Episode:02 Guild,Fools' party 【愚者達の宴会】
「いらっしゃい!」
「薬草半額だよ!」
(・・・スゲェ)
人が混雑する街の中で俺は歩きながら素直な感想を漏らした。
本当にゲームの中の人物の様な人々が喋って動いて立っている。
普通に生きているように見えるが、実際は画面の向こうの存在。
言葉をキーボードで打って、表現しているんだ。
(それが俺には、普通に声として聞こえるっつぅ・・・)
俺は苦笑しながら街中を歩く。
色んな種族や色んな職業の人たちが行き交っていたり、露店を開いているPCも居た。
上級職業のPCも居たりして賑やかだ。
それに【アイリスタウン】は設定上古から存在する街とされている為、結構古い建物や崩れかけたビルなどが存在していて広い街並みなのだけれど、初期レベルの街という事もあって、結構人ゴミが多く感じられる。
俺はとりあえずポケットから取り出した財布を手に、宿屋を目指す。
財布と言っても、皮袋なのだけれど、その皮袋の中身を確認した時ゲームのメダルなのかと思う金貨が数枚入っていて、どうやら銀の金貨で百円、銅の金貨で十円、金の金貨で1000円分の価値があるのだと理解した。
一番近い宿屋を見つけると俺は中に入るとカランッと言う扉に付けられた鐘が鳴る。
「いらっしゃーい」
中にいたのは若い女の人のNPCで、営業スマイルを振りまきながらカウンターに立っていた。
「あ、あの。一泊何ゴールドですか?」
「一泊ですか?10円です」
俺は銅の金貨を一枚渡して、鍵を貰う。
鍵は普通の銀色で、タグが付けられていた。
現実的に言うならホテルの様な感じだ。
「・・・」
「あ、起きたんですか?」
長身の男がカウンターの奥の部屋から出てきた。
眼鏡をかけて和服姿の男はボォッとした眼差しで俺を見る。
(NPC?)
「・・・お客さん?」
「は、はい。今日一日泊まらせて頂きます」
「どうぞ、部屋はコチラです」
そういうと男の人はカウンターから出ると部屋まで案内してくれた。
俺は鍵を使って部屋に入る。
それにしてもあの男の人、何だか不思議な人だなぁ、と思いつつ部屋を見渡した。
「・・・ベッドも普通だ」
木製の建物の為、床はギシギシと鳴る。
灯りは近くにあったカンテラで済ませるようで、暗くなった後若干怖くなった。
それにしても、本当に個々の人格が存在しているように話せるみたいだ。
(・・・明日、どうしよ)
とりあえず、明日は戦ってみようかな。
レベルは俺にはどうやら無いようだし・・・スキルの方もどのくらいの強さか判らない。
まずは試してみれば判るだろう。
《魔術師》には回復系と補助スキルもあるみたいだし、攻撃系も問題は無い。
威力は他の職業以上だと書かれてたけど・・・どうなのだろうか。
けれども武器はどうしよう。
《魔術師》の装備は基本的に剣や弓ではなく皮手袋、杖だけらしい。
初期装備はどうやらこの黒皮手袋みたいだ。
(・・・にしても、本当不思議な話だよな)
・・・ゲームの世界に入り込んだなんて、どんな奇怪現象なんだよ。
ベッドにもぐりこんで明日の事を模索しようと思ったが、考えれば考えるほど落ち込むことになっていった為、俺はさっさと眠ることにした。
◆
―――ベッドに横たわった友人の姿。
白い肌に白い天井と床。
身体につながれた長いチューブは生命を維持する為の物。
呼吸器を余儀なくされ、目を閉じて眠っていた。
――医者は最近流行っているインターネットによる中毒症状だと判断したようだ。
(・・・βを握ってたところを判断したのか)
想夜の身体、抜け殻の手を握ると、氷のように冷たかった。
想夜の両親は病室の前に居たがとても話せるような状況じゃなかった。
それもそうかもしれない――想夜は事故のときも、深い昏睡状態に陥った挙句、三年間の記憶を失って目覚めたのだから。
――それが、二回目ともなると今度は無事だという保障が無い。
(・・・俺がであったゲームの中の想夜は、まだ生きている)
死んでいない。
一応アウローラ・カオス・オンラインの管理者に伝えておいたが、返事はまだ来ない。
