地下の世界/二日目の出社
投稿っ!
「ふぅ・・・よし。クマさん行くよ?」
糸を繋いで、地下への階段を降りていく。
ここは螺旋階段じゃなくて、真っ直ぐ降りる形なんだね。少し不思議に思うけど、まぁ地下だし別に気にする必要は無いって事かな。
ランタンの灯りを頼りに階段を降りていけば、横幅がどんどん広がって・・・光が見える。その光を目指して、コツコツコツ・・・! と降りる速度を上げて・・・出る。
「う、わ・・・! なに、これ・・・!」
青々と茂る草花や新緑の葉を擦り合わせる木々達。力強く存在を主張する岩山。近くを流れる川のせせらぎ。頬を撫でる優しい風。
その景色に思わず手を伸ばせば、そこに止まる蜻蛉。
そしてその蜻蛉の複眼が私を捉える。
「おぉ・・・。生き物もいるんだ・・・」
ピクリと指を動かせば、蜻蛉は飛んでいく。
塔の地下は広大な世界が広がっていた。・・・流石ファンタジー。想像だにしてなかったよ。
後ろを振り返って見れば、何も無い虚空から突然階段が出てる様。
「うわ・・・不思議。え、これって戻れるよね?」
階段を上がって、何も無い所に手を伸ばしたら、手の先が少し消える。
「おぉ・・・。戻れるね。とにかく降りよっかな」
コツコツと空中から伸びる階段を降りて、大木の間を潜り抜ける。
「おー、これが目印代わりかな〜? これなら、迷わないね!」
また振り返って見れば天まで届きそうなほど大きな木。私が出てきた所が丁度、口みたいで、今にも喋り出しそう。
「んー。周りにこれだけ木があるなら、木には困らないね! 植物図鑑見てどんな木か調べよー」
本を取り出して〜、えっと、これかな? ふむふむ・・・これが樫の木。
こっちにあるのが、あ、こっちも樫の木。ここら辺は・・・樫の木だらけだね〜。
よし。とりあえず伐採しよう!
「クマさん! この木に全力パンチ!」
クマさんの後ろに立って、しゃがみながら指示をする。
予備動作すらなく、バキィィ!! と木を殴りつけへし折る。
「真ん中辺りでまたパンチ!」
折れた一本の木にまたパンチさせて真っ二つにへし折ってもらう。
鞄を手に持って、地面にポイッと投げて箱状に変換っ!
箱を触って、蓋を開ける。
「クマさん、この中にその折れた木入れてー?」
軽々と折れた木を持ち上げて、箱に入れてくれる。
その行程を繰り返す事、五回。
「こんなものでいいかなー。もっと探索したい所だけど・・・何も無いのは心配だもんね」
一旦引き返す事に。
階段を上がり、木工作業部屋に。
クマさんは私の補助。箱から丸太を取り出して貰って低めの台の上に置いてもらう。
よし・・・彫る、けどこういうのってスキルがあるもんだよね。イメージすればできるのかな?
・・・特に何も起きない。悲しい。
んゆー。あ。本を見れば分かるかも!
んー・・・あ。結構細かく書いてあるね。見ながら、作れるかも。
とりあえず整形すればいいよね。まずは腕を作ろう。基本中の基本。肘から先を造る為に長さを決めて・・・?
およ・・・なんかガイドラインが出てきた? んん・・・なんかスキルが発動してるのかな?
とりあえず・・・えっと、腕。腕を作りたいんだよねっ! あ、削るの?
ーーーー☆
「うう・・・やっとここまで削れた・・・」
数少ない道具を使って三時間。やっと各パーツの形が見えてきたっ!
関節部分と腕、手のひら、各指。それを左右2セット。
一本分の木を使って、鋸やらノミやら色々使ってやっと・・・うぅ、長かった。ガイドラインが無かったらもっと時間かかってるよぉ。
後はヤスリを使って整えていくだけ。・・・それでも凄い時間かかりそう。よっし、頑張るぞぉ!
色んな種類の金属ヤスリと紙ヤスリがある。正直どれを使ったらいいか分からないけど・・・多分紙ヤスリで大丈夫かなー?
