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番外編 サマータイムメモリー その1




「夏やーーーーッ! 海やーーーーッ!」

 真夏の砂浜に玲奈のハイテンションボイスが響き渡る。

「泳ぐぞーーーーッ!!」

 そう言うと玲奈は水着に着替えようと服に手をかけた。

「……あのさ、今日は玲奈の叔父さんがやってる海の家で働くはずだ……はずでしょ?」

 俺はそんな玲奈を見てそう指摘した。

「ふぇぇ……それはそうなんやけどさぁ……」

「ほら行こ、行こ!」

 俺はぐずる玲奈を促した。

「……うぅ……、分かったよぉ……」

 玲奈は大人しく俺についてきた。


 俺と玲奈が働くことになった海の家は少し古ぼけているような佇まいであった。

「よし二人とも、まずは店の清掃をお願いするわ!」

 玲奈の叔父さんが二人に言った。

「はい!」

 俺たちはさっそくホウキを手に店内の清掃を始めた。

 床にはホコリが溜まっている箇所がいくつかあって二人はそこを重点的に掃いた。

「……しっかし汚れてるなぁ……」

 俺は掃きながらそう呟いた。

「しょうがないってぇ、一年間掃除されとらんのやもん」

 玲奈も掃きながら言った。

「一年間手入れなしぃ!? マジでぇ!?」

 俺は思わず声を上げた。

 その声で店の奥の整理をしていた叔父さんが思わずこちらを覗きに来た。

「どうしたんや、大きな声出して!?」

「あ、い、いえ! なんでもありませーーん!!」

 俺は慌てて言った。

「そうか? ならええんやけど」

 そう言うと叔父さんは店の奥の整理を再開した。

「……ふぅ……」

「だから声大きいってぇ、ヅッキー」

 玲奈がそう嗜める。

「叔父さんな、他の時期は実家で店やっとるし忙しくてここの手入れ出来んらしいからねぇ」

「……だから俺……私たちが呼ばれたと……」

「そういうことやわ」

「なるほどね……」

 俺は納得した。


 店内は二十分ほどでなんとかキレイになった。

「よし、いい感じやな! じゃあ営業始めるから二人ともこれに着替えて」

 そう言うと叔父さんは二人に紙袋を手渡した。

「……なんですか、これ?」

 紙袋を受け取った俺は叔父さんに訊いた。

「制服やわ。 あ、着方なら玲奈知っとるし訊いてやぁ」

「あ、は、はい……」

 玲奈の方を見るとなぜか彼女は俯いていた。

「ど、どうしたの?」

「……な、なんでも、ないよ……」

 玲奈はそう答える。

 どう見てもなにかある、俺は直感でそう思った。

「……と、とにかく更衣室行こ……」

 玲奈の案内で俺は更衣室へと向かった。

 その道中で玲奈が「やっぱり着るのか」と漏らしていたのを俺は聞き逃さなかった。


 更衣室の内装は薄いピンクで葉月の部屋を彷彿とさせる。

「……よ、よし、じゃあ着替えよ……」

「……!」

 気乗りしない感じの玲奈が服に手をかけたのを見て俺は思わず目を背けた。

 そういえば自分以外が着替えるのを見たことがなかった。

 自分が着替えるだけでも抵抗があるというのに他人が着替えるのを見たらどうなってしまうのだろうか。

 俺は想像すらできなかった。

「……と、とにかくそっぽ向いとけば大丈夫だろう……」

 俺は玲奈の方は見ずに着替えることにした。

 叔父さんから手渡された紙袋の中には何着か服が入っていた。

 どうやらそれが制服らしかった。

「う……、着方が分からない……」

 俺はさっそくつまづいてしまった。

「そ、そういえば……」

 俺はさっき玲奈の叔父さんが言っていた言葉を思い出す。

「玲奈に訊く? でも……」

 今は訊こうにも訊けない状況であった。

「て、適当にやればたぶん着れるだろ……」

 俺は右も左も分からない状態で制服に着替え始めた。

 しかし、着替え始めてしまえばどうということもなくすぐに着替えることができた。

「な、なんだ、すぐにできたじゃん。 しかし……」

 俺は制服姿の自身を姿見で確認して絶句した。

 それは秋葉原のメイドカフェの店員が着るようないわゆるメイド服であった。

 ただ時期を考慮してか下半身の方は短めのスカートに加工されている。

 そのせいもあってか下半身が異常なまでにスースーする。

 傍から見ても違和感を感じてしまうだろうと俺は思った。

「……これでいいのか?」

「ヅッキー、着替えた?」

 と、玲奈の声が聞こえた。

「う、うん、なんとか……」

 俺は顔が熱くなるのを感じながらも答えた。

「れ、玲奈も着替えたの?」

 そう訊くと玲奈は恥ずかしながら答えた。

 着替えたのなら見ても問題はないだろう。

 俺が玲奈の方を振り返ると制服を見せまいとする彼女の姿があった。

「ど、どうしたの?」

 俺がそう訊くと玲奈は顔を赤くさせた。

「……な、なんでもない……」

 そう言いながら彼女はさらに顔を赤くさせた。

 どうやら玲奈もこの制服に抵抗があったようだ。

 まぁ、これほどまでの露出度なら無理もないだろう。

