7話 決戦の日曜日(不本意) その3
「次どこ行こっか?」
パフェを食べ終えた葉月が俺に訊いてきた。
「早ッ! 食べたばっかじゃん……」
「いいの!」
葉月はそう言うなり立ち上がった。
「……そうだなぁ……、じゃあ遊園地でも行く?」
俺がそう提案すると葉月は分かりやすく目を輝かせた。
「行くッ!」
「よし、じゃあ行くかッ!」
俺は葉月の手を取るが彼女はさっと払った。
「今は私が男子の姿だし私が先導するの!」
逆に葉月が俺の手を取った。
「……はいはい……」
俺は仕方なく従うことにした。
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遊園地は大勢の人であふれていた。
恐らくその多くは家族やカップル、はたまた友人グループであろう。
「すごい人だね……」
「あぁ……」
俺たちはその光景に驚いていた。
連休でもないのにこれだけの人が集まっているのは異常そのものだった。
「なにかイベントでもあるのかなぁ?」
葉月は不思議そうに首をかしげた。
「さぁ……」
俺も同じように首をかしげた。
「……と、とにかく入るか……」
急に思い出したように男言葉に戻った葉月は俺の手を取って導く。
「……そだね……」
俺も従った。
俺たちがまず目を止めたのはジェットコースターだ。
そのジェットコースターは国内でもトップクラスの長さを誇ることで有名だった。
「……うぅ……、これ乗るのか……?」
葉月の顔はひきつっていた。
「ひょっとして怖いの?」
「こ、怖くないし!」
俺が訊くと葉月はそうではないといった感じで答えた。
「さ、さぁ並ぼう!」
そう言うと葉月は列の後ろに並んだ。
「強がってるし……」
俺はその様子を見て思わず笑った。
「セーフティーバーをしっかり掴んでくださーーい!」
係員からの指示が入る。
俺たちは下ろされたそれをしっかりと掴んだ。
「それではぁ、レッツゴー!」
と、係員の掛け声を機にジェットコースターが進み始めた。
「あぁ……きたぁ……」
葉月は不安そうな声を漏らした。
ジェットコースターは急勾配を上り始める。
ガタガタという音が葉月の不安を高めていったようだった。
対する俺は平気だった。
もとからジェットコースターなどの絶叫アトラクションは得意な方であった。
「おぉ、きたぁ!」
ガタガタという音は俺にとっては気分が高まるものだった。
コースターはゆっくりと上昇しついに最頂部へと到達した。
あとは下るのみだ。
「あぁ……」
葉月の不安は最高潮に達していた。
「おぉ!」
一方の俺は興奮が最高潮に達していた。
コースターはさらにゆっくりと進んだ。
前方には雄大な景色が広がるが葉月にはそれを見る余裕などあるわけがなかった。
そしてコースターは下り始めた。
はじめはゆっくりと次第に加速していった。
「きゃあああああああああああ!」
葉月は思わず女言葉で絶叫した。
「うおおおおおおおおおおおお!」
俺も絶叫したがそれは興奮からきたものだった。
「ひゃっほぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
俺は両手を上げて絶叫した。
ベタだがこれが最高なのである。
葉月には当然そんなことをする勇気などなかった。
思いきり目を瞑ってしまっている。
そしてそのまま二分間の乗車時間が終了した。
「……うぅ……、酔った……」
乗り終えたあとの葉月はすっかりゲッソリしていた。
「そこまで!?」
俺は当然ケロッとしていた。
「……私が男の姿じゃなかったら……、絶対に断ってたのに……」
「ハハハ、ごめんごめん、お詫びにもっと気軽なのに乗せるからさ」
俺はそう言うと葉月の手を取った。
俺たちはそのあと戦車をモチーフとした『撃って爽快!パンツァー・フォー!』や、メリーゴーランドなどに乗った。
あっという間に日は暮れていった。
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「いやぁ、楽しかったぁ!」
「そうだねぇ、ジェットコースター以外は……」
「悪かったって!」
俺は急いで謝った。
「……ふふ、でもデートできてよかった!」
「……え、なんで?」
俺にはその言葉の意味が理解できなかった。
「なーーんでも!」
葉月はそれ以上は言わなかった。
「なんだよぉ?」
「ジェットコースターに乗せたから教えなーーいっと!」
「教えてくれよぉ!」
俺はわけが分からないままなのであった。
<次回へつづく>