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覚醒世界のカタルシス  作者: 朝露 壱
第2章 ―Loss―【亡失】
25/26

Episode:24 White and black 【白と黒】

――次のニュースです。16歳の青年が通り魔殺人事件の被害に遭った―。

――16歳の青年は未だ昏睡状態に陥ったまま―。

――犯人は、未だ見つかっていません。





『何かを得るためには何かを失うことになる。『僕』は、数々のものを失った。得るものは確かに大きかったが、あまりにも失うものは――多かった。『僕』の周りにはいつの間にか誰も居なくなっていた。みんな離れていったんだ。けれども『僕』は、まだやらなければならないことがある。そのためにも、犠牲は伴わなければならない。『僕』が、まだ〈真実〉を求める限り』


真実。それは、アウローラ・カオス・オンラインに在るのだろうか。

(このメール……。一体誰がソーヤに当てたものなんだ?それに、この内容は?)

すると突然、《β(ベータ)》の画面が波のように揺れる。

その波が収まった時、画面に表示されたのは何かの影が写り込んだ映像だった。

(なんだ?)

黒く映るその影は、確かにどこかで見た顔だったが思い出せない。

次第にノイズと影は収まっていき、画面は元の表示に戻った。





「ソーヤ。しばらく学校に来てないけど、大丈夫か?」


アウローラ・カオス・オンラインのゲーム画面でソーヤと『久しぶりに』会話をしてみた時の事だった。

三年前の想夜は、学校に来ていなかった。いわゆる不登校というやつだった。何が原因で不登校になったのか。

真っ先に頭に浮かんだのはいじめという言葉だった。

想夜はその頃、いじめにあっていて、クラスメートからの無視、暴言、中傷などを受けていた。流石に暴力はなかったが、段々と想夜が疲れているのが見て取れた。

ゲーム画面の想夜のPCプレイヤーキャラクター、ソーヤは無表情で立っている。


「大丈夫だよ。……マサト、もしかしてイジメが原因で不登校してると思ってる?」


違うのか?と思っていると、ソーヤは画面の中で――まるで『生きているように』つまらなさそうな表情をした。


「違うよ。色々と事情があるんだ。やりたいことがあって、それに夢中になってるんだ」


でも、出席日数とかはどうするんだ?


「出席日数は一応気をつけるよ。うん。もうしばらくしたら学校に顔をだすと思う」


そう言うソーヤの目はやはり無表情。

元々、表情豊かではなかったがここまで廃れたことは一度もなかった。


「本当に、大丈夫なんだな?」


俺がもう一度聞き返すと、ソーヤは無表情のまま言う。

いつもと変わらない表情の筈なのに、なんだかソーヤが遠くにいるような気がした。


「大丈夫だよ。心配すんなって。大丈夫……大丈夫だ」


その言葉はまるで自分に言い聞かせるように、ソーヤは呟いていた。

「マサト。俺は大丈夫だから、お前は現実でも元気でやれよ」

「?……おぅ」

すると電話が現実(リアル)で鳴り、俺はひとまずゲームを終えて現実世界へ戻った。

《β》を置き、電話を片手に会話をし始めて、ふと《β》を見るとソーヤが。

どこか寂しそうに、悲しそうにコチラ(・ ・ ・)を見ていたような――気がした。





「ソーヤ……?」


目を覚まして、辺りを見渡す。辺りにはソーヤはいない。

それどころか、見知らぬタウン(?)に飛ばされたらしい。あの不快な感覚――〈転移魔法〉にとても似ていた感覚だったが。

ソーヤが〈転移魔法〉をあの瞬間使ったならあんな驚いた顔はしていないし……それでは一体誰が〈転移魔法〉を使ってこんな場所に?

(そんなことよりも、ソーヤを探さないと)

だが、ソーヤどころか、辺りには人の気配すらない。もしかしてソーヤは俺と全く違う場所へ飛ばされたのか?


「……?」


何か黒い影が、路地裏を通った気がした。

気になって追いかけてみると、その人影が、路地裏で立ち止まって何かを見ていた。


「だれだ?」


白いフード付きコート。それに白い手袋に白いブーツの装備のPC。

ふわりとコートを翻して、コチラを振り向いた。


「……ソーヤ?」


ソーヤ(?)の眼は、とても暗く。まるで以前のソーヤのような姿で、俺ではない場所を睨んでいた。

一体何処を見ているのかと思い、振り向いて、そこにはなにもないはずなのに。何かが在ることに気づいた。

(何だ?)

―カツッ


「あ、おい!」


ブーツが地面を蹴る音に振り向くと、ソーヤらしき人物は早足で歩きはじめた。

(俺に気づいてない?)

何度も声をかけているが、俺には意識をしていない。存在自体見えてない?

再び立ち止まる男。ポケットから何か、鍵のようなものを取り出した。

(マスターキー?)

