木偶と精霊さん
前回投稿から一ヶ月以上経ってる・・・! という事で投稿。
「ふわ。おぉ・・・ログインってこんな感じなんだ」
重力に従って、最後にログアウトした木工作業部屋に降り立つ。一瞬だけ、月面を歩く人みたいになってた!
「クマさんおはよう〜」
座らせたままのクマさんに挨拶して、一旦木工部屋から出る。時間が知りたいな〜。階段の小窓を見上げれば、綺麗な夕焼け模様。そっか。夕焼けかぁ・・・。昨日より遅い時間にログインしたから、そうなるよね。
一階に降りて、もう一回扉に挑戦してみよう!
「えい!」
両手指から青い糸を飛ばして、ぴとぴとぴとっ! と扉にくっつけて、命令する。
「扉よ開けっ!」
ギギ・・・と音がなり、少し隙間が出来て光が漏れるけど、直ぐにブチンっ! と糸が切れて、扉が閉まっちゃう。まだまだ先は長そう・・・。
ふぅ・・・。よし。残りの木も使って人形を作っちゃおう!
ーーーー☆
木工作業部屋にこもってから早5時間。
「うん、だいぶ早くなったんじゃないかな」
目の前に並ぶ、木の頭部、胴体上下、両手両足、指、各種関節部の球体。
「組み立てるのは大得意だからっ! よっし・・・あ、ご飯忘れてた」
いざ組み立てようとした所で、タイムアップ。ご飯を食べに、ログアウトする事に。
ーーーー
「さて、組み立てますよっ!」
ご飯を食べ終えて、暫くしてからログイン。
その内、ゲーミングチェアでも買おうかなぁ。乃々花ちゃんも高校生になったら買うって去年言ってたかなー。
そんなことは置いといて、組み立て始める。
まずは球体関節を各パーツに紐付ける。普通の球体関節人形であれば、ゴムとかを体中に通して作るみたいだけど、代わりに魔法陣の様なものをガイドラインに沿って彫ってあるから・・・多分不思議な力が働くんだと思う。
現に膝下の脚を接着して立たせる事が出来てる。なんか便利だね。コトコトコト・・・と組み立てていく。最後にのっぺらぼうの頭を接着すれば、完成!
うん。なんか、ポーズを取る人形みたいだよね。絵を描く時とかに使うやつ。うちのもっくんと一緒だ。じゃあ・・・この子の名前は・・・んー・・・えーと。
「よし、君はもくじろーだぁ!」
大声で命名して、糸を繋げる!
片手はもくじろー。もう片手でクマさんに糸を繋げて・・・指示を出す。
「もくじろー、机から降りて」
カタカタカタと身を震わせてから、すっと上半身を起こして、滑るように床に降りるもくじろー。おぉ。スムーズ!
「二人共並んで〜敬礼!」
ばっ! と右腕を左胸に当てるポーズを取る二人。お、おぉ・・・かっこいい。
「クマさん気をつけ! もくじろー前ならえ!」
ピンッ! ピンッ! と背筋を伸ばすクマさんと腕を前に伸ばすもくじろー。おぉー。愛い奴らよ〜。
でもでも、このまま口頭で伝えてたら次に取る行動がバレちゃうよね。私は魔物? に分類されるみたいだし、一応人の敵って事だもんね。
塔にいる分には会わないと思うけど、対策は取らなきゃ。
と言っても・・・まさかメニューの時みたいに念じるだけじゃ無理だよね。
クマさん、もくじろー。二人で組体操のサボテンをするんだっ!
そう心の声を意識して、きゅっと手を閉じる。
すると。
「お?」
クマさんの股下にもくじろーが頭を突っ込んでそのまま肩車の体勢に。・・・クマさん軽いよね。ぬいぐるみだもんね。・・・なんで木、殴って折れたんだろ。
そのままクマさんがもくじろーの膝上に足を乗せて、もくじろーがその足を支えつつ頭を股下から抜く。最後にクマさんが両手を横に広げれば!
