現実:レイドバトル
ようやく世間が従業員の為にあったはずの36協定をいよいよ重視し始めたり、総理大臣が有給休暇の最低取得日数を決めた為に有休を取得させれたり。色々と就職当時とは働く環境が変わってきたこの頃。
会社から半ば無理やり有休を取得させられたせいで何の予定も無いのに4連休という困った状況になってしまい、酒と肴とお弁当を買って家に帰って来た連休初日。
いつもの様にエネルギーを補給して早速ゲームを起動する。
いつもの見慣れたマスタールームに行くとウィンドウの端にエクスクラメーションマークが現れていた。このマークが出ているという事は何かしら新着情報があるという事。
しかもマークが現れているのは組合の画面。交換希望かイベント関連かぐらいしか俺の所属している『どうぶつの森』という組合は活動しない。そして今俺は特に交換などはしてはいないので、自動的にイベントかそれ以外の何かになる。
「さてさて一体何だろうな?何かイベントとかあったかな?」
エクスクラメーションマークを押し違うウィンドウが開かれるとそこにはレイド出現!の文字。
「あーレイドバトルか……これ時間合わせなくちゃいけないから面倒なんだよな」
イベントには多く分けて4つある。
一つは探索で得られる道具の中にイベント専用の道具があるため、それをひたすら探索することでゲットして特定の期間限定アイテムと交換するというもの。中には結構性能の良さそうな道具もあったりして、交換の時の担保になるくらいには貴重なものもあったりする。
一つは特殊な環境で純粋なる他プレイヤーとのバトルロワイヤル。自分の手持ちのモンスターで陣形を組み、兎に角相手のモンスターを全て倒したら勝ちという扱く単純なルール。だが時には初心者が上級者にぶつかってボコボコにされるのも珍しくない。
一つはダンジョンバトルの強化版である組合バトル。これは組合に所属していないと意味を成さないイベントなのだが、基本的にほとんど全てのプレイヤーが組合に所属しているため、大体のプレイヤーは参加できるイベントだ。
最後の一つは指定されたモンスターを探索して見つけ出し、倒すことで得られるポイントを稼ぐタイプ。そしてこの見つけ出したモンスター、これが非常に強い。圧倒的なまでの体力(HP)と攻撃力(ATK)を持っているので何回も突撃しなくてはならないのである。
そして今回のイベントは最後に挙げた指定のモンスターを倒してポイントを稼ぐタイプ。しかも相手の属性が木であるユピテルというモンスター。……水と闇属性である俺にとっては相性が悪すぎる。
一番効果的なダメージを与えられるのは勿論火属性なのだが、俺は自分の陣形に組むことは出来ない。
かといって攻撃に参加しなければ討伐した時に得られる報酬が無く、でも与えたダメージによって報酬が決まるのでやはり効果的なダメージは与えたい。
水属性は木属性には効果はいま一つの効果しか与えられない。五行思想の関係がこのイベントには含まれており、通常のモンスターの攻撃など焼け石に水程度の効果しかない。
つまり過ぎるという事がない。どうやっても相生の関係を崩すことは出来ないのである。
光と闇はこの関係にはなっておらず、『正と負』や『太陽と月』という互いに相生の関係ではあるが五行の属性には通常の攻撃判定とある。よって俺が組むのは自然と闇属性だけになる。
だがここで兵力の問題だ。設定されている以上のコストでの編成は出来ないのは言うまでもないだろう。一度に編成できるモンスターの数も5体までと決まっている。
モンスターのランクが上がるに連れて高くなるだけではなく、同じランクでも総合能力値が高ければ兵力は少しだけ高くなる。そして俺が今編成できる兵力は412まで。単純にランクかける10が兵力の目安なのでランク8を中心に編成しなくてはならない。
「確実に1体はランク9でもいけるけど、でも上手くいけば2体目もいけるか?」
少し能力値が低くなってもランクの差は絶対に覆らないのだから、少しでも高いランクのモンスターを揃えてぶつけたい。
俺は持っているモンスターの兵士を考えながら色々組み合わせを考える事、十数分。
ようやく412ギリギリの編成を組むことが出来た。
チーム1
番犬:兵力80
死神:兵力81
巨神:兵力81
吸血王::兵力78
堕天使:兵力:92
うん、ランク9を2体とか無理。
どうしても2体目もランク9のモンスターを入れると、今の俺の兵力から考えると一体がランク7になってしまう。
ランク9を2体にするよりもランク7を入れる方が問題がある。ランク7などレイドバトルでのボスになど意味をなさない。
それほどまでにランク7とランク8では防御力という点に置いて差がありすぎる。
ゲームの画面上では僅かな差でしかない。5や10程度の差で一体どれほど変わるというのだろう、全然変わらないのではないのか。そう思うのも無理はないくらいには初心者にはどれくらい影響があるのか分からない数字ではある。
影響の度合いは相性などにもよるが、5変われば下位ランクのモンスターの攻撃など意に介さない程には違うのである。
悪鬼がどんなに頑張ったところで悪鬼王には勝てない様に、ランクの差は凄まじい力の差を生じさせる。
だからこそ少しでも体的にランクを上げる事は良いことなのだ。
これは冒険者のパーティでも同じで誰か一人が以上に強いよりも、バランスよく皆で短所を補えるような組み合わせの方が生き残れる確率は高い。
「じゃあ早速参加したいが……うーん、開始時間が12時か。まあ昼食を取っている時間に被るのは困るけど、しょうがないか」
ゲームに参加しているのは子供もたくさんいるが、大人だって人口比率から言ったら多い。寧ろ大人の方が多いのではないかとも思えるほどにいる。
最近の大人は子供の頃からゲームに慣れ親しんできたせいなのか、俺が子供の頃に見てきた大人よりもゲームをしている人間が多い気がする。駅やショッピングモール、学校や会社でもスマホゲームに夢中になっている人が多い。
そういった門戸が以前よりも確実に開かれているからこそ、こういったゲームに大人が多いのかもしれない。
いいのか、悪いのかは分からないが、大人になれば最低限の礼儀を弁えている人が多いから安心だ。まあ、たまにクソみたいな大人もいるけどさ。
「今日は折角だし二郎でも食べに行こうかと思っていたけど、諦めよう。冷蔵庫に何かあったかな?」
現在の時刻を確認するとまだ10時を少し回ったところ。イベント開始までは後2時間くらいは時間がある。
開始される前までに少しでも強化する必要がある。目指せ上位入賞。
「そうだ、そういえばこの前ガチャが導入されているんだった。ポイントも余っているし、どうせならレアなアイテムを集めて装備させちゃおう。そうすれば少しは戦えるだろう」
導入された直後にしかやった記憶の無かったガチャ。
ガチャを引かなくても、道具を装備させなくてもそれなりに戦えていたためにすっかり忘れてしまっていた。自分の強化ばかりに関心がいっていた。
「そうと決まれば引きに行くか」
重い腰を上げ、俺は目的の部屋へと向かうことにした。申し訳ないがショボいガチャ部屋へ。




