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気づかない内にそこだけ別世界  作者: あちゃま
第3章 最強の探索
39/50

別世界:男爵邸訪問

ネックという町はここ数年で劇的な変化を遂げた。

僅か数年、その数年で過去の昔懐かしい開拓村の頃の風景は一掃され、一つの小さな経済圏がそこには形成されていた。


舗装もされていない様な土が剥き出しになっていた道の脇には小さな商店が軒を連ね、物々交換によって狩りで取って来た獲物や僅かばかりの農耕で手に入れた食材を譲り合っていた。

狩猟が主となり肉が主食となっていた開拓村にとって、獲物となる獣よりも農耕で手に入る僅かばかりの食材の方が価値が高いのは言うまでもない。


貨幣による経済圏が形成されていない、ある意味希少な土地だった。

時折訪れる行商人も訪れるたびに巨大化していくネックに驚き、同時に金の匂いを嗅ぎつけて次訪れる時は何が必要か、どれほどの量が必要か頭の中で算盤を弾いていた。


そんな光景が脳裏に焼き付いていた組合ギルドのマスターである狂荒のアレスもまた、その劇的な変化に驚いていた。


「こいつは、すげえ。数年前に来た時には何もない様ないかにも開拓村っていう雰囲気だったのに……これじゃあ村じゃなくて町だな。男爵も収入が増えてウハウハじゃねえのか?」


「確かにマスターの言うように通常男爵では考えられない様な税金収入を得てはいるでしょう。見た感じでは男爵二人分……いえ。子爵と言っても過言ではないでしょう」


「そうだろう、そうだろう。ヘイムダッルもそう思うだろう!新興貴族であるはずの辺境男爵が僅か数年でここまでの財力ちからを持ったんだ。中央の奴ら、今頃昔散々馬鹿にしたことを後悔しているぞ?中央で覇権を握るためにもそれなりの財力は必要だからな。子爵クラスだからと言っても今後も成長するであろう成長株、馬鹿には出来ん」


「爵位が低いと言っても貴族と言う家の数が元々少ないですからね。母集団が少なく増える事はほぼ絶望的な状況で派閥を作るとなればそんな者でも仲間に入れて少しでも味方を増やす方がいい、そう考えるのが普通ですからね」


驚いているギルドマスターと声を交わすのは“角笛のヘイムダッル”。

青銀の短髪と右目に付けられているモノクルが特徴の三十歳程に見えるオジサマだ。

角笛のと呼ばれている所以の角笛は腰に掛けられており、背中には祝福された聖なる斧が背負われていた。


二人の会話の中に出て来た貴族という存在。元来、貴族となれるものは少ない。

もともと代々続く家を継ぎ貴族となるのが大多数であり、この方法では家が増える事はあり得ないのは言うまでもない。寧ろ途中で子供が生まれずに後継ぎが居らずに御家断絶となる事の方が確立では高い。


中には庶家や傍流として名を遺す事もあるが、これらはあくまでも貴族の家から出た平民の家であり、それ以上でもそれ以下でもない。

もちろん中にはそんな庶家や傍流が数々の功績によって平民から騎士や貴族へと叙爵される事も、そんな事はまずない。もうほとんどない。


ギルドマスターの“狂荒きょうこうのアレス”そして“角笛つのぶえのヘイムダッル”の二人が目の前の光景に圧倒されている中、今回の討伐の依頼クエストに参加している他のSランク冒険者は少し呆れ気味に話しかける。


「二人とも、いつまで呆けているのだ。時代は常に動き続けている、決してその歩みを止める事無く。今こうしている間にもかの脅威は我らの喉元まで迫って来ているのかもしれんのだぞ?」


「そりゃあ分かっているがな“軍神のティウ”よ。このネックの時代を知っている俺に取っちゃあ驚愕に価すんだよ。何たって昔は本当に掘っ立て小屋があっただけの場所なんだからよ」


「だからと言って感傷に浸るよりもすべき事が今はあると思うのだがな」


ギルドマスターの言葉にどうも府に落ちなそうに首を傾げる“軍神のティウ”。

金髪碧眼の甘い顔面マスク。絵に描いたような美男子がそこにはいた。

太陽の光によって照らさているその鎧は七色の光を放ち、自然と神々しさすら感じさせ、教会に現れたら無意識に跪いてしまいそうになる。


「分かった、分かった。それじゃあ“軍神のティウ”の言う通りにしよう」


「ではさっそく迷宮ダンジョンへ……と行きたいところですが、まずは男爵の屋敷に行き挨拶でもしましょう。後で変な難癖をつけられても困りますので」


「そうだな。貴族っていうのは自分が偉いっていう変なプライドが高い奴が多いから、後で揉めると面倒だからな。まぁそれでも地位的にはこっちの方が高いんだけどな!ナッハハハハ!」


そう言って豪快に笑うギルドマスターの“狂荒のアレス”に一緒に来ていた仲間の誰もが納得するように頷いた。


時には国賓として他国に向かい入れられる時もある程度には地位の高いSランクの冒険者。

国や貴族の中には冒険者の事を野蛮な人種と考える者もいるが、多くの国と貴族は冒険者の組織と武力の必要性を理解しているし頼りにしている。その頂点に位置しているSランクの冒険者を粗末に扱うなどするはずがない。

