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気づかない内にそこだけ別世界  作者: あちゃま
第4章 宗教の自由(仮)
45/50

別世界:予想外

一階層に大量のモンスターを詰め込めるだけ詰め込み、一体レベル間での差がなかった場合、誰が統率を執るのか。その実験を行って現実時間リアルタイムで一週間後の夜。


俺は久々に十分なゲームを満喫できる時間を確保したので、早速ログインし実験場ともなっている階層の確認を行っていた。

いつもの様に慣れた手つきでスライドさせていくと目的となる階層の光景が見えてきた。


そこには……


「マジか。普通にリーダー出来てるじゃん!?」


そう、そこには普通にリーダーと呼ばれる統率する存在が生まれていた。

リーダーであろう者を前にして横には補佐であろうサブリーダー。向かい合うように十匹ほどのこれまた他のモンスターとは違った様子の奴がいる。

十匹ほどの奴の後ろにはまるで控えるかのように並んでいる普通のモンスターたちが所狭しと並んでいる。


当初詰め込みまっくった時にあったようなカオスな状況は一切見られない。


通常であればレベルによる進化などによってのみ、上位と呼ばれる個体が生まれるというか現れるというか、兎に角ようやく手に入れられるはずなのに、これは一体どういうことなのだろうか。


……よし分からない時はあれだな。掲示板で廃プレイヤーに聞くのが一番だ。


そう思った俺は、さっそく掲示板へと書き込みを行った。

掲示板への書き込みなんて組合ギルドへ加入した時と直接他のプレイヤーと取引などするとき以外は正直開かない。それも不特定多数が見ることが出来る全体への掲示板への書き込みなんて記憶している限りほぼ無いと言ってもいい。


発売された最初こそなかったが、今では多くの攻略サイトが開設されており、そこを開けば裏技や小技が数多く乗っている。

検証してそういった情報を記載することに喜びを感じている一部の有志が解説している情報サイト。中には動画サイトで実況放送している人だっていて、攻略する方法が細かく詳細に流されている動画だってアップされている。


正直、情報を得るだけであれば検索サイトで検索さえすればいくらでも情報が出てくる時代だ。


でも俺はそんなことはしない。

だって面倒だもの。……みつを。なんちゃって。


もちろん人によってはすぐに人に聞くなんて駄目だ。まずは自分で調べろという人もいるだろうが、個人的には人に迷惑さえ掛けなければどっちでもいいのではないかと思う。


クレクレをしたところで無視されるか板上で一言言われるくらいで、ほとんどの人はスルーするんだから。


掲示板へと書き込みをした俺は、答えとなるレスが来るまで違う作業をすることにする。

もしかしたら返答なんて来ないかもしれないが、その時はその時で、また別の方法でアプローチしてみよう。


そのまま忘れる可能性も無いのだけれど……。






人類の最終兵器にして最強の切り札。

そう言われる単独ソロのSランク冒険者の五人がネックの街を発った後、残された組合ギルドには多くの問題が山積したまま残されていた。


前代未聞の迷宮ダンジョン属性以外の属性を持つモンスターの出現。

通常であれば迷宮ダンジョンを攻略する際はその迷宮ダンジョンの属性を鑑みて、自らが持ち合わせる手を考えて対策や訓練を行い、攻略を行っていくのだが定石。

しかし今回、その普遍とも言われていた常識が覆される事態が起きた。


かめさんの迷宮には水と闇属性のモンスターしか出て来ない、それが昨日までの当たり前の日常だった。でも今日からはもう違う。前代未聞、火属性のモンスターが確認されたのだ。


目的であった歴史上の怪物である番犬ケルベロス。その討伐を目的として組まれた依頼クエストは多くのAランク冒険者だけではなく単独ソロのSランク冒険者を五人も加えた、近年稀にみる過剰戦力とさえ見られていた。


だが蓋を開けてみたらどうだろう。


全滅もしていなければ一人の死者も出さず、全員が無事に帰ってくることが出来た。だが、ただそれだけだ。


大怪我をしてしまい冒険者として休業せざる負えなくなった者には完治するまでの治療費とその期間の生活費を支給せねばならない。

怪我によって冒険者事態を引退せねばならなくなった者には多くの慰謝料として金とその後の仕事の斡旋を行わなければならない。今後の生活の目途をつけさせなければならないのだ。

今回の様な組合ギルドからの強制的な依頼クエストに参加させてしまった事によるこういった福利厚生はしっかりと行わなければ、組織としては存続できない。


もちろん強制依頼の時だけで、自らが受けた依頼クエストの時はその限りではないが。


「それでエミリア、今回の賠償はどれくらいになりそうなのかな?最悪の場合は中央へ人を走らせなければならなくなるが」


ネックのギルドマスター室では今日もマスターが頭を悩ませる。


最初は意味不明な迷宮ダンジョンが発見されたとき。次に森の守護者ハイエルフの腕輪が発見された時。そして最後にSランク冒険者を送り出した時だ。


既にだいぶ後退した頭皮と日々戦うのが日課になっている彼は、そうエミリアへと今回の賠償への対応について問うていた。

今回の依頼クエストに参加した多くの参加者はこのネックの街を一時的とはいえ拠点にして活動していた冒険者たちである。仮に他所から来たばかりの冒険者であっても全ての責任はこの町のマスターである彼にあるのだ。

