表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
気づかない内にそこだけ別世界  作者: あちゃま
第4章 宗教の自由(仮)
48/50

別世界:正体不明

その日人類は魔王は魔王であって、魔王ではないのだと理解した。

人類にとって魔族や魔物こそ敵であり、倒すべき存在なのだと思っていた。しかし、その普遍ともいえる常識が覆された。


アレは人か、魔物か、魔族か。いや、もしかしたら神なのではなかろうか。

アレの前では全てがどうでもいい存在でしかないのかもしれない。


人類も魔族も魔物も全てが等しく、強大な力の前では無力なのだと思い知らされた。


そこにいるだけで圧倒的なまでの存在感を放ち、一切の言葉を発することなく佇むその姿は、まさに生物の極致にいるといっても過言ではないだろう。


一目見た時、誰もが歯向かうことを放棄し放心した。

まさにこれから魔王と人類の緒戦を行おうとしていた勇ましき軍勢が、その英姿を見た瞬間に何もかもを放棄したのだ。

そんなこと、通常では考えられないだろう。何処かの国の王であっても、歴史に名を残す覇王であっても、はたまた多くの信者を抱える宗主であっても、そのようなことは決してない。


アレはそんな放心している者たちで大地を埋め尽くした草原で、たった一回腕を振っただけ。だたそれだけで人類の勇士も魔の蛮族も全てが吹き飛ばされたのだ。

生き残ったのは本当に極僅かな者たちだけ。多くの勇士と蛮族が一瞬でこの世界との別れを告げた。


敵も味方も関係ない、ただの暴力がそこにはあった。


――――アレが何なのかは分からない。

――――アレが生物であるのかも、本当の所は謎だ。

――――人類にとって味方なのか敵なのか、今となっては確認しようがない。


ただ一つ言えるのは――――アレと再び相まみえた時、私は生きることを放棄するだろう。


――――――――――――アードゥルⅧ世目録 著:アフラ教国―聖ケントルム教会―大司教アードゥル・カルテル






ホモノミウム帝国の軍勢が壊滅したとの報告は一瞬にしてミリテリアス国にもたらされた。

壊滅の直接的な原因が何だったのかも、同時に。


国内の迷宮ダンジョンの一つ、かめさんの迷宮という一見ふざけた様な名前の迷宮ダンジョンで発生した問題でも頭が痛い状況。それに追い打ちをかけるかのように再びミリテリアス国に問題を起こし、偏頭痛に悩まされている丞相の頭をさらに悩ませた。


「まったく、番犬ケルベロスだけでもどうすればいいのか見当もつかんというのに。今度は何だ?正体不明の怪物だと?腕を振るだけで全てを吹き飛ばす?……意味が分からん」


いつもの執務室で丞相はデスクに向かいながら、背後にある大きなイスの背もたれへと体を預けた。


「ですがこれも本物ですよ。それは以前にSランクの彼らからの報告書が事実だったことからも御分かりでしょう?今の状況で虚偽の報告書を作成して提出するような愚か者などいませんよ」


「分かっているさ。分かっているからこそ意味が分からんのだよ。正体不明なのはこの際百歩譲って良しとしよう。昨今の情勢を考えれば魔王が復活したのだから、モンスターたちの異常行動や人魔戦争が起きることも想像は出来るだろう。だがこの部分、これは一体どういう事だ!?我々の敵は魔王では無かったのか!?」


報告書の一文を指差しながら、思わず声を荒げてしまう姿はいつもの冷静な彼からは想像もつかない掛け離れた姿だった。

だがそれも無理はないのだ。何故なら彼が指差しているそこにはこう書かれているのだから。


『突如現れた正体不明の存在による攻撃により人類と魔族の軍は壊滅。加えて、この攻撃により魔王と思わしき存在は負傷し重体の模様。』


「人類と魔族は遥か昔から血を血で洗うような戦いを繰り返してきた。人類側の兵士たちが壊滅させられたことも過去に何度もあった事。だからこそ、そこの点については非常に遺憾だが理解は出来る。だが今回は魔族側も大きな被害を受けている。何なのだ奴は!?人類にも魔族にも属さぬ第三勢力だとでも言うのか……?」


