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閑話「スター」

作者: 天蓋

短編です。一発モノなので、気楽に読んでください。

感想・レビューなどお待ちしております。

男がいました。

男は容姿端麗でした。

男は魅力的でした。

男は演技が上手でした。

男はたちまちスターになりました。

知られていないことですが、男には顔を変える特別な力がありました。

男はある日所属事務所の社長から病気の同じ事務所のタレントと変わってくれないかと頼まれました。

男は造作もなくすり変わりました。

男は例えようもなく面白く思いました。

他人の人生を垣間見るとはなんと面白いかと。

男は完璧にその人物を演じ切りました。

男はその人物が羨ましくなりました。

男はその人物の妻に惹かれました。

男はその人物の家に愛着を持ちました。

男はその人物の生活に馴染みました。

ある日その人物が帰ってくると、自宅には男がいました。

自分と同じ顔をした男がいました。

男はその人物を殺しました。

男は始末をつけると、二重の生活を始めました。

その人物は以前より評判が良くなりました。

その人物は以前よりよく儲けるようになりました。

男は幸せでした。

男はもう自分を抑えきれなくなりました。

男は自分より人気のある男を殺しました。

男は自分より面白いコメディアンを殺しました。

男は自分より演技の上手い俳優を殺しました。

男は全ての名声を手に入れました。

ある日それは終わりました。

ある日男は自分より演技の上手い俳優の演技をさぼりました。

ある日男は自分をさらけ出してしまいました。

ある日世間の人は上手い俳優が男と同じような演技をしたことに気付き疑いを持ちました。

ある日一部の熱心なファンは二人が同一人物であったと気付きました。

ある日男の事務所に多くの人が詰め掛けました。

ある日男は社長に問い詰められました。

ある日男は社長を殺しました。

ある日男はどうにかしようとしました。

ある日男は諦めました。

ある日男は顔を変え、誰でもない者となり姿を眩ましました。

ある日男は全てを失いました。

男は顔を撫でました。

男はもう自分が誰だったのかわかりませんでした。

男はもう空っぽでした。

男はある海辺の町に辿り着きました。

男は油とライターを買うと、海辺の崖に行きました。

男は油を顔に塗り、咽せるほど臭う誰かのその顔に火をつけました。

男の顔は燃えあがりました。

男は熱と苦痛にもがきました。

男は崖をふらふらと歩きました。

男が次の一歩を踏み出したところには、もはや何もありませんでした。

男は真っ逆様に墜落しました。

男はもう戻って来ませんでした。

誰もその行方を知るものはいませんでした。

同時に何人もの俳優やコメディアンが行方不明になりました。

全員、最近同じことを繰り返すばかりで面白くなくなったと言われていた者たちばかりでした。

ある人物の妻は嘆き悲しみました。

多くの家族たちも同じく嘆き悲しみました。

悲しみは時とともにやがて癒えてゆきました。

やがて男は忘れられました。

男より人気のある男がたくさん現れました。

男より面白いコメディアンがたくさん現れました。

男より演技の上手い俳優がたくさん現れました。

男は必要なくなりました。

誰もその行方を知りませんでした。

海辺の小さな町で、水死体が一つ発見されました。

奇妙にも、その顔は黒く焦げていました。

骨は無縁仏として近くの墓地に埋葬され、誰かが時折手を合わせました。

記録は地元の警察署に短く残されましたが、移転の際に他の資料と共に失われ現存していません。

風が吹きました。

海が波音を立てました。

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