番外編 サマータイムメモリー その2
「玲奈、葉月ちゃん、もうひと段落ついたし遊びに行っても大丈夫やよ」
叔父さんは俺たちにそう言った。
午後二時前には客足は落ち着いていた。
「やったーーッ、ヅッキー着替えよッ!」
「う、うん……」
玲奈は俺を先ほどの更衣室に連れていった。
更衣室に入るなり玲奈はさっそく服に手をかけた。
「……!」
俺は慌ててそっぽを向く。
「だ、だから、ひ、一言言ってから着替えてよ!」
「……? ヅッキー、なに恥ずかしがってるん?」
玲奈が訊いてきた。
先ほどの制服は恥ずかしがっていたくせに水着ならいいのか?
俺はワケが分からなかった。
「な、なんでもない!」
俺はそっぽを向きながら紙袋の中身を取り出した。
「……!」
そこにはいわゆるビキニが入っていた。
しかもかなり派手なデザインである。
「こ、これを着ろっていうのか……」
俺にとってはもはや罰ゲームでしかなかった。
しかし、りんの心遣いを無下にするわけにはいかない。
覚悟を決めた俺は制服を脱ぎ素早くビキニを着用した。
「……うぅ……」
かなり露出度が高くほぼ裸のようなものだ。
俺が恥ずかしがっていると背後から声が聞こえた。
「めっちゃヅッキーの水着可愛いやんッ!」
「……そ、そうかなぁ……」
「ほら、こっち向いてよく見せて!」
玲奈がそう促したので俺は仕方なく振り向いてみせた。
「やっぱり可愛いッ! ちょっと写真撮らせてぇ!」
そう言うと玲奈はどこからか自分のスマホを取り出した。
「うわッ、ちょ、ちょっと写真だけは勘弁してぇ!!」
俺は玲奈に写真を撮らせまいとスマホのカメラを手で覆う。
「いいやん、減るもんやないんやし」
「減るよッ!!」
俺は全力でツッコんだ。
「アハハ、ごめんごめん、さすがにダメかぁ……」
「ったく……」
俺はそう言いながらゴムで髪をまとめポニーテールを作った。
「お、ポニーテールも可愛いやん、これこそ一枚……」
「だーーかーーらーー!」
再びスマホを構える玲奈を俺は制するのであった。
********
俺たちが浜辺に出るとそこにはすでに四人の姿があった。
いつの間にか男子二人も海パン姿に変わっている。
この二人も泳ぐ気満々だったようだ。
「お、来た来た!」
俺たちの姿を見つけた俊之が言った。
「お待たせーーッ!」
玲奈は元気いっぱいに答えた。
「玲奈、さっきまでとは全然違うな!」
「うるさいわッ!」
先ほどの制服姿をからかわれたのがイヤだったのか玲奈は俊之に回し蹴りを食らわせる。
「いってぇ、暴力女ッ!」
「なんやってーーッ!?」
玲奈が二発目の蹴りをかまそうとするのを止めようと俺は声をかけた。
「まぁまぁ、二人とも……」
「お!?」
と、俊之が俺を見て驚いた。
「その水着めっちゃ似合うやんか、髪もいつもと違うし」
「ちょ、そんなジロジロ見ないでよーーッ!」
「か、可愛さ300%……」
望も参加する。
「さっきよりも上がった--ッ!」
俺はツッコんだ。
客観的に見ると男子というのはつくづくバカな生き物なのだと痛感させられる。
「さ、バカな男子はほっといて私たちはあっちで泳ぎに行こッ!」
りんは俺と玲奈と櫻子を連れて俊之たちからさっさと離れていった。
実を言うと俺もそのバカな男子なのですが。
俺はそう思ったがそれを言ってはおしまいだと心の中にそっとしまい込んだ。
「泳ぐぞーーーーッ!!」
玲奈は先ほど聞いた覚えがある言葉を再び叫んだ。
「おぉーーーーッ!!」
りんも玲奈に続けた。
「やれやれ……」
俺はそんな二人の姿を呆れながら見ていた。
「ヅッキーは泳がんの?」
と、櫻子が訊いてきた。
「え? ああ、うん……、泳ぎはあんまり得意じゃないし……」
「私と一緒やね」
「え?」
「私も泳ぐのあんまり得意じゃないから」
「そ、そうなんだ……」
それ以上会話が続かない。
俺と櫻子の間に微妙な空気が流れた。
「あ、そ、そうだ、ビーチバレーでもしない?」
口を開いたのは櫻子だった。
「ビーチバレー?」
「うん、私ビーチバレーならできるし」
「うーーん、やったことないしなぁ……」
「大丈夫、教えてあげるから」
そう言うと櫻子は紙袋からボールを取り出した。
「……うん、分かった……」
俺はなにもしないのもどうかと思ったので櫻子の意見に賛同した。
「……基本は今教えた通りだから」
「う、うん、分かったかも……」
俺はぎこちなく答えた。
櫻子の教え方は素人の俺から見ても完璧だと思えるものだった。
しかし、実際にできるかどうかはまた別である。
「大丈夫、ルールは公式じゃないものにするから、そもそも一対一やし。 やからボールに触れていいのは特別に二回までね。 それで二点先取した方の勝ち」
櫻子はそう言った。
確かに本来なら二人一組の計四人でやる競技だ。
が、あと二人はあいにく海で泳いでいる。
公式ルールを採用しないのは素人の俺にとってはありがたかった。
「じゃあヅッキーからね!」
櫻子が俺にボールを投げてきた。
俺はそれを受け取るとすぐにサーブの体勢をとる。
「えいッ!」
俺はボールを勢いよく押し出して櫻子側のコートに打った。
櫻子は瞬時に反応し体ごと腕をボールの方へと伸ばす。
それはおっとりした雰囲気の彼女からは想像できないような機敏な動きであった。
「はいッ!」
彼女の見事な返球は俺のコートへと素早く返ってくる。
「うわッ!」
次の瞬間には目の前に迫ったボールに俺は思わず手で顔を覆ってしまった。
返ってきたボールが俺の手の甲に当たりポーンと上空へ跳ね返る。
「しまったッ!」
あと一回で返さなければ櫻子の得点になる。
俺は上空に上がったボールをよく狙う。
そしてちょうどいい高さまで落ちてきたボールを櫻子側のコートに返した。
「うまいッ!」
櫻子はそう言いながらも確実にボールの行き先に辿り着いた。
「はいッ!」
櫻子の返球は先ほどよりもスピードはなかった。
「よしッ!」
俺は返ってきたボールに手を伸ばした。
が、その瞬間ボールの動きが変化した。
「えッ!?」
ボールは俺の手の右側に落ちた。
「へ、変化球!?」
俺は今起こったボールの不規則な動きに驚きを隠せずにいた。
櫻子1-0俺
俺は一瞬にしてピンチに陥った。
<次回へつづく>