Episode:08 The two worlds 【二つの世界】
《It is begun to move the world. Gears are geared and a tale is built. Even if it is wrong and justice.》
世界は動き出す。歯車同士が絡み合い、物語は造られてゆく。それが悪であっても、正義であっても。
◆
「・・・仲直りしたんですか?」
「まぁな」
俺はチラッと背後を見た。
背後に居たのはまだ邪険の眼でお互いを見続けるラルクとマサトだった。
本当に仲直りしたのだろうか・・・。
睨み続ける二人に笑いながらサクラさんが俺に説明してくれた。
「アレが二人にとって一番最良の関係なんだと思うよー」
「そうなんですか・・・?」
「そういえばソーヤ。何処に行ってたんだ?」
「え、あー・・・少し【暁の神殿】まで・・・」
俺は席に座り、机の上におかれたティーカップに紅茶を注ぎ、口に含む。
「暁の神殿?何しに・・・?」
「なんか気になって・・・一応行ってみたんですけど。結局何もなくて」
居たのはPCらしき少年と、歌だけだった。
俺はあのデルタと名乗った少年を思い出す。
そういえばデルタはなんであの場所に居たのだろう。
「ねぇー。ソーヤ!今日さ、『ライブ』行かない!?」
「ライブ、?」
「そう!ネットアイドルギルド『@WORLD』!知らない?」
いや、俺、知らないっていうか・・・覚えてないっていうか。
「アウローラ・カオス・オンラインの有名ギルドの一つでアイドルギルドっていうのかな。毎週ライブみたいなのやってるんだ。いつも音源をゲーム内で放送してたんだけど、実際に聞ける日がくるなんてねぇ」
「気晴らしに行ってみてもいいかもな」
ミナトさんはそういって俺の方をクルリ、と向いた。
「アイドルというのはいまいちわからんが、気晴らしくらいにはなるだろ。行くぞ」
「え、えぇー・・・・・・」
『お久しぶりでーす!アイドルギルド『@WORLD』!復活しました!みんなー?これからも、頑張っていくからよろしくねー!』
(アイドルねぇ・・・・・・)
歓声の中、俺達は舞台近くの椅子に座り六人構成のアイドル、@WORLDのライブを見上げる。
皆ドレスのような衣装を身に纏い、舞台の上でマイクを片手に歌を歌い始める。
その歌は現実のようなアイドルと左程変わらず、周りで一気に歓声が上がる。
「うっわぁー!本物の@WORLDだぁ!」
「応援してるよー!」
フッと、隣に座っているはずのミナトさんとラルクを見る。
二人はジュース類を飲みながらボォっと彼女たちを見ていた。
俺も静かにしながら舞台を見上げる。
「アイドルってさ、俺、記憶無いから三年前のアイドルしか知らないんだけど、@WORLDって最近できたの?」
「えぇっと・・・・・・三年くらい前ですかね。それくらいから広まり始めましたよ」
「このアウローラ・カオス・オンラインでか?」
「はい。今まで素性を明かさなかったんですけど、ほとんどPCと変わらないらしいですよ」
ほとんど、PCと?
リーダーとなってるのはあの水色の髪の巨大なリボンを頭につけた少女型PCで、職業は踊り子か・・・・・・。
腰には武器の扇が装着されていた。
レベルもなかなかで、経験値も抜かりなく獲得しているらしい事がわかった。
「ほぉ。なるほど。コレはなかなか・・・・・・」
「ぶっほっ!?」
突然横でミナトさんがそう呟いて、俺は口に含んでいたジュースを吹き出した。
「どうした?」
「い、いや・・・・・・」
あまりにも顔に見合わない発現をミナトさんがしたせいですよ!なんていえず、俺は苦笑する。
まぁ、でも、アイドルはいいものだよなぁ。希望があって。
歌を聞きながら、ボォっとしていると突然CGが動き出した。
動き出した瞬間ひときわ大きい歓声が上がり、美しいCGが動く。
「すげぇー・・・・・・」
「まぁ、ゲームの世界ですしあのエフェクトはスキルなんだと思いますよ。でもすごい歌上手いですよねー」
「あぁ。それに、みんな元気になったみたいだ」
歌を聞きながら、俺はため息を吐く。
――あれから俺たちと同じようにギルドを建て仲間を増やし、なんとか生活を保つ人、PCは少なかった。
たいていの人は挫折し、生きることを諦め、道端で座り込んだりする者が多かった。
(だけど今日、このコンサートに来て皆元気を取り戻したみたいだ)
彼女たちの表情も生き生きとしている。
いくらこの世界が、作り物でも、現実だとしても。
この世界で生きる以上、希望がなければ人は戦えない。
『みんな!今日は有り難う!これからもがんばろうね!』
コンサートが終わり、人々は元に戻ってゆく。
フィールドへ向かうPCもいれば、ギルドへ向かうPCもいた。
――ミナトさんやラルクは二人共コンサートの感想でも言い合っているのか、声が弾んでいるように聞こえた。
俺が会場をうろうろしていると、金色の髪の男が目に入った。
男は白い装束姿で十字架を象った杖を手に持っている。
「・・・・・・?」
その男の人は怪訝な顔で周辺を見渡していた。
「・・・・・・あの。どうかしたんですか?」
俺が話しかけると男は怪訝な表情のまま振り向き、俺はソレに怯んで一歩後ろへ下がる。
(それにしても知らない職業だな・・・・・・。何の職業なんだ?)
