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別世界:探索クエスト

ダンジョン『かめさんの迷宮』が解放される、そのニュースは小さな町ネックにあっという間に広がった。

今までは調査隊という限定された冒険者、人数しか潜ることが出来なかった為、町の武器屋や防具屋、道具屋は売り上げが伸びた事は伸びたが、思ったより少なかったのが現状だ。しかしダンジョンが完全に解放されれば町に入ってくる人数が格段に増える。よって爆発的な伸びが期待できる。


冒険者も歓喜していた。『かめさんの迷宮』には見た事のないようなモンスターが掃いて捨てるほどウロウロしている為知らない素材が取り放題、まさに宝の山だ。だがもちろん命の危険もある、がそれよりも好奇心と戦闘心の方が勝っているのだ。


ギルド支部には受付開始前なのにすでに列が出来ていた。そしてギルドの中だけではなく、外にもたくさんの人が待機している。列に並んでいるパーティリーダーやパートナーがクエスト受注が完了するのを待っているのだ。

またある者はこの待ち時間の間に早朝から出ている屋台で腹ごしらえをしたり、ダンジョンに持っていけるような携帯食を手に入れている。


静かに並ぶ等決してしない冒険者たちは騒がしくしながらもギルドの列に並んではいるが、そんな中にはいつぞやの見えない友情で繋がっている二人がいた。


「ようやく解放されたな。これで今日からは安酒じゃなく高級な酒が飲めるぜ」


大声で笑いながら言うのはいつぞやの全身鎧フルアーマーの男。30代ほどの年齢だがもっと年上に見えてしまうのは髭のせいか。大剣もしっかりと背中に背負い準備は万端だ。


「私はお酒よりも美味しい料理が食べたいですよ。海の魚が食べたいですね……ネックじゃ高すぎて中々食べられませんからね」


大人しい優男ではありそうだが、しっかりと自分を持っている雰囲気のある魔法使い、それが彼だ。20代後半ではあるがその外見は相方とは違いもっと若く見える。青年とオヤジというまさに対照的なコンビである。


「今日の為にしっかり魔法袋アイテムボックスも手に入れたし、これで素材がたくさん持って帰れるってもんよ。今ならどんな素材でも高く買い取ってくれるから楽でいいぜ」


「えぇ、出会ったら即撃破、一匹も逃せませんよ。フフフ、フフフ、フフフフフッ」


「お前……目が金マークになってるぞ……」


金にどこまで貪欲なのか、気持ち悪いほどの笑みを浮かべている優男がそこにはいた。

周りの勇敢であるはずの冒険者達も黙ってそっと距離置いた。


気持ちの悪い青年が作り出していた変な雰囲気がギルドに漂っていた時、壁に掛けられていた時計がちょうど午前9時を指した。


「それでは受付を始めさせていただきます。最初の方どうぞ」


「どうぞー」


9時を指した瞬間、受付の奥から2人の男女が表れた。30前半の短い茶髪の男はまっすぐ受け付けの椅子へと座り冒険者達へと体を向ける。20歳前後の若い女は男の後ろの席へ座り、奥から来る時に一緒に持ってきた小さな長方形のボックスと台帳のようなものをテーブルに置く。

田舎のギルドには2つも3つも受け付けは必要ない。ネックのギルドも受け付けは1つだけ。長蛇の列は順々に時間をかけて消化していかなければならない。


列の一番最初に並んでいたのは若い女性だった。まだ20歳になったばかりか、もしくはそれ以下かもしれない程幼さをその顔に残している。艶やかな金髪をツインテールにしているからか、はたまた青く澄んだ釣り目の瞳がより幼さを引き出しているのかもしれない。

高価では無さそうだが緑鮮やかな皮鎧。肩と胸当ての所は金属で覆われているが非常に動きやすそうな装備だ。武器は腰に一本の長剣、大きな赤い魔石が埋め込まれている。


「おはようございます。本日はどのようなご用件でしょうか?」


相手が幼く見えても、老けて見えていたとしても、それだけで区別はしてはいけない。若くても圧倒的な強さを持つ者もいれば、老けていても驚愕に値する魔力を持つ者もいる。冒険者は外見では判断してはいけない。

ギルドの受け付け担当ともなればそんなことは百も承知。だからこそ丁寧な対応が必要なのだ。


「『かめさんの迷宮』の探索クエストを受けたいの」


彼女の目的は、いや、ここに並んでいるほぼ全ての冒険者の目的は今日から解放された『かめさんの迷宮』の探索クエストを受ける事。冒険者にとっては一攫千金のチャンス。逃すことなど考えられない。


「かしこまりました。それではギルドカードを確認させて下さい」


「はい、どうぞ」


彼女は腰にぶら下げた袋から一枚の緑色のカードを取り出した。


ギルドにおいて所属証明書となるのがこのギルドカードである。非営利組織であり何処の国家にも所属していないにも係わらず、その力は一国以上。「全ての国家、全ての地域に安全を」という理念を持って運営されている為、ありとあらゆる場所にギルドは存在している。よってギルドカードさえ持っていれば何処でも自分の証明が可能となる。


しかしギルドカードにもランクは存在し色によって区別され、信頼と実績によって変動する。いくら強くても信頼出来ない者は決して上位ランカーにはなれないのだ。

ギルドに登録した時貰えるのが『黒』のギルドカード。色が薄くなるにつれてランクは上がっていく。『黒』から始まりEランク『茶』、Dランク『紫』、Cランク『緑』、Bランク『赤』、Aランク『黄』そして最上位Sランクの『白』。ちなみにこの上位には一部のギルド幹部が持つ『銀』が存在するが、銀のギルドカードなど地方で見ることは一生無い。


受け取った男はカードを置くにいる女へと渡し、渡された女はボックスに乗せる。するとカードが一瞬光り、カードに文字が浮かび上がった。

文字が浮かび上がったカードを再び受け付けの男へと渡すと男は視線を手元に落とす。


名前:セリーナ・フリントシャー・メザイア

称号:―――(なし)

ギルドランク:C

性別:女

年齢:19歳

職業:剣士ソードマン

出身地:ミリテリアス

所属:『月の演舞ルナティック・ダンス


男はカードの情報を手元の書類へと書き写しながら言葉を掛ける。


「クエスト受注ランクは超えているのは確認致しました。クエストはパーティでの参加でよろしいですか?」


「そうです。『月の演舞ルナティック・ダンス』の全員で探索に行く予定です」


「ではパーティ全員にクエスト受注完了の手続きをしておきます。他には何かございますか?」


「大丈夫です」


「分かりました。それでは受注は完了致しました、御武運を」


気休めかもしれないが受け付けは全ての冒険者が無事に帰ってくるように武運を祈る。それでも何日かに一人は帰らない。遺品が見付からないことも多いためどうなったかも分からないことが多い。

それでも顔見知りの冒険者が無事に帰ってくるように願うのがギルドの受け付けなのだ。


「それではお次の方、どうぞ」


セリーナが受け付けから少し移動した瞬間、受け付けの男はすぐに次の待ち人を呼ぶ。


ギルドカードを受け取ったセリーナは袋に仕舞うと出口へと向かって歩いて行く。背中には不安と期待が渦巻いているが、それも彼女の仲間達がその視線に映るまで。仲間を見た時、その顔は大きな安堵の表情に変わるのだった。

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