ある少女の末路
投稿していると、「よくこんなに書いたな。」と思ってしまいます。
実はこの作品、二次創作であるが故に投稿できるとは微塵も思わず、ただの自己満足で書いていたものなのです。最初は、一部分しか書いていなかったのですが、書いているうちに、「やはり、はじめからの流れがないと面白くない。」と思い始め、いつの間にか立派な(ということもないかな)長編になっていました。
そろそろ、物語が大きく動き出す頃です。果たして、イヴたちは無事、不思議な美術館から脱出できるのでしょうか!?
イヴとメアリーが部屋に入ると、壁一面に本棚が並んでいた。今、入れる部屋の中では、最後の部屋だ。
「本がたくさんあるね。面白い本、あるかな?」
メアリーはそう言うと、本棚に近寄り、本を探し始める。イヴも近寄ってみる。なにやら難しそうな本ばかり並んでいるようだった。
「絵本、ないのかな。」
メアリーが落胆の声を漏らす。イヴは本棚から離れ、何かないか部屋を探索し始めた。
(奥だけ、本棚がない。)
イヴは、本棚のない部屋の隅に近づく。すると、鍵穴のようなものを見つけた。イヴは、ポケットから木の鍵を取り出し、差し込んでみる。すると、木の鍵は見事にはまる。鍵をゆっくりと回す。
「ねえ、イヴ。これなら私たちでも読めそうだよ!」
メアリーが、イヴの背中に軽くぶつかってくる。メアリーは、一冊の本を大切そうに両腕で抱えていた本をイヴに差し出す。イヴは本をメアリーから受け取り、開く。絵本ではなさそうだったけれど、読みやすそうだった。イヴは、本を読み始める。
『ある少女の末路』
あるところに 小さな女の子がいました
女の子は 両親と一緒に 美術館へ行きました
しかし ふと気が付くと 女の子は迷子になってしまい
薄暗い美術館の中を探しましたが 両親も出口も見つからず
怖くて 心細くて さみしくて
お腹も減り 喉が乾き
転んで怪我をして 体力も限界になって・・・
最後のページには、小さな女の子が倒れている挿絵で終わっていた。イヴは、震える手で本を閉じる。
(これって―)
本に書かれていたのは、まさにイヴのことだった。そういえば、この美術館には、あるはずのないお父さんとお母さんの絵もあった。もし、この本に書いてあることが本当になるのなら―
「どうしたの、イヴ?」
イヴの様子の変化が心配になったメアリーが、イヴの顔を覗き込む。
「なんでもない。なんでもないよ。それより、鍵穴、あったよ。」
「ホント!?それで、なにか起きた?」
イヴは辺りを見渡す。メアリーは、それに合わせて辺りを見渡し始める。
「何も起きてないみたいだね―。どうしようか?」
メアリーの言う通り、この部屋に異変はなかった。もう他に手掛かりはない。ひとつ、イヴが気になっているのは、あの白黒の部屋だ。
「もう一度、あの白黒の部屋に行ってみようか。」
「そうだね。行ってみよう!」
イヴの提案にメアリーは同意すると、イヴの手を引き、部屋を出る。
部屋を出ると、イヴは変化に気がついた。さっき赤いガスが出ていた場所のガスが止まり、扉が現れていた。
「メアリー、ちょっと待って。あの部屋に行ってみよう。」
「え?うん、いいよ。」
二人はその扉に近づき、扉に手をかける。鍵はかかってなく、すんなり開いた。部屋の中に入ると、『無個性』が目に入った。その向こうには階段が続いているようだ。メアリーが、『無個性』に近づき、押してみるがピクリともしない。
「これ・・・邪魔・・・。イヴ、手伝って。」
イヴは頷くと、メアリーと並んで『無個性』を押す。けれども、『無個性』は全く動かない。
「ダメだよ。ギャリーがいないと、この先進めないよ。」
「だって、ギャリーはあそこから先に進めないんだよ?ほら、もう一回やろ。」
もう一度、二人は力を合わせて『無個性』を押す。やはり、『無個性』は動かない。
「私たちじゃ、無理だよ。やっぱり、あの部屋に行ってみようよ。」
「イヴがこの部屋に入ろうって言ったんだよ!なのに、すぐ諦めてさ。これさえ、動けば―。」
突然、機嫌を損ねたメアリーは声を荒らげると、再びひとりで『無個性』を押し始める。
「無理だよ。危ないよ。」
「うるさい!」
やめさせようとするイヴの手を、メアリーは払いのける。その勢いで、イヴは倒れる。
「―ごめん、イヴ。悪気はなかったの。」
我に返ったメアリーが慌ててイヴに近寄り、手を差し出す。イヴは、その手をつかみ、立ち上がる。すると、メアリーが横を向いた。イヴもその方向を見る。そこには、一枚の大きな絵が飾ってあった。三日月に、パジャマ姿の女の子がしがみつき、穏やかな表情で眠っている絵だった。
『憧れ』
イヴとメアリーは、しばらくその絵を眺めていた。その絵を見ることで、二人の心も落ち着いたようだった。
「ねえ、イヴ。約束、覚えてる?私と一緒にここから出ようっていう、約束。」
「覚えてる。」
「絶対、絶対守ってくれる?」
「うん。」
短い会話の後、二人は静かに『憧れ』を観賞し始めた。