非常に困惑した表情で男はするとゆっくりと男は口を開く。
「――君。これは一体、どうなってる・・・・・・?」
「・・・・・・え?」
男は困惑しながら俺を見ていた。
俺は首を傾げ、男を見る。
「『β』を握る感覚がない・・・まるで、ゲームの世界がリアルに・・・・」
「・・・あの。貴方は――『あの日』にいなかった人、なんですか?」
「『あの日』・・・・・・?」
俺は男を引っ張り、舞台裏に連れていきこの世界のことを説明した。
『あの日』何が起きたのかを。
俺達が――何を見たか。
ソレを聞いて、男は黙りこみ、「信じがたいことだ、」と呟いた。
俺だって信じがたいと思っていた。でも、認めるしか無い。
ここで生きていくにはその事実を認めて、抗うしか無い。
「だが――搬送される患者は全員『β』を握り、アウローラ・カオス・オンラインをプレイしたいた・・・・・・。否定するほうが難しいな」
「あの、貴方は現実から――・・・・・・ゲームの外から来たんですよね。あの。外の様子は・・・・・・」
「――全国のほとんどの人間が謎の昏睡状態に陥り、交通機関が止まった。病院に搬送される患者も日に日に増えている。――国も原因究明を急いでいるが、このままでは、原因究明はできそうにもない」
「・・・・・・そうですか。そういえば、貴方の職業は・・・・・・?」
「あぁ、あまり見ないが、医療術師という職業だ。そういえば名前を名乗っていなかったな。ゲームの中では『イオリ』と名乗っている」
「イオリさん。えぇっと、俺はソーヤです。魔術師です。よろしくお願いします」
「――悪いけど、僕も君のギルドに入っていいかな。行き場がなくってね・・・・・・一人じゃどうしようもないし・・・・・・いいかな」
「俺としても凄く助かります。やっぱり人が多いと、安心しますし。それに、医療系のPCがいてくれたら助かります。これからよろしく」
握手を交わし、俺がギルドへ案内しようとした――瞬間。
――ズドンッ
「!?」
「キャァァァァァァァっ」
悲鳴が聞こえた方を振り向くと、@WORLDの六人が男性型PCにロープのようなもので拘束されていた。
結構な人数で、その男性型PCの中には女性型PCも少しだが混じっていて、そのほとんどが魔法系統の職業たちだった。
(拘束しているのはただのロープじゃないな・・・・・・あれはスキルの一種か?)
光るロープに身動きができないらしく、六人は顔を歪めて男たちを睨む。
「あなた達――何なんですかっ」
「あぁ?俺達かぁ?知らねぇ?コレ」
そういって見せてきたものはワッペンだった。
それはギルドで自由に変えられる紋章で、所属した瞬間に自動的にそれは装着することができる。
そのワッペンを見た瞬間、その場にいた全員が顔を真っ青にした。
「お、おいあれ・・・・・・【赤の剣闘団】じゃねぇか?」
【赤の剣闘団】?
