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第1話 異世界転生なんてあるわけないじゃん!(フラグ)

新連載です

一応、30話完結の中編を予定しています

 メイドキャラ。


 大概の漫画やアニメ、ライトノベルに登場するテンプレキャラ属性である。

 世の中にはメイドというステータスだけに萌えるメイド萌えの方々もいる。


 とある日本人の少女も同様であった。

 ただ彼女はメイドを侍らせたいのではなく、メイドになってご主人様にお仕えしたい側だったが。


 さてメイドには大きく分けて二種類いる。

 ドジっ子メイドと万能メイドである。


 ドジっ子メイドはだいたい巨乳で、スカートを踏んずばしてすっころんでラッキースケベ展開をもたらすのが仕事である。

 一方万能メイドはどんな家事すらも熟す。

 巨大な屋敷をたった一人で管理したり、侵入者が現れたら武器を持って迎撃する。

 下手したら作中最強だったり……

 それが万能メイドキャラである。


 武装メイド、最強メイド、完璧メイドとも言えるかもしれない。


 少女が憧れたのは後者の万能メイドである。


 幼稚園児の頃、少女は「努力すれば夢は叶う」と教わった。

 その言葉を信じ、日夜万能メイドになる努力を続けた。


 家事手伝いの技能は無論、紅茶や珈琲、酒の知識。

 主人の暇潰しに付き合うためのチェス、将棋、囲碁、トランプゲームの能力。

 英語は無論、フランス語ドイツ語スペイン語中国語の読み書きスピーキング。

 美術品・工芸品への知識と鑑定眼を鍛えるために博物館・美術館にも通った。

 主要な国の礼儀作法は完璧に仕上げ、毎日繰り返し練習した。


 あらゆる話題に対応するために、政治経済歴史文化の知識は当然のように学んだ。

 将来的には医療免許、爆弾処理、薬物処理の資格を取得するつもりであり、そして現在進行形で独学で学んでいた。


 そして何より…… 

 主人を守るために武術の鍛錬を繰り返した。


 某有名大学の入学が決まった段階で、自分は世界で一番ハイスペックなJKだという自信があった。

 が、しかしそれでも万能メイドへの道は遠かった。




 なぜなら日本には、というか世界には万能メイドの需要がなかったからである。



 

 一応、現代にもメイドはいる。

 が、しかしそれは少女が思い描くメイドとは異なる存在だ。

 