蒼く輝き、粒子を放つ鍵。マスターキー、に、よく似ているが、良く見れば鍵の形状はとても不思議な物だった。

何かの紋章を象っているような。


「――真実を」


ぼそりと、男がつぶやいた。蒼いマスターキーのようなものが光を放つ。

その瞬間、ぐるん、と天地が逆転したような感覚に襲われた。――いや、逆転した。


「は」


一瞬何が起こったかわからないが、背中から激突し、激痛が背中を襲った所で天地が逆転したんだと理解できた。

だがその後――俺の眼には信じられない光景が飛び込んできた。


「なんだ、ここ……」


真っ白な部屋。薬品の匂い。

此処はまるで。

自分の腕に繋がっている細いチューブを見る。点滴、だ。


「びょ、びょうっ……」


身体を動かそうと、とりあえず起き上がってみるが身体が――まるで、何日も動いていないように、自由が効かなかった。

わけがわからない。服装は、病院服。装備は?何処へ行った?

混乱する頭に、俺は何とか落ち着きを取り戻そうとするが理解出来ない。

まるでここは、『現実』の病院じゃ、ないか。


「……!大変です!正人君が……!」


突然入ってきた看護師が慌てて何処かへ行った。俺は何とか自分の身体を見る。見続ける。

つい先程、まで俺はゲームに居たはずだ。なのにいきなり?いきなり――俺が、俺だけが現実に戻ってきた?


「っ痛っ……」


パチ、というような頭痛に俺は顔を歪める。

頭痛を我慢して思考を巡らす――ソーヤはどうなったのか。

あの白い光に巻き込まれたなら、あの場所に、あのタウンにいるのだろうか?


「想夜……?想夜は?何で、何で戻ってきたんだ?俺は――何で」

「落ち着いて。貴方のお友達なら、まだ眠ったまま――」

「……っく、あああああああああああああああああっ!」

「ッ!落ち着いてください!」





「……マサト?」


なんだか、名前を呼ばれた様な気がして振り向く。当たり前だが、誰もいない。

俺は辺りを見渡す――どうやら、『転移』されたようだ。だが、此処は見たことがある場所だった。


「スクランブルタウン……」


幾つもの建物が折り重なり、まるでタワーのような幾つもの家や店が重なって出来た建造物。

だが、この間この場所に飛ばされた時のような、『ヒト』の声が聴こえない。誰も、居ないようだ。

「とりあえず、何で飛ばされたとか……一体誰が飛ばしてきたとか」

マサトも、俺と同じように飛ばされた可能性が高い。何処に居るのだろう?

それにしても、今回はアルファが居ない為か不安が大きい。


「ソーヤ」

「……え?」


思考を巡らしている中、突然背後から聞こえたのは聞き慣れた声。だけど、もう二度と聞くことはないだろうと思っていた声だった。

思わず覚悟が決まっていないまま振り向いて――。


「ソーヤさん。久し振り」

「ラルク?」


何でこのタウンに?と、思っていたが、ラルクの着ている装備――。それは、なんだか見たことの在るようなモノだった。

黒い、まるで何かの組織のモノのような装備。良く見ると腕の所と胸元の辺りに何かの紋章が刺繍されていた。

――見たことの在る紋章だった。


「何で、此処に?」

「ソーヤを探しに来たんだよ。――ちょっと話したいことが在るんだけど、いいかな?」


なんだか、雰囲気が違う。少し恐怖した俺は後ろへ一歩下がった。


「ねぇ、ラルク。マサト、見なかった?多分、俺と同じように此処に来てるんだと思うんだけど」

「……マサトさんならいない」

「……?」


それは、妙な言い方だった。普通、見なかったか、という言葉に対して返されるのは見ていない、とか。わからない、とかなのに。

いない?まるで――。


「ラルク。お前が俺たちをこのタウンに飛ばしたのか?」

「そうですよ。本当なら、ソーヤさんだけ呼ぼうと思ってたのに、計算外でした」


怪訝そうに言うラルク。俺は警戒心を解かないまま攻撃態勢を取る。


「話したいことと言うのは、ソーヤさんを我々のギルドに入ってもらう、ということです」

「ギルド?」

「はい。ギルド名は――〈金の箱〉というモノです」


〈金の箱〉――。

心臓がどくん、と音を鳴らす。正体不明のザワザワとしたモノが腹の中に溜まる。

……何だ?


