吊るされた男
原作をプレイされた方は、もうお分かりだと思いますが、これまでに省略した謎解きがいくつかあります。本当は、ギャリーとイヴが出会う前に、もう一つか二つ謎解きがありました。省略した理由としては、少し間延びしそうだったから、ただそれだけです。気になる方は、ぜひ、原作をプレイしてみてください。
実は、物語の流れに合わせるために、オリジナルの謎解きも作りました。それは、今後出てきますので、対したものではありませんが、楽しみにしていただけると幸いです。
最後に、新しくお気に入り登録をしてくださった方、ありがとうございます。これからも、少しでも楽しんでいただけるように頑張っていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
扉の先は廊下だった。左右には、全く同じようなマネキンの頭部が並んでいる。
「なによ、これ。気味悪いわね。」
イヴとギャリーは左右を警戒しながら、まっすぐ廊下を進む。そのまま何事も起きず、正面の扉までたどり着く。
「どうしたの、イヴ?」
ギャリーは、後ろを振り返るイヴに尋ねる。
「なんだか、誰かに見られているような気がして―。」
「たしかに、これだけマネキンの頭が並んでいたら、見られているような気もしてくるわよね。さっさと行きましょ。」
ギャリーはそう言って、イヴを先に行かせる。イヴが扉をくぐったあと、ギャリーは後ろを振り返る。やはり、誰もいない。
扉をくぐると、広い空間に出た。壁には、同じような女性の絵が何枚も飾ってあった。
「これ、美術館にあった絵よね。たしか、『赤い服の女』って題名じゃなかったかしら。」
たしかに、壁に飾ってある絵には、『赤い服の女』や『青い服の女』があった。他の絵も、似たような絵だったが、着ている服が違っていた。題名があるとしたら、『緑の服の女』、『黄の服の女』だろう。この部屋には、様々な服を着た、『無個性』という名の頭のない石膏像も置いてあった。
「これ、また飛び出してくるんじゃない?」
二人は警戒しながら、近くにあった扉を開けようとする。
「あれ?開かない。でも、鍵穴もないし・・・。」
「これ、ダイヤル式の鍵じゃない?なにか、四桁の数字を入れるのよ。でも、四桁の数字って一体何だろ?」
扉には、ダイヤルがついていた。ダイヤルは、「0000」になっている。なん手掛かりもない二人は、辺りを探索することにする。
しばらく探索していると、女性の絵の中に、一枚だけ異なる絵があった。男性が足首を縛られ、逆さまになっている絵だった。イヴは、絵のタイトルを見てみる。
『吊るされた男』
「これも、美術館にあったわ。ん?服になにか書いてあるわ?」
ギャリーは、顔を近づけて見てみる。男の服に書いてあるのは、数字のようだった。
「5296・・・かしら。これ、もしかして、さっきのダイヤルの番号じゃない?さっそく、戻ってみましょ!」
ギャリーが、来た道を戻ろうとする。イヴは、『吊るされた男』をじっと見つめたまま、その場を動こうとしない。
「どうしたの、イヴ?行くわよ。」
ギャリーが振り返り、イヴを呼ぶ。イヴは絵から離れると、数字を忘れないように何度もつぶやきながら、ギャリーのところまで戻る。
「心配しなくても、アタシが覚えているわよ。」
ギャリーは、小さい声で数字を繰り返しつぶやいているイヴを見て、その健気さに笑いながらそう言った。二人は、ダイヤル式の扉のところまで戻る。
「えーっと。5296っと。」
ギャリーは、ダイヤルを合わせると扉を押す。しかし、扉は開かなかった。
「あら、違うのかしら?」
「9625は?」
「えっ。それ、なんの数字?」
「いいから、やってみて。」
ギャリーはイヴの言う通り、ダイヤルを9625に合わせる。ギャリーが扉を押すと、扉は音を立てて開いた。
「すごいわ、イヴ!一体どういうことなの?」
「あの男の人、逆さまになってたでしょ。だから、数字も逆さまになっているのかなって思ったの。」
たしかに、絵をそのまま見ると男の服には「5296」と書いてある。しかし、「5296」を逆さまにすると、「9625」になる。イヴは、そのことに気がついたのだ。
「なるほどね。気がつかなかったわ―。」
ギャリーは、イヴの頭の回転の速さに感心しながら、部屋の中に入る。
二人が入った部屋の中には、花瓶が描かれているキャンバスと椅子が置いてあった。部屋の奥には、花瓶の乗った机が置いてある。
「ねえ、誰かいるような気がしない?」
「ちょっと!怖いこと言わないでよ、イヴ。」
しかし、いくら二人が探してみても、誰もいないようだった。けれども、確かに誰かがいる気配はあった。
「あそこにある机、動かせるのかしら。」
ギャリーは、部屋の奥にある机に近づき、掴んでみる。机は簡単に持ち上がった。
「これは持ち上がるのね。だから、どうってこともないんでしょうけど。」
「この絵、まだ途中みたい。」
イヴがキャンバスに描いてある絵を見て、そう言った。たしかに、絵の中の花瓶は色が中途半端に塗られていなかった。
「とりあえず、そこから見える位置に机を置いてみる?」
ギャリーは、机をキャンバスと椅子の位置から見えるところに持っていった。もうちょっと左かな、ちょっと時計回しに回してみて、とイヴが指示を出しながら、ギャリーが微調整をする。
チャリーン!
金属が床に落ちる音がした。イヴが視線を下に向けると、床に鍵が落ちていた。イヴは、鍵を拾う。
「鍵だ。」
「やったわね!それじゃあ、扉を探しましょ。」
ガシャーン!
部屋の外から、何かが割れる音がする。イヴとギャリーは、互いに顔を見合わせる。
「なんだか、嫌な予感がするんだけど・・・」
二人は、おそるおそる扉を開き、隙間から外の様子を伺う。どうやら、何もいなさそうだった。二人は、そっと外に出る。
「なによ、これ。こんなのあったかしら?」
ギャリーの視線の先には、マネキンの頭部があった。気のせいか、マネキンの頭部は、二人を見ているように見える。
「何が起こるか分からないから、アタシの側にいるのよ、イヴ。」
イヴは頷くと、差し出されたギャリーの手を掴む。二人は、周りを警戒しながら扉を探す。
「あっ、あそこかしら。」
ギャリーが扉を指差す。扉に近づくと、鍵穴があった。鍵穴に鍵を差し込む。うまく回った。鍵を開けると、二人は部屋の中に入る。