「おおおお! 二人共凄ーい! 心の声が聞こえるなら戦闘にも役立つね!」
ん・・・なら喋る必要無いんじゃ・・・あ、職業とは関係ないもんね。この世界の神様もまさか魔物が職業に就くなんて! ってなるに違いない!・・・ちゃんと運営がいるんだから、それは無いかー。
「よし。もくじろーの武器作るから、もくじろー、手伝って〜?」
余った細い木材をもくじろーに渡してヤスリがけを自分でしてもらう。うわぉ・・・丁寧で早い。自分の仲間だから・・・かな。木材に精通してるとか? それならもう一体作るのも楽になりそう。
でも、もう木が無い。だいぶ無駄に削ったのもあるから、申し訳ないなぁ・・・。でもお部屋に暖炉があったから、そこに入れる薪代わりにしよう。
「んにゃ。もくじろーストップ! 後は私にやらせて〜」
全体的に細く丸みを帯びた棒をもくじろーから受け取って、仕上げをしていく。んふふ〜木刀作りの自由研究がここで役立つとはね!
流石に反りを作る気にはならないけど、軽く剣身を作るようにヤスリで削っていく。斬れ味は必要ないけど、まぁ見た目的にね。剣道も、やりはしなかったけど小学生の頃は毎日見に行ってたし、それに何となく・・・木刀が好きだったから。
そうこうしてる内に形は木刀らしくなってきた。
「これくらいかな。はい、もくじろー。暫くはこんな物だけど、武器として使ってね」
そう言って、もくじろーに手渡したら木刀が消える。
「え。あれ、もくじろー? どこにやったの?」
そう聞けば、もくじろーの手元に木刀が召喚される。おお・・・なんて便利なんだ。人形さんは物を仕舞えるの?
「クマさんにも何か作ってあげたいけど、どうすればいいか分からないから、一旦保留かな」
ステータス確認をしてみよう。後は強化しないと流石に危なそう。
リム
性別:女
種族:マネキンS1 Lv5 【HPMP+Lv×200】
職業:人形師 Lv5 【MP+Lv×400】
ーーーーーー
HP:【1000】
MP:【3000】
ーーーーーー
STR【20】
VIT【20】
INT【80】
MIN【40】
AGI【20】
DEX【20】
ーーーーーー
戦闘系スキル
生産系スキル
《錬金術》
補助系スキル
ユニークスキル
《ドールズボディ》《ドールズマスター》
CP:15
ふむふむ。またレベル上がってるね!
やっぱりレベル毎に3のCPが貰えてる。んー。
ぺたぺたとメニューを触って、じっくりと見てみれば、実績とかいう項目が。タップして開いて見てみる。
「あ・・・これがCP稼ぎの奴?」
『ステータス画面を開く 達成!【報酬獲得】』
『初めてレベルを上げる 達成!【報酬獲得】』
『種族Lv5になる 達成!【報酬獲得】』
『木を初めて伐採する 達成!【報酬獲得】』
『《人形師》木偶を一体作る 達成!【報酬獲得】』
『武器を一つ作る 達成!【報酬獲得】』
色々と何かしらの条件が書いてあって、既に達成してる物には、獲得ボタンが出てる。試しに一つ押してみれば・・・CPが+1される。おお。予想通り! 全部押そう!
ポチポチと押して・・・。
合計で8Pも貰った!
Lv5になる実績は3も貰えるんだね・・・!
これで23! 四部屋はLvアップ出来るけど・・・。
私の強化もした方が良いよね。
試しにMIN・・・精神力を強化対象に選んでみる。1ポイントを振ってみれば・・・
MIN【40】×1.3
「あっ。そういう・・・」
全部振って7.9かな? まぁまぁ、良いかも。基準が分からないからアレだけど、ちまちまと貯金する感じで振れば丁度いいかもね。
とりあえずINTとVITに1ずつ振っておこう。
その後に、各アトリエを一段階強化。次のレベルには・・・10必要になるみたい。どんどんコストが高くなる感じだ〜!
「そっかぁ・・・中々大変だなー」
どのくらいコストが上がってくか分からないけど、実績があれば、何とかなるかな?
何にしても、安易にステータスに振ると実績の面でも困った事になりそう。錬金塔の充実を最優先に、スキル、ステータスの順番に成長していこう。
という事で残りの5Pでスキルを獲得する事に。
「んと・・・候補としてはさっきの《木工》は必要でしょ? それと・・・あ、そうだった・・・他の物はコストが高いんだった。取れるものは無・・・あった!」
取れるものは無いかスクロールしてれば1Pの群が。
「《地属性魔法》《水属性魔法》《火属性魔法》《風属性魔法》・・・魔法だっ!」
うわうわ! 欲しいっ! どれがいいかなぁ〜! 火属性? もくじろーが燃えそう・・・クマさんも燃えちゃうよね。
水は・・・どっちも濡れちゃうし。地属性か風属性だね!
