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おとなのいないせかい

 イヴとメアリーのコンビです。この二人の組み合わせも、ギャリーのときとは違った良さが出ていると思います。

 私が原作をプレイをしていたとき、明るい笑顔で話しかけるメアリーに対して、優しく微笑むイヴ、という情景が浮かびました。みなさんも、この物語を読んでいて、そんな情景を思い浮かべていただけると幸いです。

 

 鍵を開け、扉をくぐる。部屋の中には、木の箱がいくつも置いてあった。『無個性』という名の石膏像もいくつか置いてあった。

「これ、ぶつけたら壊せそうだよね。重くて全然動かせないけど・・・。」

 メアリーが、扉の近くにあった『無個性』に触れ、動かそうとしている。メアリーは、『無個性』をあまり怖がっていないようだった。イヴは、部屋の奥に進み、木の箱の中を覗いてみた。そこには、いろいろな画材が詰め込んであった。

「なにか、役に立ちそうなものないかな。あっ、あれは―。」

 メアリーは、画材道具の山の奥の方に手を入れると、パレットナイフを取り出した。

「ねえ、これであのツル、削れないかな。」

 メアリーが、パレットナイフをイヴに見せる。メアリーは、パレットナイフを見せびらかすように、軽く振っている。

「難しいんじゃないかな。」

「あははは。冗談だよ、イヴ。本気にしないでよ。でも、一応、これ持っていこうかな。念のために、ね。」

 メアリーは、そう言うとパレットナイフをポケットに入れた。イヴとメアリーは、再び木の箱の中を探り始める。しかし、見つかるのは絵の具や筆ばかりであり、役に立ちそうなものはなかった。

「うーん。あまり役に立ちそうなものないね。一旦、ギャリーのところに戻ろうか?」

「そうだね。ギャリー、心配するかもしれないし―。」

 そのとき、部屋の明かりが点滅する。一瞬、暗くなったかと思うと、また明るくなった。

「わっ、なに?停電?」

 メアリーが声を上げたときには、部屋の明かりはすっかり落ち着いていた。

「びっくりしたー。あれ?あの石膏像、壁際にあったはずなのに・・・。」

 メアリーが、扉の方を指差す。イヴは、そちらを見る。赤い服を着た『無個性』が、扉を塞いでいた。二人は、慌てて扉の前まで移動する。

「動かさなきゃ。いくよ!せーの!」

 メアリーの掛け声とともに、イヴは渾身の力を込める。けれども、『無個性』は、ピクリとも動かない。

「どうしよう。全然動かない。これじゃ、ギャリーのところに戻れないよ。」

 イヴがどうしようかと辺りを見渡すと、部屋の奥に扉を見つけた。メアリーも言葉の割には、冷静だった。

「ねえ。戻れないし、奥に進んでみようか。なにかあるかもしれないし。」

「うん。行ってみようか。」

 二人は、『無個性』を動かすことを諦めると、奥の扉をくぐる。

扉をくぐると、薄暗い廊下に出る。廊下の奥には階段があり、階段の上には窓があった。

「あれ?」

「どうしたの、イヴ?」

 イヴは、駆け足で階段を上り、窓ガラスに近寄る。窓ガラスは、光を反射し、イヴとメアリーの姿をぼんやりと映していた。

「いま、誰か通った気がしたんだけど―。」

「そう?私は見えなかったけどな。」

 イヴは、目を凝らす。しかし、窓ガラスの向こう側は、こちらと同じような廊下が続いているだけで、誰もいなかった。

「気のせいかな・・・。」

 ビリ!

「な、なに!?」

 イヴが、窓ガラスから離れようとしたとき、何かが破けるような音が聞こえた。いつのまにか、廊下の壁に文字が浮かんでいた。


 イヴ、きみにたのしんでほしいから

 おとなのいない たのしいせかいへ

 いっしょにいこうよ

 おともだちもいっしょだよ


 イヴは、その不可解なメッセージに首をかしげる。「おとなのいない たのしいせかい」は、おそらく、この場所のことなのだろう。「ここに残れ」という意味だということも分かる。ただ、「おともだちもいっしょ」という言葉がひっかかった。「おともだち」は、ここで動き回っている作品たちのことだろうか?

「先に行こうか。メアリー。」

 イヴは、メアリーに声をかける。メアリーは、壁に浮かんだ文字をじっと見つめている。

「メアリー?」

「あっ、うん。ごめん。これ、一体何だろうね?」

 メアリーは、イヴに微笑みかける。イヴの手をとり、先に進む。必要以上力強く掴まれたイヴは、手が痛かった。

 廊下の先にあった扉をくぐると、大きな溝のある部屋に出た。溝の向こうに、通路が見える。壁には、目だけ書かれた絵が飾ってある。その絵は一定の感覚で瞬きしていた。

「これじゃあ、進めないね。」

「あの絵が降りてきて、この溝を塞いでくれたらいいのに。」

 イヴは、溝の上の壁で瞬きしている絵を見る。

「え?」

「前にも、同じような部屋があったんだ。そのとき、絵を橋にして渡ったから。」

「へえー。そんなことがあったんだあ。」

 それから、二人は床に座り、おしゃべりをした。イヴは、今まで何があったのか、メアリーに話した。メアリーは、感心したり、驚いたり、イヴの話に合わせて反応を示した。

「ねえ、イヴ。ちょっと聞いていい?」

 イヴが一通り話し終わると、メアリーが身を乗り出す。イヴはその勢いに押され、少し身を引き、頷く。

「ギャリーって、イヴのお父さん?」

 イヴはその質問の意図が分からず、首をわずかに傾ける。しかし、メアリーは真剣な眼差しでイヴを見つめるだけだった。

「違うよ。」

「ふーん。じゃあ、お父さんは別にいるのね。そっかあ。」

 メアリーが、笑顔をみせる。メアリーは、イヴに近づけていた顔を離す。

(私、ギャリーとここで会ったって言わなかったっけ?)

「イヴのお母さん、やさしい?」

 メアリーが続けて質問をする。私のお母さん?そうだなあ―。

「怒ったら怖いかも。」

「あははは。イヴでも怒られることあるんだ。いいなあ。早く両親に会いたいよね。私も早く、ここから出たいよ。頑張って、絶対一緒に出ようね。約束だよ!」

 メアリーが、イヴの手を取る。その目はまっすぐイヴを見ている。イヴは、少し強引なメアリーのことを、決して不快だとは思わなかった。

 イヴには、友達がいないわけではなかった。しかし、イヴは大人びていたため、イヴの友達になるような子は、イヴと同じように育ちのよい、おとなしい子ばかりだった。メアリーのように活発な女の子は、イヴの周りにはおらず、新鮮だった。

「うん。約束するよ。」

「ホント!?ありがとう、イヴ!」

 メアリーが嬉しそうに、握った手を上下に振る。そのメアリーの喜び方を見ていたイヴも、なんだか嬉しくなってきた。

「そういえば、ギャリーはどうしているかな。置いてきちゃったけど・・・。」

 話が中断したとき、メアリーがつぶやいた。すると、明るい気持ちになっていたイヴは、急に心配になってきた。

(ギャリー・・・)


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