【ナイトローズ】の次は【赤の剣闘団】って・・・・・・ギルド多いな。
そんなことが一瞬頭を通っていると、後ろからイオリさんが俺を後ろに追いやって自分が前に出た。
「ソーヤ君。君は【赤の剣闘団】を知らないのか?PK専門ギルドだよ。彼らはその中でも頻繁にPKを行う連中だ」
「え・・・・・・。なんでそこまで知ってるんですか?」
「僕もゲーム初版で彼らにPKされてね・・・・・・。それで、色々と・・・・・・。トラウマに、なっちゃって」
「――そ、そうなんですか・・・・・・すいません」
俺が視線を下に向け、黙っていると男たちが俺たちに気づいた。
「あ?お前俺達がPKした奴じゃないか。ひっさしぶりだなぁ、オイ!で、なんだ?こいつらを助けてヒーローでも気取るつもりか?安心しろよ。この世界は現実とは違って死んでも生き返るんだぜ。実際に確かめたら本当だったんだ」
ニィっと、不気味に笑うリーダー格のような男性PC。
確かめた・・・・・・?
「まぁ、痛みはあるけどなぁ?ギャハハっ」
「!」
脅してPKして、そいつの死を持って実験したのか・・・・・・?
俺は怒りがふつふつと湧き上がる。
この世界が、現実だったらどうなっていた?
この世界がもしも、そういうふうに出来ていなかったら――?
そのPCは――少なくとも、死に近い痛みを感じていたはずだ。
死の恐怖を感じていたはずだ。――もしかしたら、死んでいたかもしれないのにこいつらは、笑って。
「――退いてください。イオリさん」
「え・・・・・・」
俺を止めようとするイオリさんの声がどんどん遠くなっていく。
頭の中が真っ白になって、怒りでうまく息ができない。
「あ?なんだお前?」
俺は頭の中でほとんど無意識に陣を描く。
(何でもいい。こいつらに死の恐怖を与えられるような、とびっきりのスキルを――)
――ヴォンッ
一瞬で巨大な陣が自分を中心にして構築された。
「なんっ・・・・・・!?」
陣に青い粒子のようなものが浮遊し、光が増していく。
そのたびにこの陣が強化されていくのが判った。
口が勝手に動き出す。
「――――」
その瞬間、スキルは――魔術は発動する。
――ドンッ・・・・・・
気がつくと、そこは既に焼け野原になっていた。
木も花も、全て存在せず、ただ焦げ臭い匂いと土だけが広がっていて、本当に何もない状態だった。
「え?」
俺は何が起こったか全くわからず周辺をとりあえず見渡した。
慌てて治療スキルを施すイオリさんと、PKのPCだった。
他のPCたちは見当たらない。
そこで、俺はようやく自分がしたことを思い出した。
あの時――俺は無意識にスキルを発動して、無差別に周辺を焼き尽くした。
皆は無事か、何処にいったのだろうと首をかしげていると、イオリさんが俺の方に歩いてきた。
「他の、人たちは・・・・・・」
「わからない。君がスキルを発動した瞬間、他の人たちは一斉に居なくなった。・・・・・・ソレより君、大丈夫か?」
「あ、・・・・・・あ。その、すいません・・・・・・・」
「いや。僕もイライラしてたんだ。スッキリしたよ。ありがとう」
「・・・・・・」
俺は立ち上がろうとして、全身の力が抜けて崩れ落ちる。
意識もだんだんと薄れていくのに気づいて俺は歯ぎしりをする。
(SPが尽きたのか。――こんな感覚なんだな。SPからっからになるの――)
――ドサッ
「ソーヤ君!?」
「――あーあ。倒れちゃった。無理し過ぎだよ。ソーヤ君」
思考がぼんやりする中、そんな声が耳元で聞こえた。
フワフワと浮遊するような感覚に襲われ、俺は目をうっすらと開く。
――ぼんやりと見えたのは、誰かの顔。
誰かは優しげな声で囁く。
「無茶し過ぎたらだめだよ。君は、僕の大切なモノなんだから」
俺は少しずつ目を閉じていく。
「また会おう。夢のなかじゃなくて、今度は、あの世界で」
――目を覚ますと、泣きそうな表情をしたマサトがまっさきに飛び込んできた。
俺は一瞬驚いて目を見開く。
「心配したんだぞ!何してんだお前!」
「わ、悪い。つい、カッとなって」
「~~~!・・・・・・とりあえず、無事でよかった・・・・・・!」
痛いほど俺は抱きしめられ、本当にごめん、と呟いた。
みんなも心配そうな表情をして俺を見ている。俺は頭を下げて礼を言った。
ミナトさんがため息を吐いて俺のところへきた。
「――君がスキルを発動した瞬間、固有スキルの【瞬間移動】が発動した。君は無意識だったにしろ、助かったよ。全員がタウンへ引き戻されたんだ。それで戻ってきたら君が倒れていたわけだが・・・・・・」
