Episode:03 The castle of oblivion 【忘却の城】
「ギルド基地・・・って此処か」
【愚者達の宴会】のギルド基地は結構いい場所に設置されていた。
街中の中心部ではなく、外側だが宿屋や露店、武器屋や雑貨屋が全て近くに設置されていてとても便利だ。
ギルド基地は初期の規模なので結構古い内装になっていた。
というのも、外見的にはそこらへんにある廃ビルと変わらない。
(まぁ、誰しも此処からだろ)
俺は内装を見て回りながら部屋の数が10部屋だと確認する。
(倉庫に作戦室に調理室、それに医療室に自室)
自室が10部屋中6つ。
まぁ、作戦室が広いから良いか、など考えたりして溜息を吐いた。
「・・・どうしようかな、今日は」
俺は呟いてギルド基地をうろつくが特に何をするというわけでも無くボォッとし始める。
ボォッとしていても何も始まらないと思った。
・・・外うろついてみるか。
思い立った瞬間立ち上がって、ギルド基地を後にした。
――広場に向かうと変わらず露店をPCが開き、賑やかな声が飛び交っていた。
様々なPCが行き交う中、《魔術師》の俺は一際目立った装備(黒いパーカーに黒い皮手袋、黒髪に黒目という全身真っ黒だったから)で歩いていくと直ぐ近くにベンチが設置されていた。
座り込んで色々と考え込む。
考えてみれば俺は記憶喪失でゲームの世界に入り込んでしまったという奇怪な人生体験を二回も味わっている。
――記憶喪失だと伝えられた時はさほど驚愕しなかったが、ゲームの世界に入り込んでしまったという現実は事実、物凄く驚愕している。
マサトが言うには多分、おそらく肉体だけの現実の俺は昏睡しきっているらしく、マサトに迷惑をかけまくっている。
両親は話に聞く限り、錯乱状態のようだし。
別に両親を嫌っているという訳ではないし、それなりに親孝行はやっている。
それにしても、俺が記憶喪失になった原因の事故。
(何故、俺は事故に遭った・・・?)
「――」
「職業《魔術師》?変わってるねー。ソーヤ君って言うんだー」
顔を上げると俺の顔を除きこむように立っていたのは、背丈よりも大きい十字架をモチーフにした杖を背負った職業で少女PCの《退魔師》だった。
PC名は【サクラ】。
背は俺より少し低くてレベルは20だった。
「あー・・・はぁ、まぁ」
「レベル表示されてないけどバグか何かかな?結構レベル高そうな武器使ってるけど」
「コレは友人に貰った物です。レベル表示は――・・・単なるバグですよ」
見ず知らずの人に説明するのは避けた方がいいと判断した俺はそう言った。
少女(?)はニコニコ笑いながらギュッと俺の手を唐突に握り締めた。
「ソーヤ君!私とパーティ組んで!」
「へ?」
「このフィールドの奥にね。欲しいアイテムがあるの!超レアアイテムなんだよ!」
「そーなんスか・・・」
俺は苦笑しながら中級バトルフィールド、【西の海辺・ニカイ】にやってきた。
ニカイの海水の小波が足を濡らしながら引いたり上がってきたりしている。
『ギャァァ』
「モンスターだっ!」
現れたのは黒い翼の生えた悪魔だった。
俺は右手を前に突き出し、頭で陣を描く。
「【真空の剣】!」
突き出した右手に小規模の陣が出現し、陣から空気が生み出され、目の前に見えない空気の斬撃が走り、モンスターに襲い掛かる。
風属性の攻撃系魔術だが、コレは本当に弱小のスキルだった為――。
『ギャァァァァッ!!』
案の定、まだ倒せないモンスターに、俺は更に意識を集中させる――。
「【浄化の炎!】」
サクラの振り上げた杖の十字架から透明な炎が溢れ出し、ソレはモンスターに襲い掛かり燃やしていく。
神聖属性の打撃系呪文は見事に闇属性のモンスターに効いたらしく、モンスターは倒される。
ポカンとしながら俺は術の発動を諦めた。
