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気づかない内にそこだけ別世界  作者: あちゃま
第3章 最強の探索
43/50

別世界:ダンジョンバトル

迷宮ダンジョンバトルは毎回決まった時間に開始される。土日は正午の12時から、平日は夜の18時からだ。

これはユーザーの多くが小さな子供という事ではなく、それなりの年齢である高校生から社会人ということからその人たちが仕事や部活が終わり余暇を楽しめるであろう頃合いを考えての事らしい。


現在の時刻は平日の18時。ちょうど迷宮ダンジョンバトルが始まる時間である。


「さぁ、始めようか」


言って俺は気を引き締める。


今回の相手の情報は分かっている。

プレイヤー名を『Thexez1414』さん、迷宮属性を火と光を持つ人だ。何処の組合サークルにも属していない無所属のプレイヤーであり、ダンジョンレベルも38という初心者に毛が生えた程度の最終ログイン日時を14日前という……放置プレイヤーである。

つまりもうこの人はDANGEONE MAKEをプレイしていない人、やめてしまった可能性が高い人という事だ。


ここまで放置しているとなるともう復帰する事はほぼ無いだろう。後腐れなくボコボコに出来る。

中堅プレイヤーの意地を見せてやろう……相手はもう実質NPCなんだけどね。






開始30分、俺の迷宮ダンジョンは100層まで突破されてしまった。だが言い訳がましいかもしれないが仕方がないのだ。


迷宮ダンジョンバトルは誰を攻め込ませて誰を守らせるか、あらかじめパーティとも言えるような組み合わせを考えて置く。

今回の攻めのパーティである相手のエースモンスターは如何やら炎王龍ファイアードレイクの様。ランクは7だが攻撃力だけならばランク8のモンスターに迫る程の強力なモノであり、レベルを最高まで上げたとするなら中堅のランク8と戦っても負ける事は無いだろう。それほどまでに強力なモンスターだ。


だが見る限りレベルは12と育ててはいたようだが強くはない。そして装備も一切ないという事はステータスの底上げは無いという事。

そして100層の悪魔デビルはレベルこそ上げてはいたが、正直装備までは手が回っていなく、純粋なステータスで比べると明らかに低い。負けてしまっても可笑しくは無い。


だがここからは違う。105層のボスからは俺のクジ運がいかんなく発揮された武器や防具を装備した状態で待ち構えているのだ。

いくらランク7の炎王龍ファイアードレイクであったとしても負けはしないさ。






意気込んで待ちわびて、そして手ぐすねを引いて105層のボス部屋に画面越しに張り付く事30分。一向に彼らが来る気配がない。


100層まで僅か30分という時間で侵略してきたのにたった5層、たった5層を攻略するのに随分と時間が掛かっている。

100層から105層の間にはボスは存在しない。モンスターはいるにはいるが、それでもランク3以下が殆どで育てていないとは言ってもランク7の炎王龍ファイアードレイクにとっては赤子の手を捻るに等しいだろう。


だというのに一向に来ない。これは明らかに非常事態だ。

この階層を越えなければさらに下層へ向かう事は不可能であり、他に抜け道の様なものなど存在しない。つまりどうやってもここは通らなければならないはずなのだ。


それなのに来ない。つまりそれは――――上層で何かが起きたという事。


俺は急いで画面を切り替える。正直何処の階層で問題が起きているのか分からない。一層一層確認して潰していかなければならない。

どれほどの時間を掛ければいいのか、考えただけでも頭が痛い。


まず始めの確認作業として俺は105層のボス部屋のすぐ前に存在するセーフエリアへと映像を映す。

するとそこには――――炎王龍ファイアードレイクと必死に戦っている冒険者の集団がいた。


侵入者のはずのモンスター。


侵略者のはずの冒険者。


本来は迷宮ダンジョンを共に蹂躙するはずの存在が戦っている。

今は迷宮ダンジョンバトル中のはず。迷宮ダンジョンバトル中は本来侵入してくる冒険者は弾かれ、それまで迷宮ダンジョン内にいた冒険者も弾き出されるのに……何故。


自分の迷宮ダンジョンのモンスターだけの力で迷宮ダンジョンバトルは戦わなければならないという規約ルールがるのに……どうして。


過去の迷宮ダンジョンバトルを思い出しながら現在目の前で行われている異様な光景に、様々な疑問が浮かんでは消え浮かんでは消えを繰り返し、脳がその正確な情報を理解できない。


だが俺だってDANGEONE MAKEの中堅プレイヤーだ。


これほどまでに通常とは違った状況など、原因は一つしか考えられないではないか。


「…………バグだな、うん」


そう、バグだ。それ以外に考えられないだろう。


つまり今の状況は本来弾かれるはずの冒険者が弾かれず、きっと迷宮ダンジョンのモンスターとしてカウントされてしまったに違いない。だからこそこの不思議な状況が起こっているのだろう。


