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うっかりさんとガレッド・デ・ロワ

 少し、裏話的な話をします。純粋に物語を楽しみたい方は、前書きを読み飛ばしてもらって構いません。


 私がこの物語を作成したとき、考えたことの一つに「イヴをどこで泣かせるか」というものがありました。どんなにイヴが強いといえども、9歳の女の子がこんな不気味なところにひとり投げ出されて、平気でいられるはずがありませんよ。

 ということで、前回のところがベストだと思い、いま、イヴは泣いています。

 

 さてさて、恐怖とさみしさに押しつぶされそうになったイヴは、復活するのでしょうか?

 イヴが泣いていると、頭に何かが降ってきた。イヴは、頭に降ってきたものに触れてみる。柔らかかった。イヴはそれを掴むと、自分の顔の前に持ってきた。そこにあったのは、桜の花びらだった。桜の花びらは、すぐに消えてしまった。その代わり、また新たにイヴの足元に数枚落ちてきて、また消えた。

(どこから降っているんだろ?)

 イヴは、上を見上げてみる。イヴの上には、絵が飾ってあるようだった。絵の中から、桜の花びらが降ってきていた。

(ここからだ―)

 イヴは立ち上がると、壁と距離を取る。そこには、夜空を背景に散りゆく桜が描かれている絵があった。絵の中から、桜の花びらが落ちてきては、消える。イヴは、絵の下に書いてあるタイトルを読む。

『月夜に散る儚き想い』

 イヴは、しばらく散りゆく桜を見ていた。桜を見ているうちに、イヴの心は落ち着いてきた。いつの間にか、涙も乾いていた。胸ポケットにさしていた赤いバラを見る。

(よし。)

 イヴは先に進む。この奇妙な美術館から脱出するために。お父さんとお母さんを見つけるために。小さな勇気を奮い立たせ、足を動かす。

 廊下を進むと、広い空間に出た。どこからともなく、心臓の鼓動の音が聞こえる。イヴは臆することなく、進む。

 進むと壁に一枚の絵が飾ってあった。イヴは、その絵に見覚えがあった。そう。美術館をひとりで見て回っていたときに見かけた絵と同じものだった。イヴは、その絵のタイトルを見る。

『赤い服の女』

 絵がガタガタと動き出した。イヴは、咄嗟に身を引く。『赤い服の女』が地面に落ちる。すると、女の上半身が絵から這いずり出す。両腕を床につけると、交互に腕を動かし、イヴに近づいてきた。イヴは身を翻し、走り出した。

 イヴは冷静だった。イヴは、『赤い服の女』を引き付けると、『赤い服の女』が壁から外れたときに落とした鍵を拾った。『赤い服の女』が、追いかけてくるので、イヴは再び走り出す。

 イヴが走っていると、扉が見えてきた。イヴは落ち着いて鍵を鍵穴に入れ、回す。扉に手をかける。扉を開くと、素早く体を滑り込ませ、扉を閉める。

(たぶん、これで大丈夫。)

 イヴが滑り込んだ部屋には、いくつもの本棚が並んでいた。イヴが本棚を眺めていると、難しそうな本がいくつも並んでいた。正面には扉があった。イヴがその扉を開けようとするけれども、開かなかった。

(もしかして、前の部屋に鍵があったのかな?)

 部屋の外では、『赤い服の女』がいる。外に出ても、落ち着いて鍵を探せるか分からない。

(この部屋のどこかに鍵があったりしないかな。)

 イヴは、本棚をひとつひとつ調べ始めた。イヴはとりあえず、この部屋に鍵がないことを確かめてから、前の部屋に戻ろうと考えた。

 本棚を探していると、一冊だけ他の本に比べ非常に薄い本を見つけた。イヴは、その本を取り出す。それは、本というほど立派なものではなく、紙を綴じただけの絵本のようだった。クレヨンで書かれているようだ。イヴは、その本の表紙を見る。