「だからさっき俯いてたのか……」

 そんな玲奈の姿を見て俺は納得した。


「い、いらっしゃいませぇーー!」

 露出度高めのメイド服を着た玲奈の上ずった声が店内に響き渡った。

 開店初日にも関わらずあまり人が来なかったのは玲奈にとっては不幸中の幸いだったようだが、それでも客が入ってくるたび彼女の照れは止まらなかった。

 かく言う俺も似たようなものだった。

「ご、ご注文を……く、繰り返させていただきまふッ!」

 不覚にも噛んでしまいさらに恥ずかしさが増してしまった。

「し、失礼いたしまひたッ!」

 これではもう取り返しがつかない。

「や、焼きそばが、お、お一つと、ひ、冷やし中華がお二つですね、少々お待ちくださひッ!」

 最後まで期待を裏切らない俺はそそくさと厨房へと引っ込んだ。

「大丈夫かい、葉月ちゃん?」

 厨房では叔父さんが一人で料理を作っていた。

「あ、は、はい……、大丈夫です……」

「おや、ここでは噛まないんやねぇ?」

「も、もう、からかわないでくださいよぉ!」

 俺はそうツッコんだ。

「あ、焼きそば一つに冷やし中華二つです!」

「あいよッ! あ、これ持ってって!」

 と、叔父さんが俺にかき氷を二つ手渡した。

 先ほどのお客さんの一組前のお客さんが注文したものだ。

「は、はい!」

 俺はかき氷二つを手にお客さんのもとへと向かった。

「お待たせしました、メロンソーダ味のかき氷のお客様は……」

 俺が訊くと女性のお客さんが手を上げた。

 俺は女性のお客さんの方にメロンソーダ味のかき氷を置き、一方の男性のお客さんの方にグレープ味のかき氷を置いた。

「それではごゆっくり……」

 俺は再びそそくさと厨房へ向かった。

「すいませーーん、注文いいっすかぁ?」

 と、厨房に入る手前で注文を求める声が聞こえた。

 玲奈の方は接客でてんてこ舞いだったので俺が対応することになった。

「はい、ご注文は……」

 と、注文をとろうと席に向かうとそこに座っていたお客さんを見て俺は思わず驚いた。

「と、俊之ぃ!?」

 そこにいたのは俊之だった。

 アロハシャツに下は短パン、足元はビーサンと実にラフな格好である。

「おぅ、遊びに来てやったわぁ」

「ど、どうしてここに!?」

 俺が訊くと俊之はニヤッと笑みを浮かべた。

「ちょっとここら辺に野暮用があってな、その帰りでここに寄ったんや」

「へぇ……」

「それよりも注文したいんやけど?」

「……あ、ご、ごめん! えと……ご注文は?」

 俊之に言われ俺は慌ててメモを取り出す。

「冷やし中華四つや」

 俊之は四本の指を上げる。

「……四つ?」

「さっきあいつらにも電話してな、もう少しで来るんやわ」

 あいつらとはもちろん葉月の中学時代の吹奏楽部のメンバーである。

「な、なるほど……」

「じゃあ頼んだわぁ」

「わ、分かりました、少々お待ち下さい!」

 俺はそのまま厨房へと引っ込んだ。

「冷やし中華四つです!」

 そして叔父さんに伝える。

「葉月ちゃん、知り合いかい?」

「え?」

「あのお客さんだよ」

 叔父さんが俊之の方に目を配る。

「あ、はい、中学時代に同じ部活だったんです!」

「葉月ちゃんって確か吹奏楽部……だっけか?」

「あ、はい!」

「もしかして葉月ちゃんの彼氏って彼のことかい?」

「……え? い、いや、そ、そんなわけないじゃないでふかッ!!」

 ここでも俺は噛んでしまったがそんな質問をされてしまったら無理もない。

「へへ、冗談だよ、冗談」

「もう、からかわないでくださいよぉ!」

 俺は再びツッコんだ。


「お待たせいたしましたぁ!」

 俊之の席まで四人前の冷やし中華を持っていくと、そこにはすでに他の三人もいた。

「あ、ほんとに働いとるんやねぇ」

 櫻子はシャツを羽織っていたがその下からわずかにビキニが覗いていた。

「そのメイド服、けっこう似合ってるやーーん!」

 りんは思いっきりビキニである。

 女子はこのあと泳ぐ気満々のようだ。

「か、可愛さ200%……」

 望は少しだけ顔が赤くなった。

「みんな……」

 俺は少しだけホッとしていた。

 やはり知った顔がいると安心すると俺は痛感した。

「そや、ひと段落ついたら海に行かん?」

 と、俊之が提案する。

「……海?」

「せっかく目の前に海広がっとるいうのに遊ばんなんてもったいないやん」

 なるほど、そういうことね。

「でも私、なんの準備もできてないけど……」

「大丈夫、こっちで用意しといたし!」

 と、りんが紙袋を取り出した。

「また……」

「また?」

 俺の返事にりんは首をかしげた。

「え、いや、こっちの話!」

「そっか、じゃあこれに着替えてね!」

 そう言うとりんは俺に紙袋を渡した。

「う、うん……」

 俺はそれを受け取った。




<次回へつづく>


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