粗めのヤスリを取って、ちょんちょんと感触を確かめる。ザリザリしてる。痛みを感じないから、どんな感じか分からないなぁ。
まぁいいや。軽く余ってる木材に擦り付けてみて・・・うわ、なんか木がめくれる・・・粗すぎるんだね?
じゃあもう少し細かいやつを・・・これなんかどうかな。見るからに細かいよ。サリサリしてる。
めくれた部分に擦り付けて・・・よく分かんないや。角に擦り付けても、削れない。うーん・・・でもこれならパーツの仕上げに良さそうだねっ!
力を入れすぎないように、キュッキュッと擦っていく。
ススッと、ササッと! 繊細にっ!
作業を始めて・・・何時間? んと、二時間後! やっと、やっと削れたっ! 全部削れたよっ! ううぅ・・・! つかれたぁぁ! みんなこんなに苦労して造ってるんだね・・・。尊敬するよ〜。
ここまでやったら、なんかステータスに変化とか無いのかな?
リム
性別:女
種族:マネキンS1 Lv3 【HPMP+Lv×200】
職業:人形師 Lv3 【MP+Lv×400】
ーーーーーー
HP:【600】
MP:【1200】
ーーーーーー
STR【20】
VIT【20】
INT【80】
MIN【40】
AGI【20】
DEX【20】
ーーーーーー
戦闘スキル
生産スキル
《錬金術》
補助スキル
ユニークスキル
《ドールズボディ》《ドールズマスター》
CP:9
「レベル上がってるっ!? なんでなんで?」
生産行動とかで経験値が貰えるって事? ふむふむぅ。
でもステータスが上がらないんだよねぇ。
気になるのはCPの存在。これもレベルが上がった事で増えてる。画面を触ってみれば、名前が表示される。
CP
あー。カスタムポイント! これをどうするの? もうちょっと、触って確認を続ける。カスタムポイントは私の身体や拠点を強化するポイント・・・? あー。そういう・・・確かに錬金塔って名前が書いてあるけど・・・ここ、錬金塔って名前なんだ。
えっと・・・このポイントで自分を強化するなら身体の部位を選択して、そこに対応したステータスが増える。例えば腕に強化を与えるなら、STRかVITが増えるといった感じ。・・・腕を強くしたら、単純に力が付きそう。もしかしてSTRってストロング・・・じゃなくてストレングスかな? じゃあVITは・・・バイタリティ。他のもこれに当てはまりそう。うん、そうだよね。大体理解。
後はスキルを獲得できるみたい。
《木工》《鍛冶》・・・色んなスキルがあるね。けどどれもコストが高い。《木工》は1消費だけど、《鍛冶》は10消費だ。・・・もしかしてさっきまで木工系の作業してたから低いのかな? ここら辺は要検証。
スキルはその内取る事にして、拠点強化の方は・・・。
各部屋のレベルを上げることが出来るんだね。コストが結構高い方、なのかも?
一部屋の最高レベルは10まで。それが五部屋。
各アトリエにミニ神殿、後は居住スペースの強化・・・Lv0から始まって、次の1に上げるにはCPが5必要みたい。んー・・・全部上げるのに25必要なんだよね? この増え方を見る限りLv9分を注ぎ込まないと全部を上げきれないよね。1から2に上げる時も同じコストか分からないし・・・。
何かしらあるよね・・・?
とりあえず一つは上げられるし上げたいなぁ。どれを上げよう・・・。そう悩み始めた瞬間、ビービービーと警告音が鳴り、ピロンっと音がした。
『まもなく一時間が経とうとしています。ログアウト延長する場合は口頭で宣言してください。延長しない場合は警告音の五分後に強制的にログアウトになりますので、作業をしている場合は中断する事をオススメします』
機械音声でアナウンスが流れた様で。頭の中で反芻して理解する。
「一時間・・・? いやいや、それよりも長く・・・あ。そう言えば、時間の流れが遅くなってて、7倍の時間こっちで過ごせる・・・って書いてあったかも! それじゃあ一旦ログアウトしようかな? ご飯も食べてないし!」
メニューを呼び出して・・・ログアウトっ!