うーん・・・地属性、かな。泥人形作れそうだしね!
よしっ! ポンポンっと取得!
獲得〜。これは・・・どうやって使うんだろ。
使える魔法は《ロックランス》・・・だけ。
攻撃用じゃん! むうう。人形作れないのー? ・・・仕方ないかぁ。まぁ攻撃手段が出来たって事で良しとしよう!
なんて思っていたらピンポンっとアナウンスが流れてきた。バリエーションあるのかな?
『《地属性魔法》を獲得。スキル《ドールズボディ》によって吸収、変換され、新たにスキル《LEC作成》を獲得しました』
「らんどえれめんたるかーとりっじ?」
一気に横文字が、ひーふーみーよー・・・15文字も。えっと。地属性のカートリッジ?
それ以前にスキルを吸収、変換って。何やってるの・・・?
《LEC》
《地属性魔法》が《ドールズボディ》によって変換されたスキル。地属性のマナを溜め込んだカートリッジを作成する事ができる。
「・・・《LEC》」
このゲームでの行動は意思を明確に示す事で、メニューもスキルも使えるんだと思う。クマさん達を操るのに出してる糸は《ドールズマスター》から来てるんだと思うんだ。・・・他に該当する物が無いって言うのもあるけど、合ってる筈。だから、これもスキルを使う事を意識すれば。
手のひらから黄色の何かが光り、どんどん形を成していく。青いMPゲージが少し減り、数秒で出来上がったそれは・・・球体。ビー玉より大きく、ガチャポンのカプセルよりも小さいガラス製? のそれに十字型の黄色い結晶が大きく真ん中に。それが手のひらにコロン・・・と存在していた。
「カートリッジ?」
いや、もうただのボールにしか見えない。投げればいいの? 敵出てきたら投げてみよっか・・・。
うん・・・よし。じゃあ軽く他の部屋を見回ってから、地下世界に採取しに行こうかな。
ーーーー☆
各部屋はちゃんとアップグレードされていた。
鍛冶部屋にある穴の空いた炉はちゃんと穴が塞がって使えるように! 後は金属だけだね。
木工部屋はその場に居たから、目に見えて変わってたね。大きな機械の一つが新品同様にピッカピカになってて、クローゼットバッグと同じ様に調べたら、名前も分かった。
『魔導剥皮機』
なんと、樹皮を剥ぐ機械! 原木を置いて、蓋を閉めるだけで原木が丸裸に! 剥いだ樹皮は自動的に固形燃料へと加工してくれる! これは中々良いものだよ! でも個人的にこの機械がどう動くのか気になる。と言うのも、明らかに動力が無いから。魔法の力と言われればそれまでだけど、せめてMPの代わりになる何かがあると思うんだけど・・・。とりあえずそれは今考えても仕方ない、かな? ランタンも似たような感じだから早めに知っておきたい事ではある。
そして錬金術の部屋は期待してた釜の修理は行われず、新しくテーブルとフラスコ、試験管に漏斗・・・アルコールランプのような物にすり鉢、乳棒・・・実験に使えそうな物ばかり。薬は実験器具で作るのかな・・・? 何にしても薬草が無かったら何も出来ないね。植木鉢はいっぱいあるし、帰ってきてから洗おうかな。
確認を終えて、クマさんに運んでもらいながら地下を進む。今の時間は0時を超えてる。錬金部屋から見て、すっかり辺りが真っ暗。こんな時間に採取は危ないけど、他にやる事ないからね。まぁ地下世界だし、明るいかもしれない。階段を降りて、地下世界へと入る。
月明かりが辺りを照らしてて、少し明るい。流石にこっちも夜になってるみたい。・・・もしかしたら地下世界じゃなくて、他の場所に繋がってるのかも。ファンタジーあるあるだよね!
とりあえず昨日と同じ様に樫の木をクマさんに殴って折ってもらおう。
口に出さないで、指示を飛ばす。
相変わらず強い衝撃音と共に一殴りで根元から木をへし折る。もくじろーには周りの警戒をしてもらう。未だ敵は出てこないから意味無いかもしれないね。
もしかしてこの衝撃音のせいで来ないのかも? それなら好都合かな?
