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覚醒世界のカタルシス  作者: 朝露 壱
第1章 ―Awakening―【覚醒】
8/26

Episode:07 Fools' tea meeting 【愚者達のお茶会】

「サクラさん」

「うん?どうしたの?」


四日目の昼――。

俺はサクラさんにマサトのことを聞くことにした。

昨日の情報収集の後、二人の仲は険悪になっていた。

そのことが気になって話しかけたのだけれど。


「マサトと・・・何かあったんですか?昨日・・・」


サクラさんはニヤニヤ笑う。

俺が不思議そうに首をかしげていると、後ろから物音が聞こえて振り向いたらそこにマサトが立っていた。

マサトは思いっきり今まで見せたことも無いような嫌悪感丸出しでサクラさんを見ていた。


「マサト?」

「やぁやぁ今日も不機嫌だね少年!」

「アンタだけですよ。俺が不機嫌になんのは」


サクラさんは大笑いしながらマサトを見ている。

なんなんだろうか・・・この二人の、今の関係は。


「マサト・・・サクラさんのこと、好きなのか?」

「ぶっふ!!」


アハハハハハ、とサクラさんは俺の発言に大笑いし、マサトは呆然と俺の顔を見て立っている。

(お、俺なんか変なこと言ったか?)


「ただいまー・・・」

「ん?どうした?三人して」


ミナトさんとラルクは俺たちの様子を見て不思議そうに立っていた。


(どうしたって聞きたいのは俺の方だよ・・・)