「どうしました?」

「い、いや。でもなんで、俺を?」

「ソーヤさんは必要だから。この世界で生きるのに」


この世界で生きる――。それは、俺がとても危険視していた――。


「……ごめん。俺、コノ世界で生きるわけにはいかないんだ。俺は、〈愚者達の宴会(フールパーティ)〉に残るよ」


そう、俺が断った瞬間、ラルクは怪訝そうな表情になった。今度は殺気が混じったモノで。


「何でですか?マサトさんも、ソーヤさんも……。この世界のほうがずっと魅力的で美しいのに!」

「……俺には、兄貴もいるし、それに、やりたいこともまだあるから。マサトは俺の為に頑張ってくれてるし。だから、元の世界に早く戻りたい」

「でも、この世界にはきっと、ソーヤさんが望むものだって――」

「望むものなら何も無い。俺は今在るモノを大切にしたい」


それだけで充分だ。

そう言って、俺は〈転移魔法〉を発動させる詠唱に入った。どうやらこの間のように発動出来ないというわけではないようだ。

アルファとアリサさんが気にかかる。マサトも気になるが、もしかしたらもう、何らかの方法で戻っているのかもしれない。それに〈スクランブルタウン〉には、〈転移魔法〉でまた来られる。


「――僕は、何もない。だから望むんですよ。この世界を。だから手放すんですよ。現実世界を」

「っ!」


ラルクの右手に輝く光。それはやがて禍々しいデザインの杖に形作られていった。

俺は思わず詠唱をキャンセルし、防御の陣を描き始めたが――。


「ソーヤさん。少し痛みます。――〈水晶精(クリスタ)〉」


結晶がヒトの形へ変わり、ギロリと俺を睨んだ。召喚された精霊は何か、呪文のような言葉を口走りはじめ――防御の陣が発動する前に召喚獣の魔法が発動した。


「っ」


眩い光。飛び散る閃光――だが、何故か俺に痛みは無い。

顔を上げると、眩い光の砲撃を受け止めたのは。


「……」

「……え?」


白いフード付きのコート。全身が白の装備の〈魔術師(ソウルマジシャン)〉は、ゆっくりと俺の方を振り向いた。

黒い髪、金色の瞳、服とどうかしそうな程白い肌。

男は俺を庇う形で立っていた。

――瞬間、頭に激痛が走り、思わず蹲った。


「お、前は……」


全身が真っ白な装備、〈魔術師ソウルマジシャン〉――。何とか意識を集中して、彼のステータスを覗く。


「……!?」


ステータスは、バグでもあるようにモザイクがかかり、データ表示がはっきりとしない。

PC名は――〈シグマ〉……?

すると、シグマというPCの右手に白い粒子を放つ魔法陣が描かれた。見たことのない陣だ。

突然目の前に現れた白い〈魔術師ソウルマジシャン〉にラルクは戦闘態勢を取り、再びスキルの詠唱を始める。

だが――シグマというPCのほうが早かった。


「〈蒼き罪の咆哮ブルークライムブレイク〉」


蒼の粒子が陣の中心に集まってゆき、それは光となる。閃光になり、――放たれる光。目の前が白に染まる。思わず、目を閉じた。

ようやく砲撃が収まり、目を開くとラルクがうずくまっていた。

よく見ると、ラルクの身体の所々が欠けている――バグのような何かが侵食していた。


「っ……な、なんっ……あんた、何なんだッ……」


何とか絞りだしたような言葉。

シグマという男は静かにラルクを見ていた。


「〈シグマ〉」


男が名乗り、その名前に聞き覚えがあるのかラルクは目を見開いた。


「何でお前が……!」

「――」

「お前は――お前は死んだ筈だ!!」


(死んだ、筈?)

ズキリ、と。また、頭が痛んだ。同時に何故か心臓が締め付けられた。

シグマはユラリと動く。


「――帰れ」

「――!……ソーヤさん。僕はまだ諦めてませんよ。貴方は、僕等に必要なヒトです」


そう言うと、ラルクは〈転移〉した。魔術師ソウルマジシャンの固有スキルである〈転移魔法〉を何故扱う事ができるのか。とか聞きたかったのだが、仕方ない。仕方が――無い。

俺は、シグマという男を見る。シグマは俺を再び振り向く。

とても悲しそうな目をしていた。


「シグマ――?」

「――」


突然フラッシュバックする光景。――それは雨の降る、どこかのフィールドだった。

それは恐らく今の自分ではなく、記憶を失う以前の自分のモノ。雨が身体に当たり、身体が冷えていく中、シグマと呼ばれた男と対峙している光景。

――身体は、体温を奪い続ける。それは、さも現実の世界のように。


「お前は、何者なんだ?」


思わず口から零れた言葉。記憶を失う前から、ずっと聞きたかったような気がした。


「シグマだ。ソーヤ。お前は――この世界の――アウローラ・カオス・オンラインの世界の敵だ。元の現実(リアル)に戻りたいのなら、〈真理(ルール)〉を探せ。お前は世界の敵となった代わりに、その権利と〈真理(ルール)〉を探す術を与えられた。――お前に可能性は託された」

「――!?」


目の前に白い光が溢れる。シグマが――〈転移魔法〉を発動したようだ。

俺は思わずシグマに手を伸ばした。なぜだか懐かしく、とても不安になった。シグマが一体何者なのか。もっと聞きたいことがあったのに、俺の意識は白から黒へ、暗転した。

お久しぶりです

最近、虫歯で歯医者に通ってます。更に追い打ちを掛けるようにテスト期間だったり……

ようやく落ち着いたのでようやく上げることが出来ました

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