次々とへし折れる木々を箱状にした鞄に入れてもらう。
結構いっぱい入った所で、一旦帰ることに。クマさんに抱えてもらって、大木の口をくぐろうとした時。
《はうぅ・・・どうすれば帰れるのです〜!? わからないのですうぅ!》
「ん? 何か声が聞こえる・・・?」
《というか、ここはどこなのですかぁぁ!? 壁もあるし天井もありますぅ・・・。なのに風が吹いてるのです・・・!?》
何やらパニックになってる誰かがいるみたい。やっぱり地下世界は地下世界だったね。天井あるんだ? そうは見えないけど・・・。というか、何か声変じゃない?・・・どこが変なのか全然分かんないけどさ。
周りを見渡してみれば大木の直ぐ横に、背を預けて膝を抱えて座る緑髪ツインテールの女の子。あ、微妙に大木から離れてる。その背中に羽根が生えてて微妙に光ってる。・・・妖精さんかな?
「あの、大丈夫?」
《大丈夫じゃないのです・・・早くお姉さんの所に帰らないと・・・? はわっ!? な、な、誰ですかっ!?》
流れる様に答えてから一拍置いて、ささっ!と後ずさりする妖精さん。
「ごめん、驚かせちゃった? 私はリム。一応ここの・・・主人? になるのかな」
《主人・・・? この結界の持ち主さんですか!? よ、良かったのです・・・。わ、わたしはアイレなのです! 出来ればここから出して欲しいのです・・・!》
アイレちゃんかぁ・・・多分NPCだよね? NPCのレベル高いなぁ。可愛すぎじゃない?
「いいよ〜。すぐそこが出口だから一緒に行こう?」
《わぁ・・・ありがとうなのです!》
「いいのいいの。私もここの事よく分かってないからさ!」
《えぇ・・・? ここの主さんじゃないのですか?・・・・・・? あれ、そう言えばお姉さんはわたしのことが見えるのです? 言葉も分かるのです?》
「見える? 言葉? うん。見えるし、言葉も分かるよ。少し違和感あるけど」
何この子・・・不思議ちゃん? それとも妖精って普通は見えないのかな。だとしたら私の眼すごいねっ!
《ほぁ・・・そうなのですか。精霊の眼と精霊の耳を持ってるのです?》
「何それ? そんなスキル無いと思うけど・・・?」
そんなスキルあるの? 精霊の眼? 精霊の耳? 精霊関係のスキルを持ってれば見えないものも見えるのかな?
《ほぇ? ならなんで・・・っ!? ちょ、ちょっと待ってくださいっ! お姉さんは、人族の方じゃないのですねっ!? 無機物・・・機械生命体。分類すれば、ヒトではなく魔物です・・・よね》
縮まっていた距離は、どんどんと遠ざかる。なになに? どうしたの?
「うん、まぁ確かにこの身体は人形だけど・・・? 何か変?」
《あ、危なかったのですっ! 魔物に騙される所だったのです!》
「騙すって・・・」
え、もしかして、この子魔物とは敵対してる存在なの? 私ピンチ? いや、それよりも、こんな可愛い女の子に敵対されるとか落ち込む・・・。
《・・・? あの、攻撃してこないのですか?》
「なんか普通に拒絶されてショック。魔物=悪い奴みたいな扱いで話されたから・・・。私、もう帰るね。ごめんね、怖がらせちゃって」
《へ。・・・あぇ?》
クマさんにもう一回抱っこしてもらって、帰路につく。はぁぁぁ・・・ショック・・・。拒絶されるってやっぱり心にくるなぁ・・・。
ううぅ。
《あ、ちょ・・・》
大木を潜って、階段を登り始める。
《はわっ!? ど、どこに消えたのですかっ!? わ、わー! ちょ、ちょっと待って下さいなのですぅぅ! わたしが悪かったのですっ! だから、待ってくださいぃぃ》
結局あの子は何だったんだろう。
階段から外を見るけど、さっきの子の姿は見えない。どっか行っちゃった。はぁぁ・・・。人形作りのモデルになってもらおうかと思ったんだけどなぁ。
《え。本当に行っちゃったんですか? え、え? ・・・うう! わたしの馬鹿っ! なのですぅぅぅ!!》
はい、ここで本編との関わり要素来ました。さて、ここから先、物語はどう展開していくのでしょうか。
今回も楽しんで読んでいただければ幸いですっ!