―――貴方、何か想夜の事知らない?想夜、良く貴方と――。貴方、何で側に居て・・・ッ
俺は想夜の母親に言われた言葉を思い出して、歯軋りをする。
(俺の方が、知りたいっつぅの)
イライラしながら、不快な感覚しかしない気持ちを抑えながら家へ向かう。
(・・・――ソーヤと、想夜)
身体だけが此処に在る。
空を見上げると、もう真っ暗だった。
――とりあえず、家に帰ってソーヤに会いに行こう。
話はそれからだ。
◆
「ソーヤ」
「・・・はよ。マサト」
俺は目を擦りながら早朝から部屋に入ってきたマサトをまだ眠い頭を無理矢理起こして顔を見る。
マサトは何だかやつれたような顔をしていた。
「・・・何かあった?」
マサトは苦笑しながら、手に装備していた大剣を背中に背負っていたホルダーに仕舞った。
「・・・昨日、お前の病室に行った」
「・・・で?」
「お前の身体、死んだみたいに冷たかった」
「触ったの」
「触ったよ」
そういうと溜息を吐いて、乱暴に床に座り込んだと思ったらガクッと頭を俯かせた。
「それで、お前の母さんにメチャクチャ怒られた」
「・・・そう」
「・・・《私の大切な息子を何で危険な目に遭わせたの》だって」
俺は黙り込んで、マサトも黙り込んだ。
向こうの俺は、多分肉体だけの俺は植物状態で寝込んでいる。
だけど俺は此処に居る。
コノ世界に居て、生きて、動いている。
「・・・俺は、生きてる」
「判ってるよ。けど、だからといって安全だとは限らない」
「・・・」
「俺、一応お前の親友だからな。現実は俺に任せとけ。色々調べる。・・・絶対助けてやるからな」
「・・・アリガト」
(三年間、コイツは変わらなかったのか)
本当にお人よしのところは変わらない。
俺はベッドから起き上がって、よしっと腰に手を当てて背伸びをした。
「じゃー、とりあえず今日はモンスター倒してみようと思うんだけど、手伝ってくれるか?」
「・・・よしっじゃあ行くか!」
と言う訳で俺達はバトルフィールドに出てきたのだが・・・。
(・・・モンスターってグラフィック以上にキモイな)
【草原カトラス】は初級バトルフィールドで、最初は誰しもこの場所で戦闘経験をつんでから旅に出ることになる。
そして【草原カトラス】の主なモンスターはスライムだ。
スライムの大量発生イベントもあるらしいのだが・・・これを、大量に見ることになるとなると・・・精神的に辛い。
「じゃあ俺も手伝ってやるからまず戦ってみろ」
「・・・おう」
俺は何となく頭の中で思考してみる。
するとフッと頭の中にスキルである魔術の陣が描かれた。
まるで指先で陣に触れるかのように想像する。
(・・・まるで、身体が覚えてるみたいだ)
「【炎の魔弾】」
―――ドンッ
『ギィィィィ!ィィ・・・』
手のひらから炎があふれ出したかと思うと、俺は何時の間にかスキルの名前を口にしていて、その手のひらの炎は巨大な弾となって弾丸の様に発射された。
ソレは命中してスライムは消える。
モンスターが消えるとき、蒼い粒子が飛び散った。
消えた後、残ったのはゴールドとアイテム類で俺はソレを拾いつつ素直に歓声を上げる。
「おぉ・・・」
「《魔術師》はスキルの威力は強いけど、扱いづらいところが欠点だが・・・今のお前には関係ねぇのかもな」
「・・・まぁ、少しずつ慣れて行くしかないってことか」
「そういう事だな」
スライムを次々と倒していきながら俺はスキルの使い方を憶えていく。
説明するのは難しいのだけれど、とりあえず強く念じる事で発動するらしい。
ある程度憶えたところで俺は休むように座り込んだ。
空を見ると、俺の気なんて知らないほど青くて無知で、コチラの気なんて知らない様だった。
「・・・なぁ、ゲームの世界って、お前どんな風に見えてるんだ?俺たちとか・・・」
「・・・普通に喋って普通に生活しているようにしか見えない。NPCとか・・・普通に雑談できる」
「へぇ。スゲェな」
「・・・まぁ、そこはプラスなんだけど、マイナス点をいうならこうやって、戦わなきゃいけないって所だな。・・・何時死んでも可笑しくない戦いなんだよ。復活できるかも判らないし」
