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覚醒世界のカタルシス  作者: 朝露 壱
第1章 ―Awakening―【覚醒】
6/26

Episode:05 Actual loss 【現実喪失】

寒気が背筋を走ったような気がして、身体が一瞬ブルッと震える。


「は、ハックション!」

「だ、大丈夫ですか?」

「風邪でも引いたか?」

「い、いや、大丈夫・・・」


俺は鼻をすすり、ハァッという溜息を吐く。

溜息は誰にも聞かれなかったみたいでその溜息の理由を誰も聞きはしなかった。

サクラさんは情報収集に出かけ、今ギルド基地には俺とマサト、それにラルクしか居ない。

無音の空間は更に虚しさを感じさせた。


「どうなってるんですかね・・・コレ」


ポツリと、ラルクは呟いた。

俺はもう既に何日も、《コッチ》に居る所為かそんな違和感は感じなかったが、二人は物凄い違和感を、今感じているはずだ。

在り得ないはずの、無いはずの光景が今、眼に入ってきている。

ゲームのはずの、グラフィックと言うデータだけの世界が今、現実(リアル)として認識されている。

だから、当然、痛覚も嗅覚も味覚さえも、五感のすべてをコノ世界で感じているはずだ。


「・・・さぁ。わからない」

「・・・平気なんですね」

「・・・俺はもう何日も居るから・・・慣れって怖いよな・・・本当・・・」


苦笑して、俺はポケットから【ミネラルウォーター】を取り出して置いた。


「ノド、乾いただろ。やるよ」

「・・・ありがとうございます」


そういって、ソレを受け取ったものの一向に飲もうとしないラルクと無言のマサトを見てもう一度溜息を吐く。


「・・・街の様子、どうなってんだろ」

「そりゃあ大混乱だろ。大体予想はつく」


俺は窓からこっそり街の様子を除いて見た。

そこにあったのは確かに大混乱と言う言葉が相応しく、人々は嘆いたり、立ち上がろうとする者も居たり、ただ現実を受け止めようとしない者など・・・色んな人が居た。


(・・・そういえば、NPCノンプレイヤーキャラクターは・・・?)


俺はNPCに目を遣る。

NPC達は――。


「・・・え?」

「・・・どうした?」

「・・・え、いや。・・・そっか。・・・あのさ。俺だけがコノ世界に入ったとき、言ったよな?NPCが、個々の意思を持って動いているように見えたって」

「あぁ・・・それがどうした?」

「・・・だから、NPCも只のデータじゃ無くなった」

「・・・?それって・・・」

「つまり、生きている人間なんだよ。NPCも、俺たちと変わらない、此処の意思を持って動く人間になってる」


そこに見えたのは、NPCが動揺しながら周囲を見渡す姿。

まるで、何故自分が、《在るのか》わからない、と言った様に。


「・・・」


ゲームのルールを無視し、動くNPCから眼を離した俺は二人を見た。


「・・・とりあえず、外に出よう。立ち止まってちゃ、空気も悪くなるから」


俺は半ば無理矢理二人を連れ、外に出た。

外もやはり、中と変わらない居心地の悪さを感じるが、ソレはしょうがない。

何かしなくては、何か変わりそうで怖かった。


「――とりあえず、情報収集しよう。NPCなら、何か・・・」


俺は周辺を見渡し、NPCを探す。

調度そこに居た、住民に話しかけてみることにした。


「あ、あの」

「・・・あ、は、ハイ?なんでしょうか・・・」

「・・・喋った・・・」

「・・・」

「・・・あの。何か――知っている事を教えてもらえないでしょうか?知っていたら、で、いいんですけど」

「・・・判りません。私は――ただ、気が付いたら、《在った》だけで・・・」

「・・・そうですか。何か判った事があったら、教えてもらえますか?」

「は、はい」


俺はそういって、その住民から離れた。

ラルクとマサトの二人は困惑したような顔立ちで立っていた。


「・・・本当に、意思を持ってるんですね」

「あぁ。俺も最初は驚いたけど・・・でも、俺たちと同じ人間って理解すれば慣れたよ」


そうだ。

今まで自分を支配していた、常識というルールさえ塗り替えてしまえば何も驚くことは無い。

コノ世界が、現実だと、認識してしまえば。


(・・・だけれど、ソレは言い換えてしまえばコノ世界が現実だって認めてしまうことに成る)


・・・俺は。


「・・・とりあえず今は、進むしかない、か」

「・・・はい」


俺はゆっくりと街を歩きながら周辺を見渡す。

とても能天気に会話が出来ないほど空気が重く感じた。

道に佇んで途方に暮れる人、叫び続ける者、コレが現実だと受け止められない者、錯乱する者。

空を何となく見上げてみると、快晴で、太陽が自身の肌を焼くように感じた。

――空は何も、俺たちのことなんてどうでもいいようだった。

・・・余慶に脱力感を感じて、俺は空から視線を離す。


「・・・悪い。少し、一人にさせてくれないか?」

「え?あぁ、別にいいけど・・・タウンからは出ないほうがいいと思う。モンスターとか居ると思うから」


マサトは足取りが本当に重いように、足を引きずるようにしてどこかに行ってしまった。

ラルクの方を見ると、杖を握る手が震えている。


「ラルク、大丈夫か?」

「あ、は、はい。大丈夫です」

「・・・別に無理しなくっていい。この状況についていけれないのは当たり前なんだから」

「・・・ソーヤさんも、そうだったんですか?」

「うん?」

「コノ世界に来た時・・・最初は、怖かったんですか」


俺は考えるようにして、最初の自分を思い出す。


「・・・恐怖は、無かったかな。焦ったけど」

「・・・ソーヤさんは強いんですね。僕は・・・怖くて仕方が無いんですよ」


自分の身体を抱きしめるようにして、震えるラルクは杖を握るのをやめてガラン、という音と共に杖は地面に落される。


「・・・俺は強くないよ。・・・良く判らないだけなんだ」


(記憶を無くした、あの日から)