 うっかりさんとガレッド・デ・ロワ

 ××××作


 作者名のところは、文字が消えてしまっていた。イヴはページをめくってみる。


「お誕生日、おめでとう!」

「ありがとう!」

 四人の子供たちがテーブルを囲んでいる。真ん中には、ガレット・デ・ロワと呼ばれるお菓子が置いてある。そう。今日は、うれしい、うれしい誕生日。

「今日は、あなたのために、ガレット・デ・ロワを作ったの。」

「なにそれ?」

 誕生日を迎えた青い女の子が、ピンクの女の子に尋ねました。

「このパイの中にコインが入っていて、食べたパイの中にコインが入っていたら、その人は幸せになれるのよ!」

「おもしろそう!」

「でしょ?」

 ピンクの女の子が作ったガレッド・デ・ロワに、青い女の子は興味を示しました。

「じゃあ、切り分けるよー。」

 そう言うと、ピンクの女の子は、大きな包丁を取り出し、パイを切り分けはじめました。イヴは、ページをめくる。めくったページの先には、切り分けられたガレット・デ・ロワと四人の子供たちが描かれていた。

「さあ、好きなのを選んで。」

「いただきまーす!」

 四人の子供たちは、口を揃えてそう言うと、パイを頬張りました。パイはあっという間になくなってしまいました。イヴはページをめくる。ページをめくると、そこには空になったお皿と、包丁が残されていた。子供たちがテーブルを取り囲んでいる。

「もぐもぐ・・・あっ!」

 青い女の子は、突然大きな声を出しました。

「どうしたの?」

 ピンクの女の子は心配して、青い女の子に尋ねました。

「なにか固いもの、飲み込んじゃった!」

「あはは、うっかりさーん!」

 みんなが声を揃えて笑います。

「きっとコインだ!」

 茶色い服を着た女の子が、そう言います。

「どうしよう・・・」

「コインは小さいから、大丈夫よ。じゃあ、片付けてくるわね。」

 ピンクの女の子は、心配する青い女の子にそう言って、包丁とお皿を片付け始めました。イヴは、ページをめくる。次のページには、扉の前で困った表情をした女の人と、お皿を運んでいる女の子が描かれていた。

「ママ、どうしたの?」

 ピンクの女の子は、困っているお母さんに尋ねました。

「書斎のカギを知らない?」

「しょさいのカギ?それならいつものそこのテーブルに・・・。」

 ピンクの女の子は、いつも書斎のカギが置いてあるテーブルに近寄りました。けれども、そこにあったのは、書斎のカギではありませんでした。

「あれ?コインだ。このコイン、たしか、パイの中に入れたはずなのに・・・。」

 そこにあったのは、ピンクの女の子が、パイの中に入れたはずのコインでした。

「もしかして・・・」

「どこに行ったのかしら?お父さんに、怒られちゃうわ。」

 さあ、大変。ピンクの女の子は、コインと間違えて、書斎のカギをパイの中に入れてしまったのです。そして、そのカギは青い女の子が飲み込んでしまいました。

「どうしよう・・・。」

 ピンクの女の子は途方に暮れました。そのとき、お皿から何かが落ちました。ピンクの女の子は床を見ます。すると、そこには包丁が落ちていました。イヴはページをめくる。そこには、ピンクの女の子がうれしそうに包丁を持っている絵が描かれていた。

「わたしってば、うっかりしてたわ。」

 ピンクの女の子は、包丁を持って青い女の子のところに行きました。イヴは、おそるおそるページをめくる。そこに描かれていたのは、赤い汚れのついた、赤い鍵を持ったピンクの女の子だった。

「カギ、みつけたよ!今、ドア開けるね!」

 

 そこで絵本は終わっていた。イヴは絵本を閉じる。それと同時に、鍵が開く音がする。仕掛けはよく分からないけれども、この絵本が扉を開ける鍵になっていたのだろうか。それとも、部屋の外に誰かいるのだろうか?イヴは、絵本を本棚にしまうと扉に向かう。

 イヴは、扉を少し開け、誰かいないか確かめる。しかし、そこには誰もいなかった。扉をくぐる前に、もう一度部屋に戻り、辺りを見渡す。そこには、やはり誰もいない。

(気のせいなのかな・・・)

 このとき、イヴは近くに誰かがいるような気がしてならなかった。そして、その誰かが扉を開けてくれたのではないかと考えていた。

(考え過ぎかな・・・)

 イヴは、扉をくぐった。イヴが部屋をあとにしたあと、誰もいないはずの部屋に小さな笑い声がこだました。

―ねえ、イヴ。楽しい?―


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