「・・・強いんですね」
「スキルレベルがんがん上げてるからねー!」
杖をぶんぶん振り回しながら無邪気に笑うサクラに俺は苦笑した。
「じゃー先にすっすもー!」
どんどん先に進むサクラに着いていきながら、俺は少しずつ息を乱していく。
足並みが遅くなるにつれ、不思議そうに俺を見るサクラに、俺は息を整えつつ歩いていく。
勿論、サクラは疲れない。
汗が額からポタポタと地面に落ちていく。
「どーしたー?」
「す、すいません。大丈夫です・・・」
「そー?」
俺は息を乱しながら歩き続け、半分屍化した体にアイテムである【ミネラルウォーター】で水分補給を施す。
身体がまるで熱帯地方に居るかのごとく熱が篭っている。
「オイ!ここで何をしている!」
「うわっヤッバ・・・」
「うわっ」
目の前に突然転送してきた青年PCに驚いて体勢を崩した。
青年PCは《剣士》で、まるで何処かの騎士の様な服装に赤い髪、赤い目をしていた。
PC名は【ミナト】。
目の前に立ち塞がる彼は剣を腰に刺さった状態から抜き取って臨戦態勢になった。
「此処は禁止サーバーだ。掲示板に書き込んでおいたはずだが・・・何故侵入した?」
「え、サクラさん、どーいう・・・」
「逃げるよー!」
「ええぇぇぇぇッ!?」
「待て!【神覇雷斬】!」
目の前に雷を纏った斬撃が走り、間一髪のところを俺は避ける。
「うっわッ!?」
「こうなったら・・・ッ!」
「ちょ、アノ人管理者ですよ!?攻撃するんですか!?」
「手段は選ばない!【聖なる十字架】!」
振り上げた杖と同等の巨大な十字架が出現すると同時にソレは聖なる炎を浴びて鉄拳の如くミナトに襲い掛かる。
「ぐっ・・・!?」
「あぁぁもうっ!しょうがないッ・・・【束縛の術印】!」
俺の突き出した右手に淡いオレンジの小規模の陣が出現するとそれ自体が輝き、MP、即ち魔力が帯び始めミナトの身体にまるで呪いの言葉の様なエフェクトが纏わり付いた。
無属性の速さを弱体化するスキルで、ミナトの速さは一時的に遅くなった。
「【瞬間移動】!」
瞬間移動は《魔術師》のみが使用できる固有スキル。
他の職業たちは巻物で元の町に戻ったりするのだが、ソレは必要なくなる。
MP消費も少なく、非常に助かるスキルだ。
移動する際、身体に若干の衝撃が走ったが、何とかタウンまで移動すると身体に疲労がたまった。
「サクラさん、大丈夫ですか・・・」
「わぁー!助かったよー!さんくー!」
元気そうなサクラさんに俺は安堵の溜息を吐いた。
――《―――♪》
「・・・?」
(歌・・・?)
歌の様な物が聞こえて、俺は周囲を見渡す。
他のPCはおろか、NPCですら居ないこのタウン――今気付いたが、このタウン、まるで廃墟の様な場所だった。
このタウンの名前は、何だろう。
「あの、サクラさん。このタウンの名前って判りますか?」
「うん?えぇっとね。・・・【忘却の城】・・・?そんなフィールドあったっけ?」
周囲を見渡しながら俺は表示されたタウン名を確認してソレが間違い出ないことを知る。
【忘却の城】と表示された板を見ながら、俺はとりあえず先へ進んでみる事にした。
歌の聞こえる方へ。
「ちょ、ちょっと!」
後ろからサクラさんが追いかけてくるのが判ったが、振り向かずに歌の聞こえる方へ歩いていく。
誰が歌っているのだろう。
何故か異様に気になった。
進むにつれ、段々と歌は鮮明に聞こえてくるようになった。
透明な声、綺麗な歌だと思ったと同時に、悲しい感情に囚われた。
瓦礫の道を歩いていく。
気が付けば、そこは廃墟の城の様な場所で、とても澄んだ空気が在った。
「ソーヤ君!もう、帰ろう?何か変だよ此処・・・」
「・・・あ」
城の奥。
そこにあったのはまるで玉座。
その玉座に座っていたのは、NPC・・・?
それとも、PC?