 世間は万能メイドなど欲していない。

 ご主人様のいないメイドなど、それはただのメイドのコスプレを来た痛々しい少女である。


 メイドではなく秘書になるという手段はあった。

 秘書なら少女の思い描く万能メイドにかなり近い。


 だがそれは秘書であって万能メイドではないのだ。

 それにメイド服が着れない。

 もし某自民党の某内閣総理大臣の秘書がメイド服を着ていたら世間はどう思うか。


 支持率大幅下落は間違いない。

 政治家に拘らなくてもいい。


 大企業のお偉いさんが若くて可愛い秘書にメイド服を着せて侍らしていたら、間違いなく商談に悪影響を及ぼすだろう。

 家庭崩壊を招くかもしれない。


 秘書はメイドではないため、メイド服は着れないのだ。


 別に少女はメイド服を着ればメイドとは思っていない。

 メイド服を着ただけの女はただのコスプレイヤーであり、メイド喫茶にいるのはメイド服を着たウェイトレスである。

 あれはメイドではない。メイド魂が欠けている。


 だがメイド魂があっても、メイド服を着ていない限りそれはメイドではないのだ。

 外面と内面、双方揃って真のメイドなのである。


 妥協はしたくなかった。


 諦めたらそこで試合終了である。


 どこかにまだ見ぬご主人様がいるかもしれないわけで、ご主人様に出会うまでは万能メイドの道をあきらめるわけにはいかなかった。


 さてこれはある日のこと。

 少女はメイド喫茶でバイトをしていた。


 メイド喫茶のメイドはメイドではないと言ったが、少女も気分くらいは味わいたいのだ。


 そこへナイフと拳銃を持った強盗犯が現れた。

 ナイフなら良い。

 だが拳銃はダメだ。


 さすがに銃弾が当たれば死ぬのだ。


 大人しく従った少女だが……

 客の一人が興奮して犯人に襲い掛かった。

 犯人も興奮していたのか、拳銃を構えた。


 考えるよりも先に体が動いた。

 ご主人(お客)様を守るために少女は、そのご主人(お客)様を突き飛ばした。


 同時に銃声が響いた。

 胸部に何か、大きな衝撃が走った。

 痛みはなかったが、意識が薄れていく。

 少女は自分の死を予感した。


 来世には必ず万能メイドになってやると、少女は誓った。








 「姫様、何をしていらっしゃいますか?」


 ラ・アリエ家のメイド長、マルグリットはメイド服に身を包み、鼻歌を歌いながら窓を拭いている金髪碧眼猫耳縦ロール美少女―シャルロットに尋ねた。

 シャルロットは見れば分かるだろうと、首を傾げて答える。


 「窓拭きだけど?」

 「……床のお掃除はお願いしましたが、窓まで頼みましたか?」

 「いや、でも時間が余ったから」


 マルグリットは溜息を吐いた。


 「姫様、勝手なお掃除はやめてください」

 「ええ……でも……」

 「姫様が本気でお掃除をすると、私たちの仕事が無くなります」


 シャルロットは本当に掃除が上手だった。

 誰も教えたわけでもないのに、その道四十五年のマルグリットですらも舌を巻くほどの技術と知識を持っていた。

 神はこの子に一流の掃除人としての才能を与えたのではないか?と思ってしまうほど、上手かった。

 故にシャルロットが本気で働くと、メイドたちが職を失うことになりかねなかった。


 「それに姫様はラ・アリエ家とモンモランシ家、唯一(・・)の子女です。姫様が下賤の仕事をするのは、ラ・アリエ家とモンモランシ家、両家の沽券に関わります。お控えください」

 「だって……」

 「私が許可した範囲だけをやる、それが亡きお母様との約束ではありませんでしたか?」

 「……」


 シャルロットの母親でありカリーヌは一年前、シャルロットが九歳の頃に亡くなった。

 モンモランシ家直系の女性、当主は代々短命なのだ。

 如何なる病気や怪我を治癒し、寿命を延ばすことができる万能の霊薬エリクサーであっても、その血の呪縛から逃れることは叶わなかった。


 死んだ母親の言葉を持ち出されたシャルロットは、静かに頷いて窓拭きをやめた。


 「着替えてくるよ」

 「お世話させて頂きます」






 今の私の名前は、シャルロット・カリーヌ・ド・モンモランシ・ド・ラ・アリエ。

 モンモランシ候であった母カリーヌと、ラ・アリエ侯であった父シャルルの娘である。


 生まれてくる身分を間違えたなぁ……

 メイドたちに服を脱がされ、ドレスに着替えさせられながら私は思った。


 最初はメイドさんのいる世界に転生できたと狂喜乱舞した。

 メイド喫茶にいるメイドの皮を被ったウェイトレスのような、パチモンメイドではない。

 本物の、メイド魂を持ったメイドさんだ。


 最初は言語を心配したけれど、幸いなことにこの世界……というより私の生まれたこの辺りの地域の言語はロマンス語派、特にフランス語に似ていた。

 フランス語やスペイン語は無論、ラテン語も少しだけ齧ったことがある私にとっては習得は容易だった。

 まあ他の日本人、というかロマンス語派の言語を話せない人にとってはどうかは知らないが……

 少なくとも私にとっては簡単だった。

 

