だ。


 この能力のおかげか、ガリア王家の方々は大変長生きでいらっしゃる。

 お母様によると、あの神秘体質は遺伝子レベルまで修復されるらしい。

 つまり癌の予防効果もあるのだという。


 私の父、シャルルお父様も持っている。

 私がお父様が生きていると信じている、根拠の一つだ。


 「なるほど……なるほど」


 案の定、納得してくれたようだ。

 

 「ぴぎぃ! ぴぎぃ! ぴぎぃ!」


 私がロリコン伯父様と話をしていると、私の頭の上に乗っていたブーメランが騒ぎ始めた。

 いくら小さいとはいえ重いものは重いし、頭の上で暴れられると少し辛いものがある。

 最近は首のこりが酷い。


 「すみません、伯父様。ブーメランのご飯の時間です……牛乳ってありますか?」

 「牛乳か、少し待ってくれ」


 ロリコン伯父様は戸棚から牛乳を取り出した。

 私は受け取った牛乳を哺乳瓶に移す。


 そしてブーメランを膝の上に乗せて、牛乳を飲ませる。 

 ドラゴンの授乳期間は二年ほど。

 但し、一年を過ぎた頃になると母親が咀嚼して柔らかくした肉、つまり離乳食を食べ始めるようだ。


 まあまだまだ先の話だけど。


 「……ところで聞きたいんだが、もしかしてブーメランというのはそのドラゴンの名前か?」

 「はい。可愛いでしょう?」

 「……そうだね」


 ロリコン伯父様は何故か、微妙な表情を浮かべる。

 どうやらロリコン伯父様の感性は少しずれているようだ。


 ブーメラン、この名前の素晴らしさが理解できないとは……


 元気に牛乳を飲んでいるブーメランを見て、ふと私はちょっとした悪戯を思いつく。

 

 「伯父様、お砂糖はありますか?」

 「砂糖か? まああるけど……」


 私はロリコン伯父様から貰った砂糖を、半分ほど飲んだ紅茶に入れた。

 そして残っていた牛乳を注ぐ。


 「ウィリアム殿下にこういう飲み方があると、教わりました」


 私はそう言って、目の前でミルクティーを飲む。

 ミルクティーにすると、少しだけ味がマシになる。


 そして私は残ったミルクティーをロリコン伯父様に差し出した。


 「どうぞ、試してみてください」


 ニッコリ、と笑みを浮かべる。

 ロリコン伯父様は顔を引き攣らせていた。

 

 それもそうだろう。

 この中には大量の惚れ薬が入っているのだから。


 「い、いや……しかし……」

 「……すみません、私が飲んだのなんて、汚くて飲めないですよね」


 私は悲しそうに顔を俯かせた。

 するとロリコン伯父様は覚悟を決めたのか、ミルクティーに手を伸ばす。


 「い、いや……そんなことはない。い、頂こう」

 

 そう言ってロリコン伯父様はミルクティーを少しだけ、口に含んだ。

 ロリコン伯父様の肩が、ビクン! と震えた。

 

 「うぐ、ど、どうやら私には合わなかったようだ。わ、私は牛乳が苦手でね……」

 「そうなんですか? すみません……」


 苦手なのに何で牛乳を完備してるんだよ。

 と、突っ込んでやろうかと思ったのだが流石に可哀想なのでやめて置く。


 「あ、あー、そうだった。じ、実はイルハム枢機卿に錬金室の鍵を返さなくては、ならなくてね。か、返しに行ってくれないかい?」

 

 イルハム枢機卿。

 この学園の最高責任者を務めている。


 ルテティア大司教管区の管区長をしているため普段はいないが……

 今日は確か、来ているはずだ。

  

 大司教格の枢機卿は下手しなくても、国王より偉い。


 「伯父様が直接行かないと、不味いのでは?」

 「う、ぐっ、ゲホ、ゲホ、じ、実は風邪を引いているんだ。ごほん、ごほん……う、うつってしまうと大変だ。しゃ、シャルロットが代わりに行ってくれないか?」


 急に風邪を引き始めるロリコン伯父様。

 よほど私を早くこの部屋から追い出したいようだ。


 これ以上苦しめるのも可哀想なので、大人しく私は鍵を受け取って部屋から退散する。 

 

 ドアを閉めると同時に、「ううぇー!!!」という嘔吐音が聞こえてきた。 

 

 必死に口の中に指を突っ込んで、胃の中を空にしようとしているのだろう。

 

 ざまぁ。


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