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冬の童話祭り参加作品

言葉華(ことばばな)

作者: 水泡歌

クリスマスの前の日、サンタたちはある場所にあつまります。

赤い服を着た人たちのなが~いなが~い列の先。

そこには「ふぉっふぉふぉっふぉ」と笑いながら白い袋をわたす長老サンタの姿がありました。

「ほい、お前さんは今年はこれじゃ。たくさんの笑顔を届けるんじゃぞ」

そう、今日はそれぞれのサンタが自分がわたすプレゼントを受け取る日。

だからでしょうか?

なが~いなが~い列に並んでいるサンタの顔はどれもとってもうれしそう。

でも、あら、見てください。

その中でもとびっきりうれしそうな顔をしている子がいますよ。

誰よりも小さな体をぴょんぴょんはねさせてほっぺたをピンク色にして。

「まだかまだか」と列の先の長老サンタを見ています。

それもそのはず。

この子は今年はじめてサンタになったちびっこサンタ。

ずっしりとした白い袋。

それを受け取る今日が楽しみで楽しみで昨日はまったくねむれなかったのです。

ワクワクがいっぱいになって爆発しそうになった時、ついにちびっこサンタの番がやってきました。

「ふぉっふぉふぉっ」と長老サンタは笑って白い袋をわたします。

「ほい、お前さんは今年はこれじゃ」

「ありがとうございます!」

ちびっこサンタは元気いっぱいにそれを受け取りました。

でも。

「あれ?」

受け取った途端、ちびっこサンタは不思議そうな顔をします。

だってこの袋……

「なんでこんなに軽いんですか?」

ピンク色のちびっこサンタのほっぺたが飛んでいけそうなほどふくらみました。

長老サンタは言います。

「新人のお前さんには今年、言葉華を担当してもらおうと思ってのう」

「ことば、ばな?」

聞いたことのない言葉にちびっこサンタは首をかしげます

長老サンタは白い袋をぽっかり開けて言いました。

「人の言葉から咲く言葉華。それをこの袋いっぱいにあつめてきてほしいのじゃ」

「人の言葉から?」

「そうじゃ、この白い袋をもっているものにはそれが見える。色んな華があるからどんなものをあつめるかはお前さんにまかせるがのう」

「……わかりました」

ちびっこサンタはしぶしぶその袋を受け取ります。

だって、こんなにからっぽの袋、つまらない……。


次の日。

からっぽの袋をもってちびっこサンタは街に出ました。

ピカピカ。ワイワイ。アハハハハ。

街はたくさんの楽しい音でにぎわっていました。

ちびっこサンタはその中を白い袋をずるずるひきずり歩きます。

言葉華。言葉華。

長老サンタが言っていた華を探してきょろきょろ。

確かに街の言葉にはいたるところに華が咲いていました。

雪の結晶のようにキラキラとした華。

そのどれも色や輝きが違い、そのあまりの多さにちびっこサンタは困ってしまいます。

さて、どの華をつもう。

そう思った時。

「愛してるよ」

甘い甘い言葉がちびっこサンタの耳に聞こえてきました。

見ると一組のカップルが腕をからませながら歩いていました。

「私、きっと世界で一番幸せだと思う」

「僕も。今日も君は本当に綺麗だね」

「あなたがくれたこのバッグ、宝物にするね」

「ごめんね、そんな安物で」

「ううん、私、本当に嬉しい」

ちびっこサンタはあの人たちの言葉華をもらおうと思いました。

そっと近付いて白い袋を開きます。

カップルの言葉から言葉華がぽろりと落ちます。

ちびっこサンタは袋の中に手を入れて華を取り出しました。

でも、あれ?