ミナトさんとラルクは早朝に修行をする、と言って外出をしていた。

二人は側にあった椅子に座り、何か皮袋を取り出し机の上に置いた。


「戦利品だ」

「戦利品・・・?」

「す、すいません・・・【傷薬】、ありますか?」

「あ、そうだ。コレ、【ナイトローズ】のギルド長から貰ったんだ。【傷薬】と【マナポーション】」


昨日貰った二種類を机の上にドチャッと置いた。

ラルクは顔を歪ませて俺の顔を見上げる。


「・・・会ったんですか。・・・アオイさんに」


その表情は本当に苦しそうで、辛そうで。

今まで何があったのか、何を『あいつ等』にされていたのか・・・俺は考える事もできない。

けど今まで本当に良く我慢できたと思う。

――ラルクは杖を握り締め、唇を噛み締める。


「・・・でも、アオイさん、良い人だったよ。俺には少なくとも、悪い人には思えなかった。・・・少し信じ込みやすそうな人だったし」


俺は一つ【傷薬】を取って、ラルクに手渡した。


「・・・そうなんですか?僕、ギルド長には会ったこと無かったですから・・・」


そういってラルクは手渡された【傷薬】を一気に飲み干した。

みるみる傷が塞がっていく。


「・・・ソーヤ」

「なんだ?」


俺が振り返るとマサトは物凄く不機嫌そうな表情のまま、俺の顔を覗きこんだ。

サクラさんはまだ笑っている。


「俺、あの人嫌いだ・・・」

「私は好きだけどねー?」


ギロッ、と振り向いてマサトはサクラさんを睨みつけた。


「俺は貴方のことは好きじゃない!!むしろ大嫌いだッ!!『気持ち悪い』・・・ッ」


そう叫ぶようにいうと、そっぽを向くようにして椅子に座り込んだ。

そういえばこの椅子・・・ギルド員が増えるごとに増えてっている。

・・・これも仕様なのだろうか。


「ちょっとマサトさん!サクラさんに・・・謝ってください!」


そのとき、ラルクが勢い良く立ち上がってマサトの顔を睨みつけながら掴みかかった。

ミナトさんはこんな状況でも紅茶を飲んでいた。

サクラさんは流石に不味そうに顔を引きつらせながらラルクの元へ立ち上がった。


「いや、私は大丈夫だから」

「・・・ッサクラさんは大丈夫でも、僕が許せないんですッ・・・なんなんですか貴方・・・出逢った時から・・・猫被って・・・!」

「・・・あぁ?」


ゾッとした。

今まで見せた事の無いような表情をマサトはしていた。

あんな、怒った表情を見た事がない。

俺が硬直していると、ミナトさんが立ち上がって溜息を吐いた。


「二人とも、止めろ。・・・ソーヤ。大丈夫か?」


俺がハッとなってミナトさんの顔を見た。

舌打ちしてマサトは椅子に座り込む。

俺の顔を見るなりマサトは気まずそうにそっぽを向いた。

もしかしたら記憶がなくなる前、俺はこういう表情をしたマサトを見たことがあるのかもしれない。

――けれども、『俺』は、『記憶を失った俺』は知らない。


「・・・ラルクも、大丈夫か?」

「・・・はい」


まだ何か言いたそうにしていたが、コレ以上場の空気を悪くしないように、と思ってくれたらしく大人しく杖を握って椅子に座った。

しばらく沈黙が続き、重い空気の中、それを壊したのは俺たちじゃなかった。

――コンコンッ


「・・・?」


ギルド基地の入り口である扉を叩く音がして、俺は立ち上がり入り口の扉を開いた。

そこに立っていたのは、薄い水色の生地の服を纏い、腕には茶色の皮手袋を嵌め、腰に幾つか薬品を携え、背中には巨大な大砲を携えていた。

始めてみる職業(ジョブ)だけど、あれは確か『錬金術師(アルケミスト)』のはず。

少女型のPCプレイヤーキャラクター・・・基、『人』は俺の顔を見ると目を潤ませて――。


「ソーヤァぁァぁ!」

「う――わッ!?」


少女は俺の身体に抱きついて、眼から雫をポロポロと零した。

俺が唖然としていると、ツカツカ後ろからマサトが向かってきてガッと少年の頭を掴んだ。


「テメェ・・・何しにきやがった『カイ』ッ!!」

「何しに来たって・・・そりゃあソーヤの安否を確かめに来たんだよぉー・・・話に聞くと記憶喪失までしちゃったみたいだし?」


少年は俺の顔をジッと見てニヤッと笑った。

悪いけど・・・俺には全然心当たりがない。

話を聞いてみると彼は俺が記憶喪失になる前までゲームをしていたネット友達らしい。

俺のキャラを――俺の容姿をマジマジ見ながらへぇ、と呟く。


魔術師(ソウルマジシャン)ね。やっぱりソーヤはソーヤのまんまだ」

「・・・?」

「あぁ、えぇっと。ソーヤが記憶失う前もキャラは魔術師(ソウルマジシャン)だったんだよー。もうそれはそれは高位レベルの奴でさ」


(俺が?)


俺はまだ腕に抱きついているカイ・・・さんに苦笑しつつ話を聞き続ける。


「あぁ、そうだ!僕もギルド造ったんだよ!」

「あ?お前がギルドを?」

「へっへーん!名づけて!ギルド名【スイレン】!結構大きくしたんだよー!」


そういって俺たちにギルドキーを見せるカイという少年の表情は本当に楽しそうなものだった。


(この状況でコレだけ元気な人は早々居ないんだろうなぁ・・・)

「僕、記憶失ってもソーヤの味方だからね!そろそろ行かないと!じゃあねソーヤ!マサト!」

「お、オイ!お前・・・ッ」


マサトが何か言いたそうにカイを見に行ったがそこにはもう既にカイは居なかった。

再び重い沈黙が流れ出す。

俺はその空気に耐え切れず、


「お、俺ッ・・・ちょっと外の空気吸ってくる!」

「え!?」


俺はとりあえずギルド基地の外に出て、溜息を吐く。


(あんな重い空気に耐え切れるか・・・。もう、何か疲れた・・・)