ーーーー☆
「朝だっ! 仕事だっ! みんなおはよう! もぐもぐっ!」
カーテンをばっ!と広げて朝日を取り込み、みんなを見回してから朝ごはんを済ませ・・・
VRグラスをテレビ前に置いて、神社宜しくパンパンッと手を叩き、お祈りする。
「今日もお仕事、ちゃんと出来ますようにっ!」
スーツに着替えて、身の回りの確認をして・・・おっけー!
「行ってきます!」
みんなに手を振って、外へ。さぁ、今日から本番ですよっ!
ーーーー☆
株式会社モーニングワークス。高校卒業前に面接して昨日、始めて仕事をした場所。電車に乗って一駅しか離れてない場所だから、出勤も楽でいい!
「おはようございます!」
「おはよう、糸永さん。朝から元気だね〜」
大きな声で挨拶。印象は大事だからね!
返事をしてくれたのは小学生のような見た目の女性。
真舟綾先輩!
「真舟先輩! えへへ、まだ二日目ですし、お仕事を頑張りたいんです!」
「おぉ〜。いい心がけだね。今日も私が一緒に行動するからね。とりあえず、はい、これ」
そう言って先輩から手渡されたのは一冊の本。
表紙には『必読! お仕事のイロハ!』 と書かれてる。
「先輩、これは・・・」
「ゆっくりでいいから、読んでね。休憩ついでに見るくらいでいいからさ」
「わかりました・・・今日はどうすればいいんでしょう?」
「うん。その前に昨日は休日なのに来てもらってゴメンね。今週から私も含め、色々とプロジェクトが進んでて、粗方説明は昨日した通りだから、先ずはこの書類と・・・この書類。その本読みながらでいいから片しちゃって。本見ても分からない事があったら遠慮なく私を呼ぶ事。分からないまま、仕事できないとか言われる方が迷惑だからね」
貰った本の上に書類の束が積まれていく。
ほぁ・・・いっぱいお仕事が・・・!
「あ、はい・・・えと、はい。任せてください!」
「うん。糸永さんのデスクの場所、覚えてるよね?」
「はい、大丈夫です!」
「うんうん。じゃあお仕事開始!」
「らじゃっ!」
ーーーー☆
お昼休憩。
「ふぅ・・・何とか終わったぁ」
纏め終わった書類を仕舞って、先輩にデータを送る。
椅子の背もたれに寄りかかって一息つく。
営業って大変なんだなぁ・・・。私は新入りだし、多少のお手伝い程度だけど・・・みんな忙しそうだったなぁ。
「んー、お疲れ様」
「ひゃっ! あ、先輩」
頬に冷たい缶コーヒーを当てられ思わず背もたれから身体を離して、背筋を伸ばしてしまう。
「お昼ご飯、どうするの?」
「あ、お弁当持ってきてます。と言ってもおにぎりですけど・・・」
鞄からお弁当箱を取り出して、先輩に見せる。
「そか。飲み物どっち飲む? コーヒーと炭酸ジュース」
「えと・・・コーヒーで」
「はい。一緒にお昼食べよ?」
「あ、是非!」
先輩の後を着いていって、休憩スペースに。
昨日も利用したけど・・・凄く広くて、色んな人がいっぱいいる。清潔感もあるし・・・会社の休憩スペースってこれが普通なのかな?