決める裁量も彼にあるのは言うまでもない。


「正直に言って厳しいのが現状です。かめさんの迷宮によってもたらされた数々の利益や富によってこの組合ギルドが潤ったのは事実ですが、それでも今回の規模での賠償となると話は別です。賄うとなると日々の営業に支障をきたすかと」


エミリアのその言葉にギルドマスターは頭を抱える。

想定指定通りの答えが返ってきたからだ。


「やはりそれほどまでに額は大きいか。やはり中央に人を向かわせて助力を乞うしかないか」


「はい、それがよろしいかと思います。幸いと言っていいのかはわかりませんが、今回は死者がいない分聞き入れてくれそうな雰囲気もあります。加えて今回の依頼クエストは国からのものでしたので保障の何割かは請け負って頂けるはずです。明らかに事前情報と違っていることが多すぎましたので」


「それでも数割が限界だろう、満額とは行かないさ。だがそれよりも問題は……」


そこでマスターの口が噤まれてしまった。

今回の依頼クエスト失敗は確かに非常に頭の痛い問題だが、それはあくまでも金銭によって解決できる、明確な対処法が既に確立されているからこそ対応は出来るのだ。

しかしそれ以上に明確な対処法が無くどうしようか頭を悩ませる問題、それがかめさんの迷宮の処遇についてである。


前例の無い事態に対し、人はあまりにも稚拙になりそして後手に回ってしまうことが多い。

今回はどうだろうか。果たして自分は上手い対策をとることが出来るだろうか。


ネックの街のマスターである彼だって昔は冒険者として鳴らした者だ。

迷宮ダンジョンの楽しさや恐ろしさ、与えてくれる名声や富を誰よりも知っている。だがだからこそ判断を鈍らせてしまう。今でこそ一般人ではあるが冒険者であったからこそ、その立場で物事を考えてしまう傾向がある。

であればこそ、一般人であるエミリアの意見も重要な判断基準になるのだ。冒険はしてはいないが迷宮ダンジョンに関わっている人物の考えを。


「今後の迷宮ダンジョンの扱いについて、ですよね」


「その通りだよ、エミリア君」


「最も良い方法として考えられるのは……やはり迷宮ダンジョンの封鎖、でしょうか」


「やはりそう考えるのが一番合理的か。だが、それは……」


エミリアの提案した提案、それが一番合理的でネックの街にとっても安全なのはわかっている。そう、彼だって分かってはいるのだ。


だがそれには大きな痛みが伴う。


ネックの街には未だに一大産業とも言えるような街自体を支えることのできる産業など存在しない。元々小さな小さな集落だで領主も男爵という領地持ちの中では一番低い身分。そこにたまたま迷宮ダンジョンが出来たことにより莫大な富と名声を求めて人々が集まったからこそ、今のネックの街が出来たのだ。


もしもその肝心の迷宮ダンジョンが閉鎖などされたら、どうなるか。考えるまでもない。


「最悪この街が死ぬことになりますね」


「あぁ、その通りだよ。今はまだ迷宮ダンジョンから産出されたもので何とか食い繋ぎ街の周囲の魔物を倒して何とかなっている冒険者たちも直ぐに見切りをつけてしまうだろう。そうなったらこの街は死んだも同然。あっという間に過去の状態に戻ってしまう」


「ですが何もせずにこのまま、というわけにもいきません。既にSランクの方々は王都に向けて発ってしまっているのですから、陛下に話が行くのも時間の問題です。ただでさえ世界は魔王復活について議論が高まっています。問題を蓄積させたままなんてことはしないでしょう」


「普通に考えればそうだろうな……仕方ない。エミリア君、ハンティングフィールド男爵に面会が出来るようにアポを取ってくれ。日時の指定はしない。兎に角一番早く出来る時間を手配しておいてくれ」


「分かりましたマスター。では急いで準備をしてまいります」


そう言ってエミリアは部屋から出て行った。


ネックの街はあくまでも貴族であるハンティングフィールド男爵の領地であり、全ての決定権は男爵自身が持っている。

迷宮ダンジョンを封鎖した時の損害は冒険者も組合ギルドも被りはするが、最悪両社は他の街に移動すればいい。だがこの街に昔から住んでいる住人は違う。今までのような生活が出来なくなることは間違いない。住民の不満は絶対的に膨らみ、最悪の場合暴動にまで発展してしまうかもしれない。

そしてそんな決定をした人物を殺してしまう可能性すらある。


だからこそギルドマスターは封鎖という最終的な決定はしない。あくまでも助言という体で男爵に話すだけだ。

最悪の場合になった時、全ての責任を男爵に押し付けるために。


ギルドマスターはエミリアが出ていったマスター室で、どう上手く男爵を誘導するか考えを巡らせ始めた。

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