「まぁったく驚いちゃったよ!いきなり目の前が真っ暗になって地面にほっぽりだされちゃったんだから!」
笑顔だったが本当に驚いていたらしく、声が震えている。
(それもそうか。いきなり現実のような肉体で【瞬間移動】を感じ取ったんだから――)
死ぬかもしれない恐怖と、隣り合わせだったんだ。
もし、【瞬間移動】が発動していなかったら。
もし【瞬間移動】が成功していなかったら――。
「・・・・・・本当に悪かった」
「いいのいいの!皆無事だったんだから!」
「もう悪さするなよお前ら――わかったな」
「わ、わかったよ!もうPKなんてしねぇ!」
そう言うやいなや彼等は何処かへ行ってしまった。
俺は少し息を吐いて、顔をうつむかせる。
――そういえば、倒れた時夢を見たような。
けど、何の夢だったか思い出せない。
「ソーヤ君!大丈夫か?」
「あ、大丈夫です・・・・・・。ありがとうございます。イオリさん」
「・・・・・・誰ですか?」
「あ、えぇっと。これからギルドの仲間になってくれる【医療術師】のイオリさんです」
「よろしくお願いします」
そういってイオリさんは頭を下げ、ニッコリと笑った。
「あ、あの!」
振り返るとそこにいたのは『@WORLD』のリーダーの少女型PCだった。
彼女は手元にマイクを持ち、息を乱しながら必死に俺に伝えようとする。
「ま、まず、お礼を言いたくて!ありがとうございますっ・・・・・・。それで、そのっ・・・・・・お願いがあって・・・・・・。あの。私も、その、ギルドに入っても・・・・・・っていうか、合併って形で、でも、もう私一人だけなんですけど・・・・・・お願いしていいでしょうか?」
「・・・・・・え?」
私一人?
確かメンバーは六人だったはずだ。
俺が不思議そうにしていると、彼女は重々しく口を開いた。
「他の五人は、別のギルドへ行ってしまって・・・・・・」
「あぁ・・・・・・」
「その、今のこともあるし・・・・・・固まって動いたほうがいいかなって・・・・・・思うんです。ダメですか?」
「い、いや、大歓迎だ!」
サクラさんが突然身を乗り出して俺を退け女の子の手を握った。
びっくりして俺はその場に顔面から顔をぶつける。
ふっぐ・・・!痛い・・・・・・!
「ちょっ大丈夫か!ソーヤ!」
「だ、大丈夫・・・・・・」
(少し涙目になっているけどな)
「私もね!このまま女子が一人だけだったらって思ってたんだ!是非はいってほしいなァ!いいよね!ソーヤ君!」
「え、あぁ、うん。もちろん」
俺はポケットの中を探り、ギルド基地の鍵を取り出す。
青い鍵は粒子を放ちながら光り輝き、そっと彼女に手渡した。
「私のPC名は『カオリ』です!これから、よろしくお願いします!」
◆
「――It is begun to move the world. Gears are geared and a tale is built. Even if it is wrong and justice. 《世界は動き出す。歯車同士が絡み合い、物語は造られてゆく。それが悪であっても、正義であっても。》・・・・・・か」
「なんです、それ」
「――アウローラ・カオス・オンラインのストーリーの一つだ」
「それがどうか・・・・・・」
「いや――気になってな」
コーヒーカップの中で揺れる茶色の液体を眺めながら、ため息を吐いた。
顔色は悪く、血の気がないように見えた。
やつれた顔をしている――睡眠は取っていない。
食欲もない。だが――俺は動かなければならない。
「――想夜」
スタンドに収められた写真を眺めながら、俺は呟いた。
コレで、二度目だ。
今度また助かるという保証はない。
――ベッドの上で、真っ白な顔で目を閉じ、本当に眠っているのではないか、と錯覚するほど安らかで。
その光景を思い出して、俺は歯を思いっきり噛んだ。
「絶対に、今度は俺が助けてやる」
その声は自分でも判るほど冷たいもので、身体中といわず、心まで冷たくなっていくような感覚に襲われた。
「――今度は絶対に」
「・・・・・・無茶はしないでくださいね。先輩がぶっ倒れたら俺は誰の後ろにつけばいいんですか。――終わりましたよ」
「ありがとう。君には感謝している。・・・・・・コレは・・・・・・」
登場人物設定も投稿しておきました。
若干ネタバレを含んでいるので気をつけたほうがいいです・・・・・・って、ここで書いても意味ないかも・・・・・・。