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気づかない内にそこだけ別世界  作者: あちゃま
第3章 最強の探索
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別世界:不可解な事実

ハンティングフィールド男爵家の屋敷を出たSランクの冒険者一行はその足で真っ直ぐネックの名所、『かめさんの迷宮』へと向かって行った。


街道が整備されたと言っても、少し前までは殆ど旅人も商人も通らない様な道。

拡大を続けているとはいっても増築はネックの町の中だけで精一杯。とても近隣の町や村までの街道を整備するまでの余裕は無く、小石や砂利が剥き出しの道をジャリジャリと音を立てながら歩いて行く。


通常の冒険者であれば数人組でパーティを組むのが通常である為、横一列になって歩いても十分なくらいの道幅があるが、今回の依頼クエストに挑む為に集められた一行の人数は数十人。とても横一列になって歩くなどは不可能。

その為先頭を案内人、その後ろをパーティ毎のグループで固め、まるで戦争に行く兵士が如く規律正しく行進していた。


完全武装された集団の先頭。そこには案内人としてすっかり同じSランクの冒険者の中でも有名になった三牙狼トリアイナの三人が歩いてた。


「しかし流石にランク8にもなると層々たる顔ぶれが揃いますね。単独ソロのSランク冒険者は抜きにして、同じ複数パーティ冒険者としては『導師狒狒トート』に『獅子頭マヘス』に『隼女ハトホル』と魔術と防御と治癒。それぞれに特化した冒険者を連れて来ているようですよ」


三兄弟の長男にして三牙狼トリアイナのリーダー、ネプチューンは後ろをチラリと振り返りながら呟いた。


番犬ケルベロスを発見したのにも関わらず、一度撤退した三牙狼トリアイナの三人が何故今回の討伐依頼に参加しているのか。ランクの低い冒険者であれば罵倒して意気地なしと貶しただろうが、Sランクにもなれば寧ろよく自分の力量と相手の力量を認識して撤退したな、と褒められる。

そしてそんな彼らだからこそ理由は簡単。彼らが一番今回の状況を理解し、Sランクの冒険者でもあるから戦力としても十分に数えられるからだ。


直接その目で番犬ケルベロス見て無事に帰って来た彼ら三牙狼トリアイナの三人を迷宮ダンジョン内のガイド役として、極力戦闘を行わないルートを辿ってもらい目的地に安全に向かう。

そんな理由もあって今回の依頼クエストには強制参加と言う運びになったのだ。


「だけど未だに信じられないよ。確かに自分たちの目で見た事実だし、過去の文献や図鑑にも確かにその存在は確認されている存在だよ?でもここ数百年は発見すらされて無かった奴を自分たちが見つけるなんてさ」


「しかしそれでも見つけてしまったんだ。ネプトゥーヌ兄さんの言うようにいくら信じられなくても認めなくてはいかんぞ」


「分かっているさ、ネプトゥリア。でもさ、やっぱり信じられないのは信じられないんだよ。アイツを倒したとしても、きっとこの気持ちは持ち続けてしまうんじゃないかな……」


数百年確認されなかった存在が確認された。それは絶滅したはずの生物が数世紀の振りに発見された事と一緒。それだけでも信じられない事なのに、それを発見したのが自分たちと言う点がそれに拍車を掛けている。


そもそも、だ。


ランク8になるほどのモンスターなどそうそう居るはずも無く、居たとしても多くの場合進化過程で有名になり、高名な冒険者に討伐される事が常だ。

進化するためには他者を倒し自らの糧としなければならないのだから当然の事。しかし現在多くの大陸で人類が栄華を誇っており、唯一の例外とも言えるのがSランク迷宮ダンジョンの一つ、魔王城まおうじょうが存在するエントラクト大陸のみ。

だがそんなエントラクト大陸であったとしてもかつて魔王軍最高幹部の一人にもなったランク8のモンスターになどそうなれるわけがない。


異常性をとことん孕んだその現象が如何に現実性に乏しいのか理解しているからこそ、ネプトゥーヌは未だに信じられないのだ。






三牙狼トリアイナの三人が先頭で案内をしている遥か後方。

集団の最後尾にも近い所で今回の依頼クエストの主役とも言えるSランクの冒険者たちが話をしていた。


「いつも一人で依頼クエストをこなしているせいか、こう大所帯で移動していると依頼クエストに向かっているという感覚になれないな」


Sランクの冒険者である“軍神のティウ”。彼は普段単独ソロの冒険者として知られている存在であって、ほとんどの依頼クエストを己の力だけで解決する事が出来る。そのせいか普段他の冒険者と共闘する事などまずない。


あったとしても大規模レイドと呼ばれる大氾濫と呼ばれる迷宮ダンジョンの定期的な現象の時くらいなもので、それだってしょっちゅうあるわけでもなく、あったとしても上手くその時期に氾濫の起きる迷宮ダンジョンの近くにいるとは考え辛い。