取り出した言葉華を見て、ちびっこサンタはがっかりしました。

輝いてはいるけれど綺麗な色ではあるけれどなんだかとっても嘘くさい。

あんなにも素敵な言葉を使っていたのにどうしてだろう。

首をかしげていると別のカップルがその横を通り過ぎていきます。

「寒くないの?」

ぎこちなく歩く一組のカップル。

今日は息がまっ白になるほど寒い日。

それなのに手袋もマフラーもしようとしない女の子に男の子は心配そう。

首元があいた服はとっても寒そうで、むきだしの手は赤くなっています。

女の子は笑います。

「だって、これ、かくれちゃうし」

そう言って女の子が見せたのは首元にあるネックレスと指にはめられた指輪でした。

男の子は驚いた顔をします。

「そんな安物……」

「ううん、私、本当に嬉しい」

そう言う女の子に男の子はちょっぴり泣きそうな顔をしました。

ちびっこサンタはそっと近付いて白い袋を開きました。

カップルの言葉から言葉華がぽろりと落ちます。

ちびっこサンタは袋の中に手を入れて華を取り出しました。

控えめな輝きだけれど幸せな色をした言葉華でした。

「愛」も「綺麗」も「宝物」も素敵な言葉は一つも使っていなかったのに。

さっきよりも綺麗な花にちびっこサンタは不思議に思いました。

でも、ちびっこサンタはにっこり笑って「この華にしよう」と思いました。

男の子は女の子の手を握って言いました。

「少しはあったかい?」

女の子は嬉しそうにうなずいてその手をきゅっと握り返しました。



次にちびっこサンタはケーキ屋さんの前にやってきました。

そこではたくさんの人たちがケーキを買っていました。

おいしそうだなあ。

ちびっこサンタがそう思っていると一組の親子がケーキを選んでいる言葉が聞こえてきます。

「お母さん、お母さん、ぼく、これがいい!」

「お母さん、お母さん、わたしはこれ!」

小さな男の子と女の子がそれぞれケーキを指さしています。

男の子はチョコレートの丸いケーキ。

女の子はイチゴがたくさんのった丸いケーキ。

お母さんは困ったように笑いながら言います。

「仕方ないわねぇ。じゃあ、これください」

『わーい』

女の子と男の子は嬉しそうにとびはねています。

丸いケーキを2つも買ってもらえるなんてなんてうらやましいんだろう。

ちびっこサンタはそっと近付いて白い袋を開きました。

お母さんの言葉から言葉華がぽろりと落ちます。

ちびっこサンタは袋の中に手を入れて華を取り出しました。

優しい輝きの愛情に満ちた色をした言葉華でした。

うん、この華にしよう。

ちびっこサンタはにっこり笑ってその場所から出ていこうとしました。

その時。

もう一組の親子がやってきてケーキを選び始めました。

「お母さん、お母さん、ぼくこれがいい!」

「お母さん、お母さん、わたしはこれ!」

さっきとおんなじです。

小さな男の子と女の子がそれぞれケーキを指さしています。

男の子はチョコレートの丸いケーキ。

女の子はイチゴがたくさんのった丸いケーキ。

いいなあ、また2つ買ってもらえるんだ。

ちびっこサンタはうらやましくなりました。

ところが。

「じゃあ、チョコレートのケーキをください」

お母さんは男の子の方のケーキだけをたのみました。

あれれ?

ちびっこサンタは首をかしげます。

男の子はとびはねます。

女の子は足をじたばた。

「なんで! わたし、イチゴがいい!」

「2つも食べられないでしょ。お姉ちゃんなんだからがまんしなさい」

「なーんーでー!」

女の子は泣き出してしまいます。

ちびっこサンタは「あーあ」と思いました。

かわいそうな女の子。

あのお母さんの言葉華はきっと嫌な色をしているんだろうなと思いました。

ちょっと見てみよう。

ちびっこサンタはそっと近付いて白い袋を開きました。

お母さんの言葉から言葉華がぽろりと落ちます。

ちびっこサンタは袋の中に手を入れて華を取り出しました。

そうして、びっくりしました。

それは厳しい輝きをしていたけれどさっきのお母さんと同じ愛情に満ちた色をしていたのです。

ちびっこサンタは不思議に思いました。

あんなにも女の子は泣いているのにどうしてだろう。

でも、ちびっこサンタはこの華も袋に入れようと思いました。

ケーキ屋さんでは泣く女の子に見つからないようにお母さんが店員さんに言っていました。

「すみません、サンタさんの砂糖菓子、もう一つつけてもらえませんか?」

店員さんはにっこり笑ってイチゴを持ったサンタさんの砂糖菓子をそっとケーキにのせました。


次にちびっこサンタは駅にやってきました。

たくさんの人たちが電車を待っています。

「もしもし、パパだけど。今、帰るからね」

これから家に帰って家族でクリスマスを祝う人々から幸せな言葉華が咲いています。

ここには綺麗な華がいっぱいだ。

ちびっこサンタは嬉しくなってどんどん華をつんでいきます。

でも、あれ?