先輩と一緒に窓側のカウンター席に座って、お弁当を広げる。
「ふぅ・・・」
「座りづらそうですね」
「少し位置がね〜・・・。全く、この体が憎いよ」
座る時にジャンプしないと座れない先輩にときめいたのは秘密です。
「私は先輩がお人形さんみたいで可愛く思います!」
「あー・・・そう? 褒め言葉だと思っとくよ・・・」
「褒め言葉ですよっ!?」
「うんうん・・・そっかぁ、そうだよねぇ・・・」
どんどん沈んでいくような先輩。サンドイッチを咥え、もむもむ・・・とゆっくり食べ始める。
うう〜・・・これは誤解されてる? おにぎりを一口ほうばってから、始める。
「ほんほうにほへへるんれふよ、ひぇんぱい」
「日本語でお願い」
口に物を入れてる状態って予想以上に話せないんだね。おにぎりを飲み込んでから、先輩の手を握って、続ける。
「んくっ。本当に褒めてるんです。私・・・家にいっぱい人形がいるんです。日本人形にこけしにぬいぐるみ、フィギュアにロボットのプラモデルまで! ちっちゃくて、可愛かったり、カッコよかったりするあの子達が大好きなんです。勿論、大きい人形も好きなんですけど、生憎狭いアパート暮らしなので、置き場所が無くて・・・。っと・・・脱線しました。なので、私が例えに人形出した時は、かなり褒めてる証拠なのですよっ!」
「お、おぉう・・・そ、そう。わ、分かったよ」
「あ。ご、ごめんなさい先輩。つい熱が入っちゃって・・・」
ぱっと手を離して、謝る。結構強く握っちゃった・・・。
「あはは、大丈夫だよ。ありがと、元気出た」
「・・・なら、良かったです!」
「うんうん。休憩終わったら、また色々と頼むからね〜」
「はい! もっふぉふぁんふぁりもふ!」
「・・・うん、えと、頑張ろうね」
ーーーー☆
「ただいま〜・・・疲れたぁ〜」
スーツを脱いで、部屋着に着替えてからベッドにダイブする。
「うー。ご飯作るのめんど〜」
暫く携帯を弄りつつ、ゴロゴロしてから、ご飯を作り始める。
んー。まぁ、レトルトカレーでいいかなー。
炊飯器のボタンを押してから、お湯を沸かして、袋を入れる。
待ってる間に少し調べ物・・・と思いきや。
「電話・・・? あ。乃々花ちゃんからだ」
ポチッと。
「もしもし〜?」
『むーちゃん、今大丈夫・・・?』
静かな声が返ってくる。久しぶりに聞いたかも〜。初詣に会って以来だから・・・時が経つのは早いね〜。
「うん。大丈夫だよ〜」
『ありがとう。それと社会人デビューおめでとう』
「ありがと〜。どうかしたの? 詩織ちゃんと喧嘩でもした?」
『乃々花はお姉ちゃんと喧嘩したことない。仕事は忙しいと思うけど・・・来月のゴールデンウィーク終わりの日曜日、一緒にお出かけ、しよ?』
「ゴールデンウィーク最終日? えっと・・・5月の6日で良いのかな?」
『うん・・・ダメ?』
「ううん、全然おっけー。でも何か私に相談事でもあるの?」
『えと、もうすぐお姉ちゃんの誕生日だから・・・』
「んぇ・・・あ、そっか。14日だっけ」
『うん』
すっかり忘れてた・・・。
「おっけーおっけー。ちゃんと予定空けとくよ〜」
『ありがとう、むーちゃん』
「はーい。乃々花ちゃんも、もうすぐ高校生デビューだね」
『うん。一年前からの知り合いがお姉ちゃんと同じ同級生だったから、楽しみ』
「ん? んー・・・? そうなんだ? 良かったね! っと、あわわ! お湯が・・・! ふぅ・・・ごめんね。これから夜ご飯食べるから切るね〜。また今度電話するよ〜」
蓋をした小鍋から、お湯が吹きこぼれ、慌てて火を消す。目を離しちゃダメだよね!
『うん。またね』
「またねー!」
プチッと通話終了ボタンを押して、夜ご飯の準備をすることに。あ。ご飯炊けてないんだから、もうちょっと話せたなぁ・・・いやいや、向こうも夜ご飯の準備があるからね。当番かどうか知らないけど。
「んー・・・少しゲームでもやろうかな。この時間で結構出来るもんね」
テレビの前に置いたVRグラスを掛けて、横になる。
「【コネクト】」
会社に勤めた事は無いので、何かしらの矛盾はありそうですが・・・そのまま続けますっ!
今回も楽しんで頂ければ幸い。