秘奥義開眼
神は、ついに剣の秘奥義を授けられたのである。
敵の剣が、眼前に閃くのを見届けるには、
非常な胆力と判断力を必要とする。
遅すぎても、早すぎても駄目。
敵の剣を弾き、我が体から、外す。
たんに腕力だけではなく、丹田の力を用いる。
大地を両足で踏ん張り、剣先がキチンと刃筋を立てて、
敵の人中路に決める。
敵は為す術がない。百戦百勝、必殺である。
「面をあげい。」
鵜戸明神は、木剣を愛洲移香斎に返した。
彼は神妙に受け取った。
「これで、ワシもやっと肩の荷が下りた。
アマちゃんに、顔向けが出来る。」
「ハハアッ、有り難き幸せ。このご恩は、一生、忘れません。」
そう、頭を下げ、神に感謝しながらも、「アマちゃんとは、誰ぞ。」と、
疑問を持った。
彼が交わった女にも、そんな名前の女はいなかった。
神は、彼の心を読んだかのように、ニッと笑った。
「伊勢神宮の神様じゃよ、天照大御神じゃ。
神々の世界もネットワークでつながっておっての。
お主のことは、見どころがあるから、くれぐれも、
宜しく頼むと言われておったのじゃ。」
彼は、深い感動を覚えていた。
我が故郷の神が、遠い伊勢から、我のことを期待し、
気にかけてくれていた。
双眼からこぼれる涙が、とまらなかった。