別世界:モンスターランク
世界には多くの魔物が繁栄し中には食用として飼育出来る程度に弱い魔物もいれば、一体で一国を相手取り戦えるほどに強力無比な力を持っている魔物もいる。
そう言った魔物も含めて魔物と呼ばれる存在にはランクと呼ばれるものが指定されており、組合の冒険者だけではなく各国の大臣や王までそのランクを参考にして依頼を出したりしている。
世界道具百科事典と双璧を成すとも言われている世界生物百科事典にその詳細が掛かれている。
道具と同じくランクは10段階に分かれている。
目安としてランク1のモンスターはFランク冒険者が一対一で何とか倒せる、という程度。
ランク2はEランク冒険者が一対一で。
冒険者として一人前として扱われるDランク冒険者でランク3モンスターを一対一で倒せる強さである。
ここまでのランク1からランク3までのモンスターで魔物全体の7割近くを占める。だからこそランクの低い冒険者でも何とか日々食つなぐ事が出来るのであって、滅多に起きない高ランクとの遭遇を除いて安全に冒険者稼業が続けていけるのである。
Cランク冒険者程になるとランク4モンスターを倒せるが、しかし一対一で倒せるのはここまでで、ランク5のモンスターからは一対一で倒す事はほぼ不可能と言ってもいい。
Bランク冒険者でランク5、Aランク冒険者でランク6のモンスターを数人で、複数を組んで倒すのが通常である。そうでなければ時にはそこまで上り詰めた冒険者でも命を落としてしまう。
そして冒険者最高峰ランクのSランク冒険者。彼らははっきり言って常軌を逸した強さを持っている者が殆どである。その為ランク6のモンスターなど取るに足らない存在であり、簡単に蹴散らすことが出来てしまうだろう。
特に単独でSランクになった冒険者などランク7のモンスターとだって渡り合えるし、時には圧倒する事だって出来るかもしれない。
だがそれ以上、ランク8からのモンスターは違う。例え単独のSランク冒険者でも数人が徒党を組まなくてはならない。いや、もしかしたらそれでも足りないのかもしれない。
歴史上数例しか確認されていない貴重であって希少であり、そして圧倒的な戦闘力を持っているのが彼らランク8モンスターである。
800年前の対戦では特にこれらランク8以上のモンスターが特に確認された事例であり、これ以降ではほぼ確認されていないと言っても過言ではない。
だからこそ多くのSランク冒険者はこれら脅威的な魔物には進んで戦闘を仕掛けないし、そもそも敵対しない。『三牙狼』の三人はだからこそ、かめさんの迷宮でそれに出会った瞬間戻ることにしたのだ。
また一言で魔物と言っても獣族やアンデット族、妖精族や亜人族など全ての魔物がその身体的特徴などによってそれぞれの種族として分類されているが、分類された種族によって得意不得意がある。
嗅覚や俊敏性に富んだ者が多い獣族や一種の不死性を会得したアンデット族、自然を司り人類にも鍛冶や農耕で役立つ妖精族に高い知能を持ち狡猾な作戦を立てる亜人族と様々。
中でも特に人類に最も悪影響を与え、数多くの人類を殺害し、強力な存在が数多くいる者が獣族である。
魔物の中にも比較的温厚と呼ばれる獣族も存在し、人類の食糧自給に貢献している者もいるにはいるがその様な存在は極僅かであり、多くの獣族は人類を餌としか考えておらず見つけた瞬間襲い掛かって来るような者ばかりだ。
野生動物としての獣だけではなく魔物としての獣族も強いものが群れを形成し率いる集団となり生活している点は共通であり、集団の中でも地位の低い下位の存在はトップであるボスを倒し自らがトップになろうと虎視眈々と下剋上を狙っている。
だからこそ他の魔物の種族よりも進化のスピードが早く、強い力を持つ存在が多くなっていくのである。
これは他の種族にはない特性。
そしてそんな獣族に分類される魔物の一つ。
数多に分岐した進化を経て獣族の頂点の一角に上った災悪の化身にして冥界の番人、『地獄』の異名を持つ『番犬』が今回の調査で発見されたのだ。