どちらとも違う、様な存在の少年に、目を奪われた。
銀の長髪で顔を隠し、俯いている少年に、俺は少しずつ近付く。
歌を歌っているのはこの少年だろうか。
その少年に手を伸ばそうとした瞬間、何かに弾かれたような電流が走った。
「ッ!?」
【――相対するのは闇と光。二つは交じり合うことなくお互いを侵食する。拒絶しあい、傷つけあう存在だが、同時にお互いを求めやすい――記憶を失っても、求め合う二つの魂は――】
「ソーヤ君!?」
――地面が大きく揺れた。
砂煙が起きると同時に、目の前に現れたのは黄金の竜。
身体が勝手に動いた。
右手を突き出し、巨大な竜に向かって口が勝手に動き、呪文の名を口にする。
「【黄昏の歌】」
『ギャァァァァァァッ!』
オレンジ色の炎が竜に取り巻き、巻き込んでいく。
竜は絶叫し、目の前で粒子となって消える。
聞き覚えの無い呪文に、俺は唖然としながら目の前の光景を見る。
「ソーヤ君ッ」
『汝、我が欲した存在か?』
見知らぬ、透き通った声に俺は驚いて顔を上げた。
透き通った声、どこかで聞いたような声――けれども忘れている、忘れてしまっている。
そこに立っていたのは、半透明の銀髪長髪の――玉座に座っていたあの少年だった。
何故か身体はいう事を聞かない。
ただ、そこに立っているだけ。
声さえも出ない異常事態に焦りながら、俺の身体の力が抜けていくのを感じた。
「ソーヤ君ッ!」
『・・・やっと、見つけた』
少年がそう呟き、サクラさんが駆け寄ってくるのが見えた。
ソレを最後に、俺の意識は途絶えてしまった。
目を覚ますと、青い空とサクラさんの顔が見えた。
「ソーヤ君ッ!良かった・・・幾ら蘇生魔法使っても目、覚まさないから・・・」
俺は身体を起こして、周辺を見渡した。
場所は変わらない、あの廃墟の様な城だったが――あの玉座には、あの銀髪の少年は居なかった。
「・・・あの、サクラさん。あの少年は」
「・・・直ぐに消えちゃった。何かのイベントNPCだったのかな・・・」
だったら惜しいことしたな、とサクラさんは呟いて、俺はぺたぺたと自身の身体を触る。
異常は無いみたいだ。
それにしても、あのドラゴンは何だったのだろう。
ボスモンスターか何かだったのだろうか。
・・・あの銀髪長髪の少年は、何処に行ったのだろう。
(・・・NPCじゃ、無い気がするけど・・・)
俺は立ち上がって、溜息を吐いた。
「ソーヤ君。あたし、もうログアウトするけどまた今度パーティ誘ってねー!レアアイテムは手に入らなかったけど、今日は楽しかったよ。アリガトウ!」
そういうとサクラさんはログアウトした。
俺は呆然としながら、頭を掻いて立ち上がった。
そういえば、あの【ミナト】っていうPC、なんだったんだろう。
とりあえず、この廃墟の様な城・・・何だっけ。【忘却の城】だっけ。
古くなった玉座に目をやりながら、とりあえずタウンへ戻ろうと転送魔法を準備した――。
「ッ!?」
鋭い頭痛に、俺は顔を歪めてその場に座り込む。
――一瞬、自身の身体にノイズが走るのが見えた。
もう一度確認したが、気のせいだと思って俺は再び襲ってきた頭痛に顔をゆがめつつ耐えて移動魔法を使用した。
◆
「最近多いですよね。植物状態の患者さん。どう思います?先生」
「・・・確かに多いな。噂に寄ればネット中毒らしいが」
――病院。
先日新たな植物状態に陥った患者を収容したが、彼は他の患者と比べ重体で運ばれてきた。
年齢は16くらいだろうか。
彼はオンライン専用ゲーム機、βを握り締めて運ばれてきたが・・・そのβの画面に映っていたのはノイズ交じりの《アウローラ・カオス・オンライン》のタイトル画面だった。
――運ばれてくる患者は皆、《アウローラ・カオス・オンライン》を間際までプレイしていた。
・・・この共通点。
何かが可笑しい。
「・・・」
「あ、先生も《アウローラ・カオス・オンライン》をプレイしているんですか?私も時々プレイしているんですよ!」
助手は俺のパソコンを見て言った。
「あ、このPC、《医療師》なんですか?余り戦闘向きでは無いですね・・・サポート重視なんですか?」
「・・・一応攻撃も出来る。レベルもそこそこ上げているから戦闘は有利だ」
「流石先生ですね」
そういうと助手はどこかへ行った。
俺はもう一度画面を確認して、ログアウトする。
もしかしたら、ネット中毒と呼ばれている症状に陥った患者の急増による原因は、このオンラインゲームにあるのかもしれない。
もしもそうだとするなら、何故会社側はその事実を突き止められないで居る?
それとも――。
俺は再びパソコンに向き合って、キャラクター《医療師》を選択してログインする事にした。