ちょっと変な妹とスイカの話
俺の妹はちょっと変だ。
変人、そういうのとは違う。学校で呪文を唱えたり、深夜にシーツ・マントを羽織って徘徊するような、そういう危ない類の変人ではない。これは俺のことだ。
さりげなくクラスメイトから遠巻きにされているわけでもない。友人の間で、天然だの変わってるだのと言われるわけでもない。これも俺のことだ。
それでも、俺の妹はやっぱりちょっと変なのだ。ちょっとだけ。どの程度の〝変〟なのかというと。
まず、暑い夏の真っ昼間、妹の目の前に大きなスイカがあった。俺の妹は、スイカを丸ごと全部スプーンでくりぬき、タッパに詰め、大好きなお笑い番組を見ながらちまちまと食べるのが好きだ。それは別にいい。俺も好きだ。
問題は、そのあと。
真っ赤な実をくりぬかれたあとのスイカ。縦ではなく横に切ったスイカの皮。内側の白と赤のコントラストがいかにも夏らしい、深皿のように残った皮。
ふと。あれ、これって帽子にならねぇ? そんなことを思わないだろうか。俺は思う。妹も思った。だけど俺は被らなかった。だけど妹は被った。
妹はしばらく立ち尽くす。
昼風呂から上がったばかりの濡れた黒髪。我が家で発動されている昼間クーラー禁止令のせいで首筋に伝う汗。そして、頭には緑と黒の縞模様の瑞々しいスイカ・ハット。
赤い透明な汁を頭からしたたらせながら、妹はどこか満足げに鏡を覗きこむ。そのくせ、俺が冷蔵庫の陰から見ていることに気付くと、カンフー映画みたいな奇声をあげてスイカ・ハットを放り投げた。
その夏の間、妹はあれだけ好きだったスイカを二度と食べなかった。
俺の妹の〝変〟はこのくらい。俺は、そんな妹が大好きだ。すれ違いざま、「スイカ」と呟いてやるほどに。それくらい、大好きなんだ。