 そして面白いことにこの世界には魔法が存在した。

 まあ正確に言うと、魔術、錬金術や精霊契約術、呪術などいろいろあるのだが、面倒なので説明は省く。

 この魔法はとても便利だ。

 料理・掃除・洗濯、全ての分野に応用できる。

 加えて身体能力を強化すれば、子供の体でも大人以上の家事を熟すことができる。


 現代日本に於いて、万能メイドになる上での壁の一つに身体能力の不足があった。

 漫画やアニメに出てくる万能メイドは十人、二十人分の働きをするが現実にはそれほどの体力はなく、精々二、三人分の働きしかできない。

 だが魔術を応用すれば、それができてしまう。


 私は神の存在を確信した。

 きっと神様が私の思いを聞き届けて私が万能メイドになれる世界に転生させてくれた、いやもしかしたら私のためにわざわざ作ってくれたのではないかともとすら思えた。


 だがしかし、そう上手くはいかなかった。

 そう……私は仕える側ではなく、仕えられる側に転生してしまったのだ。


 メイドさんたちは私を過保護なほど、世話をしてくれる。

 この世界に転生してから、服の脱ぎ着を一人でやったことは殆どなく、体すらも人に洗って貰っている状態だ。


 お情けで掃除をやらせて貰えているが、なんか違う。

 これではメイド喫茶で働いている時と、全く同じだった。


 そしてドレスに着替え終わった自分の姿を見て……私は溜息を吐いた。

 美しい真っ赤なドレスと、よく整えられた長く綺麗な金髪縦ロール。


 お姫様としては完璧ではあるが、メイドとは程遠い。

 特に嫌いなのは縦ロールだった。


 金髪ドリルヘアと言えば、高飛車なお姫様、お嬢様の髪型だ。

 メイド属性とは真逆の概念。

 この縦ロールのせいで、メイド服を着てもコスプレ感が拭えないし、メイドとしての気分に浸るのも難しい。


 とはいえ、この縦ロールは私にとって唯一の肉親である父シャルルが大好きな髪型だ。

 親孝行のためにもやめるわけにはいかなかった。


 前世では両親の顔すらも見たことがない私にとって、この世界で得た父と母はとても大切な存在だった。

 だからこそ、母であるカリーヌが死んだ時は大変ショックではあったが……今はもうそれなりに立ち直っている。 


 だが母カリーヌが死んでしまったということは、モンモランシ家とラ・アリエ家直系の血筋を引いているのが私だけになったということを意味していた。

 私は一人っ子なのだ。


 これは大変よろしくない。

 特にラ・アリエ家の、お父様の子供が私一人という状況はとても良くない。


 なぜなら現状の私は婿養子を迎えなければいけない立場だからだ。

 現にお父様はウキウキで私の婿を誰にしようかと、常に考えているようだ。

 可愛い一人娘を嫁に出さなくて良いという事実が、大変嬉しいみたいだ。

 私は嬉しくないけど。



 お婿さんを迎えたらメイドになれない。

 今はまだ子供だからおふざけ、ごっこ遊びとして許されているが大人になったら、特に婿の前では絶対にお掃除などさせてくれないだろう。

 

 え!?

 メイド萌えの婿を迎えれば万事解決だって?


 あのね、それはメイド服を着た公爵夫人であってメイドじゃないの。

 メイド魂が宿ってないの。

 秋葉のメイド服を着たウェイトレスと同じなの。


 私がなりたいのはなんちゃってメイドじゃない。

 正真正銘の、それもメイド界の頂点である万能メイドだ。


 そんなこんなで、前世とは違う意味での障害がたくさん立ちはだかっていた。

 夢はそう簡単には叶わないようだ。

 しかし!!


 私は諦めない。


 絶対に万能メイドになってみせる!!

本日のまとめ


>>さてメイドには大きく分けて二種類いる。

ドジっ子メイドと万能メイドである。


そんな分類は存在しない


>>神はこの子に一流の掃除人としての才能を与えたのではないか?と思ってしまうほど、上手かった。

  故にシャルロットが本気で働くと、メイドたちが職を失うことになりかねなかった。


プロの一般的なメイドのメイド力を1メイドルとすると、マルグリットは5メイドル。

シャルロットは30メイドル。まだ幼いのでこんなものです。


>>メイド喫茶にいるメイドの皮を被ったウェイトレスのような、パチモンメイドではない。


あくまでもシャルロットの個人的な感想です


>>正真正銘の、それもメイド界の頂点である万能メイドだ。

>>夢はそう簡単には叶わないようだ。


ポケモンマスターみたいなもので、どうすればなれるのか、そもそも万能メイドとは一体何なのかは誰も知らない

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