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ふたりだけの秘密

 この話は泣きながら書いた記憶があります。ここを書きたくて、この物語を作ったと言っても過言ではありません。

 またまた、お気に入り登録が一件増えていました。本当に最後までありがとうございます!

 三人が歩いていると、周りの様子が変わった。突然、薄暗くなり、クレヨンの匂いもなくなっていた。

「ちょっと待って。ここって―」

 ギャリーの目に映ったのは、見覚えのある受付だった。

「美術館じゃない!?」

 三人がいるのは、ゲルテナ展覧会の会場だった。しかし、相変わらず人はいない。

「戻ってきた・・・とは言えなさそうね。」

「でも、ここに出口があるかもしれないよ。」

「そうね。探してみましょ。」

 三人は、薄暗い美術館の中を探索し始める。イヴは、美術館に飾ってある絵が、随分懐かしく感じられた。あれから、どれだけの時間が経ったのだろうか。お父さんとお母さんは、心配していないだろうか。もうすぐ帰れるかもしれないと思うと、イヴは急に両親のことが恋しくなってきた。

 一階には何もなかったので、三人は二階に上がる。二階に上がると、すぐに『無個性』が目に入った。この『無個性』の前で、若い男性がなにやら難しいことを言っていたっけ。探索している間、三人は一言も会話をしなかった。

 三人が歩いていると、一際大きな絵が見えてくる。イヴは、その絵に見覚えがあった。たしか、この絵を見ているあとに、人がいなくなったんだ。

 イヴが絵を見る。すると、絵そのものは多少変わっているようだった。前見たときは、もっと暗い印象があったけれど、目の前のこの絵は、むしろ明るい。

「もしかして、この絵、元の美術館じゃない?この絵に飛び込めば、元の場所に戻れるのかしら?」

 ギャリーがそう言って、絵の下にある説明文を見る。

「なんて書いてあるの?」

「え?うーん。ちょっと、よく分からないけど、読み上げるわね。」


『絵空事の世界』

 一度入ると もう戻れない

 ここでの時間も 全て失う

 それでも あなたは 飛び込むの?


 ギャリーが読み上げると、突然、絵の額縁が消えた。その場にいた三人とも、目を丸くする。

「な、何?・・・もしかしたら、ここから脱出できるのかもしれない。何が起こるか分からないから、ちょっと試してみるわね。」

 ギャリーはそう言うと、『絵空事の世界』に向かって手を伸ばす。すると、ギャリーの手が、『絵空事の世界』に飲まれる。

「やった。ここから出られそうよ!」

「先に行って、ギャリー。」

「えっ、でも―」

 ギャリーは躊躇した。このままイヴを置いていくと、メアリーが何かするかもしれない。

(もし、そうじゃなくても、アタシがここから出ちゃうと、メアリーは―)

「いいから、先に行って。すぐ行くから。」

 ギャリーはなかなか決断できなかった。ギャリーを見るイヴの顔は真剣だった。その後ろで、メアリーの顔はどこか切なげだった。

「お願い、ギャリー。」

(やっぱり、イヴにあのことを伝えるべきかしら・・・)

 ギャリーは何度も振り返る。しかし、最後にはイヴの言うことに従った。ギャリーは絵の中に飛び込む。メアリーは、ギャリーを止めようと思わず声を上げるが、もう遅かった。ギャリーが飛び込んだ『絵空事の世界』を見る。メアリーの顔にはなぜだか笑みが浮かんだ。

―しょうがないよね。しょうがないよ―

 メアリーは、視線をイヴに移す。イヴは、何も知らなかったんだもん。ギャリーが出ちゃうと、もう私は外に出られないってこと。

「どうしたの、イヴ?行かないの?」

 メアリーは心の動揺をイヴに悟られないように、そっと話しかける。イヴはポケットを探ると、手の平で隠れるくらいの小さな何かを取り出した。イヴは微笑むと、メアリーにそれをそっと握らせた。

「これ―」

「メアリーにプレゼント。ふたりだけの秘密だよ。」

 メアリーは、握られた手の平を開いた。そこには、黄色いキャンディーと赤いバラの花ビラがあった。

「青じゃないけど、許してね。」

 メアリーは、小さな手の平に乗っている、二つの小さなプレゼントを見つめる。ずっと読んでいた「ともだちのつくりかた」の文章を思い出す。


『ふたりだけの秘密は友達の証。』

 

 メアリーの視界がぼやける。目に涙が溢れ、吐き出す息が震える。イヴが微笑みかけている。笑い返そうとしても、うまく笑えない。

 いいなあ。やっぱり友達って、いいなあ。

 私も、欲しかったな。

「ありがとう。ありがとう、イヴ。私、ずっとイヴの友達でいたかった。」

「何言ってるの?ここから出たら、一緒に遊ぼうよ。友達なんだから。さ、一緒に出よう。」

 イヴがメアリーの手を握る。メアリーは溢れる涙を拭きながら、その手をそっと外す。

「メアリー?」

「イヴ、先に行って。」

「なんで?一緒に行こうよ。」

 イヴは再び俯いたままのメアリーの手を取ろうとするが、メアリーは今度はそれを強く振りほどく。

「お願いだから、行ってよ!」

「どうして―」

「これ以上、私を苦しめないでよ!」

 イヴは何がなんだか分からなかった。ギャリーが見たあの本を、イヴは見なかったから。

『ここからでるためには そとのだれかといれかわらきゃいけないみたい』

 もはや、入れ替わる人がいないメアリーは、ここから出ることはできない。また、薄暗い美術館でひとりぼっちになってしまうメアリー。

 そのことを知らないイヴは、必死にメアリーを連れ出そうとした。けれども、メアリーは拒み続けた。本当のことも言えなくて。ただひたすら、友達の優しさを拒み続けた。どうしようもない運命の前では、二人の少女の力はあまりにも頼りなく、小さかった。

(はやく、はやくあきらめてよ。イヴ。)


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