「・・・だよな」
するとマサトは唐突にポケットを漁ると、ひとつのアイテムを引っ張り出して俺の前に配置した。
ソレは《魔術師》専用の武器で、基、上級黒皮手袋だった。
「レベル制限が無いなら、装備できるはずだ」
俺はそういわれて、自分の手に嵌っている手袋を外してその配置された手袋を嵌めると予想以上に付け心地が良く驚いた。
(スゲェピッタリ)
しっくりと来るし、何だか強くなったような気がしないでもなかった。
「付属効果は魔力上昇に、威力二倍ってとこだな」
「サンキュ」
俺はつけていた手袋をポケットの中に押しやって礼を言った。
ゴールドもたまったし、コレならしばらくは大丈夫だ。
今は弱小モンスターしか戦えないが、中級まで行けたら行こう。
「そうだ。お前ギルド作らないのか?」
「ギルド?」
ゲームの定番といえばギルドだろ、と呟いてマサトはニッと笑った。
でも俺は、今までゲームでギルドなんて作ったことがない。
ほとんどソロでゲームはやっていた。
あんまりやりこむタイプでもないし。
面倒くさいから、今まで入ることも造ることも無かった。
「今有名なギルドは【ナイトローズ】だな」
「【ナイトローズ】?」
「あぁ。このゲームの管理者の集いみてぇなもんなんだけどな。最強とも謳われていて強いやつらは皆そこに集まってる」
「へぇ・・・」
「で、お前、作んないのか?」
俺は考え込むように下を俯いた。
ギルドっていわれてもなぁ、基本的に苦手なんだよな、集団行動。
それに俺は仕切るタイプでもないし、それに、レベルも高位というわけでもないし。
強くない奴がギルド作って纏めようと思ってもな。
「俺、まだギルド入ってねぇし、それにギルド作ったら色々お前のこと、判るかもしれないだろ?」
情報を手に入れやすくなるしな、とマサトは言って、俺にギルドを進める。
確かに情報は集まりやすいのかもしれない。
俺は悩み続けた結果。
「・・・判った。造ろう」
「おっし!じゃあとりあえずギルド創立申請場に行こうぜ」
「で、ギルド名、何にするんだ?」
ギルド創立申請場と呼ばれた場所は【アイリスタウン】の街中にあった。
多くの人が申請に来ていて、人は比較的に多い。
賑やかな声が聞こえつつ俺は溜息を吐いた。
カウンターのNPCはニコニコと笑って対応しているが、疲労がたまっているようにも見えた。
・・・まぁ、俺にしか表情は読み取れないのだろうけれど。
「・・・あんまし難しい名前もいやだな」
かといってあんまり格好つけてもなぁ。
どうしよう。
少し時間が立ってから、俺はあ、と声をあげた。
「・・・【愚者達の宴会】とかは?」
「いいじゃんそれにしようぜ!じゃあギルド長はお前な」
「え、やだよ!俺集団行動苦手・・・ッ」
俺はカウンターまで押されると、NPCを見上げた。
NPCは俺の顔を見ると無理矢理営業スマイルを作って対応する。
「あ、あの。ギルドを創立させたいんですけど」
「ハイ!ではコチラの用紙に記入をお願いします」
(ギルド名と、ギルド長・・・に、その他申請・・・)
「あ、じゃあコレお願いします」
「ではコチラの鍵をお持ちください」
そういって渡されたのは蒼いクリスタルで出来た小さな鍵だった。
鍵の側面にはギルド名の【愚者達の宴会】と書かれていた。
「その鍵はギルド長だけが扱えるマスターキーです。マスターキーはギルド長が管理し、ギルド基地を管理する事ができます。ギルドメンバーはメンバーに登録された時点で自動的にギルド基地に出入りする事ができるアナザーキーを入手します。ギルドを離れた時点でキーは自動的に消滅しますのでお気をつけ下さい」
もう一つ手渡されたのがアナザーキーで、赤い色のクリスタルで出来ていた。
キラキラと粒子を放って輝くキーはマスターキーと比べ、何処か粒子が輝いていない感じがした。
「・・・だって。ハイ、キー」
「お、サンキュ」
アナザーキーをマサトに手渡し、マサトはソレをポケットに突っ込んだ。
俺はマスターキーを指で遊ぶ。
「とりあえずコレで情報収集がしやすくなったな」
「・・・俺、メンバー集める気なんて更々無いからな」