自分の迷宮ダンジョンのモンスターを戦わせず、降って沸いてきたような通りすがりの戦力が勝手に戦ってくれる。


うん、ラッキー。


俺はそう思うと、そっと画面を変更した。






ネックの組合ギルドでは疲労困憊の冒険者達がテーブルや床に突っ伏していた。


男だろうが女だろうが子供だろうが老人だろうが、そんなことは今一切関係はなかった。皆が皆とにかく自分の命の鼓動に安らぎを感じ、その音に生きている実感を感じ、そして自らの体を休めている。


そんな組合ギルドの2階にあるマスター室では、今まさに激論が繰り広げられていた。


「一体何だったんだ、あれは。あの迷宮ダンジョンは水と闇属性のモンスターしか出て来ないはずだろう!それなのにどうして火のモンスターなんぞ出て来るんだ!」


目の前に置かれたテーブルに大きな拳を叩き付けながら王都の組合ギルドマスターでもある”狂荒のアレス“は苛立っていた。

原因は何を隠そう、かめさんの迷宮内で起こった事件についてだ。


「マスター、そんなに苛立たないでください。気持ちは分かりますが今はその様な状況ではないでしょう」


「分かっている、“角笛の”。だがこれは明らかな異常事態だ。今回起きたことが他の迷宮ダンジョンでも起きてみろ、難易度が一気に変わる。いや、もしかしたらそれ以上の事が起きるかもしれねぇ」


「それも理解しておりますわ、マスター。ですが、かと言って今すべき事はまずは情報の収集のはずでございます。幸い今回の依頼クエストでは死者はいませんでしたが大きな怪我を負ったものが多く居ります。一刻も早く情報を収集し対策を立てなくてはなりません」


「……事前の情報ではかめさんの迷宮は水と闇の属性を持つモンスターで構成されたダンジョンである、そうだったな“軍神の”」


「その通りだ。だからこそ我々は聖属性を付与した武器や木属性を使える者を用意したのだ。無駄になってしまったがな」


そう言って自嘲気味に笑う“軍神のティウ”の表情にはいつもの驕っている様な雰囲気は無く、自らの不甲斐無さに自責の念を抱えているかのような苦悶の表情をしていた。


今回の依頼クエストではリーダーの役割をしていたのは組合ギルドマスターである”狂荒のアレス”だが、戦略や攻略方法を考えていたのは“軍神のティウ”だ。

現在ランキングが一番高いのもあるが、それ以外にも今回参加した単独ソロのSランク冒険者の中で最も戦闘に置ける全ての能力が高い為に指揮を執っていた。軍神の名は伊達ではなく、今までも数々の戦闘で驚異的な勝利率や損害の低さを誇って来た彼。


だが今回の彼は違った。死者は一名も出てはいないが、大きな怪我をしてしまった者や今後冒険者を続けられないかもしれない者も多く出してしまった。


武器が悪かった、状況が悪かった、人選が悪かった。


言い訳しようとすればいくらでも出来るが彼はそれをしない。それは彼の大きな美点だった。


「賠償などについては後で話をすることにしましょう。まずは今回のかめさんの迷宮での出来事が他の迷宮ダンジョンでも起きているのかどうか、その確認を急いだほうがいいでしょう。マスター、私“角笛のヘイムダッル”としては一先ず王都の組合ギルドに戻って緊急に会議を開くべきかと。国にも今回の事を報告して協力を仰がなくてはなりません」


「そうですね……今回の事が丞相からの依頼クエストだったという事もありますが、今回の事が最近話題になっている魔王と関係があった場合世界にとっての脅威になってしまいます。“地祇のフロージュン”も“角笛の”意見に賛成致します」


「“軍神のティウ”も同意しよう。元々倒そうとしていた番犬ケルベロスは過去の文献によると魔王軍の幹部であったという事実もある。魔王と関係していても一切不思議はない」


「…………うむ」


単独ソロのSランク冒険者の皆が最初に発言した“角笛のヘイムダッル”の意見に賛成した。ただ一人ちょっとオカシイ奴もいた気はするが、とにかく賛成した。


組合ギルドは多数決の原理を軸に運営されている。今この場にいる5人の中で4人が賛成したという事は――――


「……一度王都に戻る。すぐに準備をして下に集合だ」


“狂荒のアレス”はそう言うと部屋を出て行く。時間を置かず一人、また一人と彼らは出て行き後には喧騒とは掛け離れた静寂だけが残った。

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