つまり何が言いたいかと言うと、ほぼボッチで依頼クエストをこなしているという事だ。


「それを言うならば俺なんてもっとそうじゃねえか。普段マスターなんて仕事をしていると依頼クエストに出る時間もなかなか作れねぇ。久しぶりに依頼クエストを受けるかと思えば国を揺るがしかねない程の大仕事、これじゃあ感覚が狂ったって仕方ねえぇ」


「マスターは仕方ないでしょう。寧ろ普通であれば組合ギルドのマスター程になる人物はその多くが現場の第一線から身を引き、後裔の育成に尽力するもの。自ら進んで現場に出たがる人物がマスターをやっているなど普通は考えられませんよ……あなた以外は」


「う、うるせぇ。マスターなんて仕事、俺は本当はやりたくないんだ。どうしてもと先代のマスターに言われたから世話になった手前断り辛くて、だがやっぱりやりたくなくて。何とか折り合いをつけ、マスターになっても現場に出てもいいという条件で受けたんだ。だから何も問題なんかない!そうだろ!?」


「いや……私に言われても。私はあくまでも一冒険者に過ぎませんので」


「くそー。俺には仲間はいないのか!?」


一人でテンションが上がっては下がってを繰り返して盛り上がっている“狂荒のアレス”ことギルドマスターを見て、一緒に来ているSランクの冒険者たちは冷たい視線を向けていた。


コントや漫才の様なそんな光景も実は王都の組合ギルドでは日常茶飯事で起きているのでそんなに珍しい光景ではないのだが、始めて見る今回招集された複数パーティSランク冒険者たちには少々驚きを与えていた。


しかしそんな事も何処吹く風、すぐさま真面目な話へと話題は移って行く。


「皆さま、実はわたくしずっと気になっている事がありますの」


口火を切ったのは組合ギルドみんなの御母さんとも言われている“地祇ちぎのフロージュン”であった。


魔術師である彼女は重厚な鎧などは身に付けてはいないが、変わりに魔術師の常装備であるマントを纏っていた。そんなマントの上からでも分かる豊満な胸、そして大きなお尻。優しそうな少し細めの垂れた瞳。

母性を感じさせるそれら全てが年齢的には若くとも何故かお母さんと呼ばれる所以となっていた。


「男爵家に行った時に色々お話を聞きました。今現在の迷宮ダンジョンの状況、過去の様々な事案への対応。そして男爵家が行ってきた迷宮ダンジョンの探索。本当に色々とお話を聞きましたが、その中でも一番最後に聞いたあのお話。それがわたくしずっと頭の隅に引っ掛かっているのです」


情報収集として訪れたハンティングフィールド男爵家への来訪。

土地を支配している支配者の家ともなれば周辺の情報は一番集まって来る。街と呼ばれるほどにまで発展したとは言っても、かつては辺境とも言われていた僻地もいい所。

そんな所なら尚更だ。


“地祇のフロージュン”の言葉に先程まで馬鹿話をしていた皆も一気に真剣な表情へと変化する。

中でも最も話に乗って来たのは五人のSランク冒険者の中でも戦いに特化した能力を持ち、一番ランキング順位が高い“軍神のティウ”だった。


「それならば我もずっと気になっている。本来であれば武器や防具の性能でのみ変化があるはず、だが男爵から聞いた話ではそれとは大きく異なっていた。もしもあの話が事実であれば組合ギルドでは絶対に掴み得ない情報だっただろう」


話がそこまで進展した時、ようやく組合ギルドのマスターである“狂荒のアレス”が話に加わった。


「確かに気にはなる情報だった。組合うちでは同じランクの冒険者でもランク内で力量の差が著しい事だってある。だが兵士となれば話は別だ。練度を一定にする為に同じような訓練を行う事で、冒険者の様に特化する能力ではなくアベレージを上げて敵に対する戦法の方が戦争には勝てるからな」


「マスターの話に付け加えるならば兵士は武器も支給されるために同じ性能だ。冒険者では到底考えられない事。だからこそ決して得られない情報だった」


「ですが私たちは運が良い事に男爵家でその情報を得る事が出来た。今はそれに感謝し理由を考えるのが先です」


通常では考えられない事。幾度となくそれがあった『かめさんの迷宮』によって男爵を始めネックの街の冒険者や住人は既に感覚が狂い始めていた。

だからこそ。それほど重要な情報とは思えなかった為に組合ギルドとの情報共有の場でも話に出なかった事実。しかしそれはこれから番犬ケルベロスを討伐しようとしていた彼らには非常に引っ掛かる事実であった。


「人によって与えられるダメージが違う、か。武器も防具も、力量すら一緒なのに……何故だ」


不可解な事実。

歴戦の猛者とも言えるSランクの冒険者である彼らですら、この問題には頭を悩ませていた。

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