わたしたちはうそつきだった
「うそか…」
ぼくたちはうそつきだった。最初から。うそをつけたから生き残れた。最初から存在していなかった。欲深い。それはせかいへの愛。偏愛。わたしたちは生きますから。そういって嘘をついた。
いつまでもいきのこれない。ぼくたちはいないんだから。だから時限爆弾。瞬間のわたし。醜い嘘には幸か不幸か。苦しみだけが積もる。喜びはいつも偏っていた。
「ぼくもうそなんてつきたくない」
うそは大嫌い。大嫌いだけど。そういって僕もうそをついた。つくしかなかった。全体が全体うそなんだ。生きるとか、きょうとかあしたとか。なにもかも自身がうそだ。うそをつきたくなくちゃ飛ばすしかない。紙ひこうき。宛名はない。ただ願いだけ。わたしはしっかりいきる。それだけをのせて。三階の窓、教室さ。カーテンがよくなびく日に飛ばす。そういう風は温かく優しいもんさ。それにのって。だれかが読んで。もしかしたら叶えてくれるかもしれない。その願い。
そうなんだ。なにもかも。ぼく。わたしじゃ無理なんだ。ずっとうそを基盤に動き回るしか。生きるってことはそういうことだから。いもしない。夢想のあなたに。託すしか。それぐらいしか信じられない。生きられない。おもいんだ。このうそは。
「ぼくは叶えたいぼくのうそ」
「えっ?」
「もしかしたらこれがさ、ほんとなのかもしれない。うそをついて。自分をだまして。だれにも知られず。ただ息を吸って、吐いて、死ぬ。そういうのがぼくたちのほんとかもしれない」
「そんなのうそよ」
「確かにうそ。ぼくたちはうそ。うそ吐き野郎さ。なにもかものうそを思い考え感じそしてする。うそをする。し続ける。すべてうそで。うそで纏って。そして崩壊する。うその崩壊。ぼくの崩壊。ぼくをなくす。ぼくはいなくなった。ぼくはわすれた。ぼくはわすれられた」
そしてなにもかもをしらなくなる。ぼくはすべてをしって。すべてをしらない。そうするしかない。ぼくはほんとう。ぼくはうそ。うそもまたほんとうだから。
「いやなうそもつきつづける」
「そんなのいやだっていってるでしょ!!」
「ならばうそをつけばいい。ほんとうのこといえばいい。ほんとうのこといって。うそを崩壊させればいい」
「そんなのわたしにはできなかった」
「何度も何度もやろうよ。きみはどれだけうそをついてきたの。その数を思えばぼくたち、きみのほんとうは始まったばかりじゃないか。うそをつこうよ。いままでからのうそ。これからのほんとうをさ」
うそはほんとうの出来事。せかいのほんとう。でもわたしたちにはうそだった。ならばほんとうをつこう。せかいのうそをつこう。いままでせかいのほんとうをつきつづけたんだから。わたしのほんとうをつきつづけよう。
そりゃあせかいのうそだから。くじけたり、たおれたり。あまりにも巨大すぎて。わたしには強すぎて。何度もあきらめて。何度も忘れて。またほんとうになるさ。
でもさ、それはせかいがほんとうをつきつづけたからであって。わたしたちのうそをつきつづけたからであって。わたしが。わたしたちが。わたしたちのほんとうをつき続けられたのなら。断絶しながらも。わたしたちのほんとうはいつまでもほんとうだから。それがあるのなら。いつの日かせかいのほんとうよりわたしたちのほんとうのほうが大きくなって。逆転する。わたしたちがほんとうになる。せかいはうそになる。
「そう思ってただうそをついていこうよ。倒れても忘れても。ほんとうになってもべつにかなわない。わたしたちのほんとう。わたしのほんとうは消えないんだから。だからさ、うそをつこうよ。せかいのうそを。わたしたちの。わたしのほんとうを」