そして何よりそんな人物たちと所詮一国の男爵や子爵など、どちらがより重要かなど考える必要もないだろう。






ハンティングフィールド男爵邸ではささやかな食事会……というかお茶会が開かれていた。


事前に打ち合わせと言うか丸投げと言うか、準備をしていた通り男爵は最低限の礼儀として食事会を開こうとしていた。以前であったのならば本当に粗末とも言えるような質素な、何処の修行僧だと言われかねない食事しか用意できなかっただろう。

しかし今は違う。

かつてないほどに栄華を極め、今後数十年はその隆盛を謳歌できるであろう確信すらあるネックの領主である男爵からすれば、金にモノを言わせて少々贅沢品を買って振舞う事も可能なのだ。


だからこそ訪問するのは確実だろうと思い様々な物を仕入れて準備をしてきた家臣達は、いよいよ訪問するとなった今日、自分たちの準備の成果を披露しようと楽しみにしていた。


しかし蓋を開けてみると全く異なった結果が待っていた。


食事会の誘いを固辞したのだ。それも頑なに。あくまでも彼らは訪問の挨拶をしに来ただけであり早く迷宮ダンジョンへ向かいたいと申し出て来たのだ。

男爵としてはこれは看過できない由々しき事態だ。せっかく準備した物が駄目になるからではない、Sランクの冒険者がやって来たのに何のもてなしもせずに帰したとあっては世間体が悪いからだ。


もちろん本当はもてなしなどどうでもいいし勝手に迷宮ダンジョンへ行って帰ってくれていいのだが、あーだこーだと男爵は理由を付けてはSランクの冒険者たちを引き留めた。

Sランクの冒険者も本当は一刻も早く迷宮ダンジョンへ向かいたいので食事会の誘いを断り続けるが、相手にもメンツがある事だって理解できる。

落としどころとして食事会ではなくお茶会という所に落ち着いたのだ。


さてお茶会と言っても実際にお茶を飲んで世間話をする、などという和やかなものではない。もちろん中にはそのようなお茶会があるにはあるが今回は違う。

早く行きたい気持ちを抑えてまで参加する事にしたのだから、少しでも今後に有利になるような事をしたい。


所謂情報収集だ。


「急な来訪にも関わらず、この度の歓迎を感謝いたします」


「何を仰られる“狂荒のアレス”殿。あなた方ほどの素晴らしい冒険者の方々をお迎え出来、寧ろこちらこそ感謝の念が堪えないよ」


「アハハ!口がお上手ですなハンティングフィールド男爵様。私たちを褒めても何も出ませんぞ?」


「そんなものなど求めてはおらんよ。本当に純粋に嬉しいのだ。何せ各国がこぞって招待したがっている強者の中でも有名な方々が訪ねて来てくれているのだからね」


お互いにお互いを褒めて不快な気分を与えず、かといってそこまで良い印象を与えず。本音と建て前を上手く使い分け、当たり障りのない挨拶を交わした。大人の世界にはありがちな社交辞令。

貴族の世界にはありがちで、Sランクの冒険者の世界でもありがちなこと。


おはよう、こんにちは、おやすみ。一日に何回か使う挨拶の言葉と同じくらいに普通な会話なのである。


そんな恒例の挨拶を終えた男爵とマスターはいよいよ本題の会話へと移って行く。


「それで最近の迷宮ダンジョンの様子はどうですか?今回の依頼クエスト対象である番犬ケルベロスが出て以降も入場制限は掛けていない。という事はその後何人もの冒険者が迷宮ダンジョンに入り実際の状況を肌で感じているはずです」


「だがそれは貴方の方が御詳しいのではないかな?何せ貴方がトップを務めているのだから」


「まー……そうなのですがね?んー……まあ隠しても仕様がないので言っちゃいますが、こっちが知りたいのは男爵が抱えている兵やら村人からの情報が欲しいのですよ。迷宮ダンジョンの管理は組合うちでやっていますが、周辺の土地の管理やらはそちらでやっていますからね」


迷宮ダンジョンの管理は組合ギルド、周辺の土地の管理は領主。これは全ての国と土地に置いての絶対のルールだ。土地はそもそも領主のモノだから言うまでもないが、突如現れる迷宮ダンジョンはその特性上管理が非常に難しい。


氾濫が起きる事もあれば内部で著名な人物が亡くなる事だってある。

もしも自分の土地で他国の王族でも死んだらどうだろう?護衛を付けなかった領主の責任問題だ。貴族と言えども国内でも弱小の男爵がそのような状況になってしまったのならば対処出来るだろうか。

そう、出来るわけがない。

国内の男爵よりももっと上の人物が交渉に出なければならない事態になってしまう。


領内でもそんな状況にならないように試行錯誤するのに苦労するのに、それがもし迷宮ダンジョンにまで及んでしまったらどうなるか。危険が常に隣り合わせになっている迷宮ダンジョンでのこと、頻繁に起きる事は間違いない。


そのような点を考えて迷宮ダンジョンは非営利組織であり多国間での融通が利く組合ギルドが管理する事になったのだ。


組合ギルドマスターに尋ねられた男爵はふと最近自分へと挙げられてきた報告を思い出す。

定期的に迷宮ダンジョン内部に兵を派遣し変化がないか確認していた時に挙げられた報告を。


「そう言えば最近、武器が以前とは比べ物にならないくらいに領内を流れているようだ。まあ大した価値も無い、在り来たりな武器ばかりだかな」


「武器、ですか」


「うむ。まあ偶々という事もあり得るがな。他にはそうだな――――

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