しばらく歩いて、肩を落としながら俺は近くにあった岩場に座る。

涼しい風が頬を滑らしていく。

あれからもう既に四日――。

人々は立ち上がり始めるモノと既にあきらめ切っている人に別れ始めて行った。

俺にとっては、もう、既に五日以上。

背伸びをして、ポケットに入れておいた【ミネラルウォーター】を口に含んだ。

何度もいうがマサトのあんな表情――俺は始めてみる。

空白である、空白になってしまった俺の三年間の記憶のどこかに、ああいったマサトが居たのかもしれないが・・・。


(・・・でも、マサトは俺の知ってる【正人】のままだ。俺の中ではそれは変わらない)


そうだ。マサトは俺の親友。それは、変わらない。

今まで俺が知ろうとしていなかっただけかもしれない。

なら――少しずつ判っていけばいい。・・・いや、このままでいいのかもしれない。

そんなことを延々と考えていると。


「あれ?ソーヤ?どうしたのー?」


カイが目の前に立っていた。

錬金術師(アルケミスト)の装備を整えたらしく、背中に背負っている大砲は変わっていた。


「あ、いや・・・えぇっと・・・。・・・その、マサトのこと考えてて」

「・・・あぁ。あの豹変っぷり?ソーヤ始めてみるもんね」

「・・・それは、記憶を失う前も、俺はああいったマサトを見たことが無いって事か?」

「うん。キミは記憶を失う前も、ああいうマサトを見た事が無い」


そういって、カイは俺の隣に腰掛けた。

ガシャン、と道具がぶつかり合う音を鳴らして。


「うん。でも、ソーヤのことを大切に思ってる奴だよ」

「・・・それは知ってる」


昔から、三年間の記憶が無くても、それは知っていた。

いつも俺の為にしてくれて、いつも俺と一緒に居てくれた。困っている時はいつも助けてくれたし。


「・・・まぁ、少し行き過ぎるところもあるんだけど」


カイはそういって俺に笑いかけた。


「まぁ、僕も着いてるからね!だいじょーぶだいじょーぶッ!」


ポンポンッと、頭を撫でられ少しだけ首を動かして頷いた。


「いつでも会いに来てよ。ギルド基地、直ぐそこだから」


そういうと今度は本当にカイはどこかに行った。


(・・・もう少しだけうろつくか)


そう思い、俺はまた足を進めた。

そういえば、兄貴は、どうしてるだろう。

俺のこと、探してくれてるだろうか。もしそうだったら、早く帰らないと。

早く帰って――。

また、ただいまを言うんだ。








「・・・悪かった」


ぼそり、と。マサトはそう言った。

――この場に居る全員に謝った。空気を悪くした事への謝罪と、気分を害したことへの謝罪。

そしてラルク本人への謝罪。

本当ならば一番先にソーヤへ謝罪したかったのだが、ソーヤは居ない為、後で伝えようと思った。

ラルクは溜息を吐いて、マサトのほうへ向く。


「・・・僕も悪かったです。・・・カッとなってしまって・・・スイマセンでした」

「・・・これで仲直り・・・で、いいかな?」

「いいんじゃないか?・・・まぁ、ひと段落だな」


そういってミナトは本日二杯目になる紅茶を飲み干した。

ミナト以外、全員が一斉に溜息を吐き、力が抜けたように座り込む。


「・・・ソーヤは・・・しばらくしたら帰ってくるだろ」

「・・・本当に、マサトさんはソーヤさんのこと、大切に思ってるんですね」

「当たり前だ。親友だからな」

「『親友』・・・。・・・それでも度が過ぎていますよ」


度が過ぎている・・・、ラルクの言葉にその場に居る全員が頷いた。

度が過ぎているといっても、あからさまに表に出している訳じゃないがソーヤの側に居る雰囲気といい、見るときといい。

言動一つ一つといい。

どうも度が過ぎているように思えたのだ。――サクラはそれ以上に昨日のこともあって、『度が過ぎている』というのには納得できた。

マサトは、しばらく黙り込んで顔を上げると何時もどおりの、あのあどけない表情へ戻っていた。

だが、言動は更に『度が過ぎている』モノになっていた。


「俺には正直・・・ソーヤ以外要らないんですよ。世界にソーヤ以外要らない。俺はソーヤの為なら命を捨てることだってできます。何でも頼みごとを聞きますよ。人を殺してくれって言うなら――平気で俺は人を殺せます」