曰く、たった一頭で万の配下を従える。
曰く、たった一夜で一国を血と肉の世界へと変える。
曰く、それは魔王の唯一にして至高の従魔である、と。
当然その報告を聞いた人々は大慌て。連日連夜関係各所へと文官から武官まで飛び回り、対応に迫られる日々が続いた。
特に今回は影響を及ぼす規模が巨大で加えて魔王が復活した、という情報が世界にもたらされたばかりという極めてタイミングが最悪な事も災いして、余計に対応が後手後手に回ってしまった。
だがそこは一国の丞相であり昔から何十年と国を支え続けてきた男。ミリテリアス国という一国家にとって最悪の事態、すなわち番犬による国家の滅亡という演出は回避されたのだ。
しかし肝心の問題は解決されてはいない。そう、未だに国家滅亡の危機に成り得る番犬は確かに迷宮に存在していて、こうしている今も地下深くで自分からやって来てくれる冒険者を待っているだろう。
強さは未知数、危険性は絶大。どれほどの冒険者を送り込めば倒せるのか分からない。
そんな危険度最高峰とも言える魔物、番犬を倒そうと丞相は今度こそ本腰を入れた。前回もSランク冒険者を送り込みはしたが彼らはSランク冒険者の中でも個人の戦闘力はAランク冒険者の域を出てはいないし、複数でのSランク認定であるため冒険者全体で言えば上位に存在はするがSランクのみで考えれば下位に属する。つまり戦力的にはまだまだ強力なモノを揃える事が出来るという事。
本腰を入れた丞相から支持を受けた壮年の男性文官は真っ先にミリテリアス国の王都にあるミリテリアス国内におけるギルド本部。つまり国内で最大のギルドである。
組合では様々な依頼が連日張り出されては達成されたり失敗したりを繰り返して地域貢献したり治安の維持を行っている営利組織である。
妥当な報酬さえ差し出せばどんな依頼でも受けてくれるのが冒険者であり、純粋な戦闘力ではミリテリアス国国内最強とも言われる近衛騎士団長よりも強い者も在籍するのが組合という組織。
つまり簡単にいうと、金さえあれば何でもしてくれるのが彼ら冒険者という存在なのだ。
そして今回丞相の名で組合に出した依頼、それはもちろん辺境の街ネックに存在する『かめさんの迷宮』での番犬の討伐だ。
――――――討伐クエスト
依頼主:ミリテリアス国・左大臣
目的地:ネック・かめさんの迷宮
難易度:S
メインターゲット:番犬
受注条件:冒険者ランクS
報酬:応相談
依頼詳細:天災とも言える魔物ランク8モンスターである番犬が現れた。過去数百年確認されていなかったランク8のモンスターであり、正直その強さは未知数である。最高峰とも言えるSランクの冒険者でも命を落とす可能性すらある。しかしこれは国家の存亡が掛かった案件なのだ。覚悟を持ちし勇敢なる冒険者よ、どうかこの危機を救って欲しい。
――――――――――――
正直冒険者だって命は惜しい。
Sランクになる程の冒険者ともなれば命がどれほど大切なのか、生きることがどれほど大変なのか、それを痛いほど理解している。
こんな明らかに不自然でまともな報酬すら貰えないかもしれない依頼など普通の冒険者ならば受けないだろう。
だが、それでも。
命を懸けて戦う事に情熱を燃やし、自らの身が傷つけられ血を流している時にこそ生きているのだと実感でき、苦しいからこそ仕事にやりがいを感じる。
そんな変態チックな考えを持つ奴は大抵何処にでもいるもので…………。
「いかにも危険で今にも命を消しそうな依頼を出しているくせに、この上からの物言い。国を救って欲しい、だ?人にモノを頼む時は仕立てに出て、普通救って下さいって書くのが普通だろ?――――――いいだろう。久しぶりにあの耄碌爺に一泡吹かせてやろうじゃねぇか!」
酒場も兼営する組合だからこそ荒くれとも言える男たちが盛大に一杯引っ掛け騒いでいてもなお、マスタールームではそんな不遜とも言える声が盛大に建物内部に響くのだった。




