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サイレントメッセージ  作者: 凜琴
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メッセージ

「あのさぁ⋯⋯ちょっと、言いたいことがあって⋯⋯」


 幼馴染の原田歩夢(はらだあゆむ)が少し緊張した面持ちでそう切り出してきた。それがいけない。期待してしまった。そのあとの言葉が私をどん底に叩き落とした。


「⋯⋯俺、彼女できたんだ。」


「⋯⋯⋯⋯」


 私は上手く笑えていただろうか。


 歩夢は、小さい頃から綺麗な顔立ちをしていて、大きくなるにつれて、どんどんかっこよくなっていった。もちろんモテる。だけど⋯⋯だけど、私は幼馴染だから、いつもそばにいた。ずっとそばにいた!なのに⋯⋯なのに⋯⋯


「どうして私じゃないのよーっ!!」


「お母さーん。なんか、姉ちゃんが荒れてんだけどー」


「そう言わずに聞いてよ(かける)!」


 私は家に帰り、弟の翔に発散していた。17歳の私に対して、翔は15歳。年は近いけど、翔の性格が結構いいのでケンカをすることはあまりない。


 半泣きの状態で、歩夢から渡された彼女の写真を翔につき出した。


「何、姉ちゃん歩夢君のこと好きだったわけ?」


「⋯⋯なんか、そうだったみたい。」


「うん、あの人王子様だしな。辛いのはわかるけど、どうしようもないじゃん。人の気持ちなんてどうしようもないんだしさ。」


「わかってる⋯⋯わかってるんだけどさ⋯⋯」


 翔は、ふぅっと息をはいて、私の頭に手をのせた。


「恋愛は、上手くいかないもんなんだよ。」


「何、なんか、経験者みたいな語り方ね。翔も好きな人いるわけ?」


 翔は困ったような表情をしたが、この際ぶっちゃけるか、とつぶやいた。


「これ、俺の好きな人。」


 翔は、さっき私がつき出した写真を見せて苦笑した。


「姉弟そろって負け組だ。やられたな。」


 私は呆然としていたが、自然と涙があふれてきた。


 次の日から、当たり前なのかもしれないけど、歩夢と登下校することはできなくなった。今まで、行くのも帰るのも二人一緒だったのに⋯⋯。

 

 翔からの情報によると、あの子は、斉藤綾音(さいとうあやね)ちゃんというらしい。高校一年生で、翔と同じクラス。歩夢との接点は部活。歩夢はサッカー部で、綾音ちゃんはマネージャーだという。ちなみに翔もサッカー部。バスケ部の私には関係のないところで三角関係が繰り広げられていたらしい。


 「あ、おはよ。」

 

 教室に入ると、歩夢が普通に声をかけてきた。不意打ちをされた私は、2、3歩退いた。


「いや、なんであんたがここにいるのよっ」


 歩夢は隣のクラスのはずだ。


「いや、なんか、寂しいなぁって思ったから。」


 歩夢は穏やかな表情でそう言う。時々、歩夢にはこういう腹が立つ天然さがある。私は少し不快になった。


「どういうこと?」


「だって、登下校も一緒にしないし、クラスが違うから、おはようすら言えないし。」


「登下校一緒にしないのは当たり前じゃないの?彼女できたんだから。」


「まぁ⋯⋯そうだけど⋯⋯」


 なんかしょげている様子の歩夢にまた怒りがわいてくる。


「なんなの?彼女はいるけど、他の女も捨てるのはもったいないってわけ?とんだタラシ野郎ね。」


 歩夢は目を見開いた。そして、目を細め、はぁっとため息をついた。


「まぁ⋯⋯そうなるよな。邪魔した。またな。」


 学校だから辛うじて我慢したけど、泣きそうだった。でも、悔しいけど、バイバイじゃなくて、またな、と言ってくれたことに少し喜んでしまっていた。


 「ねぇ、翔。どう思う?」


 家に帰って、私はまた、今日の出来事を翔に相談していた。


「どうって⋯⋯普通に、そのまんまの意味じゃねぇの?」


「翔⋯⋯なんか元気ないね。」


「まぁなー。サッカー部じゃ、いじりがすごいから。俺、いっつも見せつけられてんだよ。」


 うわ⋯⋯それは辛いわ。私より翔のほうが辛い思いをしているのかもしれない。


「あ、そうだこれ、歩夢君から頼まれたんだった。」


 翔から渡されたのは、シンプルな手紙だった。


「歩夢君、悪いと思ってるんじゃないの?」


 私は自分でも引くような食らいつきで、手紙を広げた。


『あさはごめん。俺、考え無しだった。

 いやだったよな。俺が今朝のことは忘れて。

 あのね⋯⋯サッカーの試合、来ないか

 ?試合は結構面白いんだよ。あ、ゴール

 の後ろは危険だからな。あ、どうして誘ったか

 っていうとな、俺の彼女に会ってほしいなって思ったんだ。

 意外と、気にいるかもしれないし。だから、

 試合後に会おう。

 試合がある場所はたぶん知ってると思うんだけど、爺さんとか

 婆さんが、ゴルフをする、あのグラウンド。あ、そうだ!

 あそこで見つけた、みけねこ、まだいるんだよ。

 今度行ったら見れるぞ。てなわけで、

 来てくれよな。待ってるぞ。』


「呆れた⋯⋯。なんか、脱力したわ。」


 そう言いながら翔の方を見たが、翔は、真剣な表情で黙りこんでいた。


「姉ちゃん、歩夢君ヤバいかも⋯」


「わかってるわよ、あいつ、ヤバい奴よ。」


「違う。そうじゃない。この手紙、読ませてもらったけど、俺、たまたま気づいた。」


 翔は、手紙の最初の「あ」の文字を指さした。


「ここから、斜めに見ていって。次は「や」」


 私は食い入るようにして読んだ。その意味に気づき、冷や汗が出てきた。


「これ、どうしたらいいの?」


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