取り替えっこ
雑談になって申し訳ないのですが、kouri様の原作「Ib」というタイトルについてです。初めて「Ib」というタイトルを見て、「イヴ」って読めた人いますか?
ちなみに、私は読めませんでした。私が初めて「Ib」を見たとき、迷わず「アイビー」と読んでました。
そもそも、イヴの綴りって「Eve」じゃないですか?どうやら、「Ib」にした理由があるようなのですが・・・。でも、慣れてくると「Ib」の方がいいような気もしてくるのが不思議です。
無駄話をして申し訳ありませんでした。それでは、続きをお楽しみください。
深い深いおもちゃ箱の底。そこには、クレヨンの落書きがあちこちにあった。青い鬼の人形も、ちらほら見られる。イヴは、そんなおもちゃ箱の底で気を失い、倒れていた。
「う、うーん。」
イヴが、ゆっくりと目を覚まし、体を起こす。ぼんやりする頭で周囲を見るが、そこにギャリーの姿はない。
「ギャリー・・・?」
ふと、視線を下に向ける。空になった胸ポケットが目に映る。ぼんやりしていた頭が急にはっきりする。
(バラがない!)
イヴは、慌てて起き上がり、辺りを探し始めた。ときには、青い鬼の人形をどけ、床に顔を近づけて探したものの、赤いバラは一向に見つからなかった。
赤いバラを探していると、倒れている人影が見えた。イヴは、その人影に近づく。
「うーん・・・。あっ、イヴ。大丈夫?怪我、ない?」
ギャリーは目を覚ますと、体を起こす。イヴは、俯いたまま返事をすることができない。
「どうしたの、イヴ?・・・あら?バラがないけど、どうしたの?」
イヴは泣き出しそうになる。それを見たギャリーは、全てを悟った。
「まさか、無くしたの―?」
「ごめん、ギャリー・・・。」
「イヴは悪くないわよ。それより、早く探さなきゃ!」
ギャリーは、素早く立ち上がるとイヴの手を引く。ギャリーは、今までで一番慌てていた。バラを失う恐ろしさを、ギャリーは身をもって体感していた。もし、あのバラの花びらが全部散ったら、イヴは―
「これ、私にくれるの?わーい、ありがとう!」
聞き覚えのある声が聞こえる。二人は、その声のする方に歩いていく。ちょうど、青い鬼が赤いバラを渡しているところだった。
「ねえ、見てよ、二人共。こんなに綺麗なバラ、もらっちゃった。」
メアリーが笑みを浮かべる。その笑みは、純粋で、悪意なんてこもっていなさそうだった。
「ちょっと!それ、イヴのバラよ。知っているでしょ!早く、イヴに返しなさい!」
「えー。せっかくもらったのに、簡単には渡したくないなあ。どうしようかなあ。」
メアリーが、赤いバラを見る。ギャリーの顔が緊張で引き攣る。イヴは、胸が苦しくなる。イヴには、メアリーが次に言う言葉がわかっていた。
「じゃあさ。代わりにギャリーの青いバラ、ちょうだい?私、青の方が好きだから。」
突然の提案に、ギャリーの目がわずかに開かれる。イヴのギャリーの手を握る力が強くなる。もうやめてよ、メアリー―
ギャリーが、イヴを見下ろす。イヴが不安げな表情でギャリーを見上げる。
(そんなの、断れるわけないじゃない。)
「ギャリー・・・。」
「大丈夫よ、イヴ。」
ギャリーは、イヴに微笑みかけると、イヴから手を離し、青いバラを取り出す。メアリーはそれを見て、笑みを浮かべる。そっと、右手を差し出す。
(ごめんなさい、イヴ。アナタだけでも、ここから脱出してね―)
メアリーが、青いバラに手を伸ばす。メアリーが青いバラを手にしたら―
そんなの、いやだ!
「痛い!なにするの!!」
気がつくと、イヴはメアリーの腕を掴んでいた。メアリーは必死になって、それを退けようとする。何度も左手で思い切りイヴを叩いた。けれども、イヴは決して手を離さなかった。
そのうち、メアリーの手から赤いバラがこぼれ落ちた。イヴは素早くそれを拾うと、ギャリーの手を握り、そのままおもちゃ箱の奥にある階段に向かって走りだした。
―かえせ!―
声が響いたかと思うと、おもちゃ箱が大きく揺れる。静かに座っていた青い鬼の人形たちが、二人に向かって走り出した。二人は構わず、階段を上る。メアリーは、ただただ二人の背中を見送っていた。
「どうして?どうして、私を置いていくの?約束したじゃない―」
手をつなぎ階段を上る二人の背中を見送るメアリーは、ショックのあまり両膝をつく。
―誰か、私をここから連れ出してよ―