「・・・」

「昔、色々あったんですよ。・・・色々」


そういって、狂気染みた笑みを浮かべたマサトに、ミナトは驚いた表情をしたまま、


「・・・恋愛感情とかでは・・・無いんだな?」

「ソーヤとは『親友』です。何があっても、俺は『親友』で居続けるつもりです。・・・恋愛感情はありません」


マサトはそういうと、今度は狂気染みたモノではなく純粋な笑いを噴出した。


「どうした?」

「・・・ミナトさん・・・紅茶のカップ、意外と可愛い物を使われるんですね・・・」


カップを見たラルクとサクラもつられて噴出し、ミナトは顔を真っ赤にさせてそそくさとカップをポケットへ突っ込んだ。








「・・・」


カツンッという靴音が、空間に反響した。

【暁の神殿】――俺にとって全てが始まった場所。

俺は奥へ進みながら、周囲を見渡す。ひょっとしたら、何か脱出のヒントがあるかもしれないと思ったからだ。

・・・何故そう思ったのかはわからないが、とりあえず来て見る甲斐はあるだろうと思ったから。


「―――♪」

「・・・?」


奥へ進むたびにその歌の様なものは大きくなっていった。


(・・・なんだか懐かしい気がする)


その歌が大きくなるたび、俺の心臓は大きく鳴り響くような感覚に陥った。

最深部であろう部屋の場所には、巨大な扉があり、その扉には大きく『陣』が描かれていた。

俺は恐る恐る『陣』に触れると、その『陣』は一気に燃え上がり、蒼い炎を纏い、開いてゆく。

そして、部屋の中には、一人の青年が居た。

俺と同い年くらいで、少し長めの黒髪は跳ねていて、何の職業か判らないような装備をしていた。


(NPCノンプレイヤーキャラクター・・・?)


青年は俺の方に気付いて、俺の姿を視界に捉える。


「・・・誰だ?」

「え、俺?俺はソーヤだ。・・・お前はPCプレイヤーキャラクターか?」


青年は少し考え込むようにして、


「・・・ワカラナイ」


と、言った。


「・・・わからない・・・?じゃあ、名前は?」

「・・・『デルタ』」

「俺はソーヤだ。えぇっと・・・デルタ。こんな所で何してたんだ?」

「・・・歌を、詠ってた」

「そういやさ、さっきの歌・・・あれ、何て歌なんだ?何か、懐かしくて」


デルタは俺の表情をジッと見て、小さく口を開いた。


「・・・【忘却の詩】だ」

「結構いい歌だったよな。そうだ、また会ったらもう一度聞かせてくれるか?俺、もう行かないといけないし」


そろそろ帰らないと駄目だ、と思い、俺は青年に手を振った。

青年は小さく頷いて、俺に「また。じゃあね」と呟いて、青年もまた俺に手を振ってくれた。







「――ソーヤ・・・」


『ソーヤ』と名乗った青年が出て行った場所を見ながら、デルタは呟いた。

神殿の奥。――そこは誰も通れないはずの部屋。

本来ならば規格外の存在しか通れないはずの――。

規格外の場所。


「・・・?」


なんだか不思議な感覚を感じて、デルタは首をかしげる。

しばらくして、その感覚がなんなのかわからないまま、またあの青年が来る事を、少しだけ楽しみにしながら神殿の奥へ向かった。

一応キャラを紹介しておきます。


・ソーヤ(想夜)

・マサト(正人)

・サクラ

・ラルク

・ミナト

・アオイ

・カイ

・デルタ(???)

・ジーアス・ブルグ(NPC)



次は・・・増えたり増えなかったりします(汗)

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