審判
美術館・・・。そういえば、最近行ってないなあ。
子供の頃、「これのどこがいいの?」とか思っていた絵が、成長するにつれて、そのよさが分かってくる(いや、もしかしたら、上っ面だけかもしれない(笑))。ピカソの絵に至っては、「これ、適当に描いているだけじゃん。」と思ってました。ちなみに、私が印象に残っているピカソの絵は、『泣く女』です。
さて、個人的な話で申し訳ないのですが、またまたお気に入り登録が一件増えていました。こんな拙い物語を読んでくださって、本当にありがとうございます。物語も、盛り上がってきます。どうぞ、最後まで楽しんでいただけると幸いです。
ギャリーが部屋の奥に進むと、そこには一枚の絵と本棚があった。大きな人の耳が書いてあるだけの絵だった。ギャリーは、絵のタイトルを見る。
『聞き耳』
「これも、ゲルテナの作品なのかしら―。あら?」
ギャリーが床を見ると、そこにはピンク色の絵の具玉が落ちていた。拾うと、絵の具玉は消える。ギャリーは、絵の具玉が消えるのを確認すると、本棚の本を見始める。
「あった!」
ギャリーは、ある一冊の本を取り出すと、ページをめくり始める。
『ゲルテナの作品集(下)』
『吊るされた男』
一時期ゲルテナは、雑誌の装丁の仕事をしており、ページの埋め合わせに、この絵を載せたとされている。
毎回挿絵を載せていったところ、これが好評で、後にこの雑誌で使用した絵をタロットカードにして、期間限定で販売したこともあった。現在、このタロットカードを入手することは、ほぼ不可能となっている。
「うーん。大した情報が書いてないわね。」
ギャリーは、素早くページをめくりながら見たことのある絵を探し、そこに書いてあることを読む、という作業を繰り返した。けれども、どれも一般的に知られているようなことであり、この美術館の奇妙な現象を説明するようなものは何一つとしてなかった。
「・・・!!」
ギャリーが諦めようとしていたとき、あるページで手が止まった。自分の目を疑い、何度も自分の目を強く擦ってみたものの、そのページに載っている絵は変わらない。ギャリーは、慌ててそのページを読む。
「な、なんで?え?うそでしょ・・・これ?」
ギャリーはにわかには信じられなかった。でも、もしこれが真実だとしたら―。
「イヴが危ない!」
ギャリーは顔を真っ青にし、部屋の外に出る。ギャリーが部屋をあとにしたとき、静かになった部屋に声が響いた。
―知っちゃった、知っちゃった。メアリーの秘密―
ギャリーが勢いよく扉から出ると、何かを蹴飛ばしてしまった。ギャリーが足元を見ると、青い鬼の人形が倒れていた。
「さっき、いいものひろったよ。わたしのたからものにするの。ねえ、欲しい?欲しいなら、一緒に遊ぼうよ。」
青い鬼の人形は、倒れたままの状態でそう言った。ギャリーは、おそるおそる近づく。
「あら?なんかお腹が膨らんでいる?・・・どうしよう。」
迷っている場合ではなかった。このままでは、イヴが―。ギャリーは勇気を振り絞って人形を調べてみる。すると、人形のお腹の中から何かが出てきた。球体は床の上に跳ねることなく、静かに落ちる。赤い絵の具玉だった。
ギャリーはその絵の具玉を拾う。絵の具玉がギャリーの手の中から消える。すると、青い鬼は小さく笑い声を上げ、部屋の中に入っていった。扉は開いたままだった。
「あの部屋って、確かドアノブが冷たくて開けられなかった部屋よね・・・。絵の具玉は、あと一個だし。あの部屋にあるかしら。」
ギャリーは、恐怖心を抑え、半開きの扉から部屋の中に入っていく。
部屋の中には、大小様々な青い鬼の人形がたくさんあった。赤い目が全て部屋の中央を向いている。正面に絵が飾ってあったが、その絵は真っ白だった。ただ、タイトルだけは書いてあった。
『審判』
「あった!これで最後だわ。」
ギャリーは、部屋の中央に置いてあった白い絵の具玉を手にする。絵の具玉は静かに消える。
「早く、この気味悪い部屋から出なきゃ。」
ギャリーが急いで扉に向かう。
バタン!
扉が音を立てて閉じる。
「・・・え?」
ギャリーは扉に近づき、押す。けれども、扉は開かなかった。鍵がかかっているようだた。
「え・・・。うそ・・・なんで!?さっきまで開いていたのに!」
すると、どこからともなく笑い声が聞こえてきた。これまでに何度か聞いたことのある、青い鬼の人形のものだった。
―宝探しをしようよ、ギャリー。誰が鍵を持っているかな?―
「なんですって?」
青い鬼の人形の笑い声はやまない。やがて、部屋全体に地響きがする。地響きが収まると、鐘の音が響き始める。
「な、なに!?今度はなんなの?」
―ほら。早くしないと時間がなくなっちゃうよ―
その言葉を最後に、笑い声は消えた。
「なんか、やばそう。鍵、鍵はどこ!?」
ギャリーは咄嗟に近くにあった青い鬼の人形を手にする。すると、この人形もさっきと同じようにお腹が膨れていた。ギャリーは迷わず、人形のお腹を破る。すると、中から大量の髪の毛が出てきた。
「ギャー!気持ち悪い!」
ギャリーは人形を投げ捨て、次の人形を手にして、お腹を破く。今度は、青い絵の具だった。次から次へと破っていくが、肝心の鍵が見つからない。
その間中、ずっと鐘の音が鳴り続けていた。その音が、より一層ギャリーの心を乱した。手が震え、うまく破けなくなっていく。
「あった!鍵!」
ギャリーは、人形を投げ捨て、鍵を手にして扉に駆け出そうとする。
「・・・あれ?」
足が前に進まない。まるで重い石を付けられたかのように、足が動かなくなった。足の一部だけ、異様に冷たい。いつの間にか、鐘の音はやんでいた。
―残念、残念。時間切れ。ギャリーの負けだよ。―
ギャリーは、おそるおそる振り返る。すると、ギャリーの足首を青く太い腕が掴んでいるのが見えた。ギャリーは、ゆっくり視線を自分の足元からその青い腕に沿って動かす。
視線の先にいたのは、真っ白だったはずの絵から身を乗り出している、巨大な青い鬼だった。真っ赤な目をギラギラと輝かせ、ギャリーの方を睨みつけている。口をゆっくりと開きはじめる。鈍く光る鋭い歯が見える。炎のように赤い口だった。
―裁きだ!―
耳をつんざく重量のある声が部屋中に響いた。