正体不明の存在、その存在が突如現れて人類も魔族も等しく攻撃され壊滅させられたという事実。

そしてその存在による攻撃で魔王が負傷したという事実。


神話では魔王を傷つけられるほどの存在は勇者しかありえない。だが勇者が人類に攻撃するなど考えづらい。

まして人類側では未だに勇者という存在は確認されていない。


遥か昔、世界を破壊と混乱に陥れていた魔王は五大人類それぞれの英雄で倒された。

草人ヒューマン騎士ナイト

土人ドワーフ鍛冶師スミス

獣人セリアン盗賊シーフ

巨人ジャイアント戦士ファイター

森人エルフ魔術師ウィザード

彼らは魔王を倒した後、世界でたった五人しか保有出来ない『勇者ブレイブ』という名で呼ばれ、各国や組合ギルドでも全ての職業の格上という事で『神聖騎士ディバインナイト』や『賢者セージ』という職へと変更された。


何故彼らや彼女らだったのか、決められた過程はもう何処の古文書にも記されていない為定かではないが、結果的に彼らは寛大で気高くそして強かった。

戦後処理に多くの野心家が声を挙げたが、一番の功労者である彼らの一声で全てが収まっていった。だからこそ今まで世界はそれなりに平和だったのだ。


だが今まさにそれに変化が訪れている。かつての存在していた魔王が復活し、幹部と思わしき存在も確認された。人魔戦争の火蓋が切って落とされ、まさにこれから世界を巻き込む強大な戦いが始まろうとした矢先、魔王よりもっと理解に苦しむ存在が現れた。

よりにもよって魔王に重大な負傷をさせて登場というサプライズで。


「全長およそ五十メートル。姿形はほぼ男性の人型の様ではあったが、下半身と思わしき所は何かに覆われており不明。全身に雷を纏いながら雲の合間から現れた……ですか。およそ人とは思えませんね」


珍しく苛立っている丞相の秘書と思わしき老齢の男性は特に宥めることもせず、彼が指し示している個所の文章を朗読した。

読み終わった後に大きく肩で溜め息を吐きながら。


「戦ったのがかの有名なジューピター草原というのもマズイ。あそこはこの国とは距離があるとはいえ畜産の盛んな地、生産された農産物もそれなりに輸入している。影響がどの程度出るかまだ分からん」


「中でも一番はやはりカウでしょうかね。ミリテリアスでは輸入の3割はあそこで生産されたものが使用されています。今回の戦いの前に避難はしてはいるでしょうが、餌となる牧草の多くが駄目になっている可能性がありますし……」


謎の生命体が腕を一振りしただけで人々や魔物が吹き飛ぶほどの衝撃。それほどの衝撃がただの大地に与える衝撃は計り知れないほどのものになるに違いない。

最悪、大地がめくれて荒野の様になっている可能性も考えられる。


そんな場所に戦いが終わったからと言って動物たちが戻って来て今まで通りの飼育が出来るかと言われれば、不可能としか言えない。


「食糧問題だけではない。今回の敗戦だけではなくこの正体不明の謎の存在が敵なのか味方なのか、各国の諜報がこぞって情報戦争へと突っ込んでいく。今後の主導権を取ろうとな」


「……最初に見つけた国が今後の人類の牽引国に名乗りを挙げる、ですか。まあ正直私にはそこまでになるのか想像が出来ませんが、少なくとも勇者選定に置いては非常に重要なウエイトを占めるのは間違いないでしょうね」


「報告を全て真実だとすれば、この存在は間違いなく魔王より――――強い」


力強く断言する丞相の言葉に秘書はゴクリと生唾を飲み込んだ。


人類にとって一番の脅威は過去も現在も魔王だと認識されていた。だがこれからの未来、将来では――――変わっていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 好きな作品なのでだらけず、更新が続くことを祈ります。頑張ってください。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