何か、足りないような、そんな気がして。

何か、胸に大きな穴が開いたような気がして。


「―――」

「・・・ソーヤさん・・・?」


ラルクは心配そうに俺の顔を除きこんできた。

俺は慌ててラルクに「大丈夫」と言って近くにあったベンチに座る。

ポケットからまだあった【ミネラルウォーター】を口に含む。


「・・・あの。マサト、さん、なんですけど。・・・どんな方なんでしょうか」

「・・・いい奴だよ。俺がコノ世界に入っちまったときに、心配して脱出する方法も探してくれてたみたいだし」

「・・・――本当に、そんな、人の良い人が居るんでしょうか」

「え?」


ラルクは何か、思い出すように顔を上げると辛そうに顔を歪めていた。

それは、古傷でも痛むような感じで。


「・・・本当に、マサトさんは優しい方なんでしょうか。・・・いえ。何でもないです。気にしないで、ください」

「・・・」


ラルクはどうやらマサトのことを何か疑っているらしい。

何か疑う要素があるのか・・・。

しばらく沈黙が流れて、気まずくなってしまった。

何か切り出そうとするものの何も思い浮かばない・・・。


「ソーヤ君、此処に居たの?」

「あ、サクラさん」

(良かった・・・コレで何とか気まずい雰囲気は・・・)


そう思っていると、サクラさんの後ろに人影が見えるのに気付いた。


「み、ミナトさん・・・?」

「・・・」


神妙な顔つきをしたミナトさんがサクラさんの背後から出てきた。

ミナトさんは以前と同じPCのままだったが、レベル表示や名前表示はされていない。

視線は泳いでいて、俺に合わせるにはしばらく掛かった。


(そうか、あの時ミナトさんも居たから・・・巻き込まれたのか)

「・・・ソーヤ・・・と言ったな。・・・彼女から全て聞いた。キミは、この状況をいち早く体験したらしいな」

「あ、は、はぁ」


何を言われるのだろう、とドキドキしていると、ミナトさんはスッと俺の前に手を差し伸べた。


「私でよかったら何か、出来る事があるなら手伝おう。・・・ギルドを造っているらしいな。よければ私も入りたいのだが・・・」

「え・・・あ、はい。アリガトウ、ございます」


俺はポケットから赤い鍵を取り出して、ミナトさんに手渡す。

やはりゲームのシステムは反映されたままで、ポケットは相変わらず二次元空間っぽい感覚だ。


「これから宜しく頼む。ギルド長、ソーヤ」

「は、はいっ」

「なるほど・・・【愚者達の宴会(フールパーティ)】か・・・中々いいセンスだ」


そういうとミナトさんは笑い、俺にもう一度手を差し伸べる。

俺はその手をとり、「これから宜しくお願いします!」と言った。

これから、きっとゲームでは起こりえないことも起こりうるだろう。

もう此処はゲームの世界じゃない。

現実だと思って動かないと、この先何もつかめないだろう。





「大量搬送だと!?一体何が起きている!」

「わ――判りません。ですが・・・これは・・・」


警察官本庁は・・・午前0時。

慌しくなった。

切欠は同時に鳴った何本もの電話。

その電話はどれも病院からで、何人もの人が突然意識不明になったといわれる物だった。


(意識不明となった者は皆、パソコン画面前・・・もしくはゲーム機《β(ベータ)》を直前まで操作していた・・・一体どうなってる?)


そして考えた先にフッと、思い浮かんだのは先日から起きている植物状態になる患者の事件。

・・・その全てが《β(ベータ)》を握り締めていた。

今回はパソコンもそうだが・・・。

・・・もしかすると、画面には何か手がかりがあるのかもしれない。


「・・・クソッなんなんだこれは・・・!」


コレでは日本の大半が植物状態に陥った事になる・・・!

いや、もしかしたら海外でも同じようになっている可能性もある。

――ダンッ

拳を思いっきり机に叩きつけると、部下達はいっせいに自身を振り返った。


「全員速やかにこの事件について捜査を始めろ!コレが事件なのかどうかも含めてだ!」








「――なんなんだコレは・・・!」

大量に搬送されてくる患者に、驚愕しかない。

一体何が起こっている?


――カツンッ


「・・・」


俺は先日搬送されて来た、あの青年を見た。

青年は心臓は動いているが、一向にあれから目を覚まそうとしない――何かに、憑かれるように眼を閉じている。


「・・・全く、何度キミは此処に搬送されて来るんだ」


青年はこの病院に前に一度搬送されたことがあった。

その時青年は記憶を失っていた。

彼は事故前の事も事故後のしばらくの事も覚えておらず、搬送された時外傷となっている頭部の損傷と、腹部の刺し傷・・・もといナイフで刺された後があった。

握られていたのは他の患者と同じ――《β(ベータ)》と呼ばれるオンライン専用携帯ゲーム機。

つまりは、他の患者と同じ植物状態――・・・だが、あの腹部の刺し傷は一体・・・。

そこまで考えて、俺はとりあえず他の搬送されてきた患者の対応をしなくては、と先を急いだ。

今回は短いです、はい・・・スイマセンorz

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