うまい棒と女の子
「あなたの臓器ほうかいさせて?」
水を指の間からしたらせて彼女はいった。
「そんなのいやさ」
当たり前だ。臓器は大切なんだから。
「そんなこといっちゃうとたべちゃうわよ」
彼女は本当のことしか話さない。だからぼくはすぐに逃げ出した。彼女は本当に僕を食う気なのだ。
「待ちなさい今日のおやつー」
冗談じゃない。なんでぼくがおやつなんかに。
「うまい棒でも食ってろよー」
彼女はよく僕を食いたがる。ただそれは美味を求めてからではない。ただ空腹なのだ。腹の足しなのだ。ちょっとしたつまみ食いなのだ。
もぐもぐ
彼女はうまい棒を袋ごと食った。学校の廊下地面に落ちたうまい棒。それに飛びつき食う女の子。それを厭わない放課後の夕焼け。今回もまた命が救われた。
「いくらなんでもさ俺を食うのだけはやめてくれよな」
うまい棒うまいうまい。聞いてやしない。
「まあそれさえなければさおれはとくになにもいいやしないんだからな。な」
もう食い終えたうまい棒を口の中にもぐもぐさせながら彼女はこちらをみる。
「大丈夫、おなかがすいてなかったらね」
「それは大丈夫なんていわないだろ」
「ぐー」
「ほら」
「てへへー」
僕のポケットにはうまい棒が20本。一日彼女とだけ過ごせる僅かな時間。それに必要な物品。
「ほらうまい棒」
今度は手渡し。
「ありがとう」
袋を手で開けて。
「うまい棒ってうまい棒だね」
「そりゃあそうだろ」
鐘が鳴る。下校の時間。
「もうこんな時間」
うまい棒を咥えながら。ぼくは外をみる。夕焼け。廊下にも日がこぼれていた。
「あしたもまたいい日だといいな」
「あしたもうまい棒ちょうだいねー」
「ああ」