「うん、うん、本当にごめん」

ずっとあやまっている男性もいます。

「うん、これからまた会社にもどらないといけないんだよ。ちょっとトラブルがあって。あ、ちょっと電話、変わってくれる?」

悲しそうな華がぽろぽろぽろぽろ男性から落ちています。

この人の言葉華はつみたくないなあ。

ちびっこサンタがそう思っていると携帯電話から大きな声が聞こえてきます。

「パパなんてだいっきらい!」

小さな女の子の声でした。

男性の顔はもっと悲しそうなものになります。

ちびっこサンタは携帯電話からこぼれた言葉華をひろいました。

それはどんな色の華なのだろうと思ったのです。

でも、ひろったちびっこサンタは不思議に思いました。

確かにそれは悲しい色をした華でした。

女の子の言葉通り「大嫌い」の色もありました。

でもその中にもたくさんの「大好き」がまざっていたのです。

「ごめん。ごめんな。でもな」

必死にあやまる男性のポケットにちびっこサンタはその言葉華を入れました。

これは白い袋ではなくこの人にあげるべきだと思ったからです。


それからもちびっこサンタはたくさんの言葉華をつんでいきました。

色んな輝き・色の華をあつめました。


最後にちびっこサンタはたくさんの家が並ぶ場所へとやってきました。

もう子どもたちは布団に入る時間です。

空を見るとたくさんのサンタが忙しそうに家から家へと飛び回っていました。

見上げていると空から長老サンタが「ふぉっふぉっふぉ」と降ってきました。

「言葉華はたくさん集まったかね」

ちびっこサンタは白い袋を開きます。

その中には様々な言葉華が入っていました。

「ずいぶん色んな色をあつめたのう。綺麗なものだけじゃなく汚いものもあるようじゃが」

中をのぞきながら長老サンタは言いました。

ちびっこサンタは言いました。

「きれいなものだけじゃその袋はいっぱいになりません」

長老サンタは微笑みます。

言葉華をつむうちにちびっこサンタは気付いたのです。

人の言葉はむずかしい。

綺麗なようで綺麗なだけじゃなくて、厳しいようで厳しいだけじゃなくて、悲しいようで悲しいだけじゃない。

たくさんの色があり輝きがあり汚いものもたくさんある。

でも、それも確かに「言葉」なのだとちびっこサンタは思いました。

そうしてからっぽの袋は空を飛ぶ他のサンタたちに負けないほどずっしり重くなったのです。

長老サンタは袋をひろげました。

「じゃあ、最後にお前さんの言葉華を入れてくれるかな」

ちびっこサンタはにっこり笑ってたくさんの心をこめて言いました。

「メリークリスマス」

全てを包み込むように温かな華が袋の中に咲きました。

「良い華じゃ」

長老サンタは袋の中にふっと息を吹きかけます。

すると言葉華は空へとふわりと舞っていきました。

ふわりふわり。

全ての言葉華が空へと飛んでいくとそれは雪へと変わります。

「きれいじゃなあ」

「きれいですね」

空を見上げ、長老サンタとちびっこサンタは微笑みました。

大人たちは空から降る言葉華に気付き笑いました。

明日の朝には地面につもった言葉華を見て子どもたちが笑うことでしょう。

それは枕元には置かれないサンタさんからのプレゼントなのでした。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 心が暖かくなるようなお話でした。 カップルの嘘くさい言葉が妙に現実味があったような(笑 クリスマスにいいものが読めました、ありがとうございました‼ [気になる点] ないです。読んでて幸せ…
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