「まぁ俺もあんまし大規模にするって言うのもどうかと思うしな・・・逆に情報がごっちゃになるし。お前はこの後どうすんだ?」
「とりあえず宿はギルド基地で済ますよ。行ってみたいから。・・・明日は、とりあえず探索しようと思う。色々・・・」
「・・・俺、明日はゲームに来れねぇわ。・・・悪い」
そういってマサトは顔を歪めた。
俺は溜息を吐いてマサトの顔を除く。
「いいっつぅの。本当は俺の問題だし」
「・・・明日、現実で色々情報を集めてみる。・・・俺の問題でもある。俺がお前をゲームに誘ったんだ。ただでさえお前は記憶失って、昏睡状態に一度なってんのに・・・」
「・・・ありがとな」
俺がそういうと、マサトは頷いてログアウトした。
俺はマスターキーを手に、ギルド基地へ向かう。
◆
――ゲームをログアウトして、俺は息を吐く。
ソーヤはとりあえず元気そうだった。
想夜の身体はいまだ眠り続け、危険な状態が続いている。
俺は、現実で情報を集めよう。
(とりあえず、情報収集からだな)
パソコンに向かい合って小一時間画面とにらみ合っていたが確かな情報は見つからなかった。
だが、やはり想夜だけがβで昏睡状態になったわけじゃないらしい。
今も入院しているという患者が多いようだ。
(・・・それにしても、アウローラ・カオス・オンラインが関わっているような記事ばかりだな)
やっぱり何か関係しているのか?
ギシッと俺は椅子の背もたれに背をもたらせながら、缶ジュースを口に含んだ。
(・・・どうも生還者が居ないって言うところが可笑しい)
いくらネット中毒だからって、生還者が居ないって言うのはどうなんだ?
色々調べていくうちに頭が混乱して言った。
『――本当は俺の問題だし』
「・・・何のための親友なんだよ。頼れよ・・・クソッ」
けれど頭を休める訳には行かない。
絶対に想夜をあのゲームの中から出す方法を探すんだ。
「・・・サーバーに異常か?」
「あ、いえ、大した異常ではないんですけど・・・最近可笑しいんですよ」
パソコンを動かしながら部下は首をかしげた。
《アウローラ・カオス・オンライン》――。
今では世界的ファンがプレイするオンラインゲームを管理している会社、【ライアス】で俺はゲームのサイバー管理をしている。
「?・・・何がだ」
「見たことも無いサーバーができてたり・・・規定外のモンスターとか、あとは正式に登録されていないNPCらしき存在など・・・」
「・・・それなら削除すればいい話だ」
「ですが、何者かによってソレを邪魔されて・・・」
何者かによるバグの削除妨害。
そんな事をする理由があるのか?と思いつつ、俺はβを使ってオンラインする。
《アウローラ・カオス・オンライン》の世界は幻想的で、CGもかなり素晴らしい出来になっていてバージョンを上げるなどして進化を続けているが、バグに関しては削除が進まず、それどころか最近増えて来ている傾向にあった。
あるサーバーのバトルフィールドに来て見ると、バグを見つけ次第削除し続ける。
抗ウィルス、つまりはウィルスを削除するデータを直接ぶつけて削除するという荒業を使用しているのだが、効果はあまり無いとも言った方が正しい。
―――《―――♪》
(・・・歌?)
何処からか歌の様な、高い声が聞こえてその声の主を探す。
声が大きくなる方へ向かうと、神殿の様な遺跡の様な場所があった。
その玉座の様な椅子に、銀色の髪をした少年が座っていた。
「・・・誰だ・・・?」
(NPCでもない。規格外の存在・・・バグか?)
そう思って俺はバグ削除用の武器、剣を装備する。
銀髪の少年は長い髪で顔を隠している所為で顔は確認する事ができない。
【崩れかけた神殿の玉座に座る少年は、反応を示さず、良く見れば透き通った蒼い結晶によって両腕と両足を固定されていた。】
俺は剣を振り上げ、少年のバグを削除する――。
―――・:@「・:@。¥:::@だわkwww。
【ログアウト】
「ッ!?」
意味不明な言葉が画面上に走った瞬間、強制的にログアウトされてしまった。
もう一度ログインしてあの場所に向かってみるがその場所に少年は居なかった。