嫉妬深き花
ギャリーとメアリーをどこで登場させるか。そのあたりも考えた記憶があります。できるだけ原作の流れは壊したくなかったので、彼らが登場する場面は変えられませんが、言ってしまえば、どのページ数でその場面を持ってくるか、それに悩みました。あまり早い段階でギャリーが出てきたり、メアリーの登場が遅かったりすることは避けたかったですね。
ちなみに、前回、さりげない伏線があります。後々、物語を読んでいくうちに、「そういえば・・・」と思っていただけると幸いです。
廊下を進むと、扉が二つ見えた。ギャリーは、手前の扉に手をかけるが、開かない。どうやら、鍵がかかっているらしい。
「鍵がかかってるわね。あっちの部屋を見てみましょうか。」
ギャリーは、奥の扉に手をかける。今度は難なく開いた。三人は、部屋の中に入る。
部屋の中には、様々な色の置物がたくさん置いてあった。正面には、その置物をモデルにした大きな絵が飾ってあった。ギャリーは、その絵のタイトルを見る。
『赤色の目』
「ったく、この絵といい、部屋といい。なんでこんな気味悪いのよ!」
ギャリーが堪えきれずに、半ば憤る。
「えっ、そうかな?カワイイと思うけど・・・。」
「えー!?これのどこが、カワイイのよ!」
メアリーの一言に、ギャリーは驚く。じっくりと絵を見始めるが、すぐに顔をしかめ、難しそうな表情をする。
「そうかなぁ・・・。ねえ、イヴはどう思う。」
イヴは、置物を見る。色とりどりのウサギが机の上に並んでいる。小さな赤い目が、とてもかわいらしい。
「かわいい。」
「でしょ!ほら、この青いのとか、特にカワイイと思わない?」
メアリーは、青いウサギを手にする。イヴも、その隣にあったピンクのウサギの置き物を手にする。撫でてみると、フサフサしていて気持ちよかった。
「女の子の趣味って分からないわ。」
ギャリーが、楽しそうに会話をしている二人を尻目に、本棚にあった本を取り出し、読み始める。
『心壊』
あまりに精神が疲弊すると そのうち幻覚が見え始め
最後は壊れてしまうだろう
そして 厄介なことに
自身が『壊れて』いることを 自覚することはできない
(何が書いてあるのか、さっぱりだわ・・・)
ギャリーは、本を本棚に戻す。二人はまだ楽しそうに会話をしている。ギャリーは、一刻も早く、この部屋から出て行きたかった。なんだか、誰かに見られているみたいで落ち着かなかった。
ガシャン!
「あっ!落としちゃった!」
固い物が割れる音のあとに、メアリーの慌てる声が聞こえる。ギャリーがメアリーの足元を見ると、割れた置物の中に鍵が入っているのが見えた。
「鍵だわ。置物の中に入っていたのね。」
「やったね、メアリー。」
イヴがメアリーの手を取る。メアリーは嬉しそうに笑う。
「これで、向こうの扉を通れるわね。」
イヴとメアリーは頷くと、三人は部屋をあとにする。部屋を出るとき、ギャリーは部屋の中をもう一度見る。
(どう考えても、不気味にしか思えないわ。)
ギャリーは、首をひねりながらも、扉を閉める。ギャリーが扉を閉め、廊下に出ると、イヴとメアリーは廊下に飾ってある絵を見ていた。ギャリーもその絵に近づき、タイトルを見る。
『嫉妬深き花』
絵を見ていると、音が聞こえてきた。どうやら、絵の中から聞こえてくるようだ。何かを引きずるような音。その音が、だんだん大きくなってきた。
「なに、この音?近づいてくる・・・。」
メアリーが、イヴの手を掴む。すると、画面の奥からダークレッドの花が出てきた。花は額縁から乗り出す。地面が揺れ始める。
「な、なんかマズイわ!みんな、絵から離れて!」
「イヴ、危ない!」
メアリーが叫ぶ。ギャリーは、咄嗟にイヴの体を押す。イヴは勢いよく床に倒れる。イヴの倒れた後ろでは、地面からツタが勢いよく飛び出し、通路を塞いでいた。
「二人とも!大丈夫!?」
ツタの向こうからギャリーの声が聞こえる。
「うん。大丈夫。」
「あー、びっくりした!」
メアリーが、驚きで目を丸くしている。
「イヴは?怪我とかしてない?」
「大丈夫。なんともないよ。」
「よかった。それにしても、これ、邪魔でそっちに行けないんだけど。折ったりできないかしら。」
ギャリーは、地面から出てきたツルを触る。そのツルは、固く冷たかった。
「なにこれ。石でできてるわ、この植物。どうしましょ・・・。」
「ねえ、イヴ。さっきの部屋で、鍵拾ったよね?その鍵で、先に行こうよ。もしかしたら、違う部屋に、これを壊せる道具があるかもしれないよ。ねえ、見てきていいよね?」
メアリーは、石のツルの隙間から顔を覗かせ、ギャリーに尋ねる。
「うーん。でも、二人だけで大丈夫かしら―。」
「大丈夫だよ。ね、イヴ?」
メアリーはイヴの方を見る。メアリーの表情は生き生きとしていた。イヴは、できれば三人一緒にいたほうがいいと思っていたけれど、メアリーの言うことも一理あった。
「大丈夫だと思う。」
「ほら、イヴもこう言ってるよ。」
「・・・そうね。たしかにメアリーの言うとおりだわ。別行動はあんまり気乗りがしないけど・・・。でも、いい?何もなかったら、すぐにここに戻ってくるのよ。どうするのかは、そのあと、改めて考えましょ。」
「うん、分かった!それじゃ、行こう、イヴ!」
メアリーはイヴの手を取ると、扉の方に引っ張っていった。イヴは振り返る。振り返ると、石のツルから顔を覗かせ、手を小さく上げているギャリーが見えた。その顔は、どこか不安げだった。